パティシエ、フライトアテンダント、ウェディングプランナー。これらの仕事は華やかで女性に人気がありますが、実は離職率が高く、若いうちに退職している例も見られます。例えばパティシエは、1年以内に辞める人が70%。3年以内だと90%。10年以内だと99%にのぼると言われています。なぜこれほど多くの人が辞めてしまうのでしょうか?
その答えは、『一生困らない 女子のための「手に職」図鑑』華井由利奈著に載っています。今回は、書籍のなかで特に注目度の高かった記事を抜粋し、加筆した特別編をお届けします。パティシエの離職率が高くなってしまった原因は、一体何なのでしょうか?
プロフィール
華井由利奈
ライター。愛知県出身。椙山女学園大学卒業後、印刷会社に就職。デザイン業務を1年間担当した後、コピーライターとしてトヨタ系企業など100社以上の取材を行う。2016年に独立。現在は、女性活躍、ビジネス、教育、生活情報など幅広い分野で執筆している。今までに取材した人数は700人以上。大学や教育講座での講演も行っている。『一生困らない 女子のための「手に職」図鑑』を執筆。
離職率が高い理由とは?
よくある理由の一つは、「イメージと違った」というものです。パティシエは普段から何十キロもある小麦粉や調理器具を運んだり、クリスマスなどのイベント前は深夜まで働いたりします。それを乗り越えて経験を積んだとしても、女性の場合、結婚すると数年後には家事や育児と仕事との両立という壁が立ちはだかることもあります。
男性の育休取得率が低迷し、核家族が増え続けているといわれる今、夫や両親に頼ることができない女性も大勢います。女性活躍を推進し、働きやすい環境を整えている企業もありますが、本当は続けたかった仕事を辞めて家事や育児に専念する人がいるのも事実です。
一方、歯科衛生士やライターは、一般的に女性にとって続けやすい仕事です。例えば歯科衛生士は深夜残業がないことが多いため、平日の夜は家族とゆっくり過ごせます。ライターは自宅で仕事ができるため、朝や夜、子どもが寝ている間に仕事ができます。子どもを育てながら働きたい場合、最初から続けやすい職業を目指したり、結婚や出産を見越して仕事選びをするのも一つの手段です。
また、パティシエやフライトアテンダント、ウェディングプランナーも、事前に現実を知っておけば、保育所が併設されている企業を選ぶ、実家の近くに住むなど、働きやすい環境を事前に作っておくことができます。つまり、子育て中の状況がわかっていれば、両立に悩んで仕事を辞める前に自分の力で対処できるということです。
……と言われても、「すでに企業に勤めているから今さら辞められない」という人や、「資格がないから就職できない」という人もいるかもしれません。そんなときはどうすればいいのでしょうか?
生き生きと働いている人は自分で状況を変えている
「今さら変わることなんてできない」と行き詰ってしまったとき、思い出してほしいのは時間の感じ方の変化です。子どもの頃の1年と、大人になってからの1年、長く感じるのはどちらでしょうか? おそらく「子どもの頃のほうが長かった」と思う人が多いのではないかと思います。子どもの頃は知らないことが多く、毎日が新鮮でした。授業では新しいことを学び、やったことのないスポーツに挑戦していましたよね。
しかし大人になると、毎日同じことの繰り返しが多い傾向にあります。同じ電車に乗り、同じ場所で、同じ人に会って、同じ仕事をするなど。そのため過去を振り返っても記憶に残っている日が少なく、1年がたった数日で終わってしまったように感じると言われているのです。
つまり、自分で状況を変えなければ、納得のいかない状況のまま、あっという間に時が流れてしまうということ。「今さら変われない」と思って現状維持を続けていたら、時計の針が加速しているかのように時が過ぎてしまう可能性もあります。
そこから抜け出す方法は、ただ一つ。「今さら」と思わず、自分で行動を起こすことです。ライターとして700人以上に取材をしていくなかで実感したのは、つらい現実に負けずに生き生きと働いている女性は、働きやすい環境を自分で創り出しているということでした。
子育て中の体への負担を考えて美容師から事務職に転職した人、実家のサポートを受けるために夫婦そろって東京から地元へ帰った人、それぞれ経緯は異なりますが、共通して言えるのは自分で環境を変えたということです。「今さら」と思っていたら、自分の「今」は何歳になっても「今さら」の「今」。変えたいと思ったら、徐々に行動に移すのも一つの選択肢ではないでしょうか。
