チャットやメール、SNSでのコミュニケーション増加に伴い、人と対面で話すのが苦手という人が増えているようです。実際、学生時代は同年代と話すだけで良かったのに、社会に出てから様々な年齢や性別の人と話す必要が出たため苦労している人が数多くいます。一方、いろいろな人とコミュニケーションを取り、楽しく仕事をしている人もいます。
そこで今回は、広告代理店勤務時代に3,000人以上のVIPと交流し、彼らの「話し方」を研究している気配りのプロフェッショナル・後田良輔さんに、会話が苦手な人でもできる「話し上手になるコツ」を伺いました。

話し上手な人の特徴
3,000人のVIPを観察してわかった、話し上手な人の特徴をご紹介します。
相手視点で考える
話し上手な人と話しがあまり得意ではない人の差としてまず挙げられるのは、「視点が違う」という点です。
一般的に話し上手になりたいなら、いろいろなネタの引き出しや会話の流れを意識したテクニックを磨くことが重要と思われがちですが、話が上手な人はそんなことは気にしておらず、「相手視点」に立つことを意識しています。
話しが苦手だったり下手だったりする人を観察すると、多くの場合、意識が「自分」に向いています。つまり「自分がうまく話したい」「自分が失敗したくない」などのように、自分がどうあるべきかに意識が集中しているのです。そして自分に固執するがゆえに、会話が空回りを始めてしまいます。
一方、話し上手な人は、自分が話すことが「相手にとって役に立つのか?」「相手にとって面白い話題なのか?」など、意識が「相手」に向いています。この視点の違いが、会話の上手い下手を分けているのです。
いくら会話のスキルが高くても、自分本位に話す人は嫌われてしまう可能性があります。一方、話し方は拙くても、一生懸命相手に向けて話してくれる人がいたら、その人に好感を持ち、もっと聞こうと思ってもらえるものです。
相手の目を見て話す
目線がずれたまま会話をする人は、相手に不安感、不信感を与えやすくなります。前述の「話の視点」とも共通しますが、目線がずれていると相手は「自分を見てくれていない=自分のために話をしていない」と感じ、いくらいい話をしていても共感を得られにくくなります。
実際、1対1で向き合って話しているのに、どこを見ているかわからない人、ずっと目線をずらしたままの人と、仲良くなりたいとはなかなか思えないものです。
話し上手な人は、相手の目を見ながら会話をしています。特に「ここは大事なポイント」というタイミングでは、しっかり目を見て話しをします。それにより、「相手のために」との気持ちもより伝わりやすくなります。
ただ、相手の目を見て会話をするのが苦手、緊張してしまう…という人もいることでしょう。その場合は、相手の眉間あたりを見るようにすると、目を見ながら話している印象を与えられます。
相手の呼吸のタイミングで話をする
会話はキャッチボールのため、一方的に話すのではなく、相手の話をきちんと受け止めて話すことが大切です。話し上手な人は、もれなく相手の話をまず聞き、適切なタイミングで返答したり、相槌を打ったりしています。相手が気持ちいいと思えるタイミングで返事をすることで、会話が活発に進み、相手の気持ちを引き出せたり、相手が納得のいく提案ができたりします。そして、会話自体がより有益なものになります。
「相手が話しているとき、言葉を挟むタイミングが難しい」という人は、相手が呼吸するタイミングまで待つといいでしょう。呼吸するとき、相手の話はいったん止まります。そのタイミングを見計らうと、相手の話の腰を折ることなく、自然に話すことができます。
この方法は、特にリモート会議の場で力を発揮するでしょう。対面では、「この人はまだ話したいことがありそうだ」など、雰囲気でタイミングを推し量ることも可能ですが、リモートでは雰囲気が読みづらいものです。相手の呼吸に注目することで、リモートでも気持ちのいい会話ができるようになるでしょう。
なお、相手の呼吸に加え、相手の話のスピードも意識すると尚いいでしょう。
誰しも、話すテンポが同じ相手には心地良さを感じるものです。相手がゆっくり話すタイプであればゆっくり、ハキハキスピード感をもって話す人であれば自分もスピードを意識して話すようにすると、気持ちよく会話のキャッチボールができるようになるでしょう。
仕事で話し上手になるメリットとは?
