エンジニアの話は、なぜわかりにくい?──澤円が伝授する「自分をアピールするためのプレゼン術」

自分の専門分野や仕事内容をエンジニア以外の人に説明するのに苦労したことはありませんか? ましてや自分のスキルや実績がうまく伝えきれず、悔しい思いをしたことがある方も少なくないのではないでしょうか。
今回は「自分をアピールするためのプレゼン術」を伝授していきたいと思います。

自分の実績や能力をアピールできてますか?

この連載を読んでいる方々は、主にエンジニアもしくはIT業界の方、理系の学生さんなどではないかと思います。

そういった方々とお話ししていて、少なくない頻度で聞く悩みが「自分のやっていること、自分の成果を分かりやすく伝えることが難しい」ということです。

他にも「自分の実績がうまく伝わらず、いつも評価が低いまま」という不満をためている人にも何度もお会いしています。

理由は本当にさまざまで、自分の専門分野がとてもニッチで知っている人が少なかったり、あまりにもマニアックな内容を研究しているので、前提知識がないと理解できないものだったり…。

特に、非エンジニアの人たちに対して何かを説明すると、相手が途中で「あー、分かんないからもういいや」とさえぎられてしまった経験がある方もおられるでしょう。

一生懸命説明したけど、相手に理解してもらえなかった」という残念な経験がトラウマになっており、克服できずに今に至る…うなずく方も多いことでしょう。

「ま、エンジニアと非エンジニアは違う生きものだからしょうがないや」と諦めてしまう人もいます。ひどい場合には「エンジニア以外はバカでもできる仕事だから、放っておいていいよ」と部下に言ってしまう、とんでもないエンジニアのマネージャーもいたりします。こうなると末期症状ですね。

しかし、これはとてももったいないことです。エンジニアリングは人々の未来を作る仕事であり、コンピュータサイエンスは人類の可能性をさらに広げる素晴らしい学問です。

今までの世界の発展に、エンジニアリングやサイエンスは欠かせないものでしたし、これからもそれは変わらないと私は思っています。

エンジニアが自分の仕事や学んでいる内容をより広く人々に伝えることができれば、世界はもっと良くなるのではないかと思っています。

理解されれば仲間になってくれます。仲間がいれば、もっともっと大きなことができるようになります。

今回は、周りの人にみなさんのことをもっと知ってもらうために、それも自分の実績や能力をアピールするために必要なプレゼンスキルについて、一緒に考えていきたいと思います。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

そもそも何でみんなわかってくれないのか?

まず、「分かってくれない人たちの視点・脳内」について考えてみましょう。

私はもともと文系出身で、社会人になってからITに触れ始めたタイプの人間です。社会人になったのは1993年なので、実に26年前からITの世界で仕事をしています。

その当時、ITに関する情報を入手する環境は「本を読む」か「人に訊く」の二つが中心で、現在のように「Google先生に尋ねる」とか「Wikipediaを読む」なんてことはできませんでした。

で、そもそもITバックグラウンドがゼロの私が本を読み始めると、3行目くらいの専門用語ですでに脳はフリーズし、情報系の専門学校を出た同期に質問すると「あー、これも分からないんだ…」という憐憫の眼差しを向けられる日々でした。

なんで私は本や会話の内容がわからなかったのでしょう?もちろん前提知識の不足、というのもあるのですが、「どこまでの前提知識がないと理解できないのか」を知らなかったからではないかと思います。

知らない用語が出てきた時に、「この用語が分からない」のは当然なのですが、もう一歩踏み込むと「この用語を知るためには、どこをどう遡ればいいのかが分からない」のです。

「この言葉わからないな」と思って用語辞典を調べると、さらなる不可解な用語の洪水に流されてしまったり、「それどういう意味?」と相手に聞くと「えーっと…」と今度は相手が黙ってしまったり。そして、「あぁ、まただ。。。もういいや」と諦めの境地へとたどり着くわけです。

不明な用語を理解するためには、どこまで遡ればいいのか?
何を前提条件として持っていれば理解ができるのか?

それを瞬時に判断できないので、非エンジニアの人たちは戸惑うわけです。これが、20数年前に日々私の日常で発生していたことです。

これを書いている最中に、ちょっと示唆に富むSNSの投稿があったので紹介しましょう。最近GE社が「採用する全社員にプログラミング能力を義務付ける」というニュースが流れました。

これをSNSでシェアした人に対して、とあるエンジニアが残したコメントが「プログラミング技術といってもいろいろあるからね~」という一言だけでした。

まさにこのようなコメントが「エンジニアリングを知りたいと思っている人を一発KOする一言」です。(注:これを投稿した人を問題視しているのではなく、このコメントが非エンジニアに与える影響だけに着目していますのでお間違えなきよう)

非エンジニアの人たちは「そうか、GEに入るにはプログラミング技術が必要なんだ、それはどんなものなんだろう?」と思考するとしましょう。

それに対して「いろいろあるからね〜」と言われても、その「いろいろ」がわからず、そして「あーやっぱり自分にはわからない世界なんだな」と諦めてしまうという流れになるわけです。

大事なポイントは「自分が話をしている相手が聴くことを諦めてしまったら、それでおしまい」ということです。

話している相手が上司や取引先、面接官だと、自分のキャリアに大きなダメージとなって返ってきます。

「それは何?」と相手が訊いてきてくれればまだマシで、「わけ分からんことを並べるヤツだな」とネガティブな印象を勝手にもたれてしまっては、非常に損ですよね。では、相手がそのように「理解を諦める」というプロセスに陥らないようにするためにはどうすればいいのでしょうか?

