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経営者自らが技術部門をマネジメントし、内製化を急ぐ理由とは?
サイバーエージェント藤田社長が語る技術者採用の理由
アバターコミュティ「アメーバピグ」の会員が400万人を突破したサイバーエージェント。今後のグローバル展開やスマートフォン対応も注目される。そのためには、技術者の確保が鍵になると、エンジニア採用戦略も強化している。藤田晋社長か語るエンジニアへの期待とは──
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:10.10.15

代表取締役社長 藤田晋氏
「今後のネットビジネスは、優秀なエンジニアを集めた会社が成功していく」
──「渋谷ではたらく社長のアメブロ」でこの10月、サイバーエージェントの藤田晋社長はそう宣言した。とりわけソーシャルメディアが急速に成長するマーケットでは、面白いアプリやゲームをつくれるエンジニアが、なによりも大事だと語っている。
ネット業界での技術者の役割は、今さらいうまでもない。しかし、ここに来てあらためて、その技術や企画力、実行力、情熱などが、そのまま企業としてのビジネスの「差」となっていることを、藤田氏は痛感しているのだ。それはなぜなのか。エンジニアに寄せる思いやその採用戦略を聞いた──。

技術者への投資こそが会社の成長につながる

──今あらためて、エンジニアの価値を強調されるのはなぜですか。

 インターネットの黎明期には、まずはアメリカで流行っている技術やサービスを世界各国で真似をして、それぞれの市場に投入することが重要でした。ところが今は世界的に見てもネットの進化は横並びです。優れたテクノロジーで優れたサービスを生み出せば、どこの国の人でもグローバルに活躍できるチャンスが生まれています。こうした地域差、時間差のない時代に、求められるのはやはり、優れた技術です。技術者の価値はこれまで以上に高まっていると思います。

 さらにソーシャルアプリ事業が今、急成長を遂げていることも、エンジニアが求められる理由の一つです。当社でも、アバターコミュニティ「アメーバピグ」やモバイルのソーシャルゲームが収益を生み出すことで、さらに新しいことにチャレンジできる環境になってきました。それを加速するためにも、たくさんのエンジニアの力が必要なんです。

 ネット業界では昔からそうですが、ビルを建て、鉄道を引くというような設備投資をほとんど必要としない。先行投資のほとんどはエンジニアの確保や育成に振り向けられてきました。エンジニアの技術、頭脳、情熱には、経営者としてもハイリターンが期待できるのです。

サービス投入の後こそが大切。ダイレクトにユーザーの反応がわかる醍醐味

──ネットサービス業界の中からだけでなく、広くSIerなどからも人材を集めようとしていますね。

 我々が欲しいのはB to Cのサービスに関わる人材ですが、IT業界全体でいえば8割がたは、企業の業務システム構築などのB to B事業を行っています。B to Bでやってきた人はそれなりの経験もありますし技術もあるから、B to Cへの切り替えは可能ですが、そのためには意識を変えないといけない。おそらくBtoCサービスをつくる過程で、3回ぐらいはショッキングな価値観の転換があるのではないかと思います。

 これまでは見ている方向がクライアント企業の都合や納期だったのが、これからはユーザー視点ということになる。エンドユーザーに対してよいものを提供しようという、モチベーションが欠かせません。

 ネットサービスと業務システム構築、どちらに仕事の面白さを感じるかはもちろん人それぞれですが、僕から言わせれば、はるかにB to Cのほうが面白い。自分が作ったサービスに何十万、何百万人というユーザーがダイレクトに反応を示してくれる。そのサービスの優劣が、会社の利益に直接かかわってくる。その意味で、責任感、やりがいの大きさがあると思います。

──開発の仕方も違ってきますね。

 ネットサービスではサービスをローンチした後が勝負。特に新しいサービスの分野ではローンチの段階では6割、7割の出来のβ版でいい。ユーザーの反応をみながら改善と追加開発を繰り返していくことで、10割を目指していきます。最初からカチっとした仕様書があって、その通りにつくるシステムとは違います。

 さらに、企画を立てるプロデューサーと、実際に開発を行うエンジニアの関係性があります。エンジニア自らがサービスや企画を考え、プロデューサーを兼ねるのが理想。そこまでできなくても、プロデューサーと技術者が密接なタッグを組み、お互いアイデアを出し合いながらサービスをつくる。これは面白いと思いますよ。

一人のネットユーザーとしての素直な感性さえあればヒットはつくれる

──技術者も、例えば20代の女の子のライフスタイルをイメージし、彼女たちがどんなアプリやゲームに心地よさを感じるか、そこまで想像していないと、ヒットはなかなか生まれないのでは?

