ITの力で「雇用」は奪わない【元コンサル×ベテラン職人】靴業界にイノベーションを巻き起こす

「未来のモノづくりで1ミリの幸せを提供します」をコンセプトに、フルオーダーメイドの婦人靴を製造・販売する株式会社ミリメーター。エンジニア・デザイナー・靴づくりのベテラン職人など、幅広い領域のスペシャリスト陣を束ねる代表取締役社長の粕谷孝史が、当社の歩みとサービスに対する想いを語ります。

※本記事は、「PR Table」より転載・改編したものです。

ITコンサルタントが着目したのは「靴」だった

 

▲創業時に意思統一の要となった事業計画書

私は大手コンサルティングファームにて、流通業のお客様を中心に、ITで生産性を向上させ収益力を増大させるお手伝いをしてきました。

その中で、社会の成熟と人口の減少が同時に進む日本では、一人ひとりの嗜好に合わせて商品やサービスを選別するワン・トゥ・ワンマーケティングが広まるだろうと感じていました。

そして、3Dデータをそのままカタチにできる3Dプリンターの技術は、「ワン・トゥ・ワンマーケティング的ものづくり」を実現する理想的な技術なのではないかと着目していたんです。

そんな折、偶然「足には全身の骨の4分の1が集結している」と知ります。それだけ複雑な部位であれば、一人ひとりが感じる「快適」にも差異が出るはず。そこで私は、3D技術と「靴」の親和性について本気で考え始めました。2011年ごろのことです。

試しに20名の女性にインタビューを行ったところ、なんと全員が「靴が合わずに足が痛くなった経験がある」と答えたんです。これほど辛い思いをしている人が数多くいるというのに、女性靴のフルオーダーサービスは高価で稀有な存在。そこに隠れたマーケットを感じとりました。

まずは靴づくりとは何なのかを知らなければならないと、靴教室に通い始めました。

コンサルタント時代から「現場を知らなければ見えないことがある」というのが私の信条です。例えば経理システムの改善業務に携わった際は、伝票を書くことから経験させていただき、現場を自分の目で見て、やるべきこととやらなくていいことを判断してきました。

靴づくりに際しても、どこからどこまでをIT化できるのかを知るためには、この2年間はどうしても必要なステップだったんです。

靴教室は昔気質の職人の怒号が飛び交う厳しい環境でしたが、ヒトの骨の構造、足の計測、木型の生成から革の縫製・吊り込みといった製靴の一連の技術をしっかりと叩きこんでいただきました。特に婦人靴、とりわけパンプスは、紳士靴と比較して、ファッション性と心地良さの両立が格段に難しいものであると知ったことは、大きな収穫でした。

3D技術を靴づくりに用いることで、イノベーションを起こすことができるーー。

私はそう確信し、仲間とともに勤めていた会社に新事業として提案をしました。ところが「BtoBを基本とするうちの会社にはそぐわない」とにべもなく却下されてしまいます。

「それならば」と一念発起。独立を決意しました。

コンサル時代、ITによる雇用削減に直面。「雇用を増やす仕事」を目指す

 

▲3D技術で製作した木型が、靴職人の手に引き継がれる

新会社では「雇用を増やす仕事をしていく」ことをミッションに掲げました。というのも、コンサルティングを通じて、ITを「人員削減」のきっかけに使う姿を目にしてきたからです。

例えば、10人で担っていた仕事が、ITの力により1人でも対応可能になったならば、「9人の力を新しい仕事を広げるために使う」「新たなビジネスチャンスだと捉える」というのが本来の発想だと思うんです。しかし現実では、9人の人材を削減するという判断を下す経営者を何人も見てきました。私自身、そういった風潮をあおる提案をしたことも一度ならずあります。いち企業の経営指標の中では、リストラは正しい判断かもしれません。実際に、収益が改善したとお客様には満足いただけました。

けれでも、業界全体、ひいては日本全体という視点で見たときには「雇用を減らす」ことでしかありません。いつしかこれは違う、もっと日本のためになるよう「雇用を増やす仕事を一生懸命やってみたい」という想いを、常に心の底に持ち続けるようになっていました。

靴業界は、50年前から技術が確立され、悪く言うと停滞してしまっています。業界全体に元気がないと、私は感じているんです。

それには、ひとりの職人がすべての工程を担当することができるフルオーダーメイドの仕事に出会う確率が非常に低く、大半が量産靴のための流れ作業の一工程を担当するしかない、という現実が拍車をかけています。これでは技術を継承できず、後継者が育ちません。「日本から職人がいなくなる日も近い」と言われる分野もあるほどです。

