デキない人の伝え方には、“3つの要素”がない

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「今日の来場者数は100人でした」だけでは伝わらない?

今日の来場者数は100人でした。

この文章は、事実を示しています。お店に100人のお客さんが来た、という事実です。しかし、この一文では、事実以上の情報を得ることができません。「事実以上の情報」とは、たとえば、「来場者数100人」が多いのか、それとも、少ないのか——というような情報です。

仮に、昨日の来場者数が50人だった場合は、どうでしょうか。「今日は繁盛した」と結論づけることができるかもしれません。一方で、昨日の来場者数が200人だった場合はどうでしょう。「今日は不調だった」と結論づけるのが妥当かもしれません。

そう、100人という来場者数は、それ単体では「多い」とも「少ない」ともいえないのです。比較する対象があって、初めて「多い」や「少ない」という判断を下すことができるのです。つまり、来場者数の良し悪しは「絶対的」に決まるのではなく、「相対的」に決まるものなのです。

① 昨日50人 → 今日100人 → 今日の来場者数は多かった

② 昨日200人→ 今日100人 → 今日の来場者数は少なかった

【①の場合の文章例】

今日の来場者数は100人。昨日(50人)と比べると大繁盛でした。

【②の場合の文章例】

今日の来場者数は100人。昨日(200人)と比べると寂しい入りでした。

ここまで書いて、初めて情報の本質(結論やメッセージ)が伝わるのです。

もっとも、この結論にしても、ひとつの見方にすぎません。ひとたび比較対象が変われば、結論もまた変わります。

たとえば、昨日の来場者数が50人でも、今月の平均来場者数が150人だとしたら、今日の来場者数100名は「大繁盛」とは言い難いのではないでしょうか。

反対に、昨日の来場者数が200人でも、今月の平均来場者数が80人だった場合、来場者数100名を「寂しい入り」と表現するのは、少しニュアンスがずれています。

③ 今月の平均150人 → 今日100人 → 今日の来場者数は今ひとつ

④ 今月の平均80人 → 今日100人 → 今日の来場者数はまあまあ好調

【③の場合の文章例】

今日の来場者数は100人でした。今月の平均来場者数(150人)からすると、少し寂しい入りでした。

【④の場合の文章例】

今日の来場者数は100人でした。今月の平均来場者数(80人)からすると、やや好調でした。

「昨日」の数字と比べるのか、「今月の平均」の数字と比べるのか、比較する対象によって導き出される結論は変化します。もっといえば、「昨年の平均来場者数」が500人だった場合と50人だった場合でも、導き出される結論は大きく変化します。基準が変われば結果も変わる。文章を書くときには、この理屈を押さえておく必要があります。

この理屈は、あらゆる物事や事柄に置き換えることができます。景気の「いい・悪い」、成績の「いい・悪い」、やる気の「ある・なし」、お金の「ある・なし」、速度の「速い・遅い」、品質の「いい・悪い」、価格の「高い・安い」などなど。これらの境界線はどこにあるのでしょうか? そう、境界線などもともと存在しないのです。基準となる比較対象を示すことによって、初めて境界線が浮かび上がるのです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

1.比較対象を示して、初めて伝わる

⑤ 弊社の2016年の業績はよかった。

⑥ 弊社の2016年の業績は、過去最悪を記録した昨年よりはよかった。

比べる対象を示していない⑤よりも、比べる対象(=過去最悪を記録した昨年より)を示した⑥のほうが、分かりやすく親切な文章です。実際には「業績はさほど良くなかった」ということが分かります。⑤の文章からは、どのくらい「よかった」のかが読み取れないため、読む人の誤解を招きかねません。

⑦ 営業の仕事が好きだ。

⑧ 人事の仕事に比べると、営業の仕事のほうが好きだ。

⑦は、読む人に「営業が大好き」と受け取られても仕方ありません。一方、⑧は「営業が大好き」という意味ではなく、「人事の仕事よりはマシ」という程度だということが分かります。もちろん、どこまで細かいニュアンスを伝えるかは、書き手の裁量ひとつです。

