5月に開催された日本マイクロソフト最大の開発者向けカンファレンスである「de:code 2016」。
澤は登壇者たちのプレゼンテーションに対してレビューを行ってきました。今回はその具体的なレビューポイントや内容を皆さんにもお伝えします。
澤流プレゼンの眺め方
2016年5月23~24日の二日間、日本マイクロソフト最大の開発者向けカンファレンスである「de:code 2016」が開催されました。
▲今回のde:codeは、CEOのサティア・ナデラも登壇
このイベントでは、134のブレイクアウトセッションがありました。一日目は10部屋、二日目は15部屋のセッションルームが用意され、参加していただいた方々はどの部屋に行こうか相当頭を悩ませたことかと思います。
各部屋の収容人数は、数十人から数百人。いずれにせよ、「大人数相手のセッション」という共通項があります。
私も二日目に登壇者として参加したのですが、自分のセッション登壇までの時間は他のセッションを眺めて過ごしました。※自分のセッションが最終スロットだったので、たっぷりと見ることができました。
大体、ひとつのセッションを見る時間は10分程度。そこでフィードバックするための情報を仕入れます。
もちろん、全部聴くのが一番いいのですが、そうすると裏番組セッションを見ることができません。なので、短い時間で得られる情報に集中して、それぞれのセッションを聴くように心がけています。
今回は、「どのようにセッションを聴き、フィードバックに活かすか」というポイントを皆様に共有したいと思います。
【チェックポイント1:声の大きさ】
まずなによりも声の大きさ。コレはとても大事です。
なにせ大人数相手のセッション。声が届かなくては意味がありません。
当然、マイクは用意されてます。今回はデモの際に両手が使えるように、全員ピンマイクを身に着けてプレゼンテーションをしていました。
なので、大声を張り上げなくても声を届かせることはできるはずです。
にもかかわらず、声が通らない人というのは少なからず存在します。
そういう人たちは、音響担当泣かせでもあります。むやみにマイクの音量を上げれば、音声が割れてしまったり、下手するとハウリングしたりします。こうなってしまっては、聴衆は安心してプレゼンを聴くことができません。
声が聞こえにくい人には、いくつかのタイプがいます。
- 緊張のあまり声が震えてしまってうまく話せない
- 下を向きがちで、独り言のようなボソボソとしたしゃべり方になる
- 内容に自信がなかったり、理解が不足していたりで、声に「逃げ」の姿勢が見える
- 純粋に声のボリュームが小さい
こんなところでしょうか。
では、それぞれの人にイベント直後にかける言葉の例を4つ紹介します。
1.緊張のあまり声が震えてしまってうまく話せない人
「緊張してたね!でも全然気にしなくていですよ。デモはしっかりできてたし、参加していた人たちもうなずいてたりメモとったりしてたから。自分で思っているよりずっと上手くできてますよ!」
まずは自信を持ってもらうための声がけになります。
緊張することは悪いことではないですし、それをどうこうしようとする必要はないと考えています。なので、うまくいった点を認めてあげて、少しでも自信につながる材料を提供します。
2.下を向きがちで、独り言のようなボソボソとしたしゃべり方になる人
「かなり画面見てたの、気づいてた?内容はよかったけど、ちょっと聞き取りにくかったのが惜しいな~。次はビデオ撮って、姿勢をしっかり確認してみよう!」
自分がどういう姿勢なのかを意識しているかどうかを確認します。無意識に下を向いてしまうようなら、トレーニングによる修正が必要です。その事実を伝えて、次に生かすことになります。
3.内容に自信がなかったり、理解不足などで、声に「逃げ」の姿勢が見える
「もしかして、あんまり分かってなかったりする?話してみると、自分がどのくらい理解してるのか分かるよね~~。今後も関わる内容なら、その技術に詳しい人に聴いて、もっとたくさんネタを仕入れれば、次はばっちりだね!」
起きてしまったことは仕方がない(笑)。準備不足、理解不足でステージに上がったのは痛恨の極みではあるのですが、それをいたぶったところで何も解決しません。なので、今後の改善点が明らかになったということで納得してもらうことにします。
4.純粋に声のボリュームが小さい人
「内容はOKだし、デモもよかった!ということで、発声練習をしよう!それでトップも夢じゃない!」
声が小さいことだけが問題なのであれば、これはトレーニングで修正するしかありません。以前この連載でもしょうかいした「鼻腔共鳴」でなるべく声を響かせるような練習に付き合うことにします。
【チェックポイント2:立ち方】
ステージ上でのプレゼンテーションは、立ち方で本当に印象が変わります。de:codeのようなイベントでは、たくさんの人たちの視線が一斉に自分に向けられるので、心臓が強くない人はそれだけでもひるんでしまいがちです。
ついつい視線をそらして背中が丸くなったり、腰が引けたりする人が、かなりの割合で発生します。
この場合、何枚かスマートフォンで写真を撮って、あとで残酷な事実を突きつけるしかありません。(本番中に目があったら、「背中を伸ばそう!」と身振りで伝えることもあります)
演台があって体の一部が隠れたとしても、美しくない立ち方がプレゼンテーションに与えるネガティブな影響は、かなり大きくなります。
声の出し方のところでも書きましたが、画面をのぞき込んでしまうタイプの人は、背中が丸くなり声の質にも影響が出ます。また、顔にライトがうまく当たらなくなって、なんとなくホラーな雰囲気の表情が醸し出されるリスクもあります。