仕事は一人で完結するものはなく、必ず誰かと関わりながら進める必要があるため、会話がないと成り立ちません。したがって、「話す能力」は仕事においてメリットしかないとも言えます。
ここでは、代表的なメリットについて挙げてみましょう。
仕事で成果を出しやすくなる
話し上手になると、自分の思いがより伝わりやすくなります。営業職であれば提案内容がより効果的に伝わり、成約につながりやすくなると考えられます。社内でも、物事をわかりやすく伝えられるようになるため、周囲の理解が得やすく、チームでの連携も取りやすくなります。その結果、よりチームでの成果が出しやすくなったり、業務効率化が図れたりするでしょう。
自分の意見を正しく効果的に伝えられれば、ビジネスパーソンとしての信頼にもつながるため、重要な仕事、やりがいのある仕事が回ってくるようにもなると思います。
信頼関係を構築しやすくなる
相手が求めていることを正確に伝えるのは、意外に難易度が高いものです。自分では必要なことをもれなく伝えているつもりが、実は相手の希望とズレているケースは少なくありません。
話し上手になると、自然と意識が自分よりも「相手」に向くようになるため、相手が必要としていることを理解し、正しく抜け漏れなく、かつ相手が納得できるように話すことができます。それに伴い、信頼関係が構築しやすくなり、「あの人の提案だったら受け入れたい」「あの人ならば重要な仕事を任せられるだろう」などと思ってもらえるようになるでしょう。
周りを巻き込みやすくなる
多くの仕事は社内外の関係者を巻き込みながら進めるものですが、その際には正しく意思伝達を行い、納得を得た上で、能動的に行動してもらう必要があります。話しが上手で意思伝達が円滑に進むと、より周囲を巻き込みやすく、かつ進んで協力してもらえるようになるでしょう。
そもそも話し上手な人と仕事をすると、意思疎通のストレスがありません。「あの人と一緒に働きたい」と思ってもらいやすく、いい人間関係の輪が広がっていくとも考えられます。
話し上手になるための「4つのコツ」
ここからは多くのVIPが使っている相手に意識を向けた話し方のコツをお話しします。ぜひあなたの日常にも取り入れてみてください。
コツ1:会話を「誕生日プレゼント」と思う
意識を相手に向けると言われても、具体的なイメージがわかない人もいると思います。そんな場合は、会話を「誕生日プレゼント」だと捉えてみてください。
大切な人にプレゼントを渡す時には、相手のことを思い、「これなら喜んでもらえるだろう」という品を用意すると思います。会話もこれと同じです。相手に「喜んでもらえる話」「興味を持ってもらえる話」は何だろうと考え、事前に話す内容を用意するといいでしょう。話しが苦手な人ほど、事前準備を怠り、アドリブで会話を始めがちですので注意してください。
コツ2:見た目が9割と考える
心理学者のアルバート・メラビアンは、「人とのコミュニケーションにおいては、資格情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%の割合で相手に影響を与える」と説いています(メラビアンの法則)。つまり、人は話している内容よりも、見た目や声のトーンなどの「相手の雰囲気」に強い影響を受ける傾向があるため、見た目や雰囲気にも気を配る必要があります。
最も手軽で有効な方法は「笑顔で話す」こと。見た目の9割で相手の印象が決まっていると捉え、ぜひ話す際には笑顔を意識する習慣をつけましょう。
コツ3:会話は「餅つき」と考える
同じ内容の話なのに、Aさんとはスムーズに話せ、Bさんとはうまく嚙み合わないということはありませんか?それは相手とのリズムに問題があるのかもしれません。
会話は餅つきと同じで「間」や「リズム」がとても重要なのです。どちらかが一方的に話すのではなく、相手の理解度を見ながら調子を合わせる工夫が必要です。リズムの乱れは会話の流れを悪くするだけでなく、相手のあなたに対する印象も悪くします。前述した「呼吸」のタイミングも含め、相手とリズムを合わせることを意識してください。
コツ4:ネガティブな言葉を言い換える
後ろ向きのことばかり言う人とぜひ付き合いたいと思う人はいないと思います。人はネガティブな言葉を使う人を避ける傾向を持っています。だからと言って無理にすべての会話をポジティブに話すというのも無理があります。
そこでおススメなのが、ネガティブな言葉を言い換えるという方法です。たとえば「嫌い」という場合は「得意ではない」。「やりたくない」という場合は「〇〇(別のもの)が得意です」などという感じに言い換えることができるでしょう。
同じ意味のことを言っていても、言い方を変えるだけで相手が受ける印象は180度変わります。ネガティブな話をしなければならない時は、言い換える言葉はないかと考えてみてください。
話し方は拙くてもいい
前述のように、話しの上手い下手は「視点をどこに置くか」で分かれます。「あなたに役立つ話題を届けたい」という姿勢で会話に向き合えば、話し方がたとえ拙くても、相手は好感を持ってくれます。
相手視点に立てば、相手の理解度にも気を配れるようになります。会話の途中で、「ここまででわからない点はありますか?」「何か質問はありますか?」と確認したり、「今の話を整理すると~」などと要点をまとめたりすることができるでしょう。
つまり、話し上手になるために大切なのは、会話のテクニックや話題の多さではなく、相手と向き合う姿勢です。あなたの姿勢が相手に伝われば、相手もあなたに向き合い、応援してくれるようになるでしょう。ほんの少しの工夫で仕事はもちろん、人生も変わるかもしれません。
プロフィール
後田良輔氏/ビジネス書作家・コラムニスト
1972年生まれ。大手3大広告代理店に勤務し、「誰でも使える気配り術」を駆使する気配りのプロフェッショナル。これまで応対したVIPは、東証一部上場社長、世界企業のCEO、政治家、医者、弁護士、大学教授、大物俳優・女優、ミリオンセラー作家、世界No.1クリエイターなど総勢3000名を超える。この特別丁寧に接しなければならない顧客との交流で磨かれたスキルと「東京・名古屋・大阪」の現場勤務で身につけたリアルな経験を組み合わせた、独自の「誰でも使える気配り術」に定評がある。
著書に、『気配りの正解』(ダイヤモンド社)『<落ちこぼれでも3秒で社内エースに変わる!>ぶっちぎり理論38』(ダイヤモンド社)、『逆境を活かす! 就活面接「エモロジカル理論」2015年度版』(実務教育出版)『1秒内定面接術」』(インプレス)など。これらの実績を買われ全国の大学や企業から講演・研修依頼が殺到。新聞・雑誌などメディア露出は50回以上。「世界からキャリアの悩みをなくすこと」をミッションとする。