『ピープルウェア』は、トム・デマルコ、ティモシー・リスターが記した本で、1987年に初版が出版されて以来、多くのエンジニアに親しまれてきた名著です。ソフトウェア開発における「人」の重要性を説くこの本をもとに、エンジニアのマネジメントにおける重要なポイント4つをまとめることができます。
目次
ポイント1.“ヤル気”のある人を選び、“ヤル気”が持続する仕組みを作れ
「ピープルウェア」には、「ヤル気こそプロジェクト成功の鍵」というサブタイトルがつけられています。この本は「プロジェクトの失敗は技術的要因や政治的要因ではなく『人』に起因するところが多い」という前提で、いかに人を活用し、人間関係の円滑化を図り、人が構成する「チーム」を機能させていくかという内容が書かれています。
マネージャーには「ヤル気がある人」を選んでチームを構成し、「ヤル気を維持させる」ために工夫を凝らすことで、プロジェクトを成功に導くことが求められるのです。
ポイント2.「0から1を生み出す」人ならではの仕事を理解せよ
機械と人間の決定的な違いとして「0から1を生み出せるかどうか」ということがあります。機械は「1の作業を、自動的に100、200と繰り返す」ためには優れた存在です。逆に「0から1を生み出す」には、人間のひらめき・アイディア・経験・勘が必要です。
ソフトウェア開発は「人間が考える」という作業があってはじめて成り立つ業務です。そのことについて「ピープルウェア」では「『チーズバーガー生産販売管理哲学』とは逆のやり方を、ソフトウェア開発においては導入しなければならない」と書かれています。
たとえば「決めたやり方を手早くやれ」「万事、マニュアルに従え」「新しいことを試みてはいけない」という方法は、チーズバーガーをできるだけ早く、多く生み出すためには理にかなった方法かもしれません。しかし、ソフトウェア開発では逆に、試行錯誤を積極的に認め、エラーを大歓迎するという考えでマネジメントを行わなければなりません。
ポイント3.プログラマに最適な環境づくりにも気を配れ
「ピープルウェア」の「第Ⅱ部 オフィス環境と生産性」の章は、騒音や雑音の多い職場ではプログラマのミスが多発することを指摘しています。また、各章において、部下に長時間の残業を強いた結果、生産性が落ちる可能性や、仕事に嫌気がさして退職してしまう部下が多くなることなどのリスクを指摘しています。
日本でも「労働安全衛生法」という法律が注目を集めるようになり、労働災害にまつわる労使間のトラブルが訴訟に発展するケースも増えているため、マネージャーとしてはこの法律について知識を得ておかなければなりません。また、厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を発表しています。この中の「ラインによるケアとしての取組み内容」は、マネージャーにとって部下の健康管理・維持などに役立つ情報が記されているので、一読しておくことをお勧めします。
ポイント4.“チームブランディング”によって「結束力」を高めよ
チームでソフトウェア開発に取り組む体制が、現代では当たり前のものとなっていますが、そもそも「チーム」という言葉をなんとなく使っている現状に「ピープルウェア」は警鐘を鳴らしています。ただ複数のメンバーが集まっていればチームができるのではなく、良いチームになるには「結束力」が必要なのです。
結束力のあるチームを作り、まとめていく手法のことが「チームビルディング」と呼ばれるようになり、現代ではマネージャーに求められる能力の1つとされています。メンバー間のコミュニケーションを活性化するために、かつて日本では「飲み会を開催し、打ち解けた会話ができるようにする」という手法(飲みニケーション)が盛んでした。しかし、飲酒運転の厳罰化や、アフターファイブの過ごし方の多様化などが進んでいる現代では、ランチタイムを活用してのコミュニケーション活性化など、その手法も変化してきています。
「ピープルウェア」は、ソフトウェア開発で最も重要な位置を占めるのは「人」であることを強調しています。メンバー1人1人は、大切にされてこそ「チームを大切にしよう」「品質の高いソフトウェア開発を成し遂げよう」という思いを抱くことでしょう。だからこそ、マネージャーには「人を大切にする」「人がいてこそチームが成り立ち、高い業績を上げられる」という視点が求められるのです。
文:河野富有