客席からの視線に負けず、背筋を伸ばして顔を前に向けて話すように、あとからアドバイスすることにします。
逆に、妙に反り返って話してしまう人もいます。これまた印象が悪いですし、客席の人たちとの一体感を出しにくくなります。顎が上がってしまうと、声のトーンも上ずりがちになり、聞き取りにくいプレゼンになりがちです。
これは普段から気を付けておかないとすぐにはできないことなので、セッションの後しばらくたってから(直後だとショックを受けるので)、証拠となる画像を見せるなり口頭で印象を伝えるなりして、修正を促します。
そして、もう一つ立ち方で印象付けに大きな影響を与えるのは、手の位置です。
これも以前にご紹介しましたが「ホームポジション」をあらかじめ設定しておかないと、どうしても手がブラブラしたり、意味のない動きになったりします。
そうすると、視覚的なノイズとなってしまい、聴いている人たちの集中力を阻害する要因になります。ということで、話した本人への質問は
「どこに手があったか覚えてる?」
となります。
私がこの指摘をするということは、たいてい手の動きが不可解な場合が多いので、その答えは大体「覚えていない」か「たぶんこの辺だったような…(=明確に記憶してない)」のいずれかです。
これでは、トップスピーカーにはなかなかなれません。どうせ目指すなら、指先まで意識が行き届かせながらのプレゼンテーションを目標にしてほしいものです。
【チェックポイント3:スライドの見え方】
大きな会場では、たいていの場合パソコンからプレゼンテーションツールを使ってスライドを表示してプレゼンを行います。全ての部屋にはプロジェクターで投影するためのスクリーンが設置され、大写しされたスライドをお見せしながらプレゼンテーションが展開されます。
そのスライドが見やすいのは絶対条件。そもそも、作る段階から常に意識していなくてはなりません。
とはいえ、会場の雰囲気や大きさは、情報として事前に得ていたとしても、実際に機器を接続して表示してみないことには分からないこともあります。
そのために、大型のイベントの場合には、前日もしくは当日の本番数時間前にリハーサルの時間を設定することがほとんどです。
そこで解像度をチェックしたり、色の映りを確認したりできます。また、フォントの大きさをみて、後ろからでも文字が読めるかどうかを体感することも可能です。
にもかかわらず、本番の時に私が見たスライドが、たいへんに残念すぎることが少なくないのが実情です。
残念要素は以下のパターンが多いように感じます。
- 字が小さい
- 字が多い
- 背景の色で字が見えにくい
これは、リハーサルの時に、ステージを降りて客席側から眺めて確認していなかった場合に起こりがちなことです。
ステージ上でスクリーンを振り向いてチェックするのと、客席の一番後ろまで行ってチェックするのとでは、まったく違う結果になります。
特に、「背景の色で字が見えにくい」は、本番の照明の状態などと合わせて確認しなくてはならない事柄です。
スライドを作っている最中に見ている色合いと、薄暗くしてスクリーンに映し出される色合いは、全く別物になってしまうことがしばしばあります。
よくあるのが、やや薄めの色合いの背景色に白文字を入れた場合などは、要注意です。
ステージ上で映すと、この色の組み合わせは字が隠れてしまうリスクがあります。せっかくリハーサルをやるのであれば、視覚的なエラーがスライドにないかどうかを確認するのも必要なアクションです。
ということで、フィードバックをするとすれば
「リハーサルの時、ちゃんと客席の一番後ろからスライドを見てみた?」
となります。
これもひとつの「顧客視点」です。
リハーサルの時に客席から見るという「仮想体験」を通じて、本番でのエラーをなくす努力をすることをお勧めします。
【チェックポイント4:楽しんでいるかどうか】
かなり主観的な感じがしますが、「本人が楽しんでいる」というのは非常に大事な要素です。もちろん、デビュー戦だったりまだ自信がなかったりすれば、そんな余裕はないかもしれません。
とはいえ、やっぱり楽しむという気持ちをどこかに持っていた方が、プレゼンが成功する確率はどんどん上がります。もし、本人が修行僧のごとき表情を浮かべながらプレゼンをやっていたとしたら、何らかの強いストレス要因があるはずです。
その原因となりそうなものを、客席からの目線で観察して探します。
スライドが頭に入っていないのか、デモに自信がないのか、客席からは見えないシステムトラブルと戦いながら話しているのか、緊張しすぎで前日徹夜してしまったのか…。
客席からできることはあくまで想像。ただ、「楽しそうではないな」と思ったのなら、後でそれを相手に伝えて、真実を明かすお手伝いをします。
次に楽しんでステージに立てるように手伝うのも、レビュワーの大事な仕事。楽しめなかった要因は十人十色なので、その理由ごとにカスタムメイドのアドバイスを後からすることになります。
次は最高の気分でプレゼンができるように。
お知らせ
de:code 2016セッションはMicrosoftの動画コミュニティサイト「Channel 9」で公開中です。
☆公開中のde:code 2016セッション一覧はこちらから!
著者プロフィール
澤 円(さわ まどか)氏
大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術」
Twitter:@madoka510
※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。