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2.「条件」を示す方法もある

物事を分かりやすく伝える方法には、比べる対象を示す以外にも、2つ方法があります。そのうちの一つが、「条件を示す」という方法です。

⑨ 回数券がお得です。

⑩ 月1回の利用であれば、年間パスポートよりも、回数券がお得です。

⑨では「お得」の加減がわかりません。比較対象(年間パスポートよりも)を明確にした⑩のほうが読む人に親切な文章といえます。加えて、⑩では、「月1回の利用であれば」と条件も示しています。これによって、「お得」の加減がより明確になりました。

⑪ バンクーバー留学がベストだ。

⑫ 美しい発音の英語を身につけるなら、バンクーバー留学がベストだ。

⑪ではバンクーバー留学のメリットが具体的に見えません。⑫のように「英語を身につけるなら」と条件を示すことによって、「バンクーバー留学」の真のメリットが見えてきます。このように、伝わる文章を書くときには、条件を提示する方法も有効です。

3.「範囲」を示す方法もある

「比較対象を示す」や「条件を示す」以外にも、「範囲を示す」という方法もあります。

⑬ わが社の今年の景気はよかった。

⑭ わが社の今年の景気は、出版業界内ではよかった。

「出版業界内では」という範囲を示した⑭のほうが、⑬よりも、景気の度合いが具体的に伝わります。「出版業界」という限定した範囲での評価だということが理解できます

⑮ 彼の料理の腕前は、まだまだだ。

⑯ 彼の料理の腕前は、三ツ星レストランのシェフとしてはまだまだだ。

⑮と⑯では、読む人が受け取る印象が大きく違います。⑮の彼は「素人レベル」、⑯の彼は「一流以上、達人未満」という感じでしょうか。もし、本当に彼の腕前が「一流以上、達人未満」である場合、⑮のような書き方をすると、読む人に誤解されてしまう恐れがあります。⑯の「三ツ星レストランのシェフとしては」のように具体的に範囲を示すことで、腕前のレベルが明確に伝わります。

⑰ 小林さんのことは評価している。

⑱ 小林さんのことは、プロデューサーとしては評価している。

⑰は、小林さんの人間性を丸ごと評価する文章と受け取れます。一方、⑱の文章は「プロデューサーとしては」という具合に、評価の範囲を限定しています。プロデューサーの資質以外の点は、そもそも評価の対象にしていません。ましてや人間性を丸ごと評価する文章でもありません。

「伝える」ためには、文章に工夫を凝らそう

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もちろん、「比較対象」や「条件」「範囲」を示さない理由が<相手を煙に巻くため>や<結論をぼやかすため>だというなら、その使い方を否定するつもりはありません。ビジネスシーンに身を置いていれば、交渉事のひとつのテクニックとして、そういう文章を書かなければいけないケースもあるでしょう。

一方で、何かしらの結論やメッセージを伝えたいと思っているにも関わらず、読む人に正確に伝わらないとしたら、それは悲劇以外の何ものでもありません。

言葉が“事実の提示のみ”で伝わると思ったら大間違いです。これまでお伝えしてきた通り、物事の見方は基準によって変化するからです。何かしらの結論やメッセージを伝えたいときに、「比較対象」や「条件」「範囲」を示し損ねると、読む人に伝わらないどころか、良からぬ誤読や誤解を招く恐れもあります。正しく理解してもらえるよう、必要な「比較」「条件」「範囲」を示しましょう。

著者:山口拓朗

『書かずに文章がうまくなるトレーニング』著者。

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伝える力【話す・書く】研究所主宰。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章スキルをテーマに執筆・講演活動を行う。文章力アップのコツと実践的な方法を紹介した『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)のほか、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)他がある。モットーは「伝わらない悲劇から抜けだそう!」。

山口拓朗公式サイト
http://yamaguchi-takuro.com/

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