持ちたくないものの一つ:天然キャラの部下
女性からは「天然なんているわけない」と、よく聞きますが、間違いなく、天然キャラは存在します。
合コンなどで「私って天然だから」という女性は偽物。偽物は、可愛く見えるように天然っぽいボケ言動をしたりします。
これに対し、本物は、何のメリットもないところで、不可解な言動をします。 誰が見ても、何のトクもしないであろうところで、ボケるのが本物です。
たとえば、
・左右の靴が違う(もちろん他人の靴を間違えて履いて帰ることもある)
・トイレを流し忘れる
・壁にぶつかる
などの言動です。
カレーナンの女
ある会社に1人の女性Nさんが入社しました。
上司は、歓迎会のランチを企画し、Nさんに好きな食べ物や行きたい店を聞きました。
N「あのインドカレー屋さんに行ってみたいです」
Nさんの希望もあり、そのインドカレー屋に部署の数名でランチに行きました。
インド人っぽい店員(たぶん別の国)がメニューを見せて説明します。
「ランチのセットは、カレーをここから1種類、ナンかライスをここから1種類選んでクダサイ」
説明を聞いたNさんが質問しました。
N 「ランチセットじゃなくて単品でも大丈夫ですか?」
店員「大丈夫デス」
N 「じゃあ、ナンひとつ」
店員「カレーはどれにシマスカ?」
N 「カレーはいらないです。ナンひとつ」
店員「???カレーはイラナイ?」
N 「ええ、ナンだけで」
上司「Nさん、みんなはランチセットでカレーを頼むけど、頼まなくていいの?一応、君の歓迎会なんだけど・・・」
N 「私、カレー嫌いなんです」
「ナンでカレー屋に来たがった!?」 と、全員で同時にツッコミを入れたことは言うまでもありません。
彼女の言動には、「うわー、可愛いな。守ってあげたい」とか「癒される」という要素は全くなく、ただただ困惑させられます。 ナンだけで栄養は大丈夫なのでしょうか。
これが本物です。
このような天然キャラを部下に持ってしまったときは、注意が必要です。 天然と言われるくらいですから、どこかにズレがあります。
天然部下に「やってはいけない!」
天然の部下を持った際に、絶対にやってはいけないことを紹介します。
1 丸投げ
「仕事は部下に任せよう!」と巷では叫ばれますが、天然部下に任せてはいけません。 「プレゼン資料をまとめておいて」とざっくり指示しようものなら、「プレゼントの候補一覧」が出てきたりします(いや、冗談じゃなく)。
指示した仕事は途中経過もチェックする必要があります。
2 「わかりました」の笑顔を信じない
天然部下は「わかりました」とニッコリ言うことが多いです。 そんな笑顔を見たアナタは、「わかったって言ってたし、大丈夫だろう」と思い込んでしまいます。
しかし、アナタの「わかった」と部下の「わかった」は、同じ日本語か?と感じるくらい違います。
指示「金曜までにA社に、B・C・D社の3社分のデータを送らないといけないから、3社からデータを取り寄せて、まとめておいてくれる?」
天然脳内「金曜(・・・週末・・・飲み会。フフフ。) までにA社に、B・C・D社の3社分のデータを送らないといけないから、3社からデータを取り寄せて、まとめておいてくれる?」
→「えっと、金曜までに、A社からデータを取り寄せてまとめる」
→「わかりました」(ニッコリ)
天然部下の脳内では、特定のキーワードに反応して妄想が始まることがあります。 文脈の中の一部の言葉だけを取り上げて「わかった」と言ってしまうのです。
笑顔も、「理解」の笑顔というより、妄想内の楽しいことに対する笑顔です。
3 略語で伝える
天然部下は理解していなくても、「わかった」と言ってしまう傾向がありますので、専門用語、カタカナ語、略語を使ったやりとりは危険です。
ミーティング=MTGくらいなら分かるだろうと思い、
「来週7日14時にMTGよろしく」というメールを送ろうものなら、
天然脳内「MTG?三菱東京UFJ銀行の略?14時に銀行に行くってことか」
→「かしこまりました」 となります。