「手に職」の本当の意味とは
取材を通して、学生や転職希望者に理想の仕事を聞いたとき、「手に職がつく仕事がいい」と答えた人が何人もいました。では、手に職がつく仕事とはどんな仕事でしょうか? 看護師や教員、保育士など、特殊な能力を身につけて資格を取得する職業を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。
「職」という言葉から、職人を連想する人もいるかもしれません。かつて取材をした女性のなかには、「手に職をつけるため、看護師・教員・保育士のどれかになりなさい」と親御さんに言われて育った人もいました。
しかし、手に職がつく仕事というのは本当にそれだけなのでしょうか。営業として商品やサービスを売る人、会社で事務作業をする人、雑貨カフェの店員として接客する人など、資格が不要な仕事でも働いている間に経験を積むことは可能です。その経験は、他の誰でもないあなたのもの。つまり、「手に職がついている」=「実力・キャリアが身に付いている」と考えることもできるのです。
私は『一生困らない 女子のための「手に職」図鑑』を書くにあたり、あらゆる職業を調べ、手に職がつく仕事を探しました。その結果、思っていた以上に多くの仕事が見つかり、書籍には約100種類の職業を掲載しました。
「手に職」という言葉のイメージに縛られて狭い視野で仕事を探すのではなく、経験や資格をいかすという意味で「手に職」を考えてみてください。資格がなくても就職できる仕事や、たとえ短期間でも経験さえあれば再就職しやすい仕事、社会人になってから勉強を始めても就職できる仕事や、さまざまな業界で活躍できる仕事は、きっと想像以上に多くあるはずです。
仕事は服と同じ! 試着が必要
気になる仕事が見つかったら、自分にできる範囲で行動に移しましょう。過去に取材をした人の中には、思い立ってすぐに海外まで職業訓練を受けに行った人もいましたが、「自分には難しい」と感じたら、そこまでする必要はありません。まずはインターネットで情報を検索したり、店舗を覗きに行ったりするだけでも大丈夫。それも立派な行動です。
けれど、おすすめしたいのはやはり実際にその仕事にチャレンジしてみること。例えば保育士はボランティア活動を通して体験することができます。ネイリストや図書館司書になりたい場合は自宅に居ながら通信講座で知識や技術を身に付けることも可能です。また、アクセサリーデザイナーのようにアプリを使って気軽に作品の売買ができる職種や、雑貨カフェクリエイターのように未経験者でも現場で経験を積むことで手に職がつく仕事もあります。(詳しくは『一生困らない 女子のための「手に職」図鑑』をご覧ください。その他の職業の事例も掲載されています)。
インタビューをした人のなかには、テーマパークスタッフのアルバイトに応募したら意外とすんなり採用され副業として長年続けている人や、就職方法がわからなくてインターネットで検索し、電話をかけて募集情報を聞いた人もいました。ボランティアでも、休日のアルバイトでも構いません。試着をするくらいの軽い気持ちで仕事に触れてみると、向き不向きを実感することができます。
仕事は服と同じです。たとえ大好きなブランドでも、着てみたら全く似合わないこともあります。普段全く着ない服がぴったり合うこともあります。どちらも、試着してみなければわからないのです。
「そんな気持ちで転職したら、会社に迷惑をかけてしまう」と思う人もいるかもしれません。でも多くの企業は、誰かが抜けても仕事が滞りなく進むようにできています。会社によって状況は異なりますが、私が取材した人事担当者は「辞める人もいれば、残る人もいる。親しかった人が退職したら個人的に悲しいけれど、迷惑だとは思わない。入社と退職の手続きをするのは、私の仕事だから」と話していました。全社員が一生その会社で働き続けると思って採用している会社ばかりではないようです。
誰だって、やってみないとわからないもの。大切なのはチャレンジすることです。そしてチャレンジした人から順番に、理想の職場が近づいてきます。この記事を読んでくださった皆さんが、自分を犠牲にするのではなく、自分と家族、どちらも大切にする毎日を送ってくれたら、これ以上嬉しいことはありません。
華井由利奈 著 光文社
妊娠・出産を視野に入れ、自分にとって働きやすい仕事を探せる一冊。人気業種を中心に、全100種のリアルな情報を掲載しました。夢だけでは働き続けられない現代で、本当の「働きやすさ」を手に入れるための方法が満載です。