残業だらけチームのリーダーは「何でも丁寧に」教えたがる

『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』(明日香出版社)の著者である石川和男さん。石川さんは、建設会社総務部長・大学講師・専門学校講師・セミナー講師・税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパービジネスパーソンです。そんな石川さんに「残業しないチームと残業だらけチームの特徴」についてお聞きしました。

プロフィール

石川和男(いしかわ・かずお)

f:id:asukodaiary:20170309141602j:plain建設会社総務部長、大学、専門学校講師、セミナー講師、税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパーサラリーマン。大学卒業後、建設会社に入社。管理職就任時には、部下に仕事を任せられない、優先順位がつけられない、スケジュール管理ができない、ダメ上司。一念発起し、ビジネス書を年100冊読み、月1回セミナーを受講。良いコンテンツを取り入れ実践することで、リーダー論を確立し、同時に残業ゼロも実現。建設会社ではプレイングマネージャー、専門学校では年下の上司の下で働き、税理士業務では多くの経営者と仕事をし、セミナーでは「時間管理」や「リーダーシップ力」の講師をすることで、仕事が速いリーダーの研究を日々続けている。
最新刊の『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』(明日香出版社)ほか、『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』(明日香出版社)など、勉強法、時間術などのビジネス書を6冊出版している。

「ティーチング」ばかり使っていると…

リーダーのなかには、「自分がすべてにおいてメンバーより優れていないと気がすまない」という人がいます。そのような人は、学校の先生が生徒に指導するように、メンバーに仕事を教える傾向があります。この様な傾向を「ティーチング」と言います。

「ティーチング」とは、人に対して一方的に知識やスキルを教えることです。学校で教える人を先生(ティーチャー)と言いますが、知識やスキルが十分に備わっていない小中学校の生徒に対して、知識を教える手法です。入社1年目の社員など、経験の浅い人にとっては有効な手段と言えます。

 

ここで、私が以前コンサルティングをしていた会社の話を1つ紹介します。

この会社の営業マネージャーBさんは、典型的なティーチング手法を使う人でした。毎日、訪問活動の報告を1件1件受け、指示を与え、これは伝えたか、これは行ったかなど、こと細かく確認をしていました。良く言えば面倒見のいいマネージャー、悪く言えば干渉し過ぎのマネージャーといったところでしょうか…。

彼のチームは、5分で済むような指導も1時間かかり、10分で済む指導を2時間かけて行っており、残業が慢性化していました。

昼前に訪問したときにBさんは座り、メンバーを立たせたまま指導していました。私は他部署のリーダーと昼食を食べ、1時間後に事務所に戻ると、驚いたことに、まだ昼食前と同じ体制のまま指導を続けていたのです。そんな状況もあってか、Bさんの部署では半年もすると退職者が出始めてしまいました。

先にも書いたように、知識やスキルのまだない、経験の浅い新人や新たに配属されたメンバーであれば、ティーチングは有効な面もあります。しかし、このマネージャーのように、誰に対しても同じようにティーチング手法を使っていては、メンバーのやる気はそがれてしまいますし、必要以上に時間がかかりすぎてしまうのです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「何でもかんでもティーチング」の3つの落とし穴

リーダーに昇格して部下を持つと、どうしても「懇切丁寧に教えなくてはいけない」と考えてしまう人が多いようです。しかし実は「丁寧に教える」ことには、3つの落とし穴があります。

1.ティーチング手法は、その管理者の力量以上に育たない

リーダーとメンバーの関係を考えた際に、「リーダーの方がメンバーよりもすべての分野において秀でている」という状況は非常に少ないのではないでしょうか?メンバーの方が強い部分、秀でている部分、専門的能力の高い部分もあるはずです。また今は秀でていない分野でも才能を持っている可能性もあります。

「懇切丁寧に教えなくては」という“ティーチング思考”では、自分の理論・やり方を押し付けることにつながり、結果としてメンバーの秀でている部分を伸ばすことができなくなる可能性があるのです。

例えば、プロ野球の世界において、打撃コーチは必ずしも現役時代に選手よりもいい成績を残していたとは限りません。選手の中には、コーチよりもはるかにいい成績を上げているスーパースターもいます。その選手に、コーチは全部手取り足取り指導するでしょうか?

仮に毎年40本の本塁打を5年間打ち続けている選手に、生涯40本しか打っていないコーチが自分本位のティーチングをしたらどうなるでしょう?

選手は独自の打撃論が確立されているでしょうから、反発をするでしょう。無理にコーチのバッティング理論を押しつけたとしたら、選手はリズムを崩すかもしれません。40本打っていた本塁打が10本になってしまったら、選手の能力が失われたことになります。

コーチは、選手の打撃フォームの崩れをチェックし、選手が本来持っている力を引き出すことが役目なのです。

2.「減点方式」でメンバーを見ることで、メンバーからの信用が失われる

100%教えようとして伝わったかどうかをチェックしていると、段々と焦点がずれてきてしまいます。「できてるか」「覚えているか」「実践しているか」のチェックをするのですが、これが「出来ていない」「覚えていない」「やっていない」といった減点方式で部下を見るようになってしまいがちなのです。

上司が「減点方式」で部下を見ると何が起こるか?「全然信用してくれていないのだな」ときっと感じることでしょう。上司が信用していないと示すような行動をとると、結果として部下も上司を信用しなくなっていきます。

結局、部下は上司に必要なことだけを伝え、伝えておかなければならないが不利な内容は伝えなくなるという弊害も生まれやすくなるのです。

3.部下が自分で考えなくなってしまう

これが一番の問題です。「上司が教えてくれるからいい」と、すぐに自分で考えることを諦めてしまう。確かに報告も相談もしないで、長い間自分で考えて解決できないのは、時間の無駄になってしまいます。しかし最初から上司に聞いてばかりでは、自分で考える力を失います。変化のスピードの激しい現代においては、自分で考えることができないのは致命的です。

部下が上司の指示を待ち、部下が考えるべきことまで上司が全て考えて答えを出していては、作業効率的にも時間がかかってしまいます。

雇用の流動化が進んでいる現代では、長期間同じ上司と部下の関係でいるとは限りません。転勤や転職、部下が昇進してリーダーになることもあるでしょう。その日のために、部下に「考える力」を身につけさせなければなりません。

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「コーチング思考」で部下の自発的な行動を促す

また、教えようとばかりしていると自分の仕事をする時間がなくなってしまいます。結果、残業が増えていきます。

そうならないためにも、部下に自発的に仕事をさせる必要があります。メンバーの状況に応じて、ティーチングだけではなく、コーチングを使って対応することも必要となるのです。

コーチングとは、相手の話をよく聞き、感じたことを伝えて、質問することで、部下の自発的な行動を促す手法。部下に自発的に考えさせ、困ったら解決の相談に乗るのです。自発的な仕事は、やらされ仕事よりもスピードが違ってきます。自ら工夫もします。その工夫に対して助言するのがリーダーの役目です。

残業しないチームのリーダーは、コーチングを使って部下の力を最大限に引き出すコツを知っています。メンバーが自主的に考え、自発的に考えることで、仕事のスピードも飛躍的に変わってくるのです。

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