制御・組込み系エンジニア［究極のレジュメ］大公開！

デジタル家電や携帯電話、自動車などあらゆる分野でニーズが急増している制御・組込み系エンジニア。今回はハードウェアを制御する組込み系エンジニアに焦点を当て、求められる人材像をレジュメ形式で紹介する。

（総研スタッフ／関洋子）作成日：07.02.27

　今回は制御・組込み系エンジニアの「究極のレジュメ」を紹介する。ひと口に制御・組込み系エンジニアといっても直接ハードウェアを制御、動作させるプログラムの開発者ものから、OSの上で動作するアプリケーションソフト開発者まで幅が広い。つまり制御・組込み系にはレイヤーが存在し、最下層のプラットフォームレイヤー、次にリアルタイム性が必要なアプリケーションレイヤー、そして最上層はリアルタイム性が必要ないアプリケーションレイヤーに分かれるのである。
　例えば携帯電話などに組み込まれているアプリケーションなどは、最上層のアプリケーションである。今回は、ハードウェアの知識が必要となる最下層のプラットフォームレイヤーの制御・組込み系分野で求められる人材にフォーカスした。
　取材に協力してくれたのは、家電や携帯電話など向け組込みソフトウェアの受託開発を行っているイーソルと、昨年4月図研のSoC（System on Chip）の開発部隊がスピンオフして設立されたインベンチュアだ。両社ではどのようなスキル、経験をもつエンジニアを求めているのか。採用する際、レジュメに記載されている項目の中で、どんなところに着目するのか、明らかにしていこう。

　デジタル家電や携帯電話、カーナビ向けなどあらゆるデジタル機器向けの制御・組込みソフトの受託開発、組込みソフト開発を支援するオリジナルパッケージ「eBinder」「eParts」などの開発、販売を手掛けている。そのほか流通・物流システム分野向けに、組込みシステムを応用した車載プリンタやハンディターミナル、レーザースキャナを提供している。

　当社が行っているのは、制御・組込みソフトの受託開発。組込みソフトはハードに近いOS層、リアルタイム層、アプリケーション層と3つに分けて定義していますが、当社がターゲットとしているのがOS層です。このように組込みの中でも、最もハードウェアに近い組込みソフトの開発を行うのが好きな人を求めています。
　皆さんもご存じのとおり、制御・組込みソフトは大型化、かつ分野もどんどん広がっています。市場拡大とともに当社も成長を続け、2015年には売上高100億円を目指し、株式上場の準備を進めています。そして最終的には、日本一のエンジニアリング会社となることを目標としています。
　当社の成長の礎となっているのは、多くのソフト会社の例にもれず「人」と、そこに蓄積された「技術力」です。その技術力を集積しパワーに変換するためには、まずエンジニアが辞めない魅力的な会社を作ることが必要です。そこで当社では終身雇用を採用し、エンジニアにとって魅力的と感じるさまざまな制度を取り入れています。
　またビジネス面では制御・組込みソフトを受託開発するだけではなく、独自のリアルタイムOS「eT-Kernel」、開発環境「eBinder」、ミドルウェア群を提供しています。また昨年には、イーソルエンベックスという、ビジネスアプリの技術者を組込み技術者へキャリアチェンジすることを教育によって支援する人材サービス会社を設立しました。経験・未経験を問わず、組込みに携わりたいという人に、来てもらいたいですね。

イーソル株式会社
代表取締役社長
澤田勉氏

　EDAソリューションベンダーの図研のSoC開発部隊の一部がスピンオフし、2006年4月に設立されたIPコアソリューションベンダー。図研が強みを発揮するPCIの次世代規格PCI ExpressやOCP（Open Core Protocol）など、I/O系IPコアの開発を軸にデバイスや評価ボードの開発、販売、サポートを行う。

　当社の前身は図研のSoC開発部隊。図研が得意とするPCI Express（PCIe）やGbitEthernetなどI/O系IPコアの開発から、SoC設計受託、デバイス開発など、IPコア適用に関するすべての業務を提供することを目的に2006年4月に事業分割という形で設立された会社です。
　I/O系IPコアという特殊な領域ですが、当社の製品は高速の画像処理を必要とする複合機や放送機器などに採用されており、1年目から業績も黒字化しています。最新版のPCIe Rev1.1に準拠したIPコアを日本企業では初の認証を取得しています。複雑なプロトコルを顧客側が意識することなく組み込めるだけではなく、顧客側組込みサポートまでの総合的ソリューションを提供することができる企業は、日本国内ではそうはありません。
　当社が求める制御・組込み系エンジニアとは、PCIeなどIPコアのデバイスドライバ開発者です。評価用デバイスドライバやリファレンスドライバの開発に携わる人材ということです。ただ当社は設立1年目という若い会社のため、従業員も役員を含めて20人しかいません。そのため、デバイスドライバの開発者とはいえ、ソフトウェアの知識だけではやっていけません。規格はもちろんハードウェアに関する知識は不可欠です。当社での仕事の醍醐味は、ある製品の一部を開発するのではなく、最終製品になるまで1～10まで携わることができること。組織が小さいため、部署の垣根もありません。3年をめどに上場も視野に入れています。モノづくりが好きという人にとっては、非常に面白い職場だと思います。