 ローンチの段階まではある程度想像力も必要ですが、それ以降は、むしろ実際のユーザーの声や反応を見ることで、改善していけばいい。ユーザーの反応に素直になるということのほうが重要です。

 新しいサービスの企画も難しいことを考える必要はなくて、単純にネットユーザーの一人として、自分がこういうサービスがあったら使いたいなとか、ネットで起きているこういう現象が面白いから、これをサービスに活かそうとか、既存のサービスのここが使いにくい、もっといいものがあればいいのに……といったユーザーもしくは自分が使いたいというサービスを作ることが大事です。

 だから、そんなにネットマニアでなくていいんです。会社の飲み会での話題みたいなところを拾ってサービスにつなげていってもいい。そういう自然体のユーザー感覚から生み出されたもののほうが、結果的に正しいケースが多いと思いますよ。

 先ほど言ったように、アメリカで流行りそうなものを先取りして、それをいち早く日本でリリースすることが価値をもっていた時代は終わっていて、自分の頭で新しいサービスを生み出す力が必要なんです。それは決して難しいことではなくて、自分のユーザーとしての率直な感覚から生まれるもの。それをエンジニアの一人ひとりができれば最高ですよね。

アイデアを形にする人こそが重要。内製化を急ぐ理由

──御社にとっては、技術の内製化ということも、技術者採用の背景にありますね。

「Ameba」では数年前に、これまで外注に頼っていたシステムをすべて内製化しました。過去には、何億円にものぼるシステム構築を外部に発注しながら、失敗したサービスもあります。ネットサービスの肝は、開発にかける額の多寡というよりは、内製化するかどうかにあると思っています。ローンチした後、そこからの追加・改善はものすごいスピードでやらなくちゃいけない。これは、内製体制でないと絶対に不可能です。

──エンジニアを大量採用することに、リスクは感じませんか。

 ネットサービスのアイデアは、誰でも考えることができ、山のように出てくるもの。しかし、決定的に不足しているのは、それを形にできる人材なんです。もしサービスが失敗したとしても、そのサービスを作りあげることでスキルアップし、その経験が大きな成長に繋がるため、エンジニアの採用はとても大切だと思っています。これからはアイデアの価値よりも、形にする技術の価値のほうが、相対的に高くなるでしょう。

 もちろん、サービスを事業化し、収益化することも大切で、その点は当社にはたくさんのノウハウがあり、マーケティングや収益化するだけの営業力には自信があります。だからこそ、アイデアを形にするエンジニアが必要なのです。

──グローバルな事業展開とエンジニアの役割はどうお考えですか。

 ソーシャルメディアのオープン化とスマートフォンの登場が、我々にとってのグローバル市場を一気に広げました。例えばFacebookやApp Storeのプラットフォームに載せることができれば、日本だけでなく世界にアプリを届けられるようになっています。今年我々は、「Ameba Pico」という「アメーバピグ」の海外版をリリースし、すでに200万人のユーザーを獲得しています。今までにない新しいサービスを作ることができれば、グローバル展開できる自信になっていますね。

 特にゲーム産業に関しては、日本が誇るゲームメーカーを見てもわかるように、日本の技術は非常に高い。我々もソーシャルで十分可能性があると思っています。
 また、ネットサービスではクラウドを利用することができるので、エンジニアを海外に行かせる必要はなくなりました。サンフランシスコや中国にもオフィスがありますが、それほど大人数が行っているわけではありません。主たる開発は日本でやれる。むしろ日本人の感性で世界に通用するものとしてつくりあげ、それを「クール・ジャパン」なプロダクトとして世界に送り込むというほうが正しいと今は考えています。

経営者が自ら技術部門をマネジメントすることの意味

──具体的に、これから採用するエンジニアはどんな仕事をすることになりそうですか。

 今後の事業展開の一つは、「アメーバピグ」の強化。これは他にないサービスだと思っているので、現在この中で提供している釣りやカジノのようなソーシャルゲームをどんどん投入していきます。

 もう一つは、スマートフォン向けのアプリやゲームですね。iPhoneとAndroidはすでに始めています。これからも、この事業には人材を投入し、グループの総力を挙げて創っていきます。すべてを内製と言いたいけれど、手が足りないので、一部は外注しているのが現状。そこを一刻も早く改善したいわけです。

