『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『英語を「続ける」技術』(かんき出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている西澤ロイさん。英語の“お医者さん”として、英語学習の改善指導なども行っている西澤さんに「正しい英語学習の方法」についてお話しいただくこのコーナー。第3回目の今回は「少ないボキャブラリーで表現するコツ」についてです。
英語では、基本的な動詞と前置詞を組み合わせるだけで、基本的な会話に苦労しなくなるだけの表現力が身につけられます。ただし「感覚的に理解する」ことが欠かせないのですが、多くの方ができておらず、苦しい暗記をしてしまっているのです。今まで誰も教えてくれなかった、句動詞(動詞×前置詞)の正しい理解の仕方について解説します。
大きな誤解:ボキャブラリーがないから話せない
英語が話せない原因を「ボキャブラリーが(少)ないから」だと考える人が少なくありません。しかし、それは大きな誤解なのです。英語の日常会話の8割は、わずか1,000単語程度の中学英語――。ですから、簡単な単語をいかに使いこなすかが重要なのです。
例えば「消火する」を英語でどう言うか分かりますか? 辞書を引くと真っ先に出てくるのは「extinguish」という動詞。これを使って
「extinguish the fire」
のように言うことができます。
さて、ここで「消火する=extinguish」のように暗記してしまう人が多いのではないでしょうか。extinguishという単語は10文字ありますが、このような単語を「教養語」と言います。「消火する」ことは「基本語」、つまり基本的な単語を使っても表現することができます。
「put out the fire」
このように言っても実はOK。putもoutも中学英語(どちらも3文字!)であり、ネイティブも日常的にはこういう基本的な単語を使ってしゃべっているのです。
ボキャブラリークイズ
ではここで、ちょっとクイズをやってみましょう。
以下の日本語を英語にしてみてください。
1.意識を失う( )
2.配布する( )
3.代理を務める( )
4.彼のことをいじめる( )
5.正しいことと間違っていることを区別する( )
なお、全然分からなくても、全く気にする必要はありませんよ。
では答えをご覧いただきましょう。まずは「教養語」バージョンの答えです。
1.意識を失う
lose consciousness
2.配布する
distribute
3.代理を務める
substitute
4.彼のことをいじめる
bully him
5.正しいことと間違っていることを区別する
distinguish between right and wrong
真面目な方はこれらを「覚えよう」としがちですが、英語の中級者以上でない限り、オススメいたしません。また、この答えを見て「難しい」と思った人が多いのではないでしょうか。そうなんです。だから「教養」語と呼ばれるのです。
では次に、「基本語」バージョンの答えをご覧いただきましょう。
1.意識を失う
pass out
2.配布する
pass out / hand out / give out
3.代理を務める
fill in
4.彼のことをいじめる
pick on him
5.正しいことと間違っていることを区別する
tell right from wrong
いかがでしょうか。今度は「難しそう」には見えないのではないでしょうか。誰もが知っているような基本的な単語で表現できてしまう――これが英語の基本動詞や句動詞が持つ力なのです。
「句動詞は暗記するしかない」という勘違い
ただし、ここでまた1つのハードルが登場します。句動詞には、いろんな意味がありすぎるのです。
上のクイズの1(意識を失う)と2(配布する)のどちらにも「pass out」が登場しています。他にも例えば「take off」という句動詞は「(服を)脱ぐ」「休みを取る」「離陸する」……のように様々な意味合いを持つのです(他にも山ほどあります)。
せっかく既に知っている基本的な動詞と前置詞の組み合わせに過ぎないのに、こういった句動詞を「暗記するしかない」と誤解している人が(学習者だけでなく、英語を教える人の中にも)残念ながらたくさんいます。
私は以前からずっと「英語は暗記科目ではない」と主張しています。英語は本来「感じる」べきものなのです。英語は子供にも理解できる、いやむしろ、子供の方が上達が早いですよね。それは、英語という言語は感覚的に掴まない限り、正しくは理解できないものだからなのです。
では、句動詞を暗記するのではなく、感じられるようになるためにどうしたらよいのでしょうか?
