中間管理職にとって、社外での打ち合わせは会社のブランドを背負っているようなもの。そのため、時に「できない」とは言えないな…という場面に遭遇します。
笑顔で「承知しました」と答えながらも、頭の中では(やっべー! これそんな簡単な問題じゃないぞ。あそこに話を通して、あれを準備して…このタイミングで、本当にできるのかな…?)とパニックを起こし、気づけばやらないわけにはいかない状況に陥っていることもしばしば…。
ただし、具体的にどうするかは、「帰り道で」、後で考えればいい。それに、会社に帰れば、相談できる仲間も上司もいる。ここで「できる」と答えなければ、そのチャンスは他に持っていかれるのだ、そんなことさせてたまるか!――そんな崖っぷち感を常に抱えながら、仕事をしています。
さて、そんな経験があるせいでしょうか。イギリスの世界的な「庭」の祭典「チェルシーフラワーショー」で、日本人として初めて、かつ、5度ものゴールドメダルを獲得している石原和幸さんの、仕事の流儀を描いた『まず「できます」と言え。やり方は帰り道に考えろ。』(KADOKAWA中経出版)という本のタイトルにしびれました。無名の庭師だった彼は、前に進むための出口を探した結果、「世界に挑戦するしかなかった」のだそうです。とはいえ、自分でその結論を出した時に、果たして実行なんてできるものなのでしょうか…。
彼は職人であり、経営者でもあります。その熱い言葉の数々には、「ビジネスとは何か」のエッセンスが凝縮されています。不安を吹き飛ばし、一歩踏み出す勇気を与えてくれるエッセンス3つを同書の中からご紹介しましょう。
■「できます」と答え、やり方は帰り道で考える
仕事は、お客様に頼まれなければ生まれません。だから、まずは頼んでもらうこと。チャ ンスがあれば、まず受ける。無理難題であっても、例えば庭づくりの場合、頼むお客様もお金をかけてリスクと不安を背負っているから、その不安を一緒に背負 い、どうしたら喜んでもらえるか、知恵を絞り出します。大切なのは、お客様の「不安要素」「制約条件」を丁寧に聞き出すこと。プロとしての自分の主張は後 ろに控えておくことが、結果として相手を満足させることにつながります。
■サービスは、見えやすく、伝わりやすく
彼が営業の基本を学んだのは大学卒業後に就職した自動車販売店。車検台数の数字を上げていくために、自分で整備した車は「タイヤをピカピカに」「ダッシュボードをピカピカに」、そして「サイドブレーキを強めに調整」し、お客様が「気持ちよい」と瞬間的に体感してもらえる工夫をしました。サービスをするならオーバーアクションで、見えやすく、伝わりやすくする。ちょっと気を利かせたつもりでも、相手に伝わっていなければサービスの意味がないということです。わかりやすいサービスは、相手が自分を信用してくれる、名前を覚えてくれるきっかけになります。みんなと同じことをしない、自分なりの小さな工夫が周りに差をつけます。
■明確なゴールを見つけ、心を動かす
彼にも失敗はあります。その時を振り返り、「ゴールの見えない状態」と言っています。はっきりとした目標があれば、そこに向かって迷いなく進むことができますが、明確な目標を見失うと、やる気も失い、人の提案に乗って走ってしまうことになるのだとか。自分がどこに向かおうとしているか分からない時こそ、「これだ!」というものを探したほうがいいのです。それは、「今の自分の知っている世界の中だけで考えたところで」見つからない。自分の知らない一流の世界を見ること――彼の場合は、チェルシーフラワーショーに参加したことで、明確なゴールが見つけられたのです。心が動けば、行動も変わります。
そうか、こう考えればいいんだ! まだまだこれから…と、ポンを背中を押されたような気がしました。今いる組織の中で、このような考え方を共有するだけでも、前に進めそうです。
参考書籍:「まず『できます』と言え。やり方は帰り道に考えろ。」石原和幸/中経出版 KADOKAWA
文:明灯尋世
とある中小企業で日々、上下に挟まれて突破口を探すアラフォー女局長。知識は、行動に移してこそ身につく。組織の中でも自由であれ。家族は姑、夫、犬一匹。