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「隣の芝生は青く見える」というが、自分の現在の環境に不満があると、厳密に比較したわけではないのに、どうしてもほかの環境がよく見えてしまうもの。仕事においてもそうだ。「あの会社のほうが給料いいみたいだ」「うちの業界は全体がダメ。ほかの業界に移ったほうがいいみたい」……。 こうした他人との比較は、人間の本性のようなもので、それをやめることは容易ではない。たとえ、世間から見ればうらやむような環境にいる人でも、常に上や横を見ては、「ウチはだめだなあ」と嘆息をもらすものである。もちろん他人との差異を意識することは、その差異が厳然とした事実であるならば、意味がある。最初は単なる「うらやましい」という嫉妬の感情だったものでも、方向をポジティブに転じることができさえすれば、自分の環境を改善する努力の源になるからだ。つまり、差異があるからこそ、人は向上できるということもいえるのである。 というわけで、今回は職種間の年収比較である。データはTech総研が行った、約2万人のビジネスパーソンへのアンケート調査結果を使用する。技術系だけでなく、販売・サービス、営業などの文系職種も含んだデータだ。調査対象者には年収金額の実数ではなく、「400万〜500万円未満」というような形の年収幅を尋ねている。そのため、平均年収は出てこないが、年収の分布をグラフで見れば、おおよその年収構造が見えてくるはずだ。 |
30代前半層(30〜34歳)のビジネスパーソンのデータから、「ソフトウェア・ネットワーク系」「ハードウェア系」「クリエイティブ系」「サービス・販売系」「営業・事務・企画系」の1職種を取りだして年収分布を見たのがDATA1である。「ソフトウェア系」には、システム開発、ネットワーク設計、運用・監視、研究・特許・テクニカルマーケティングなどが含まれ、「ハードウェア系」には、回路・システム設計、半導体設計、制御設計、セールスエンジニアなどが含まれる。また、ここでいうクリエイティブ系とは、主にグラフィック・デザイン、映像カメラマン、音楽ミキシングなどの職種だが、フリーランサーではなく企業との雇用関係を結んでいる人たちのことだ。 例えば、「ソフトウェア系」では、最も多い年収層は「400万〜500万円未満」(26%)だが、「ハードウェア系」ではこれが「500万〜600万円」(27%)となる。ところがほかの3つの職種では最大分布が「300万〜400万円」以下になっている。このグラフでいえば、技術系の2つの職種よりも、ピークが左つまり低年収のほうに位置しているのだ。驚くのは、「サービス・販売系」の職種で最も多いのが年収「200万円未満」層という事実だ。年収200万円未満というと平均月収が16万6000円未満ということ。この職種のサンプルには、アルバイト、パートタイム労働者が2割強含まれていることも要因と考えられる。 この5つの職種の年収分布グラフを見るかぎり、技術系職種はほかの職種に比べると、相対的に分布がより高額の方向、右の方向へシフトしていることがわかる。営業・事務職よりも右シフトだ。「ウチは給料が安いなあ」と思っていても、世の中のほかの職種に比べるとまだ恵まれている、ということはいえるのかもしれない。 |
DATA1 営業・販売と比較!30代前半の年収帯比較 |
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さて、それでは同じ技術系職種の間ではどんな違いがあるだろうか。同じく30代前半層について見たのがDATA2である。調査サンプルから「ソフトウェア・ネットワーク系」「ハードウェア系」「素材・食品・メディカル系」「建築・土木系」を抜き出して比べた。ソフトとハードは前と同じデータである。 分布のおおよその傾向を見ると「素材・食品・メディカル系」(この場合は職種というよりも、これらの業界に属するエンジニアという意味が強い)は、「ハードウェア系」よりもやや右シフト、「建築・土木系」は「ソフトウェア系」よりも明らかに左シフトしていることが見てとれよう。 先にも述べたように、これをもって素材業界のエンジニアの年収が、ソフトやハード系エンジニアよりも高いと断言することはできない。ただ、「年収の高い人の割合が多い分布構造になっている」ということは言える。 ここであらためて気になるのが、ソフトウェア技術者とハードウェア技術者の違いだ。この2職種を比較すると、全体にハード系のほうがソフト系よりも年収分布は右シフトしている。ソフト・IT技術者は必ずしも機械設計などのハード技術者よりも年収が高い人が多いとは、いまや言えなくなっているのである。このことは、最近の転職者初任給の調査におけるハード優位の実態からも裏付けられる。昨今の景気回復を支えた自動車、エレクトロニクス関連業種の好調ぶりの一端がここにも反映されている。 |