以下の3つのステップを踏む必要があります。
ステップ1:動詞を感覚的に掴む
ステップ2:前置詞を感覚的に掴む
ステップ3:動詞と前置詞の感覚を掛け合わせる
それでは「take off」を例に、感覚的に掴んでみましょう。
【ステップ1】takeを感覚的に掴もう
takeという動詞は、日本語の「取る」に非常に近いのですが、「手を使って掴む」ことが基本です。
(以下、画像および例文は、拙著『頑張らない英会話フレーズ』
(あさ出版)より引用します)
She took her daughter’s hand.
彼女は娘の手を握った。
まずは「掴む」という基本的な例ですね。
Someone took my wallet.
誰かが私の財布を盗った。
手で掴んで「自分のものにする」ことも含みます。
I’m going to take this road.
こちらの道を行きます。
いくつかの選択肢がある中から「手で掴む」、つまり「選ぶ」こともtakeで表現できます。なおここで、「自分の意思」で選んでいるという「積極性」を感じてください(これはtakeが持つ重要なニュアンスです)。
【ステップ2】off を感じてみよう
offという前置詞(副詞としても使われます)は「離れる」という動きを表わします。反意語のonが「接触」を表わすことと一緒に押さえておくと良いでしょう。
KEEP OFF
立ち入り禁止
「離れる」状態を保つ(keep)ことから「近寄らない」ことを意味します。
Let me see you off at the station.
駅まで見送らせてね。
「see off」で「見送る」と暗記している人も多いかもしれません。seeは「見える」「視界に入る」ことを表します。つまり、「離れるところをずっと視界に入れておく」から「見送る」ことになるだけなのです。
また他にも、日本語でも「オフの日」などと言うように「休み」という意味合いもあります。まずonが「スイッチが入っている」状態を表わし、そこから「続く」という意味(動き続けるイメージ)にも派生します。その反対だから「休み」なのです。
【ステップ3】take×off を掛け合わせる
ではいよいよ本題です。「手で掴む」ことを表すtakeと、「離れる」ことを表すoffを掛け合わせてみましょう。
You’re supposed to take your hat off while the national anthem is played.
国歌の演奏中は、帽子を脱ぐことになっている。
かぶっている時には、帽子は頭に接触した(onの)状態にあります。それを「手で掴んで離す」ことは、つまり「脱ぐ」ことになります。
I want to take three days off next month.
来月、3日間の休みを取りたいです。
offには「休み」という意味もありますから、それを「取る」ことで、3日間の休みを「自分のものにする」のですね。
The airplane finally took off with a delay of four hours.
飛行機は4時間遅れでようやく離陸した。
「take off」で「離陸する」と暗記しているかもしれませんが、ここにもtakeとoffの語感がきちんとあります。飛行機が空を飛ぶ際には、勝手に浮いていってしまうのではなく、「ここから飛ぼう」という踏みきりのポイントがあるはずです。そこで、地面から「離れる(off)」ことを「選ぶ(take)」から、「離陸」という意味になるのです。
まとめ
英語の基本的な単語を、感覚を使って理解するときのポイントは、日本語訳に囚われないことです。日本語に訳していては、正しく理解することは、いつまで経ってもできません。動詞や前置詞がどんな「動き」や「状態」を表わしているのかをきちんと感じることが重要です。
もちろん中には、感覚だけでは理解できない句動詞も存在するでしょうが、感覚的に英語が理解できるようになれば、暗記すべき事柄が圧倒的に減り、英語はずっと楽に身につけられるのです。
ご参考までに、拙著『頑張らない英会話フレーズ』では、25個の動詞と5個の前置詞を組み合わせることで、一切の暗記なしに身につけられる300通りの表現をご紹介しています。苦しい暗記はもう嫌だとお感じなら、感覚的に英語を理解することにぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?
西澤ロイ(にしざわ・ろい)
イングリッシュ・ドクター
英語の“お医者さん”として、英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。
TOEIC満点(990点)、英検4級。
獨協大学英語学科で学んだ言語学に、脳科学や心理学も取り入れ、英語流の「発想」や「考え方」を研究、実践することで、大人だからこそ上達する独自のメソッドを確立する。
暗記の要らない英会話教材「Just In Case」、正しいリスニング方法が身につくトレーニング教材「リアル・リスニング」も好評を博している。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『英語を「続ける」技術』(かんき出版)他、著書多数。