文章を書くときに“重宝する”2つのスキル――山口拓朗の『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』

得意先に電話をしたら「その内容をメールでもいただけますか?」と言われた。上司に企画のアイデアを出したら「そのアイデアをA4一枚の企画書にまとめといて」と言われた。以前までは口約束が慣習化していたが「文面として残っていないのはマズイだろう」と、最近は書面でやりとりするようになった。

あなたも似たような経験をしたことがあるのではないでしょうか。このように、近年、文章で情報のやり取りをしたり、コミュニケーションを図ったりする機会が増えてきました。「文章に残すこと」や「文章で伝えること」の重要性が高まってきたのです。そんな“文章による見える化時代”のなかで、次のような悩みをもつ人が少なくありません。

・「文章を書くことがストレスです」
・「文章を書くことが苦手です」
・「文章を書くのに時間がかかりまくります」
・「支離滅裂な文章を書いてしまいます」
・「『この文章はどういう意味だ?』と上司に怒られます」
・「そもそも頭のなかにあることを、文章にすることができません」

このような悩みを抱えている人たちにとって一筋の光明となるのが、新刊『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』が話題を呼んでいる山口拓朗さんがお届けする短期連載です。報告書からメール、企画書、ブログまで、これまでの学校教育で“教わっていそうでいて、実は教わっていない「文章作成の基本」”を学んでいただきます。第4 回となる今回のテーマは「文章を書く」についてです。

文章を書くときには、意識的に自問自答する

過去3回の記事で、「文章作成」とは「書く作業」だけを指すのではなく、以下の4ステップで成り立っているとお伝えしました。

【文章作成の4ステップ】
ステップ1:情報を集める
ステップ2:書く前の準備をする
ステップ3:文章を書く
ステップ4:書いた文章を推敲・修正する

前々回の「ステップ1(情報を集める)」と前回の「ステップ2(書く前の準備をする)」に引き続き、今回は「ステップ3(文章を書く)」についてお伝えします。

そもそも「文章を書く」とはどういう作業なのでしょうか。頭の中では何が行われているのでしょうか。たとえば、「新リーダーには進藤さんを推薦します」という文章は、どのようにして生まれたのでしょうか。実はこの文章の裏には「私は新リーダーに誰を推薦しますか?」という「問い」が隠れています。同様に「コストは120万円ほどかかります」という文章の裏には「コストはいくらかかりますか?」という問いが隠れています。そう、人は自問自答をくり返しながら文章を書いているのです。

「いえ、私は文章を書くときに自問自答なんてしていません」という人もいるかもしれません。しかし、それは自問自答している事実に気づいていないだけです(脳内で高速かつ無意識に行っているため)。逆にいえば、これまで無意識に行ってきた自問自答を、この先、意識的に行うことで「書けない状態」から抜け出すことができます。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「自問自答」で穴のない文章を書く

Aさんの提案:パワハラを許してはいけません。

Bさんの提案:ハラスメントをテーマにした社内研修を行うことが、パワハラ撲滅への第一歩ではないでしょうか。

Aさんの自分への質問は「パワハラを許していいのか?」です(答え:許してはいけない)。一方、Bさんの自分への質問は「パワハラをなくすにはどうすればいいか?」です(答え:ハラスメントをテーマにした社内研修を行う)。「パワハラ」という行為を感情的に批判するのではなく、「パワハラ撲滅に向けた解決策」へと踏み込んだBさんの質問と答えは、なかなか鋭いといえるでしょう。もしもこのふたりに「パワハラ」をテーマにした文章を書かせた場合、鋭く深みのある文章を書くのはBさんではないでしょうか。質の高い自問自答は、質の高い文章を生むのです。

自問自答のプロセスは、企画書や提案書、プレゼン資料など、ビジネスシーンで文章書くときに有効です。「自分が書いた企画書は、いつも採用されません」という人は、企画書を読んだ上司や取引先から「この◯◯はどういう意味?」「なぜ◯◯だと言い切れるの?」「どうやって◯◯を実現するつもり?」「利益はどれくらい出るの?」といった質問(指摘)を受ける機会が多いはずです。なぜ質問(指摘)を受けてしまうかというと、企画書を書くときの自問自答が甘い(または「少ない」)からです。