天然部下を持ったら
このように天然部下と仕事するのはめんどくさいです。
マニュアルも読まないし、読んでも誤読します。 細かく進捗確認をしなければならず、仕事の管理に手間がかかります。
ただ、天然キャラは、ときに大化けします。
左脳思考では辿り着けないアイデアを出してくることがあります。
偉大な人物の言動を見ると、「この人、天然?」とよく感じます。
普通じゃないから辿り着ける境地なのでしょう。
たとえば、スティーブ・ジョブズ。
iPhone用にゴリラガラスという強いガラスを導入する際のやりとりです。 取引先のウィークス氏から魅力的な説明を受けたジョブズは、6カ月でできるだけたくさんのガラスを作るよう頼みます。 これに対し、ウィークスは難色を示します。
「心配はいらない」がジョブズの答えだった。
(中略)
ウィークスをじっと見つめる。
「できる。君ならできる。やる気を出してがんばれ。君ならできる」
(『スティーブ・ジョブズ Ⅱ』ウォルター・アイザックソン/著より)
なに、この会話。
ジョブズさん、「作れないんですよ」ってセリフ聞いてました?
全く話が噛み合っていません。話を聞かないにも程があります。
『スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ』を通読すると、至る所に天然キャラの言動が見えます。 どう考えても、彼は天然キャラだったと思いますが、偉大な発明品を残し、歴史に名を刻みました。
天然部下を持ち、めんどくさいと思っているアナタ。その部下は、大化けするかもしれませんので、粗雑に扱いすぎないよう気をつけてください。
では、このような天然キャラは、どのようにさばけば良いのでしょうか。 そのヒントは、スティーブ・ジョブズの近くにいた人物の行動から見つかりました。
選択肢を3つ準備して、最後に自分のいち押しを見せる。ファデルは最初のふたつのダミーのドローイングを描き、本命の発泡スチロールの模型を大きな木製ボウルの中に隠して4階にある役員用会議室の長テーブルの上に置いていた。
(『ジョナサン・アイブ』リーアンダー・ケイニ― /著より)
アップル社の人たちが、いかにジョブズに気を使っていたかが分かるエピソードです。
彼らは、ジョブズの天然キャラの言動にもパターンがあることを見出し、うまく対処し、ヒット作品を世に出しました。
天然キャラの言動は、私たちからすれば想定外のものですが、彼らなりのパターンがあるのです。
カレーナンの女、再び
先ほど紹介した「カレーナンの女N」にもパターンがありました。
後日談を紹介します。
上司「Nさん、好きなお酒はあるの?」
N「焼酎が好きです」
というわけで、焼酎が豊富なお店で飲み会を開きました。芋焼酎や麦焼酎のメニューを渡すものの、Nさんの反応はイマイチです。
N「私、しそ焼酎しか飲まないんです」
「焼酎が好きです」発言は、しそ焼酎ピンポイントの発言でした。
ストライクゾーン狭すぎです。
彼女は、しそ焼酎だけを5杯ほど注文していました。
もう一つ。
上司「Nさん、カレー以外に嫌いな食べ物あるの?」
N「うーん、嫌いなものですか?特にないですね」
上司は焼き鳥の盛り合わせを注文。
Nさんにも取り分けようとすると、
N「あ、私、肉は食べないんです」
上司「えー、さっき嫌いなものないって言ってなかった?」
N「うーん、思いつきませんでした」
肉が嫌いって、飲み会で頼めるメニューの幅が半分くらいになります。 それでも思いつかない。
好き嫌いというより、「食べ物」の定義から外れているわけです。
飲食のやりとりだけでも、徐々にNさんの思考パターンが見えてきたのではないでしょうか。
「焼酎」をもっと具体化したり、「食べ物」をもっと広げれば、コミュニケーションが成り立ちそうです。 そう、天然にもパターンはあるのです。 それぞれの天然キャラのパターンを読めば、仕事もうまく進むはずです。
想定外の反応をする天然ちゃんをさばく対応方法5つ
そこで、ありがちな天然キャラの主要パターンと対応方法を紹介します。
