超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい! |
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刃物一筋220年!
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洋包丁と和包丁で異なる製造工程、どちらも要は「職人の手」
ステンレスの洋包丁が普及、鋼の和包丁は需要が減少
エーデルワイスの220周年モデル(上が鎌型包丁、下がぺティナイフ)。ハンドルの色は「木屋紺」と呼ばれる紺色
「鋼(はがね)包丁は研ぎやすく、研いだ後の切れ味の持続性も長いのですが、錆びやすい。ですので、使った後はきちんと汚れを落とす必要があります。一方、ステンレス包丁は錆びにくく、使った後もさっと拭いてもらえればよいのですが、研ぎの持続性は鋼に比べれば短い。切れ味は鋼のほうがよいという人も多いのですが、切れ『味』というくらい感覚的なもの。お客さまのお好みによると思います」
今年で創業220周年を迎えた株式会社木屋の常務取締役、加藤誠氏はこう語る。
とはいえ、木屋の包丁は鋼製もステンレス製もよく切れる。しかも、種類が豊富だ。加藤氏によれば、現在販売している包丁は300種類はあるとのこと。同じシリーズでも洋包丁なら鎌型、牛刀、ぺティナイフなどの型があるし、和包丁なら出刃、刺身、菜切、正夫、蛸引といった種類がある。加えて寸法の違いもあるため、これほどの種類になるのだという。
「今はステンレスの洋包丁が主流ですし、弊社の商品としてもそうです。昔の家庭では普通だった魚をおろす、刺身を切るなどの調理が減って、出刃、刺身、菜切など鋼の和包丁の出番が少なくなったのでしょう」
全国の職人さんが支えてきた、木屋の歴史と技術
株式会社木屋 |
同社の包丁づくりには「2つの流れがある」と加藤氏は語る。ひとつは工業製品としての包丁。できるだけ機械化してコストダウンを図りつつ、要所はベテランの職人さんが手を入れ、よい包丁をより安価に顧客に提供する。主力商品の「エーデルワイス」など、主にステンレス製の洋包丁がこれに当たる。刃物づくりで世界的に著名な、岐阜県関市の工場などに依頼している。 もうひとつは鋼の和包丁。こちらは全国の鍛冶屋さんに依頼しており、職人さんによるハンドメイドの作品となる。和包丁のつくり方は日本刀と同じで、柔らかい地金と硬い鋼(切り鋼)の2種類を鍛造する。鍛造とは金属をハンマーなどで叩いて中の空隙をつぶし、金属の結晶を微細化して強度を高め、同時に望む形にする作業だ。 「和包丁では鍛冶屋さんと研ぎ屋さんが分業になっている地域もあれば、2つの工程を兼業している地域もあります。地金と切り鋼から鍛造する包丁は高級品に多いですね。鋼材メーカーが両者を併せた『利器材』をつくっているのですが、この鋼材から和包丁をつくる場合もあります」 |
ステンレス包丁の評価を変えたヒット商品、「エーデルワイス」
工場で量産される洋包丁、仕上げは職人の手作業
洋包丁はどのような工程で出来上がるのだろうか。まずは材料を国内外の鋼材メーカーから仕入れる。「エーデルワイス」シリーズなら、オーストリアの鋼材メーカーからステンレス鋼を輸入している。 次の工程は工場での熱処理、つまり焼き入れだ。材料に合致した方法でないと望んだ性能が出せないと加藤氏は語る。鋼材メーカーからはそのための「レシピ」もくるのだが、必ずしもそれがベストではないため、何度もテストを繰り返すとのことだ。 「包丁は繊細ですから、ひとつひとつの工程をしっかり、知恵を使いながら続けるしかありません。ポイントポイントで『研ぎ』や『検品』といった、人の手や目を入れるのもそのためです。ステンレスにはクロームやカーボンなどさまざまな金属が含まれるので、職人さんには特に積み上げた経験が必要になります」 |
刺身包丁(和包丁) 菜切包丁(和包丁) |
売れ筋は「鎌型包丁」、女性向けの「エル」も人気
女性向けのエーデルワイス「エル」
エーデルワイスで特に人気が高いのが「鎌型包丁」だ。明治期から洋食が普及するにつれて広がった包丁が「牛刀」。肉、野菜、小魚など多目的に利用できるこの包丁に、日本で野菜を切るために使われていた「菜切包丁」の要素を加えた万能的な包丁だ。家庭でも一般的に使われているタイプで、「三徳包丁」とも呼ばれる。