インベンチュア
取締役
山口高氏

言語（C、アセンブラ）は要チェックポイント

最終学歴

大学卒

卒業年月

19**年3月

英語実務経験

文書読解

資格

ETEC受験日2007年1月**日　スコア6**点

言語

年収

600万円

　キャリア採用の場合、学歴には注目しない。重視するのは、どういう仕事にどのように携わってきたか。経験した開発案件や、その使用言語、開発環境など一般的な事項もチェックするが、プロジェクトの中でどのような立場で、またどのようなスタンス（マインド）で取り組んだかも話を聞かせてもらうことになる。英語力や資格は、WANT(ウォンツ）要件として評価するが、あくまでも基準とするのは前述したとおりである。

最終学歴

大学卒（理系）

卒業年月

19**年3月

英語実務経験

文書読解

資格

特になし

言語

C、アセンブラ

　当社で求める人材はハードウェアの仕様が読める人。学歴にはこだわらないが、どうしてもハードウェアの基本的な知識が必要になるため、大学の工学部などでそれらの知識を習得している人が採用の対象となる。年齢も特にこだわらない。資格にはほとんど関心がない。英語力も特に問わないが、規格の仕様書が英語で表記されているので、業務では読解力が必要になる。言語はCの使用経験者であればOKだ。

3～4年の経験があればOK

経験職務：組込み系ソフトウェア開発
経験ポジション	開発エンジニア
経験業務	要件定義　実務経験1～3年基本設計　実務経験3年以上詳細設計　実務経験1～3年プログラミング・単体テスト　実務経験3年以上結合・総合テスト管理　実務経験1～3年
経験案件（開発区分）	新規開発　実務経験1～3年バージョンアップ　3年以上
経験案件（開発領域）	ファームウェア　実務経験1～3年マイコン応用制御　実務経験3年以上
経験案件（制御対象物）	携帯電話・モバイル機器　実務経験1～3年以上情報・通信機器　実務経験1～3年
所属企業規模	101～500人

どんなハードを扱っていたかわかるように記述を

業種

ソフトウェア・情報処理

職種

ソフトウェア設計開発（制御系）

希望年収

550万円

【主な職務内容】

19xx年6月～200x年5月
■担当業務
［顧客］
携帯端末メーカー
［主な開発案件］
・携帯電話のパケット通信制御システムの開発・Cによるプログラミング
［役割（担当業務）］
・プログラミング
・テスト（単体、結合）
■開発環境　C
■CPU　SH-2
■立場　プロジェクトメンバー

200x年6月～200x年2月
［顧客］
精密機器・計測機器メーカー
［主な開発案件］
インクジェットプリンタモータ駆動制御システムの開発
［役割（担当業務）］
・プログラミング
・基本設計
・詳細設計
・テスト（単体、結合）
■開発環境　μTRON、C
■CPU　SH-2
■立場　プロジェクトリーダー（メンバー5人）

　当社が求める組込みエンジニアは、プログラム経験はもとより、ハードウェアの知識をある程度もっている人。経験年数でいうと3年程度はほしい。どんなCPU、開発環境でどのくらいの規模（開発期間）のプログラムを開発したのか、端的にわかるように記述してほしい。制御対象はコンシューマ機器でも産業機器でもかまわない。
　リーダー経験はあるに越したことはないが、MUST(マスト）ではない。それよりもどのようなプログラミング経験があるか、それをじっくり見たいので、携わったすべての案件について記述してくれればうれしい。

5～6年の開発経験がほしい

経験職務：情報・通信・AV機器
経験製品	コンピュータ関連周辺機器（ネットワークアダプタ）　実務経験3年以上周辺機器（ドライブ・ストレージ）　実務経験3年以上
経験業務	開発・設計（制御）開発マネジメント・リーダー（制御）　実務経験1～3年開発エンジニア（制御系）　実務経験3年以上