1 「いや、それどういう意味?」
・対象:横文字を使いたがる天然
天然キャラに対して、略語を使ってはいけないとお伝えしました。
逆に、天然キャラが発した略語、専門用語、カタカナ言葉を真に受けてはいけません。
あなたが理解していない言葉はもちろん、天然キャラが「このレイヤーではもっとバッファを」などと、カタカナ用語をそれらしく使い始めたら、どういう意味で使っているのか確認しましょう。
勘違いして使っているか、脳と口が分離している可能性大です。
2 「どんな事実があったの?」
・対象:うわさ好き天然
天然キャラは、論理が飛躍することが多いです。キーワードや結論に飛びついてしまう傾向があります。
「田中がチームを抜けたがっている」という話を聞いたら、そういうものだと思い込んでしまいます。実際に田中さんからの話も聞いていないのに、憶測で断定的に話を広げてしまいます。
天然キャラから憶測の発言をされたら、実際には田中さんが何と言ったのか、根拠となる事実を確認するようにしましょう。
3 「ハッキリ言うぞ」
・対象:ドヤ顔の天然
どこをどうしたらそんな自信が出てくるのか、全く理解できないレベルの仕事なのに、「自信作です!」と企画書を渡してくる部下がいます。
そういう企画書を見て絶句しているとマズイ。
天然キャラは「言葉にできないほど感動している!」とポジティブな勘違いをしてしまうのです。 彼らに「コメントできない心理を察してくれ」というのは無理があります。
オブラートに包んで指摘すると、都合良く解釈してしまいます。
ハッキリとフィードバックをしないと、今後も振り回されます。
時にはオブラートを外して伝えることも必要です。
4 「それは理由にならない」
・対象:天然の言い訳
「天然」と呼ばれるだけあって、彼らの価値観は常識では測れません。 ミスをしたときの言い訳に、トンデモない価値観を前提にしているものがあるので、ちゃんと指摘しておきましょう。
たとえば、新人の部下が取引先とのやりとりで、ウソをついて問題になったケースです。
それを指摘すると「新人なんで、わからなかったんです」と言い訳してきます。
いや、ベテランでも新人でもウソはダメでしょう。
「新人」というのは、論理的な言い訳になっていません。
彼らは、そのような理由になっていない言い訳をしてきます。その際、彼らの「その場しのぎのウソは許される」等のズレた価値観が見えることがあります。
価値観がズレていると気づいたら、基本的な道徳から伝えなければならないのです。
5 「代わって」
・対象:パニック中の天然
天然キャラは、ちょっとしたことでも混乱しやすいです。
落ち着いている状態でもおかしな言動をしている人が、混乱したら何を言っているのか理解できるわけがありません。 そんなときは、天然キャラの言葉を翻訳してもらいましょう。
天然にもパターンはあります。彼らとよく話している同僚、過去の上司など、パターンを知っていそうな人から話を聞いた方が早いです。
まとめ
以上、天然キャラのさばき方をお伝えしてきました。 天然キャラの部下を持つと、めんどうですが、時に「自分って、こんなにちっぽけだったんだ」「カレーが嫌いでもインドカレー屋に来て良いんだ」と気づかされます。 天然キャラに振り回されている方は、自分の視野を広げてくれる試練だと思って楽しんでみてください。
P.S.
最後の5つの対応方法は、書籍『めんどうな人をサラリとかわしテキトーにつき合う55の方法』で取り上げています。詳しく知りたい人はチェックしてみてくださいね。
著者:石井琢磨
『めんどうな人をサラリとかわしテキトーにつき合う55の方法』著者。弁護士。幼少時から家族が次々と壺を買わされるという、ダマされ環境で育つ。偏差値35から中央大学法学部に合格。在学中に司法試験一発合格、消費者事件を中心に活動中。
ブログ「相模川の弁護士55」
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