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バイオと言えば、医薬品や食品など、限られた業界のラボでひっそりと研究されている技術というイメージが強い。が、アメリカをはじめ世界各国では、既存のバイオ産業の枠を超えたバイオ研究ブームが巻き起こっている。 バイオに力を入れている主な業界は、前出の2業界のほか、エネルギー、化学、製紙、自動車、環境、電機、IT等々。市場規模も2006年には前年比13%増の5121億円(富士経済研究所調べ)と拡大傾向が続く。ブームの理由のひとつが、ゲノムやタンパク質解析といった基礎研究が進んで、応用分野である製品開発への移行が進んでいること。これまでにない新領域の成長もあり、今後は参入企業がますます増えるものと思われる。 |
アジア最大のバイオテクノロジーの見本市、国際バイオEXPOが今年も東京ビッグサイトで開かれた。開催は6月20日〜22日の3日間、参加企業・団体はおよそ600。ゲノム、タンパク質解析装置、生体培養・観察プラント、試薬、ラボラトリー設計、バイオ材料、サプリメントなど、多彩な技術が披露された。 |
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バイオはもはや特別な技術ではない 国際バイオEXPOは文字どおり、バイオテクノロジー全般の技術が集まる国際エキシビション。バイオというと医薬品開発が連想されるが、このEXPOでは創薬はあくまでバイオの一部でしかない。会場ではバイオ研究を進めるための設備、例えばゲノムやタンパク質などの解析装置、微生物などを繁殖させる培養装置、顕微鏡などのハードウェア、分子構造・機能予測シミュレーションソフトやデータベースなどのソフトウェア、バイオ研究や医薬品の創薬などに使う各種試薬など、多様な技術がお目見えした。 バイオは今や、電気・電子、化学、機械、ITなど、さまざまな分野のテクノロジーの複合体となっているのだ。 生物を細胞レベルに分解したり細胞自体を破砕する特殊機器、ホモジナイザーなどを出展した装置メーカー、マイクロテック・ニチオンの岩戸尚武氏は、「バイオ研究の急増に伴って、バイオ関連機材の需要は確実に増える。また、装置メーカーが新技術を提案することで、さらに新しい研究が可能になったりすることもある」と、バイオ研究と装置開発はお互いに需要を触発し合いながら成長していく分野だと語る。 今回のバイオEXPOで特徴的だったのは、バイオ研究のためのトータルソリューションの提案が多かったこと。従来はDNA塩基配列解析装置、顕微鏡など、機器単体の高性能ぶりが注目を浴びることが多かったが、今回はゲノム解析→タンパク質解析→クロマトグラフィーによるバイオ試料の分離精製……といった、バイオ研究全体の流れを考慮したさまざまな研究支援システムの展示が随所に見られた。 こうしたソリューションの提案が増加したことも、バイオ研究がもはや一部のラボのものではなく、さまざまな企業がチャレンジする普及技術へと転化していることを実感させる。 |
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バイオ研究向け機材は多様な技術の複合体 具体的な展示に話を移そう。展示に力が入っていた分野としては、まずバイオ研究の自動化、省力化のための機材。何百という試験管にバイオ試料をピコリットル単位で正確に注ぎ分け、それらを解析プロセスへと自動的に搬送する装置をはじめ、研究所のファクトリーオートメーションを実現する、極めて提案性の高い商品が多かった。 細菌や微生物などの培養・観察システムを開発したニコンの魚住孝之氏は、「バイオ研究向けの機材は、さまざまな技術の複合体。技術の組み合わせのパターンを工夫することで、これからも新しい商品を生み出す余地はいくらでもあると思う」と、バイオ関連機器の発展性の高さについて語る。 要素技術の分野でも高性能さを競う商品が多数展示されていた。オリンパス、ツァイス、キーエンスなどの顕微鏡、アプライド・バイオシステムズ社や日本バイオ・ラッド社などの最新鋭のバイオ研究用解析機器群、高度な分析を行うのに欠かせない分光装置では日本分光やサンインスツルメント……と、独自技術をもつ企業が多数名を連ねる。 研究開発用機材ばかりでなく、バイオ技術による最終製品を出展する企業も多数。政府系研究機関であるNEDOから民間会社として分離独立した日本アルコール産業は、自動車用燃料として世界的に脚光を浴びているバイオエタノールを利用した商品を展示。台湾のバイオ企業FEBICOはヒアルロン酸、破砕クロレラなど、女性に人気のサプリメントのデモを実施。また、水産加工業のニチロは、シャケから抽出した新しい分子構造のサプリメント成分を紹介していた。 1990年にアメリカで打ち出された、ヒトゲノム解析プロジェクトを契機に火がついたバイオブームは、基礎研究だけでなく商品開発への応用が大々的に始まるなど、新たな段階に差しかかっている。国際バイオEXPOは、そのブームの勢いを目の当たりにすることができる展示会だった。 |
「バイオなんて、自分にとっては縁の薄い世界」と思っているエンジニアは多いが、実際にはさにあらず。バイオ研究用機材、ラボ&ファクトリーオートメーション、バイオ製品など、研究から製品開発のさまざまなレイヤーで、多様なスキルが求められている。必ずしも分子生物学の専門家である必要はないのだ。人材需要も増加傾向を示しており、リクナビNEXTでは「バイオ」をキーワードに検索すれば、求人情報を多数ゲットすることができる。 求められるスキルはかなり多彩だ。解析機器開発で特にニーズが高いのはバイオ情報を読み取るセンサー類および周辺の設計経験で、バイオセンサー未経験でもOKという場合が多い。また、コピー機や投影装置における光源を含むオプティカル部分、デジタルカメラのイメージセンサーや画像エンジンなど、光関連の経験も大いに役立つ。分光装置関連のスキルを有する人材はジャストマッチである。 ラボ&ファクトリーオートメーションでは、他分野のFA、ロボット関連のメカトロニクス制御や機構設計全般の経験が求められている。分野は違っても自動化のプロセスは同じだからだ。また、極小の細胞を直接扱う機器の開発では、MEMSや超微細加工のスキルを生かすことができる。 バイオ系製品は一転して、ケミカル系のエンジニアにスポットが当たる。バイオプラスチックでは高分子化学、バイオエタノールでは醸造の知識があると転職しやすい。前者は化学メーカー、後者は酒造・食品メーカーのエンジニアが対象になるため、一般に考えられているより間口は広い。 また、解析装置やラボの実験装置で得られたデータを分析したり、データベース化するためのソフトエンジニアの需要があることにも触れておきたい。シミュレーションソフトのアルゴリズム設計、データベース設計などの経験は転職に有利だ。 バイオ系のイベントは大小さまざまに開催されている。一度足を運ぶと見方が変わること請け合いだ。 |
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