バスケットボール漫画としてだけでなく、スポーツ漫画における名作だと言われている「スラムダンク」。そこに登場する様々な名言や印象的なセリフの内容を、英語でも言えたらいいなと思いませんか?
『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている英語学習の“お医者さん”西澤ロイさん。英語学習の改善指導なども行っている西澤さんが、『スラムダンク』を題材に、英語表現のスキルアップのヒントをお伝えします。
目次
英語に対する理解を深め、普段から使えるよう学ぼう
私がイングリッシュ・ドクターとしてオススメするのは、せっかく英語を学ぶのであれば、少しでも英語に対する理解が深まり、自分でもしっかりと使えるようになること。英語でのフレーズをただ暗記するだけでは、応用が利きづらくなってしまいます。そこで、英語を理解するための“クスリ”として、スラムダンクの有名なセリフを題材に、英語でどのように表現すればよいか解説します。
「チャンスのときこそ平常心だ」
まず取り上げるのは、赤木剛憲(ゴリ)が試合中に言う言葉です。
「平常心」はそのまま英語に訳そうとしても難しいかもしれません。こういう時には、名詞ではなく動詞に置き換えるのが、英語で表現しやすくなるコツです。
例えば「落ち着く」と言い換えれば、「calm down」という表現が見つかりやすくなります。なお、「calm down」は「(落ち着いていない状態から)落ち着く」という意味です。平常心は「落ち着いた状態のままでいること」ですから、「keep calm」や「keep cool」という表現の方が、よりニュアンス的には近いでしょう。
また、「チャンス」に該当する英単語はもちろん「chance」ですが、良い意味だけで使うとは限らない単語です。例えば「have a chance to lose」で「負ける可能性がある」ことを表します。ただ「a chance」と言うだけでは伝わりづらい場合もありますため、注意が必要です。
なお、「良い意味での可能性(チャンス)」に当たる単語として「opportunity」もあります。7文字であるchanceに対して、こちらは11文字ありますから、ややカタい単語です。
それでは、私だったら「チャンスのときこそ平常心だ」をどのように英語で表現するか、3パターンほどご紹介します。
(このようなチャンスの時こそ、落ち着く必要がある)
We have a chance to win. Let’s keep calm.
(勝てるチャンスだ。このまま落ち着いていこう)
We should keep cool. We can’t miss out on this chance/opportunity.
(平常心でいるべきだ。このチャンスは逃せない)
「miss out on ~」は「(チャンスなどを)逃す」というフレーズです。「チャンスである」と言うのではなく、「このチャンスは逃せない」という風に表現してみました。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」
次は、安西先生による有名なセリフです。
「諦める」に当たる「give up」というフレーズは多くの方がご存知でしょう。それを使って、例えば以下のように表現できます。
(もし諦めたら、試合は終了です)
If you give up, that’s the end of the game.
(もし諦めたら、そこが試合の終わりです)
The game will be over the moment you give up.
(諦めた瞬間に、試合は終わりになるでしょう)
「the moment」は「when(~の時)」を強調したようなフレーズであり、「~した瞬間に」という意味の非常に便利な表現です。
また、裏返すことで、以下のようにも表現できるでしょう。
(諦めない限り、試合は終わりではない)
untilを「~まで」と訳して暗記している人が多いかもしれませんが、「~までずっと」と訳した方がより正確です。「until you give up」は「諦める時までずっと」、つまり「諦めない限り」という意味合いになります。
また個人的には、安西先生の「ですよ…?」の最後のニュアンスが気になります。これを敢えて強調するならば、以下のような訳し方もありかもしれませんね。
(諦めない限り、試合は終わりではないって知っていましたか?)
「何人たりとも俺の眠りを妨げる奴は許さん」
次にご紹介するのは、流川楓のキャラクターをよく表しているこの言葉です。
この発言を英語にする上でのポイントは、「(眠りを)妨げる」をどう表現するかでしょう。
まず動詞で「妨げる、邪魔する」に当たるのはinterruptやdisturbでしょう。interruptは、「inter」が「間」を表し、つまり「中断させる」ことを意味します。そしてdisturbは「dis(完全に)+turb(乱す)」という語源から成り立っている言葉です(ちなみに「乱気流」を意味するturbulenceも同じ「turb」を含んでいますね)。
ですから、「私の眠りを中断させる」というニュアンスであれば「interrupt my sleep」という言い方ができます。また特に、昼寝は「nap」と呼びます。ですから「私の昼寝の邪魔をする」という気持ちで表現するならば「disturb my nap」と言えます。
全文としては、例えば以下のように言えるでしょう。
(オレは昼寝の邪魔をするやつは(それが誰であっても)許さない)
I wouldn’t forgive anyone for interrupting my sleep.