DATA2 30代前半の年収帯をエンジニア職種間で比較 |
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このことをより詳細に見たのが、DATA3だ。ここでは、ソフト系から3職種、ハード系から2職種を任意にピックアップし、計5職種の年収分布を比較している。年代は前と同様に30代前半層である。 ここからとりあえず言えることは、年収分布状況では、「運用・監視・テクニカルサポート・保守」に分類されるエンジニアがもっとも左寄り(年収の低い人の割合が多い)であるということ。「システム開発(Web・オープン系)」「機械・機構設計、金型設計」の2つの差異はほとんど見られないということ。いくぶんデータ分布にばらつきはあるものの「500万〜600万円」層が最も多いのは「制御設計」(33%)であること。「コンサルタント・アナリスト・プリセールス」などのコンサル系エンジニアでは年収「1000万円」以上の人が4%いるなど、おしなべて高年収に分布が広がっていること──などである。 |
DATA3 SE、運用、コンサル、機械設計、制御設計の30代前半年収比較 |
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同じ職種でも、年代によって年収差が出てくるのは当然のことだろう。それを図示するとどうなるかを見たのが、DATA4である。システム開発のうち「Web・オープン系」のエンジニアを例にとっている。 予想どおり、きれいに年代別にずれた分布図が現れた。若いときはグラフの山(ピーク値)がグラフの左(年収の低いほう)に偏り、年を経るにしたがってそれが右方向へ推移しているのがわかる。若いころは年収層の幅の広がりは小さく、だいたいの人が200万〜400万円の年収幅に集中するが、年齢が高くなるにつれて、山全体が小高くなる。400万円から700万円ぐらいにかけての層に分布が広がるためである。40代前半になると年収1000万円台という人も一定数現れるが、それ以前には少ない。 こうした年収分布グラフを山の形でたとえれば、急峻に切り立つ岩山と、富士山のようなコニーデ型の山の2つの形態があり、その形状が大きく変わるのが30代後半からということになるだろうか。 しかしながら、すべての職種がこのような分布をしているわけではない。DATA5の「営業・事務・企画系」の年齢別年収分布図はWeb系エンジニアとはかなり様相が異なっている。年齢を経てもグラフの山の頂点がほとんど右にシフトしておらず、全体に低年収に偏る傾向がある。 むろん、調査段階でのサンプルの偏りも考慮しなくてはならない。今回の場合、Web・オープン系が約2200人、営業・事務系が約3000人とサンプル数そのものはデータ比較の上で問題となるものではないが、もしかすると企業規模などに偏りがあるかもしれないからだ。実際に世の中には歩合給を含めれば年収1000万円を軽く超える営業職の人は大勢いる。また大手企業の営業・事務系だけを取り上げれば、グラフの形はWeb系に近づくと思われる。 ただ、そうした可能性を考えても、明らかに営業・事務系の職種よりも、技術系の職種のほうが、年収分布としてはバランスの取れたグラフになっているということは言える。 ソフト・IT系職種は労働時間や労働密度が高く、最近は「きつい職種」の代表とまで言われるようになった。同じ技術系でもコンサルタントやハード系に比べると必ずしも待遇が抜きん出ているとはいえない。しかしながら、広く目を世の中全体に広げれば、技術系一般の年収面での優位性は明らかであり、さらに経験を積むことによって年収を上げる可能性もまだまだあるということなのだ。 |
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