【“創発的破壊”で日本を元気に 1】真の次世代リーダーとは

一橋大学イノベーション研究センター教授、季刊誌『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、六本木ヒルズにおける日本元気塾塾長を兼任し、まさに“イノベーション”における日本の第一人者として活躍する米倉誠一郎氏。企業経営の歴史的発展プロセス、特にイノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセスを専門とし、多くの経営者から絶え間ない支持を受け続ける米倉氏に、“次世代リーダー像”について聞いてきました。

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■理想の次世代リーダー像とは?

ヒューレット・パッカードの元CEO、カーリー・フィオリーナ氏が「普通のリーダーはこの仕事は自分がやったという。偉大なリーダーはこの仕事は皆さんがやったという。真の偉大なリーダーは、この仕事は自分たちがやったと皆が思わせる」と言っていたことがあります。

上から引っ張る感じではなく、みんなの心に火をつけて、小さな力をたくさん集められる、そんな創発的な力を発揮できるリーダーが今はいいですね。集まったメンバーにコミットメントが生まれ始めたら、運動にものすごく勢いがついてきます。そのためには、「君がやったらいいんじゃない」ではなく、「じゃあ、ちょっとやってみる」と、まずは自ら動くことです。

■挫折を味わった時に終わってしまう人と、再スタートできる人の違いは?

「天は自ら助くる者を助く」と言います。自分で閉じこもってしまえば、外へは伝わらないけれど、自ら実践して、七転八倒して暴れまわっていれば、「じゃあ、こうしたら良いんじゃないか」という声がかかってきます。

■経営者やリーダーに限って、「苦しい」と言えず、背負い込んでしまう人も多いと思うのですが?

ドラッガーは「生まれながらのリーダーはいない」と言っています。もがき苦しんで、「これができない、あれができない。どうしたらいいんだろうか」と弱みを見せることもリーダーの重要な役目です。適材適所というか、自分が弱いことや、苦手とすることは、得意とする人にやってもらうのが一番。そのために、それぞれのプロフェッショナルが存在しているわけですから。

■著書『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社刊)の中で、創発的リーダーの条件として“既存の枠組みから外れて個人として動ける人”とありますが、例えばどういう人でしょう?

現在、会社に在籍しながら、社外の仕事もハンドリングして、アワードなどを獲得する人が増えています。僕自身も一橋大学の教授の傍ら、六本木アカデミーヒルズで日本元気塾の塾長を兼任しています。

自分にはできないと思っているだけで、一度やってみたら結構出来るものです。トヨタにいながら、日産でも……というのは難しいかもしれないけど、トヨタにいながら、自分の法務の知識を使って、ある種、弁護士的な活動をやってみるとか。できないと決めているのは自分であって、やってみると意外とできるもの。両立できないほど成果が出てきたら、その時に考えればいい。やりもしないうちに「日本人は和を尊ぶから」「今いる環境では許されない」という人が多すぎなんです。そういったチャレンジを受容的に捉える職場も実はたくさんあります。

■“イノベーション”の本来の意味を教えて下さい。

「社会経済に新しい価値を創る」―これがイノベーションです。

例えば以前、国立市役所の昼休みは12時から13時だった。学校関係者や学生も含めて、国立市民の昼休みも同じ時間帯で、休み時間に窓口へ行くと閉まっていた。そこで市の職員が、その時間帯を開けてくれるようになったんです。

僕はこれを立派なイノベーションだと思っています。そのことによって、新しい経済価値が生まれたのですから。意識のチェンジで、市役所も自分の市民を顧客だと思える人が増えると、やっぱり変わってくる。自分たちの対価は国立市長からもらっているわけではなく、市民の税金から頂いているんだと気づく。そのためのサービス(=社会に対する付加価値)を上げていこうという考え方への転換なので、立派なイノベーションと呼べるでしょう。

最近、「お金儲けは嫌だ」という学生が多くなっていますが、そういう生徒には「何を言ってるんだ」と言います。お金儲けが一番難しいと思いますよ。「目先の利益を上げてこい」と言われて、上げられるのであれば、そこにはすばらしいイノベーションがあるはず。この情報化の時代、本当に顧客が納得しない限り、目先の利益でさえ上げることは難しい。必ず、人が考えない工夫が必要なのです。

僕たちが17年前にイノベーション研究所を設立した時は、「胃のションベン」と聞き返されたこともあるし、「カタカナはまずいから、“技術革新研究センター”にしなさい」と言われたこともありました。それに比べると、いまは雲泥の差です。多くの人が「何か新しい価値を創る」という意味で、イノベーションを理解してくれている。嬉しい限りです。

実際、イノベーションを細かく厳密に考える必要はないと思います。この社会に新しい価値を生むための行動。このシンプルな捉え方ががすごく大事で、当然今までの既存の考え方ややり方からは、新しい価値は生まれないんです。

■世界を変えるとは、具体的にどういうことでしょう?

中学1年の時かな。これを聞いてみろと友達に勧められて、ビートルズを初めて聞いた時に、頭の中を土足で入ってこられた感じがしました。もうぐちゃぐちゃにされて、あ、これでいいんだと思った。世界を変えるってことは、そういうことだと。理屈じゃない。変えたいと思ったことを変える。

手段はいろいろあって、音楽で変えたいという人もいるだろうし、ビジネスで変えていきたいという人もいるでしょう。教育で言うなら、僕の頭の中で起きたことと同じようなことが、学生の頭の中に起こりうる。土足で入ってあげたいなという気持ちですよ。

>>続きを読む 【“創発的破壊”で日本を元気に 2】人を育てるということ

>>続きを読む 【“創発的破壊”で日本を元気に 3】“ズタズタ”になっていい

取材・文:山葵夕子

※リクルートキャリア運営「次世代リーダーサミット」 2014年1月19日記事より転載

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