次の章で考えたいと思います。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

分かってもらうために必要なこと

まず大前提として大事なのは「自分が効果的にプレゼンテーションすれば、相手の理解を引き出すことができる」と信じることです。

「あの人は分からず屋だからどうせやっても無駄だ」と思ってプレゼンすれば、何をどうしてどうやっても、理解を引き出すことはできません。(実際、そういう人は一定数人類に混じっているのも事実ですが…)

とはいえ、あくまで「自責で考える」のが大事です。他人を変えようとするよりも、自分のやり方を変える方がはるかに簡単ですからね。

さて、ではどうプレゼンテーションを構成していけばよいでしょうか。

まず大事なのは「話を聴いてくれた人が、理解して他の人にも教えられる状態にすること」と「分からなくてもいいので、とりあえず聞いておいてほしいこと」を明確に分けることです。

話す内容をすべて理解させようとするのは、至難の技ですし、相手がそれに付き合う確率は極めて低いと思われます。仮にそれが部下や後輩であってもそうです。

そこで必要となるのが「話す内容のプライオリティ付け」です。

今回のテーマは「自己アピール」なので、どうアピールすれば最も効果的なのかをイメージして、そこから逆算する形で構成していくのがよいでしょう。

そのためには、相手側の思考パターンを意識することが大事です。

ちょっとしたペルソナを作って考えてみましょう。

  • あなたは優れたデザイン技術を持ったWebアプリケーション開発者だとします。
  • Java、HTML/CSS、Ruby、C#を使った開発経験があり、かつPythonSwiftはちょっとさわって「これなら扱えるな」という手応えは持っています。
  • 過去には中堅SIベンダーの一員として勤務し、大手企業の業務用Webアプリケーションの構築に携わったことがあります。
  • ベンダー時代はプログラミング50%、画面デザイン30%、仕様策定20%程度の割合で仕事をしていました。
  • SI業務のヘルプとして入っていたフリーのプログラマの話を聴いているうちに、なんとなく「組織から抜け出したい」と思い始めます。
  • プロジェクトがひと段落した段階で退職。フリーランスとして活動開始。
  • 知人のつてでボチボチと開発の仕事は舞い込み、複数の言語が使えることや画面のデザイン経験があることなどが重宝されて、それなりに順調に働いています。
  • 自分のクライアントから「いま伸び盛りのITスタートアップ企業が、エンジニアを探している」ということで、その会社の社長と会話することになりました。
  • その会社はPC・モバイル向けにWebサービスを提供していますが、その社長にITバックグラウンドはなく、金融出身の文系男子です。
  • あなたはその会社が前から気になっており、ぜひ自分をしっかり売り込みたいと思っています。

さて、どうアピールすれば、「お、この人はできる開発者だな!」と思ってもらえるのでしょうか。

すぐに思いつくのは

  • 複数の開発言語を使えること
  • 大企業での開発経験があること
  • プログラミングだけではなくデザインや仕様策定に関する経験も持っていること

このあたりでしょうか。

とはいえ、上記のプロパティセットは、レベルの差はあるにせよ、Web開発者と言われる人なら大抵持っているものです。

また、自分の過去の実績をアピールするやり方は、スタートアップの社長がそこまで興味を持つことは少ないように思えます。

もちろん、開発に関する技術的優位性を熱く語っても、その優劣をはかる物差しの尺度がエンジニアと非エンジニア経営者では違うので、これまた外す可能性大。

ではどういうアプローチがよいでしょう。
ここは二つの観点を用意してみましょう。

  • 社長がどのような印象を持てばOKとするか
  • 社長が開発担当の役員にどう自分を伝えてもらうか

まず「社長がどのような印象を持てばOKとするか」ですが、ここはシンプルに「会社の成長・発展のためのエンジンとして即戦力になりうる人材である」というアピールが効果的でしょう。

そのためには、今持っている技術スキルに加え、新たにテクノロジーやツールに対して柔軟に対応する能力と意思があることを強調すれば効果的ですね。

私はJavaというスタンダードな言語に加え、スマホやタブレットに対応する新しい言語の取得もかなりの短期間で出来ます。なので、今後新しいテクノロジーが次々に登場してきたとしても、どこよりも早く事業に活かせるようにキャッチアップする自信があります

「Ruby」や「Swift」といった具体的なIT用語を出さなくても、スマホやタブレットといったより一般化された言葉を選んだ方が受け取りやすくなります。

そして、スタートアップはスピードが命なので「早く事業に活かせる」はキラーワードになりえます。

そして、「社長が開発担当の役員にどう自分を伝えてもらうか」については、経験とスキルに幅があり、かつ大企業での開発経験の具体的な活用方法をインプットします。

プログラミングだけではなく画面デザインの経験もあるので、事業拡張に伴ってマンパワーが必要となるタスクを幅広くカバーできます

大規模開発の経験で、既存のSIのやり方のいい面と非効率な面の両方を知っています。スタートアップならではのスピード感をさらに上げられるようにお手伝いしながら、参考になりそうな部分があれば適宜開発部隊にフィードバックしたいと思っています

ITバックグラウンドがない社長が開発部隊のトップにインプットするのは「どうやらあの人は役に立ちそうだよ」という情報だけで十分です。

さらにそこに、具体的な「事業拡張に対応できる」と「過去の経験に固執せず、柔軟に対応してくれそうだ」という二つの情報が加わることで、説得力が大きく増すわけです。

この連載でも何度か触れましたが、プレゼンテーションは「伝言ゲームを制すること」です。

エンジニアが自己アピールするときも、話す相手のその先にいる人たちにどう伝わるかをイメージすることが大事です。ぜひ試してみてください。

連載:澤円のプレゼン塾 記事一覧はこちら

著者プロフィール

澤 円(さわ まどか)氏

大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術
Twitter:@madoka510

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

PC_goodpoint_banner2

Pagetop