十分に自問自答して書いた企画書は、読む人が納得しやすい、いわば「穴のない企画書」です。一方で、「自問自答」をせずに書いた企画書は「穴だらけ」のことが少なくありません。どちらが採用されやすいかは言うまでもありません。「(読む人の代わりに)自分に質問をする → その質問に答える → その答えを文章に書く」。このくり返しによって質の高い文章は作られていくのです。

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読む人の理解がススム「結論優先型」の構成

さて次に、そもそも文章を書けない人のなかには、頭のなかにある情報のまとめ方、つまり、文章の構成方法がわからない、という人が少なくありません。

おそらく、日本人にとって最も有名な構成は「起承転結」ではないでしょうか。しかし残念ながら、起承転結はビジネスシーンには適していません。なぜなら「結論」が最後にくるからです。メールや報告書、あるいは企画書のような文章で結論を先延ばしすれば、読む人がヤキモキするはずです。

ずばり、ビジネスシーンで求められる文章構成とは、読む人が理解しやすい順番に書かれたものです。とはいっても、その順番を考えることに腐心している人も少なくないはずです。そこで、ご紹介したいのが「結論優先型」の構成です。

結論優先型では「結論→理由→具体例(詳細や背景)→まとめ」の順に文章が流れていきます。この流れは、読む人が理解しやすい順番でもあります。

【原文】
ご存知のとおり、今回の案件で、当社は環境への負荷を減らす提案をしてきましたが、量販店での販路拡大を目指すA社は利益率を重視する姿勢を崩しませんでした。 A社の二宮部長からは「そもそもの考え方に相違がある」と言われました。残念ながら、A社との契約は、不成立となりました。今回の反省点を踏まえつつ、あらためて当社の方針に賛同してくれるパートナー探しを行います。

この文章の結論は「A社との契約は、不成立となりました」です。それが、読む人が真っ先に知りたいこと(=結論)でしょう。ところが、この文章では肝心な結論が後回しにされています。これでは、読む人がイライラするのも無理はありません( “言い訳めいている”と受け取る人もいるでしょう)。

【修正文】
残念ながら、A社との契約は、不成立となりました。【結論】 A社の二宮部長からは、「そもそもの考え方に相違がある」と言われました。【理由】 ご存知のとおり、今回の案件で、当社は環境への負荷を減らす提案をしてきました。ところが、量販店での販路拡大を目指すA社は、利益率を重視する姿勢を崩しませんでした。【具体例(詳細や背景)】 今回の反省点を踏まえつつ、あらためて当社の方針に賛同してくれるパートナー探しを行います。【まとめ】

結論優先型を使うことによって、読みやすく理解しやすい文章に変化しました。このように「結論優先型」の構成は、ビジネスシーンで確実かつ効率よくメッセージを伝えたいときに重宝します。

「自問自答」と「結論優先型」の二刀流で、能力アップを図ろう!

ちなみに、「自問自答」と「結論優先型」は密接な関係にあります。たとえば、結論優先型の構成「結論→理由→具体例(詳細や背景)→まとめ」は、実は、それ自体が自問の肩代わりをしてくれているのです。「結論は何?」「理由は何?」「具体的に教えて?」「まとめで何を言いたい?」という具合です。これらの質問に的確に(ときには鋭く)答えることができれば、穴のない論理的で文章ができ上がります。

「自問自答」と「結論優先型」を駆使することで、その人が書く文章はより伝わりやすく、より説得力の高いものになるはずです。その両者のスキルアップは、取りも直さずその人自身のビジネスパーソンとしての能力アップにもつながるでしょう。

著者:山口拓朗

『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』著者。

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伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』(日本実業出版社)のほか、『残念ながら、その文章では伝わりません』(だいわ文庫)、『問題を解くだけですらすら文章が書けるようになる本』(総合法令出版)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)他がある。

山口拓朗公式サイト
http://yamaguchi-takuro.com/

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