また、女性向けのキッチンナイフ、エーデルワイス「エル」も人気だ。包丁を求める顧客の多くは家庭の主婦であり、包丁のユーザーには女性が多いはずだが、女性層をターゲットにした商品は少なかった。そこで開発されたのが「エル」である。
「ハンドル(柄)を丸みを持たせたデザインにして、素材も主流の樹脂製ではなく、あえてココボロとエボニー(黒檀)の木製にしました」
木屋は老舗企業だが、新技術を用いた独創的な包丁や、このようなアイデア商品を数多く世に出してきた。ここからはそのような包丁を紹介していこう。
日本橋木屋が技術で生み出してきた「新しい包丁」たち
テクノロジーが可能にした「コスミック團十郎」の切れ味
コスミック團十郎
高級品のひとつが「コスミック團十郎」だ。刃にはステンレスでも鋼でもない「コスミック鋼」が使われている。通常の包丁は、特殊鋼を溶解してインゴット(塊)をつくり、圧延機でロール圧延して板状にして、包丁の形にプレス機で型抜きをし、熱処理と研磨の工程を経て完成させる。だが、コスミック團十郎は特殊鋼をインゴットにしない、「粉末製鋼法」でつくられる。この鋼材は国内メーカーから仕入れている。
鋼に高圧の窒素ガスを吹き付けて霧状にし、冷却して微粒子にする。この鋼の粉末を大型の缶に詰め込み、真空に脱気処理後に密封し、熱間静水圧プレスという装置にかけて約1000度の高温、1000気圧の高圧で処理。すると、鋼の粉末は熔解せずに固まって、鋼の塊になるという。これを鍛造し、ロール圧延して鋼板にするのだ。
「こうすることで、鉄に添加するカーボンやクロームなどの金属元素が均一に混じるようになり、刃の硬度や粘り強さがバランスよく出るのです。高クロームなので錆びにくく、硬度がきわめて高い包丁です。硬度を上げることは簡単ですが、ただ上げるともろくなるため、従来の製法では不可能でした」
一体構造を実現させた、ダマスカス模様の「DAMAST KIYA」
ダマスカス模様が入ったDAMAST KIYA
ダマスカス模様が入った「DAMAST KIYA」も特異な製品だ。ダマスカス鋼(ウーツ鋼)は古代インドでつくられていた鋼材で、シリアのダマスカスで刀剣などに加工されていた。この表面に浮かび上がる流水紋がダマスカス模様であり、その美しさから珍重されてきたという。ただ、当時と現在ではダマスカスの鋼材や製法は異なり、木屋のダマスカス模様も独自のものだ。
従来品との違いは製法にある。今までの国内産のダマスカス包丁は、刃となる芯材は硬質の鋼で、その両側を軟質の多層鋼材で挟むようにしていた。物を切る刃先は硬質鋼、模様を出すのは積層された軟質多層鋼材と、二重構造になっていたわけだ。
それを同社は「一体構造」にした。鋼材に硬度と耐蝕性が異なる2種類のステンレスを用い、これを何重にも積層させて、模様を出すと同時に刃として機能するようにした。そのため価格はちょっと高めで、鎌型包丁で10万5000円(カタログ掲載価格)だ。
「材料であるスウェーデン製の粉末鋼が高価なので、お値段も高いのですが、これでもかなり勉強しているんです。あまりに高くては売れませんから(笑)」
新商品は一体成型の「全身鍛造」、これからも新しい包丁を
包丁を選ぶときは販売員に聞くのがいちばん
出刃包丁(和包丁)
同社は一体成型のステンレス包丁、「全身鍛造」を10月に発売する予定だ。こうした包丁は既に海外の刃物メーカーも発売しているが、硬いステンレスだと包丁自体が脆くなるので、柔らかいステンレスしか使えなかったという。
「それだと硬度が上がらないのですが、弊社では熱処理に独自の工夫をして硬度を上げることに成功しました。包丁には長い間考えられてきた形があるので、バリエーションを増やせばいいというものではありません。でも、それでは面白くない(笑)。これからも新しい包丁にチャレンジしていきますよ」
最後に包丁の選び方を聞いてみた。ひと口に「家庭用」と言っても、よく使う食材や家族構成で包丁の用途は微妙に異なるだろうし、料理が趣味の人であれば何本か用意したほうがよいだろう。
「販売員に相談するのがいちばんだと思います。『こんなふうに使いたい』というご希望を伝えていただければ、それに適した包丁を推薦してくれるものです。弊社なら本店もそうですし、販売員を派遣している百貨店や直営店もありますから、いつでもいらっしゃってください」
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