(オレの眠りを邪魔するヤツがいたら許さない)
anyoneは「どんな人(でも)」という任意性を表しています。「何人たりとも」は特に訳さなくても良いでしょうし、あえて表現したいならば「no matter who (they are)」と付け加えるのもOKです。
2つ目の例文で、don’tではなくwouldn’tになっているのは「仮定法」です。「もし起こしやがったら許さない……」という仮定の気持ちを表現しています。
「センドーはオレが倒す」
次は、以下の桜木花道のセリフを取り上げたいと思います。
センドーとは、陵南の天才プレイヤー、仙道彰のこと。このセリフにはいくつかパターンがあり、仙道本人に向かって言うケースもあれば、自チーム内で「センドーはオレが倒す」と自信満々に言うケースもあります。
「~を倒す」「~に勝つ」と言いたい場合に、winという動詞が思い浮かぶかもしれませんが、ちょっと注意が必要です。自動詞(つまり、後ろに何もこない形)としてwinは使えますが、「仙道に勝つ」ことを「win Sendo」のようには言いません。
正しくは、例えば「win a prize」のように言い、「(賞品を)勝ち取る」という意味合いになるからです。ですから、「~を倒す(打ち負かす)」と言いたい場合には、beatを使いましょう。
仙道に面と向かって言う場合には、例えば以下のような表現ができるでしょう。
(オレがお前を倒してやる)
I’m going to beat you up.
(オレがお前を叩きのめしてやる)
We’re going to win.
(俺たちが勝つ)
2つ目の例で、「beat ~ up」のように、upをつけると「徹底的に」というニュアンスが加わります。
それと時制について、未来のことですからwillを使うのもありですが、「これから~をする準備が整っている」というニュアンスを出すためには「be going to」がピッタリです。willでは単なる「意思」を表現するだけになってしまうかもしれないからです。
また、試合前に自チーム内で桜木が「センドーはオレが倒す」と宣言するケースであれば、例えば以下のような表現ができます。
(仙道はオレが倒す)
I will beat him.
(彼はオレがやっつける)
Count on me to beat Sendo.
(仙道を倒すのは、俺に任せてくれ)
「count on ~」は「~に頼る、任せる」という意味ですね。
「まだあわてるような時間じゃない」
それでは、天才プレイヤー、仙道彰のセリフも取り上げましょう。
まず「慌てる」をどのように英語で表現するかが悩みどころです。「panic」という動詞が浮かびますが、不安や恐怖などから自制が全く利かなくなってしまうことを表すので、スポーツで「浮き足立つ」ようなニュアンスにはちょっと合わない言葉です。
「急ぐ(hurry/rush)」といった言葉の方が近いのではないでしょうか。また、裏返すと「落ち着く(calm down)」という表現も使えそうですね。
もう1つの表現ポイントとしては、「慌てるような時間(じゃない)」は文がちょっと複雑な構造をしているところです。これは例えば以下のように2つの文に分けることで、ずっと英語に変換しやすくなります。
(急がないで。まだ時間は十分にある)
Calm down. We have plenty of time.
(落ち着こう。時間はたっぷりある)
「泣かすなよ…問題児のくせに…」
最後に取り上げるのは、木暮公延(メガネ君)が桜木花道に対して言う、このセリフです。
なお、「問題児」を英語に訳そうとすると難しくなります。私だったら、無理に直訳しようとせずに、例えば以下のように表現します。
(泣かせるなよ。キミはそういうタイプの人間じゃないんだから)
That’s very touching, coming from you.
(君の口から聞くと、心にジーンとくるよ)
touchingという形容詞は、「心の琴線に触れる」という表現に近く、「感動的な」とか「ジーンとくる」ことを表します。「coming from you」は、その言葉が「あなたから来ている(発せられている)」ことを指しています。
最後に:「翻訳」よりも「気持ちが入る」ことが大事
さて、スラムダンクの有名なセリフを英語で表現してみましたが、参考になりましたか?
英語のネイティブスピーカーであれば、もっと違う英語にすることもあるかもしれませんが、それは「翻訳」というプロの領域であり、一般の英語学習とは異なる世界です。
どんなに素晴らしい英文であっても、意味も分からずに暗記や真似をしているだけでは、英語力アップにはつながりません。言語を使う上では、「自分で言葉を選べること」が大切なのです。
それぞれの単語がどのような意味を持っていて、どのような気持ちで使えば良いのか─。そこを掴むことで、ぜひ自分でも使えるボキャブラリーを増やしていくヒントにしてください。さらに、ぜひ実際にいろいろと使ってみて、上達につなげていただければと思います。
著者プロフィール
西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター
英語学習がうまくいっていない人専門のイングリッシュ・ドクター(英語の“お医者さん”)。英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)他、著書多数(⇒)。さらに、ラジオで3本のレギュラーがオンエア中。特に「木8」(木曜20時)には英語バラエティラジオ番組「スキ度UPイングリッシュ⇒」が好評を博している。★「イングリッシュ・ドクター」公式HP(⇒)
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