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明日に向かってプログラめ!!PARTV vol.2/10 酒徳峰章@なでしこは、音楽に目覚めて家具にハマる
言語デザイナーと呼ばれる人は日本にも何人かいますが、「日本語プログラミング言語」をつくったのは酒徳峰章さんが初めてではないでしょうか。「クジラ飛行机」としていくつもの人気ソフトを開発してきた彼は、そのドタバタ人生が結構笑えます(失礼!)。しかし、その素顔は、好青年で愛妻家です。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/関本陽介)作成日:08.08.22
プログラミングとは、“夢を実現する手段”である
酒徳峰章さん
日本語プログラミング言語「なでしこ」のホームページ
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自作のWiki「KonaWiki」のホームページ
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『プラレス3四郎』を目指し、MSXのために新聞配達
お久しぶりです(以前に「未踏ソフト出身者たちは我が道を往く」で取材)。すてきなお住まいですね。

ありがとうございます。今年の初めに引っ越しまして、妻と2人で内装にいろいろと手をかけました。例えばこの部屋(上の写真左)は畳の下に収納ボックスが敷いてあるのですが、このボックスですとか、こっちの部屋の本棚(写真中)も手作りなんです。最近は家具をつくるのに凝ってしまって。

やっぱり、きちんと設計してから作り始めるんでしょうね。CADのようなソフトを使ったりして。
私はそうしたいんですけど、妻は目見当で始めてしまい、それが妙にピタリとサイズが合うんです。ベランダが広いので(本当に広い)、そこでのこぎりを使ったりしています(笑)。
ところで(笑)、先日は未踏(IPAの未踏ソフトウェア創造事業)の話を中心に聞きましたので、今回はプログラミングを始めたきっかけから。
はい。中学のころに友人の家にあったMSXです。何かを入力したら画面のデモが動いたんですよ。自分の思ったとおりに画像が動くわけでしょ。『プラレス3四郎』(当時のアニメ)みたいにロボットが動かせるんだと思って、新聞配達を1年くらい続けてMSXを買いました。6万円くらいだったと思います。
酒徳峰章さん
酒徳峰章さん
中国での作曲のためにプログラミングを本格化
入り口はゲームだったわけですね。最初はどんなプログラムを?
MSXについていた入門書から入力して「数当てプログラム」をつくりました。それからはMSX-BASICで「数当て」を拡張させて、競馬のシーンで馬を動かしたりとか。それから自分でゲームをつくり始めて、友達にフロッピーで売るようになりました。1枚500〜1000円くらいでしたが、MSXの元は取れたかどうか(笑)。
 ゲームはもともと好きで、プログラミングする前からノートにびっしりとゲームを書いていたんです。特に迷宮を探検するようなものですね。
酒徳峰章さんの部屋

ゲームブックですね。一時期はかなりはやりましたね。

はい。そのノートを見せて、友達が喜ぶと、やっぱりうれしくなりますよね。そんなノートを何冊も書いていて、実際にプログラミングを始めたら、「ページの3に飛んで、次に5に入って……」などのゲームブックの仕組みが、BASICの行番号と似ていることに気づきました。「そっくりだなあ」と思って、プログラミングに抵抗はなかったです。
 その後は、音楽に目覚めてしまいました。小学校からクラシックギターを習っていたのですが、中学でロックに転向です。バンドを組んで、MSXで作曲も始めました。ギターで弾いたフレーズを、MML(Music Macro Language)という言語を使い、PC上で楽譜にしていくのです。どうにも私は気に入ると突っ走ってしまう性格のようで、それからは作曲ばかり。今までに何百、何千曲をつくったかわかりません。
どのくらい続けていたのですか?
中学から高校卒業までです。その後、中国の大学(上海にある華東師範大学)に留学するのですが、現地では留学生が頻繁に変わりますからバンドはちょっと無理で、MSXでの作曲は続けていました。
 あるとき、上海でMSXのフロッピーディスクドライブが壊れてしまったんです。仕方なくWindows 95を買ったのですが、シングルタスクのMSXに比べるとマルチタスクで安定しない。おまけに作曲ソフトもなくて、ならば自分でつくろうと真剣にプログラミングを勉強しました。
酒徳峰章さんの部屋
作曲ソフトがほしくて、中国で本格的にプログラミングを始めたと。
はい。書店で中国語のプログラミングの本を買いました。もともとBASICは構文解析が不便だと感じていたのでCに行き、Delphiがいいなと思ってPascalを覚えて。そして出来上がったのが、後にテキスト音楽「サクラ」として公開する前身の作曲ソフトです。
 それからは、別にシーケンサーをもっていたのでリズムマシンや、フレーズをランダムに並べ替えられるフレーズジェネレーターをつくりました。ドラムの音を逆から流したり、音をひとつ飛ばしで出したりするのが、当時ははやっていたんです。
ドジョウすくいからPCライター、そして「未踏」へ
大学を卒業して帰国し、就職したんですよね?
実家の豊橋(愛知県)に戻って中国語を生かせる仕事を探したのですが、これが全然ない(笑)。それで不動産関係の会社に就職してSEになったら、隣の席の事務の女の子が、Excelなどでコピー&ペーストを何度も繰り返しているんですね。プログラムを組めば簡単にできるのにと思って、実際につくってあげたんです。
 それが社長の目に留まって、不動産物件の管理ソフトなどをつくるようになりました。社長がPCに詳しい人でなく、逆に自由な環境で開発させてもらいました。それで、「こんなものがほしい」などと言われてつくっていると、社長がほかの不動産屋にソフトを売るようになったんです。それがひとつ100万とか150万円ですよ。「プログラマってイケるじゃん!」と思うじゃないですか。嫁を連れて横浜に行き、独立しました。
突っ走りますね(笑)。ソフトは売れたんですか?
横浜の不動産業界なんてまったくコネがないので、全然売れませんでした。金はない、仕事はないで、パソコン教室の講師をしたり、小遣い稼ぎ程度の小さな開発案件を請けたり、半年くらいは中国との輸入貿易の仕事もしました。中国からドジョウを輸入するのですが、仕事は輸入されたドジョウをすくって箱に入れるだけ。中国語は必要なくて、本当のドジョウすくい(笑)。
 今振り返るといい経験をさせてもらったと思いますが、フリーソフトをつくってはWebで公開もしていたんです。パソコン雑誌にフリーのソフトを集めたCD-ROMがついていますよね。その使用許可の問い合わせが出版社からくるんですが、その返事に「仕事はありませんか」と書いていたら、ライターの仕事をやらないかと。ソフト100本のレビューを書くなどですが、徐々に割合が増えてきて、コラムなどを担当するようになりました。
酒徳峰章さん