そこで、ITを活用したフルオーダーメイドサービスを身近な存在とすることで、靴職人が全行程を扱える仕事を多数生み、雇用を拡大する。将来を担う若手職人への技術継承の場をつくり、育成する。その結果として靴業界に貢献できるのではと考えました。

ふたりの救世主の出現が、起業を後押ししてくれた

 

▲救世主である靴業界の伝道師、酒井を囲んで

理念とサービス概要は固まったものの、起業にあたり最も難航した課題が「靴をつくる工程をどう実現するか」でした。創業メンバーは、みなIT業界の出身。どうしても靴づくりのパートナーが必要だったんです。

私たちは3Dプリンターでつくった木型を手に、数多の靴メーカーや靴職人を訪ねましたが、「こんな木型で靴がつくれるわけがない」と呆れ顔で断られ続けます。

一方で、靴製造業界の課題として「過剰な分業化」が見えてきました。メーカーには多くの靴工房が下請けとして存在しているのですが、彼らが担うのはそれぞれ工程のごく一部。同一規格・大量生産だけを求められています。

その弊害もあり、お客様の顔が見えない状態に陥っていて、給料も上がりにくい構造になっていました。「この現状をなんとか解消したい」という想いが私の中に湧いてきたんです。

そこで、私たちは大きな決断をしました。「自社ですべての製造工程を一貫して行う企業」を目指すことにしたんです。理念に賛同してくれる靴職人探しは、ますます重要なタスクとなりました。

そこへ救世主が現れます。現在の技術顧問、酒井満夫です。

酒井は「靴業界の伝道師」と呼ばれ、以前私が会社に通いながら門を叩いた靴教室の恩師でした。起業当時、靴づくりができる人間が私しかいないと聞いた酒井は「粕谷さんを男にするよ」と、差し出した手を握り返してくれました。

職歴60年超の大ベテランを仲間に迎え、ミリメーターの企業としての形ができ上がりました。また「酒井さんがいるのならば自分も手伝いたい」と多くの靴職人の方々が手を挙げてくださり、ネットワーク化できたことは幸運以外の何ものでもありません。

もうひとつ残された大きな課題は、「どこにオフィスを置くか」でした。靴づくりには、ハンマーで革をたたく、ミシンで縫いつけるなど、大きな“音”が伴います。通常のオフィスビルには入居できないのです。

途方に暮れていたとき、次なる救世主と出会います。3Dプリンター会社の社長に、株式会社ロウプの中西宗義社長を紹介していただいたんです。

「IT技術を用いながら、靴業界にイノベーションを起こすことを目指している」と事業コンセプトをお話しすると、互いのものづくりへの想いが響き合い、「一緒にオフィスを構えましょう」と、地下の工房を貸していただけることになったんです。この偶然の出会いがなければ、今のサービスを始めることはできませんでした。

価格とは「終わりなき経験の対価」であるべき

 

▲外反母趾に悩むお客様にも美しさを、と、デザインされたパンプス

2015年に創業したばかりのミリメーターですが、2017年11月の「世界発信コンペティション」で東京都革新的サービス優秀賞をいただいたり、TVや雑誌に取り上げていただいたりして、順調にお客様の数を増やしています。

若い企業ですので、「大きな失敗はまだこれから」と思っています。むしろ失敗を恐れてチャレンジをしないことは即停滞を意味すると捉え、日々新たなアイデアを取り入れていますし、メンバーの積極的な活動や研究を応援しています。

数多くのチャレンジに共通しているのが、「靴以上の“感動ポイント”をどれだけお客様に提供できるか」という視点です。

お客様からお支払いただく金額は、靴=モノの対価に限ったものではありません。ここにおいでいただき、私たちと出会い、驚き感動し、“楽しかった、また来たい”という気持ちになる「終わりなき経験への対価」だと思うんです。

今は仕方なく靴の代金としてご提示していますが、この「感動料」を表現できる別の名前がないものか、模索を続けています。

では感動とは、どのようなときに生まれるのでしょうか。目に見えるNeedsにこたえるだけでは足りません。お客様ご本人も気づいていないWantsにサービスがぶつかったときに湧き上がるものです。

だから私たちは、お客様のお話をじっくりとお聞きし、一人ひとりの「幸せ」に沿うサービスを数多く提供し続けていきたいと考えています。

例えば、お客様との出会い方の革新。誰もが自分の住む町でフルオーダー靴を注文でき、コンビニエンスストアで靴がつくれる世界。例えば、お客様自身のオリジナルブランドをつくるお手伝い。「こんなパンプスをつくって売ってみたい」という想いをカタチにしていく仕事。

そういった未来の“感動ポイント”に向けても、私たちは動き出しています。

会社説明会では語られない“ストーリー“が集まる場所「PR Table

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