近年、ビジネスやスポーツ分野において、「やり抜く力」が重視されている。「やり抜く力」とは、目標に対して情熱を持ってひたむきに取り組み、困難や挫折を味わってもあきらめずに努力し続ける粘り強さのことを指す。
「グリッド(やり抜く力)研究の第一人者」として知られる米ペンシルベニア大学心理学部のアンジェラ・ダックワース教授は、たくさんの成功者と呼ばれる人々にインタビューし、研究した結果、人がそれぞれの分野で成功し、偉業を達成するには、才能やIQよりも「やり抜く力」が重要であるということを科学的に突き止めた。そしてこのほど、「やり抜く力」のメカニズムを解説し、その力を伸ばす方法を示す著書を刊行し注目を集めている。
「やり抜く力」を伸ばすには何をすればいいのか?先ごろ日本で発売された翻訳本『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』から、その方法の一部をご紹介したい。
自ら「やり抜く力」を伸ばすには、4つのステップが重要
ダックワース教授は著書内で、「やり抜く力を強くするための4つのステップ」を紹介している。これらは、成功者である「やり抜く力の達人」たちに共通する特徴だという。
1.「興味」
自分のやっていることを心から楽しんでこそ「情熱」が生まれる。インタビュー対象者はいずれも、目標に向かって努力することに喜びや意義を感じていた。だからこそ彼らは尽きぬ興味と子どものような好奇心を持って「この仕事が大好きだ」と言うそうだ。
まだ「これだ」と思うものが見つかっていない人は、次の質問を自分自身に問いかけることで、取り組むべきことを「発見」できる可能性がある。
「私はどんなことを考えるのが好きだろう?」
「いつの間にか考えているのはどんなこと?」
「私が本当に大切に思っているのはどんなこと?」
「私にとって最も重要なこととは?」
「何をしているときが一番楽しい?」
「これだけは耐えられないと思うことは?」
まずは好き嫌いをはっきりさせて、とりあえずいいと思ったことをやってみる。うまくいかなかったら取り消してもいい。その過程で、自分にとって最重要なものはこれだと確信できるときが、いつか必ずやって来る。
2.「練習」
「粘り強さ」の一つの表れは「昨日よりも上手になるように」と日々の努力を怠らないこと。だから、一つの分野に深く興味を持ったら、脇目も振らずに打ち込んで、自分のスキルを上回る目標を設定してはそれをクリアする「練習」に励む必要がある。
ただ、やみくもに練習を重ねるのではなく、明確な目標を設定したうえで自分の弱点を認識し、それを克服するための努力を日々繰り返す「意図的な練習」をすることが重要。時間の長さよりも「どう練習するか」がカギだ。
なお、「やり抜く力のエキスパート」たちは、次の3つの流れで練習を行っているという。
・ある1点に的を絞って、ストレッチ目標(高めの目標)を設定する
・しっかりと集中して、努力を惜しまずに、ストレッチ目標の達成を目指す
・改善すべき点がわかった後は、うまくできるまで何度も繰り返し練習する
3.「目的」
自分が取り組んでいる仕事は重要だと確信してこそ、「情熱」が実を結ぶ。目的意識を感じないものに興味を持ち続けるのは難しい。だからこそ、自分の仕事は個人的に面白いというだけではなく、「他の人々のためにも役立つ」と思えることが必要だ。
「目的」を持つためには、「ロールモデルとなる人からインスピレーションをもらう」のが効果的だ。
「もっといい人間になりたい」と思わせてくれるような生き方をしている人はだれかと考え、そう思う理由を分析してみる。そして、「この人のようになりたい」と具体的に考えることが目的の発見・明確化につながる。
なお、研究の結果「目的」のスコアが高い人ほど、「やり抜く力」が強いことがわかっている。「意義のある生き方がしたい」「ほかの人々の役に立つ生き方をしたい」というモチベーションが高ければ高いほど、やり抜く力に長けている。
これは、「やり抜く力が高い人はみな聖人」という意味ではなく、「自分にとっての究極の目標は、自分という枠を超えて、人々と深くつながっていると考えている」ということを指す。このような考え方を意識的に持つことも、やり抜く力を伸ばすトレーニングになるはずだ。
4.「希望」
希望は困難に立ち向かうための「粘り強さ」の源でもある。希望は、最初の一歩を踏みだしてからやり遂げるまで、あらゆる場面に関わるものであり、ときに困難にぶつかり不安になっても、ひたすら自分の道を歩み続けるために必要不可欠のものだ。
「希望」の持ち方を学びたい人は、次のステップを試してみるといい。
・成長思考を持つ
=人は変われる、成長できると信じて一生懸命努力すれば、自分の能力をもっと飛ばすことが可能だと考える
↓
・楽観的に考える
=意識して悲観的な考え方を止め、物事を楽観的に捉え、考えるトレーニングをする
↓
・結果、逆境でも粘り強く頑張れる
部下や子どもなど、身近な人の「やり抜く力」を伸ばす方法も
以上で紹介したのは、本著で紹介されている「やり抜く力を内側から伸ばす方法」の一部だ。これは「やり抜く力」を自分自身で、意識して伸ばすという方法だが、「身近な人のやり抜く力を、外側から伸ばす方法」も紹介されている。
例えば、子どもの「やり抜く力」を伸ばすには、「最後までやる主観を身につける」「『自分で決められる』感覚を持たせる」「自由を与えると同時に『限度』を示す」など、具体的な方法論が詳しく紹介されている。子育てに役立つのはもちろん、部下の育成、マネジメントにも応用できるだろう。
また「やり抜く力」が高い人の実例が豊富に紹介されているほか、自身の「やり抜く力」のレベルを判断できるテストも掲載されている。果たして自分に「やり抜く力」がどれぐらいあるのか、客観的に判断するのは難しいもの。自分のレベルを掴み、より高い「やり抜く力」を身につけたいという人は、本書を手に取ってみてはいかがだろうか。
参考書籍:『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』/アンジェラ・ダックワース著、神崎朗子訳/ダイヤモンド社
EDIT&WRITING:伊藤理子