理性と論理だけでは人は動かない!リーダーに必要とされる「4つの感情能力」とは

 仕事中に感情的になること。それはビジネスシーンにおいてマイナス要因として考えられてきました。しかし、現実はどうでしょう。優秀といわれていたプレイヤーが、リーダーに抜擢されて人を管理する立場になったとき、最も頭を悩ませることのひとつが、チーム内の感情のしがらみによるトラブルです。

 論理的になることや感情に囚われないことが社会人の常識とされてきた反面、物事を考え、判断する際、感情を司る脳の中枢は常に反応し続けていると神経科学者たちは指摘します。正しい判断を下し、最善の行動をとり、変化を乗り越え、成功するためには感情は絶対不可欠。けれど、学校教育では感情の処理の仕方についてほぼ学ばないため、社会に出てからとまどい、心身に影響を及ぼす人があとを絶ちません。

 対立や変化に正面から向き合い、うまく対処するためには、感情について正しく把握する必要があります。今回は 複雑な感情を理解するための「感情の青写真」と「4つの感情能力」について解説します。

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感情の詳しい手引き=「感情の青写真」とは

 一見すると厄介で複雑に思える感情。しかしながら、感情の配線図、つまり感情の詳しい手引きがあれば、部下や同僚、自分自身の感情をより深く理解し、より良い方向へと導くことができます。

 1997年、ピーター・サロベイとジョン・D・メイヤーというふたりの心理学研究者が、感情の重要性と一般的な人の感情の理解レベルとのギャップを埋めるため、「感情の青写真」を発表しました。ふたりは「人の態度や物言いなどのあらゆる言動は、その時々における自分自身の感情の状態に大きく左右されている。したがって、このことを意識してうまく利用することができるのは能力であり、適切な訓練によって、その発揮能力を高めることができる」という概念のもと、この感情の配線図は生まれました。この手法を使うことで「感情は理性的な思考の邪魔をするというよりもむしろ、思考を方向づける役割を果たす」とふたりは結論づけています。

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各々の言外のニーズに応えるため「感情の青写真」を活用する

 なぜ、こうした「感情の青写真」の活用が、リーダーやマネージャーに必要とされるのでしょう。それは理性的で、論理的な人物ほど、感情の側面から見た分析を怠りがちで、結果、チームメンバーのモチベーションを低下させてしまう傾向があると考えられていたからでした。

 たとえば本社からの移転。その「状況」に対して抱く感情は人それぞれ。自宅からの通勤時間が短縮される、気分が一新されるなど、その現実をメリットとして捉える社員もいれば、会社本体から切り離されたと感じ、士気を落としてしまう社員もいます。士気を落としてしまっている人がいるのなら、当然フォローが必要。

 そうした各々の言外のニーズや疑問に応えられているか。それを分析し、解決策を見出すためのツールとして、「感情の青写真」への関心は広まっていきました。

<感情の青写真>

状況…時、場所、かかわっている人など具体的な状況について説明する

識別…各人の感情や気持ちを表にまとめる

利用…各人の感情の方向、どの感情に注意を向けたかを説明する

理解…なぜ、その人たちはこのように感じているのか?次にどう感じるか、何が起こるか?など理解を深める

調整・管理…感情や気持ちを無視すべきか、受け入れるべきか?望ましい選択肢は何か?などコントロールを行う

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職場において必要な4つの感情能力

 最初の論文発表以来、「感情の青写真」はさらに研究され、のちに高度でありながら、面白いほど簡単な「EQ能力モデル」と名づけらえた能力モデルが開発されました。同モデルは、相互に関連しあう4つの異なる能力で構成されています。「感情の識別」、「感情の利用」、「感情の理解」、「感情の調整・管理」を開発することで、個人が感情をうまく使いこなすことができます。

1.感情の識別:自分自身を含めて、関係者がどのように感じているかを「識別」する能力

 人とのコミュニケーションを効果的に図るには、人が感じている感情と自分の感情を正確に認識する必要があります。「感情の識別」能力を高めるには、「いま、どんな感情ですか」と自分で自分に問いかける習慣をつけ、感情を瞬時に質問に答えられるくらい平静な状態に移行させることが有効です。また、感情を表現する言葉をできるだけたくさん知ることで、自分や他者の気持ちをより正確に認識し、表現することが可能になります。

2.感情の利用:感情を「利用」し、問題解決や課題達成に必要な論理的思考を導きだす能力

 問題解決や課題達成のためには、その行動に最もふさわしい感情の状態に自ら持っていく必要があります。この能力を高めるには、確たる目標を持ち自分をモチベートすることと、物事に対する見方を変える訓練をすることが必要です。たとえば、新しい仕事を与えられ、「負担だ」と感じたら、「その仕事を行うことで誰が喜ぶか」を思い浮かべてみましょう。物事の見方を変えることで、その行動をするのにふさわしい感情が生まれ、感情を利用することが可能となります。

3 .感情の理解:ことが進んでいくに連れて気持ちがどのように変化し、進展するかを「理解」する能力

 感情は成り行き任せにおきるのではありません。そこに潜在的な原因があり、一定の規則に従って変化します。ゆえに、完全ではありませんが 感情を理解することは可能です。

 そもそも感情とは、変化や出来事に関する反応です。変化に遭遇すると、不安や恐怖と同時に期待を抱きます。また感情は行動を導き出します。好きな人には近づきたくなりますが、嫌いな人は遠ざけたくなります。また感情は相反するもの。結婚や転職など、人生の大きな転機には、喜びや希望と同時に不安や心配がつきまとうものです。こうした感情の持つ特性を知ることが「感情の理解」です。

4.感情の調整・管理:他者の感情に適切にアプローチするために、自分の感情を調整したり、コントロールしたりする能力

 自分や他者の感情を識別し、行動を起こすのにふさわしい気持ちに自分をモチベートし、その気持ちを理解することで未来を予測したら、最後に行うのは、感情の調整や管理です。

 優れた感情の調整・管理能力のある人は、情熱的ではあるものの、感情のセルフコントロールがうまく、情緒が安定しています。また、強い気持ちを経験している時に明確な思考力が働き、こころと頭の両方を使って意思決定ができます。そうした人は、気分というものがはっきりしない理由で起こることがわかっており、感情を行動で表現することはあっても、気分を行動で表現することはしません。望ましい結果は何か。どのような行動をとることが可能かを考え、最終的な意思決定をするのです。

 

 人を真に知的に管理するためには、単に理性的で合理主義的なアプローチだけでは失敗します。自分のアプローチがどのように相手に受け止められているかを正しく判断し、それに応じて適切に対応していけるよう、感情能力を 高めていきたいものですね。

文=山葵夕子

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