「必然性」「納得感」を与えるビジネスプレゼンとは?──澤円のプレゼン塾(その2)

プレゼンテーションを行うときに必要な情報とは何だと思いますか?
技術プレゼンのエキスパート澤円氏による「プレゼン塾」第2回は、プレゼンテーションにおいて必要な「必然性」「納得感」について、澤氏の実演をもとに解説していきます。

澤円氏澤 円(さわ まどか)氏

プレゼンテーションに必要な「必然性」「納得感」

製品やサービスについて語りかけるとき、相手が求めている情報は、実は「正確・詳細な情報ではない」と私は考えています。もちろん正確な情報を提供するのも大事な役割ですが、相手は知識を得るためにあなたのプレゼンテーションを聴くわけではありません。聴衆にとっては「自分たちのビジネスに役に立つかどうか」が一番大事なポイントです。そのポイントにいかにヒットさせるかがプレゼンテーションの肝となります。

そこで必要なのは「必然性」と「納得感」です。まず「必然性」について考えてみましょう。「必然性」とはすなわち「それ以外の選択肢はあり得ない」と相手が確信することです。あなたのプレゼンテーションを聴くことで、「この人の言うことを受け入れなくてはならない、そうしなければ自分は大きな損失を被る」と思ってもらえれば、これは大成功なわけですね。

「必然性」はどうやって得られるか。これは聴衆の視点で考えるしかありません。自分の手元だけを見ていても、「必然性」が生まれてくることはありません。聴衆が望んでいる答えを徹底的に調べ、熟考し、仮定し、検証する。そこに時間をかけることができれば、プレゼンテーションの成功確率は飛躍的に高まります。

自分が説明しようとしている情報が相手のニーズとどのようにマッチするのか、今ある課題にどのように応えられるのか。その製品やサービスが「世の中で優れている」ことではなく「相手にとってメリットがある」ことをうまくアピールできれば、あなたが選ばれるわけです。

「自分の都合で語るな、相手の都合で語れ」が、「必然性」をアピールするための必須条件の一つであるといえます。

次は「納得感」です。「お前の言うことは分かった。でも、そうは言ってもね…」という状況は、「納得感」が得られていない証拠ですね。では、相手に納得してもらうにはどうすればいいか。それは前述の「必然性」からさらに詳細な情報を抽出して、データ化・具現化することだと考えます。

事例の紹介なども効果的です。「必然性」を伝えるのは、聴衆の状況を正しく理解していることを相手に知ってもらうためのプロセスであり、「納得感」を得てもらうのは、聴衆がはら落ちして自発的にプレゼンテーションの内容を踏まえて行動したくなるようにするプロセスです。

「納得感」を得た人は、あなたのプレゼンテーションの内容を代行して周りに伝えてくれる役割も担ってくれます。あなたのプレゼンテーションを起点に、情報が広がっていくのです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「必然性」「納得感」を与えるプレゼンテーションの例

「必然性」と「納得感」を与えるプレゼンテーションの一例を挙げてみましょう。マイクロソフトの製品の一つに「Skype for Business」というものがあります。このソフトウェアは、パソコンやスマートフォンを使ってリアルタイムなコミュニケーションを実現する大変便利なツールです。主な機能としては「在席情報表示」「テキストチャット」「音声通話」「テレビ会議」「アプリケーション共有」などです。

単にそれぞれの機能を説明するのであれば、

  • 「緑・黄色・赤の表示で、ユーザーのステータスが分かります」
  • 「文字でのチャットでコミュニケーションできます」
  • 「パソコンやスマートフォンで音声通話できます」
  • 「パソコンやスマートフォンのカメラを使って顔を見ながら会話できます」
  • 「ネットワーク経由でアプリケーションの共有ができます」

こんなかんじでしょうか。でも、この説明だけを聞いて「よし!自社内にぜひ導入しよう!」という気持ちになりますか?

この程度の内容を伝えるプレゼンテーションでは、おそらく聴衆は「Skype for Business」という製品の持つ機能を知っただけで、特に購買意欲がわくとは思えません。「必然性」も「納得感」もここには存在していないのです。

「必然性」をアピールする

では、いくつかの機能に「必然性」を与える作業を進めましょう。

<課題の提示>
「ビジネスのメールを送った時、返信がくるまでの平均時間は約4時間と言われています。これは今のビジネスのスピード感からすれば、遅いと言わざるを得ない時間です。かといって、ケータイに電話をすると、相手の耳と口を奪ってしまうことになるので、相手のビジネスの阻害要因になるリスクがあります」

<解決手段の提示>
「そこで有効なのがSkype for Businessの在席情報表示の機能です。この機能は、相手がいま連絡を取れる状態かどうかを知らせてくれます。ユーザーは自分で在席情報をアップデートしなくても、Skype for Businessが自動的に予定表の情報と照らし合わせて表示内容を変えてくれます。緑の表示であれば、連絡可能な状態であるので、電話をしてもOK。赤ならメールで用件だけ先に送っておいて、あとからテキストチャットや電話でフォローするなど、最適な連絡手段を選ぶことになります」

<導入後のメリット提示>
「Skype for Businessのアプリケーション共有機能は、ビジネス判断のために開かれていた会議のあり方を、根本的に進化させます。ネットワークさえつながっていれば、遠隔地の人とも同じ画面を見ながら会話できるため、会議出席のためのスケジュール調整に費やされた時間や、資料印刷のためのコストが大幅に削減されます」

上記のプレゼンは、Skype for Businessを使わなくては得られないメリットを伝えることで、導入すべき理由を理解してもらうために必要な内容を含んでいます。すなわち「Skype for Businessを使う必然性」を語ったわけです。

「納得感」を持ってもらう

次に納得感を持ってもらうためのステップに入ります。

<事例紹介_コストカット>
「Skype for Businessを導入してネットワーク経由でのミーティングが増えた結果、ある企業では12%の出張費削減に成功しました」

<事例紹介_売上貢献>
「また、営業の商談成約率は47%アップし、売上金額は13%のアップとなっています」

<事例紹介_満足度>
「さらに社員向けのアンケートを実施したところ、導入前に比べてワークライフバランスが向上したと感じる社員が12%増えていることが分かりました」

こういったデータが、相手の「納得感」につながり、製品の魅力がきちんと伝わります。このようなデータは相手の社内でも簡単に共有され、導入後の効果測定のための基礎データとしても活用できます。

いかがでしょう。「必然性」と「納得感」を加えたプレゼンテーションは、単なる機能の説明を並べるだけのプレゼンテーションとは違うと思いませんか?

ぜひ、皆さんのプレゼンテーションを「必然性」と「納得感」に満ちたものにバージョンアップしてみてください。

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著者プロフィール

澤 円(さわ まどか)氏

大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術
Twitter:@madoka510

執筆:澤円 撮影:佐藤聡・栗原克己 編集:馬場美由紀

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