ドジョウすくいからPCライターに転身ですか(笑)。そんな中で「未踏」を知って、「ユース」に応募して採択され、「天才」になると。この辺の話はリンクで飛ばすとして(笑)、現在の「なでしこ」と「葵」はどんな感じですか?

今は「なでしこ」がメインですね。月々3000〜5000のダウンロードがありますし、コツコツと開発を続けて、毎月、あるいは1カ月に何度かバージョンアップしています。ユーザーの方との交流会も開いているんですよ。
 仕事としてはウノウと八角研究所で働いていますが、毎日出社しているわけではなく、なでしこを含めて主に自宅開発です。デスクに向かったり、床にあぐらをかいて打ったり、近くの公園のベンチで開発することもあります。最近では「クジラ飛行机」名義での本の執筆も多くなってきたので、文章を書いていることも多いですね。
これからはビジュアルプログラミング言語をつくりたい
これが最近の著書ですね(右の写真)。「なでしこ」の公式ガイドのほかにも、PHPやAdobe AIRのプロガイドもありますね。
本を書くことは技術の習得でもあるんです。サラリーマンと違って新しいことを覚える時間が定期的に取れないのですが、1冊書くとひとつの技術を、仕事で使えるレベルで習得できます。ここで得た知識やデータをウノウや八角にフィードバックしています。
酒徳峰章さん
本を書く前はその技術に習熟していないけど、勉強して、理解して、整理して、アウトプットしていくうちに、自分のものになると。
気になる技術やテーマが出てきますよね。まず、ブログに書いて反応を見ます。すると、面白いと感じた人がはてなブックマークしてくれたりするので、ユーザーの興味の度合いが数値化されるんです。これって、すごいことだと思いませんか?
 その数値が高ければ、今度は連載記事などで突っ込んで書いて、「いける」と思えば出版社に企画を持ち込みます。編集者から依頼される場合は社会的なニーズがあるわけですから、いずれでも関心が高いテーマだとわかります。
では、最近興味があるものは?
ビジュアルプログラミング言語ですね。「なでしこ」や「葵」では日本語のインタフェースを使って、初心者がプログラミングに親しめる工夫をしてきました。ただ、どうしてもユーザーには得意不得意はあります。ビジュアルプログラミング言語にはSqueakやMax/MSPがありますが、決定打に欠ける気がして、もう一工夫できれば随分違ってくると思うんです。
今の言葉に関連すると思うのですが、酒徳さんにとってのプログラミングとは?
「夢を実現する手段」です。誰もが気軽に使えて作業を自動化したり、生産性を高めてほしいと思います。そして、余った時間をゆったりと過ごす。例えば、レゴブロックを動かすように視覚的なプログラミングができて、Excelを自分の思うように動かせたら便利だと思いませんか? 難しいとは思いますが、将来は誰もが抵抗なく使えるビジュアルプログラミング言語をつくりたいです。
酒徳峰章さん 酒徳峰章さん(31歳)
1976年生まれ。中国・上海の華東師範大学を卒業後、帰国して不動産関連会社に入社。SEとして勤務しながらソフト開発を続け、フリープログラマとして独立。受注開発と並行してパソコン教室の講師、貿易業務、ライターなどを兼務する。IPAの2004年度「未踏ユース」に日本語プログラミング言語「なでしこ」で応募して採択され、「天才プログラマー/スーパークリエータ」に認定。2005年度下期と2006年度下期の「未踏」にもWeb開発環境「葵」で応募して採択。「クジラ飛行机」の名前で「サクラ」「KonaWiki」など数々のソフトを開発・公開する。ウノウ株式会社に勤務し、株式会社八角研究所の技術顧問を務める。技術系の著書も多い。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
記事からもわかるように、酒徳さんは結構苦労されているのですが、そんな様子は微塵も感じさせません。人のことを悪く言わないし、自分のツライところは笑い飛ばす。そしていつも笑顔。加えて、とてもセンスのいいお部屋なんですよ。ちょっと、ほめすぎですかねぇ(笑)。

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