根回しって必要?「すごい準備」の真髄とは | 栗原甚さん(日本テレビプロデューサー)

これまで数多くの人気バラエティー番組を手がけてきた日本テレビの栗原甚さんは、その型破りの企画で視聴者を虜にしてきた名物TVプロデューサー。
なぜ毎回のようにヒットを飛ばせるのか?その裏側にある知られざる準備をまとめた著書『すごい準備(アスコム刊)』を上梓した栗原さんに、ビジネスパーソンに欠かせない「準備」のコツを伺った。

プロフィール

栗原 甚(くりはら じん)さん

北海道生まれ。1993年日本テレビ入社。情報番組やバラエティー番組で経験を積み、はじめて企画・総合演出・プロデュースした『¥マネーの虎』が大ヒット。『さんま&SMAP』『伊東家の食卓』『ぐるナイ』『行列のできる法律相談所』『踊る!さんま御殿』『中居正広のザ・大年表』など数多くのバラエティー番組を手がける。2013年にはドラマ制作も兼任。国民的ギャグ漫画『天才バカボン』を実写ドラマ化。現在、日テレ3ドラマの宣伝統括&Web戦略を仕掛ける演出・プロデューサー。著書『すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!』

案件別ノートで情報を交通整理する

高額の商材を営業するために顧客と交渉する、社内で初めて新規事業を提案する、複数のプロジェクトを同時並行で進めるなど、難易度が高いと感じる仕事に取り掛かる際、みなさんはどんな「準備」をしているだろうか。

人気TVプロデューサーである栗原さんは、常に複数の番組企画を抱えており、「コレは何の会議だっけ?」と混乱することもしばしばあるという。
そんな彼が面白い企画を考え、難しい相手との交渉を経て番組を制作するまでの間にどのような「準備」をしているのか。以下3つのポイントを教えてくれた。

  1. 案件ごとに「準備ノート」を用意する
  2. 相手の情報を徹底的に集める
  3. 書き加えるたびにペンの色を変える

1)について、栗原さんは担当している案件(番組)ごとに複数のノートを用意している。営業職であれば顧客別に、複数のプロジェクトを抱えているなら、プロジェクト別に用意しよう。

2)の「相手の情報」には、出身地や趣味、好きな食べ物などの情報の他、どんな資料が好まれるのかなどが含まれる。相手の情報を徹底的に情報収集し、ノートに書いておく。社内で経営層に向けて新規事業を提案する場合であれば、キーパーソンは誰か? 誰を巻き込むとスムーズに進められそうか? などをメモしておくと良いだろう。

3)について栗原さんは、通常4色のペンを使い分けているという。

栗原さん「最初はピンク色で書きます。しばらくして、そこに関係する情報を得たら、同じページに水色で書き足していきます。3回目は黒、4回目は赤のペンで書きます。そうすることで、『いつ書かれたものなのか』を追うことができ、かつ同じページ内で一気に情報を確認できるメリットがあります」

長期間にわたるプロジェクトの場合、企画当初の「これ、面白い!」という気持ちを持続させるのは大変だと栗原さんは言う。打ち合わせや会議を経ていくうちに、さまざまな情報がインプットされ、当初とは違う部分に面白味を見出すこともある。

栗原さん「変化するのがダメなわけではありません。でも最初に感じた『面白い!』という気持ちに、いつでも立ち戻れるようにしておくことが大切です。最初の思いを書き出しておくことで、後から面白いと思うことが出てきても『当初の企画からは、ちょっと脱線しすぎだな』と気づくことができます」

また、交渉相手の言うことがコロコロと会うたびに変わる場合、打ち合わせのメモを同じページに書き足していくことで、発言の共通点や相手の考えの本質が見えてくるはずだ。

栗原さん「クライアントの言うことばかりを聞いていてもダメ。それはTV制作以外の現場でも同じですよね。相手に反対されたからといって、ただ持ち帰るだけでは意味がない。せっかく事前に情報収集したのだから、それを使わない手はありません」

相手と自分の希望が異なる場合でも、ノートを眺めながら「妥協点は何か?」を整理することができる。

徹底的にシミュレーションして、相手のYESを引き出す

栗原さんは前項で紹介した「準備ノート」のおかげで、これまでの交渉成功率は、驚異の99%だという。

どうすれば相手から「YES」を引き出せるのだろうか。

栗原さん「大前提として、わざわざ時間を割いてもらっているからには、相手にとって何らかのプラスにならなければ意味がないと思います。それは営業先の人でも社内の上司でも同じです」

とはいえ、普段話す機会のない経営層や、気難しい顧客を前に尻込みしてしまうこともあるはず。どうすれば上手く提案できるのか、コツを聞いてみた。

栗原さん「慣れるしかない、って言ったら怒られそうだけど(笑)、『¥マネーの虎』で今まで会ったこともない”社長”という役職の人に交渉しまくったんですよ。300社くらい断られた後に、ようやく1社から出演OKをもらえて。OKが出なかったら番組に穴を空けてしまうので、そのプレッシャーも大きかったかな」

一発勝負の大事なプレゼンのなどの場合は、「シミュレーションを繰り返すしかない」と栗原さんは言う。

「準備ノート」を用いて、相手はどんなタイプなのか、資料はA4一枚でパッと分かるほうがいいのか、10枚程度の詳しく記載されたものが好みなのか、周囲から徹底的に情報収集し、相手の好みに合わせた資料を作る。

栗原さん「集めた情報を『準備ノート』に書き込んだ上で、どんな反応になりそうか、どんな質問が来るかなど、ノート上でシミュレーションします。さらに同僚や友人に協力してもらって、プレゼンの練習をする。1回しかチャンスがない場合、僕なら仮想の相手を作って練習しますね」

経営層と話す際も、大企業の社長にアポイントを取る際も、栗原さんは「根回しはほとんどしない」という。常に「一番決定権のある人」にフォーカスし、交渉するからだ。

例えば大企業が相手の場合、一般的には広報担当者が窓口として出てくる。相手に「話を上に上げてほしい」と伝えても、途中で止まってしまうケースも少なくない。

上司に直接会って説明したいと伝えても、電話口で企画書を送るよう言われることも多い。そんなときは敢えて詳細が分からないものを送ることもあるという。

相手の要望を聞いて、最初から全部見せるのではなく「一番決定権のある人を口説く」ためには、どういう順番で誰に何を伝えればいいのか、しっかり戦略を立ててから臨む。

そのとき、助けになってくれるのが、何度も書き加え、情報を集約し育ててきた「準備ノート」なのだ。

「準備ノート」には、交渉のタイムラインを把握する、相手との妥協点を見出す、プレゼンのシミュレーションをするなど、さまざまな役割がある。

複雑な交渉やプロジェクト、一発勝負のプレゼンなどで絶大な力を発揮するはずだ。
必要なのは、案件別のノートとペンだけ。ぜひ今日から試してみてほしい。

文:筒井智子 撮影:壽福憲大
編集:鈴木健介

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