管理職になってしばらく経った頃、やろうとしていることがことごとく上手くいかず、「自分の力ではこれ以上どうすることもできない」と行き詰って悩んだことがありました。
その当時、一通り私の愚痴を聞いてくれた先輩が「これを読んでみれば」と、何も言わずに貸してくれたのが、ベストセラーになっていた「鏡の法則」(野口嘉則/総合法令出版)です。実話のストーリー仕立てで綴られているこの本で気づかされたのは、究極的にはたった一つ、「自分が変われば周りも変わる」ということ。実際にそこから自分の考え方、ものの見方を変えてみたら、いろいろなことが前に進み始めて驚きました。
こういった「視点を変える手法」はかなり古くからあり、最近では脳科学的なアプローチや心理学的なアプローチでもさまざまな実証がなされています。例えば、今回紹介する新渡戸稲造氏の言葉を編集した「逆境を越えてゆく者へ 爪先立ちで明日を考える」(実業之日本社)も、そんな著書のひとつ。
新渡戸さんと言えば旧五千円札の人で、「武士道」があまりにも有名です。この本は約100年前に書かれた氏の著作「修養」(明治44・1911年出版)、「自警」(大正5・1916年出版)の2つから、主に「苦難の時をいかに生きるか」をテーマに現代語訳し、現代向けに編纂されています。行き詰っている人の視点を変えるように、筋道を立てて、状況を客観的に説明。以下のように対策を一つひとつゆっくりと教えています。
■逆境にある者が陥りやすい危険7つ
「逆境にある」と感じると、下記に挙げたような気持ちに陥りやすく、その気持ちがより一層、その後の自分を生きにくくするきっかけとなります。そのことに気づかないと、状況が悪化してしまいがちですが、渦中の本人は気づけないことが多いのです。
・ヤケを起こしやすい
・他人の境遇を羨みやすい
・他人を怨みやすい
・二種類のやり方で天を怨む
a.こんなことになったのは天のせいだからすべて敵である
b.どうせこの世はつまらないものだから世間から離れよう
・同情心を失いがち
・心に傷を残しやすい
■逆境を「精神を鍛える場」とする方法5つ
「何をやってもうまくいかない」「自分にはもう進む道がない」と行き詰まってしまっても、その状況がプラスに働くことを説明します。人は将来に希望があれば困難に耐えられる力を持っているので、これが理解できれば、そもそも苦しいと思う気持ちが半減します。
・同じ境遇の人に対し、思いやりを知ることができる
・他人の欠点を許す寛容さを身に付ける
・不幸の中に一条の光を見い出し、感謝を感じることができる
・自分や他人の本性を知る機会とする
・他人に頼ることの愚かさを悟り、自分の判断を鍛えることができる
■順境(物事が全て上手くいっている境遇)にいると感じる時に注意すること5つ
「上手くいっている」と思っている人には、その状況を長く続けるためには努力も必要だということを伝えています。長い目で見て、目標のために自分をコントロールすることの大切さを説いています。
・傲慢になりやすい
・怠けやすい
・恩を忘れやすい
・不平不満を言い出しやすい
・調子に乗る
いつの時代も人の悩みやその解決法は変わらないものだなぁと思う一方、先人の知恵は、それぞれが学び続けないと継承できないものなのだと実感します。この本を「分かる、分かる」とうなずきながら読む人はそれなりの紆余曲折の元で気づいている人だと思うので、もしも悩んでいる人がいたら、「余計なことを何も言わずに」こういった本を差し出せるような人でありたいですね。
参考書籍:「逆境を越えてゆく者へ 爪先立ちで明日を考える」新渡戸稲造/実業之日本社
文:明灯尋世
とある中小企業で日々、上下に挟まれて突破口を探すアラフォー女局長。知識は、行動に移してこそ身につく。組織の中でも自由であれ。家族は姑、夫、犬一匹。