開発にどのレベルまで携わったのかをわかるように記述

業種

精密機器・計測機器（メーカー）

職種

制御設計（家電・AV・コンピュータ関連）

希望年収

600万円

【主な職務内容】

19xx年6月～200x年5月
■担当業務
［顧客］
PC周辺機器メーカー
［主な開発案件］
・プリンタのドライバの設計・開発
［役割（担当業務）］
・要件定義
・基本設計
・プログラミング
・テスト（単体、結合）
・評価・デバッグ
■開発環境　C、組込みLinux
■立場　プロジェクトメンバー

200x年6月～200x年6月
［顧客］
PC周辺機器メーカー
［主な開発案件］
USBドライバの開発
［役割（担当業務）］
・要件定義
・基本設計
・プログラミング
・テスト（単体、結合）
・評価・デバッグ
・工程管理
・部下の育成
■開発環境　C、組込みLinux
■立場　プロジェクトリーダー

　当社の即戦力として最もマッチする人材は、PC周辺機器メーカーでドライバの開発を担当していた人である。当社で開発する組込みソフトとは、次世代戦略のところでも記述したように、ある機能をハードウェアに実装する組込みソフトではなく、開発した評価ボードが正しく動作するかをチェックするためのソフト、もしくは当社製I/O系IPコアのリファレンスドライバだからだ。
　ドライバ開発者以外にも、当社の業務にマッチするのは、半導体の設計に携わっていたり、半導体商社でデバイスを組み込んだりした経験のある人。またサーバの開発者なども、これまでの経験を生かせるはずだ。

スキルアップを常に考えている人かどうかをチェック

　資格そのものを重視することはないが、例えば「TOEIC700点取得を目指して、英語の勉強をしています」と書いてあれば、努力家なんだなという判断をする。つまり、スキルアップするために何をやろうとしているのか、どう努力しようとしているのかをチェックさせてもらう。
　当社の社風に合うのは、努力を継続できるタイプ。自分の世界に閉じこもり、周囲と交わらないという人ではない。当社では社内の風通しもよく、エンジニア同士の会話も多く行われている。明るく朗らかな人が合うだろう。自己PRやキャリアプランでは、仕事への前向きさ、組込みに携わる楽しさ、面白さについて書かれていると、好感をもつ。

モノづくりが好きという気持ちを伝えてほしい

　自己PRやキャリアプランは、それほど重視はしない。しかしハードウェアが好き、モノづくりに携わりたいという気持ちが伝わるような文章だと魅力的に感じる。大手メーカーなどに所属している制御・組込みエンジニアの場合、製品の一部にしか携われず、全体を見ることはない。当社に合うのは、製品開発の一部ではなく1～10まですべての工程を担当したいという人。開発はもちろん、最終製品のサポートまで携わりたいという思いが書かれていると、興味をもつ。
　例えば「ハードを生かしてこんな製品をつくりたい」という考えがあるなら、ぜひアピールしてほしい。当社のようにハードとソフトという組織の垣根のない会社では、そのような製品づくりに参加したいという気概のあるエンジニアを採用したい。

　今回取材した2社のように、ハードウェアに近いレイヤーのプログラムを開発する企業では、最もカギになるのが、どの程度までハードウェアの知識があるかだ。そのため、職務経歴書ではシステムの概要とともにCPUや開発環境、言語なども明記することが、重要になる。また制御・組込みといっても、組込みOSの上で稼働するアプリケーションを主に開発している企業であれば、ハードウェアの知識はそれほど求められない。例えば携帯向けのアプリケーションやDVDプレイヤーなどのGUI、ユーザーインタフェース部分の開発などでは、ビジネスアプリケーションの開発で求められるスキルはほとんど、変わらないからだ。
　また今回、制御・組込み系エンジニアに求められるスキルで特徴的だったのは、両社ともリーダー経験を問わないということ。ビジネスアプリケーションの世界では、リーダー経験の有無は採用を分ける重要項目だったりする。しかしイーソル、インベンチュアともに、リーダー経験を求めていないのは、プログラムの容量自体がそれほど大きくないからだろう。
　よりハードに近い制御ソフトを開発したいのであれば、ハードウェアの知識がある、モノづくりに携わりたいという気持ちをしっかりアピールできるレジュメを作成すること。それがいちばんのポイントだ。

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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ

制御・組込みソフトとひと口にいっても、いろいろなレイヤーがあります。今回の2社は、ハードの知識は不可欠でした。しかしイーソルでは制御・組込みエンジニアの人材不足が深刻化しているため、ビジネスアプリ経験者を組込みエンジニアに転身させるための支援も行っています。制御・組込み分野では、年配になっても現場第一線で活躍している人も多いといいます。生涯現役エンジニアを考えている皆さん、これを機にキャリアチェンジを考えてみるのもよいのではないでしょうか。