──興味を持つエンジニアに対して、サイバーエージェントの魅力をどう伝えますか。

 当社は、PCだけでなく、モバイル、スマートフォンという幅広いデバイスで幅広い事業を展開しており、関われる仕事の範囲が広いというのが特長の一つですね。また、どんなに会社の規模が大きくなっても次々に新しいサービスを作っていくというベンチャースピリットは維持しているつもり。その点はどんな企業にも負けていないと思っています。

 これからのサイバーエージェントをつくるのは技術力です。そう考えるからこそ、技術部門は社長である僕が直接見て、エンジニアが生き生きと働ける環境や企業文化を強化しようと考えています。経営者自らが、技術戦略にコミットしている。だからこそ、安心感をもっていただきたい。

──技術者出身者でない社長が技術のことをどこまでわかってくれるんだろうか、と不安に思うエンジニアもいるかもしれません。

 たしかに僕には詳しい技術の内容まではわからないし、そこを学び直す時間もありません。ただ、エンジニアを大切にして、技術に強い会社をつくろうということは真剣に考えています。トップマネジメント自らがそれを考えていることは重要だと思います。僕の直下には、業界でも有名なエンジニアがたくさんいますから、十分話を聞きながら事業を展開しています。

──エンジニアにとっては、自分の技術が伸びる会社ということが、重要な選択肢になります。御社がエンジニアに提供できるものは何でしょうか。

 エンジニアの成長は、サービスの成長とほぼ比例していると僕は考えています。例えば、「Ameba」のように年々増加する膨大なトラフィックを処理するインフラを担っている技術者は、技術的にも成長を遂げている。逆に、どんなにサービスを作っても、ユーザーに全く見向きもされないのでは、エンジニアも成長しきれないと思います。我々はもともとサービスを広めるのは得意なので、エンジニアがつくり出したものを埋もれさせることなく、その意味でも、成長しやすい環境があると思います。

 また、文字通りアメーバのように、細胞分裂するかのように事業が展開される。新しいサービスへの挑戦という意味では、これほど刺激的な会社はないと思いますよ。

ゼロから1へのステップアップ。「エンジニアアカデミー」で人材発掘

──11月から、外部のエンジニアを対象にした無料講座「エンジニアアカデミー」を始めますね。その狙いは?

 これからのネット企業が拡大できるかどうかは優秀なエンジニアを採用できるかどうかにかかっています。最初はみな未経験者だけれど、一つでもiPhoneアプリを作ってみれば、それが経験に変わる。異業界にいる人でも、やったことがないだけで、やればものすごいアプリをつくれる人はいるはずです。

 とはいえ、スキルのあるエンジニアには新しいサービスを次々に作ってほしいため、、未経験者を採用して育成するには時間がない。であれば、教えるという機能を別に切り離して、技術研修プログラムと我々の事業を知ってもらうインターンのようなものを組み合わせたスクールを開いたらどうか。それも夜の時間に開講すれば、社会人でも通えるはず。その中からサイバーエージェントでやってみたいという人が出てくることを期待しているわけです。もちろん、全員が入社しなくても、いいんです。

──せっかくゼロから1にステップアップさせたのに、他の会社に入社してもいい?

 まあ、それはそれで仕方がないですね(笑)。業界の技術水準の底上げにつながればいいわけですから。

──こうしたアイデアをすぐに実践に移すというのは、サイバーエージェントらしいといえばらしいですよね。

 はい、9月のあした会議で出たアイデアを即実行しました(笑)。

──最後に、エンジニアへの期待感をあらためて。

 ソーシャルアプリは急成長しているとはいえ、アプリやゲームのクオリティは、これまでヒットしてきたテレビゲームに比べたら、まだまだレベルの差が格段にあります。けれども、それは今後の伸びしろがあるということ。その意味でチャンスは無限大に広がっています。この機会にこそ飛び込んできてほしいですね。

 冒頭からエンジニアの価値が上がっているということをお話ししてきましたが、それは具体的な待遇面でも言えること。当社も、直近の給与改訂のときに、一気に技術者の給与水準を上げました。大手SIerとも遜色のない給与水準を提供できると思います。こういったこと一つをとっても、我々が真剣にエンジニアを求めているということを、ご理解いただきたいと思います。

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 CEO 藤田 晋氏

1973年生まれ。青山学院大学経営学部卒。株式会社インテリジェンスを経て、98年株式会社サイバーエージェントを起業。2000年、史上最年少で東証マザーズに上場。ブログを中心としたコミュニケーションサービス「Ameba」やアバターコミュニティ「アメーバピグ」など多数のメディアを運営するほか、ソーシャルプラットフォームで人気アプリを展開。また、国内最大のインターネット広告代理事業を内包し、インターネット総合サービス企業として事業を拡大中。

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