その道一筋65年!超ベテラン靴職人に学ぶ「いい仕事」の極意

業務経験60年超!孫のような若手職人と笑い合いながら、第一線でミシンを踏み続けるベテラン靴職人の酒井満夫。前回の記事で紹介した株式会社ミリメーター(→)の「心臓」こと技術顧問の酒井が、自身の靴人生と「いい仕事」の極意を語ります。

※本記事は、「PR Table」より転載・改編したものです。

ほかにできることがなかったから。靴づくり一筋65年

 

▲30年以上も共に働いている相棒のミシン

私が靴づくりの仕事を始めたのは16歳のとき。かれこれ65年前になります。「畳一畳ではじめられるから行ってみないか」と叔父に紹介されたのがきっかけでした。

多くの職人は、最初に製甲(靴の上半分のつくり方)の技術を身につけます。そして、そのまま5年ぐらいで独立します。
そんな中、私は7年間修業を続けました。型紙の裁ち方も、底付け(靴の下半分のつくり方)も、教えてもらったわけではありません。師匠の技を目で見て盗む。それはやはり大変な日々でした。 けれどもその結果、靴全部を仕上げて「ちゃんとした製品」を作る、というところまでできるようになりました。

実は、日本には靴づくりの全行程を扱える職人はあまり多くはいないんです。 23歳で独立すると、メーカーから仕事をいただいてみるみる稼げました。次々と仕事が舞い込んで、寝る暇もないぐらいに働きました。

順調そのものだったのですが、何年か経つと欲が出てきたんです。ここで終わりたくない、と。

そこで、自分がデザインした靴を自分で売るオーダーメイドの靴ブランド「マドマーゼル」を立ち上げました。今でこそおしゃれにこだわる人を中心に「ビスポーク」の存在は知られてきましたけれど、当時自らお店を持つ、そんな職人はとても珍しい存在でした。

それから30年。正直、つらいことのほうが多かったですね。でも、ほかにできることがなにもなかったんですよ(笑)。靴に対する人一倍の愛着だけで気が付いたら60年以上が経っていた、という感じです。
60年経ったといっても、1カ月に1度は銀座に行って、流行のデザインの靴を見るようにしています。最近ではGINZA SIXでのブランドチェックは欠かせません。日々すべてが学びです。

「木型を勉強したい」風変わりな生徒との出会い

 

▲工房の中で、ひときわ目立つ存在感

ミリメーターの代表粕谷とは、靴教室で出会いました。

私は「マドマーゼル」のかたわら、東京都中央区の靴の自作工房「hiro」でミシンの扱い方などの製甲技術を教えていました。靴づくりを趣味にしたいという人からプロになりたい人まで幅広い生徒がいる中にふらりと入ってきたのが粕谷でした 。

普通の生徒なのかと思ったら、ある日「先生、木型を真剣に勉強したいんです」と声をかけられました。未経験者には珍しい発言で、驚いたのを覚えています。

しかも「実は」と続いて聞かされたのは、3Dプリンターで木型を作る、という全く新しい靴づくりの構想でした。

「面白いんじゃないの?」と気持ちのままに答えたのですが、そのときはそこに自分が関わることになるとは夢にも思いませんでした。
しばらく経った、2016年の11月ごろのことです。卒業した粕谷から電話がありました。 「起業の準備は進んでるの?」 と何気なく聞いてみると、二度目の「実は」が待っていました。

なんと靴を作れる人が粕谷自身のほかに見つからない、というのです。「そりゃあ大変だねぇ」と答え、ふと自分の状況に気が付きました。ちょうど「マドマーゼル」を息子に引き継ぎ、年末に完全退社を決めていました。次の仕事の話は出てはいましたが、まださほど忙しくなるわけではない。

「じゃあ手伝ってやるよ」私の言葉に、粕谷は本当ですか?とそれは喜んでくれたんです。こうしてミリメーターへの参画が決まりました。

「いい仕事を本気でやる」だけ。靴づくりに人生をかける男のこだわり

 

▲接客もお手の物。有楽町マルイで開催したイベントでは、最前列で靴づくりを解説しています

ミリメーターの仕事を手伝うと宣言して2、3カ月が経ったころです。とうとう粕谷と直接話す機会が訪れました。

そこで粕谷に伝えたのは、「給料をもらうからには、粕谷さんを男にする。立派な社長にする。それまで頑張るよ」ということでした。

もう子どもたちも独立を済ませ、妻と暮らしていければよいだけ。大金はいりません。会社にとって不要になったらいつでも捨ててくれて構いません。ただ「いい仕事を本気でやる」これだけは譲ることはできません。「損して徳取れ」ではないけれどもうけはひとまず置いておいて、まずはとにかくお客様に喜ばれるものを作ろう、と語りました。

この会話の内容は、今でも、いつでも繰り返しています。またほかには、完成した靴が少しでもお客様の足や気持ちに合わなかったら一から作り直そう、とも話しています。お客様には必ず「最後まで面倒みますから、なんでも仰ってください。」と声をかけるようにしています。気持ちに偽りはありません。

今作っているパンプスは、普通ここまではやらないというレベルまで精巧に手間をかけて作り込んでいるんです。お客様の足をデジタルで計測して、同時に別の職人が足を触って硬さや動きを目で確認し、木型担当者がお客様の足の特徴を加味して一人ひとりの木型をデジタル設計し、私が木型にこめられたメッセージを読み解きながら履き口のラインまで考えてデザインする。

そのうえで、一つひとつ手作りです。財務状況まで詳しくは知らないんですが、確実に儲かっていないと思います(笑)。

会社の方針や新しい仕事の進め方など、メンバーはさまざまな相談をしにやってきます。
私のアドバイスは、その「いい仕事を本気でやる」だけを軸にやるべきか否か、やるならばどうしていったらよいのかを回答しています。
相談しに来てくれた人には口幅ったくうつるかもしれないけれど、それがミリメーターのためになるし、私の役目だと考えています。

いいモノは、楽しい職場から生まれる

▲オープン間もないころの工房にて。当時も今も笑い声の絶えない職場です

いい仕事をするために一番大切なのは、「ものごとは楽しくやる」ということです。好きなことをしていれば、どれだけ大変なことをしていても疲れない。まぁ嘘だけど(笑)。

好きなことをしていれば楽しいわけです。楽しい雰囲気の職場であれば、誰もがやる気になる。誰もが真剣に取り組むからいいモノができあがるんです。仕事が楽しければ失敗してもまたやり直せるし、やり直せばいいんです。だから周囲には「仕事は楽しくやらなければ、いいモノはできないよ」といつも話しています。

ミリメーターの一番いいところは、皆が明るいという点に尽きます。若手職人だからといって、私に気兼ねして敬語を使うなんてことはないですし、とにかく笑いの絶えない職場です。

私もいつもみんなを笑わせる話を1日1回は必ずやっています。自然と出てきちゃうんです。こういう職場からは、いいモノを生むことができると確信しています。私が率先して仕事を楽しむことで、ミリメーターの職場と製品とをもっと良くしていきたいと考えています。

あとはとにかく元気にやっていくだけです。以前厄除けに行ったら、「男性は61歳を過ぎたら毎年厄です」なんてぬかしやがりまして、もうそれから厄除けは一切していないんですけれどもなんとか今のところ元気にやれています。

粕谷から「先生、もういらないよ」と言われる日まで、一生をかけて楽しく靴づくりを続けていきたいなと思っています。

会社説明会では語られない“ストーリー“が集まる場所「PR Table

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