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我ら“クレージー☆エンジニア”主義! vol.3 天才脳機能学者、苫米地英人のエンジニア論
面白いことだけをやるために脱・「洗脳」せよ!
常識に縛られない異才・奇才が未来技術を切り開く。常識破り、型破りの発想をもったクレイジーエンジニアを紹介する第三回は、“聞くだけで彼女ができる”という謳い文句で話題になった『奇跡の着うた』の開発者としても知られる苫米地英人氏だ。世界を舞台に活動する脳機能学者の世界観とは。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己) 作成日:05.10.12
クレイジー☆エンジニア
脳機能学者 苫米地英人氏
 聞くだけで彼女ができる、胸が大きくなる……。そんなうたい文句の携帯着うたが登場、1週間で1万ダウンロードを超えるヒットを記録した。鍵になる技術は脳波のコントロール。開発者は脳機能学者、苫米地氏だ。オウム真理教事件で、信者たちの脱「洗脳」を手がけ、マスコミに登場した彼だが、もともとコンピュータ・サイエンスの世界では有名な人物だった。まだ日本で人工知能がほとんど知られていないころ、彼はエール大学大学院で人工知能の父と呼ばれるロジャー・シャンクに学び、その後、カーネギーメロン大学で博士号を取得する。5年に一人しか出なかった当時の同大学の計算言語博士号。もちろん日本人としては初の快挙だった。脳のプロフェッショナルの『頭脳』とは、どんなものなのか。
大学時代から同時通訳として活躍。通訳しながら辞書を引いていた。
 親父が銀行のニューヨーク支店長になった関係で、中学から高校にかけて2年半アメリカで過ごしましてね。わずか2年半でしたが、英語をかなりマスターしました。帰国後は高校生なのに年齢を偽って、予備校生に教えていたくらい。大学に入ってからは、同時通訳で有名な会社で仕事をしていました。アルバイトをやりたいと試験を受けたら、いきなり中級でやれと言われて。半年後には上級になって。大きな国際会議もたくさん行きました。医学会などは専門用語が連発されますが、東京から京都に移動する間、資料を読んでいると3000語くらいは新たに覚えちゃうんです。それでもわからない言葉は、同時通訳をしながら下を向いて辞書を引いていました。同業者には驚かれましたが、アルバイトでしたからね。

 高校時代、言語学者で有名なチョムスキーの理論に興味をもって、理系だったんですが、言語学を学びたいと思いました。それで大学で言語学を専攻したんです。高校時代から原書をかなり読んでいたので、日本の大学に行っても学ぶことはないよ、とアドバイスされていましたが、とりあえず、という感じでしたね。
デベロッパーに入社。フルブライト奨学生にトップ合格。
 大学を卒業して三菱地所に入りました。これは親父の命令(笑)。会社では、やりたい仕事を書けと言われて、「社長」と書いたら、ずいぶん怒られましてね。そうか、いきなりはやらせてくれないのか、と反省したりして。とりあえず、仕事をするか、と。会計と財務で2年間、働きました。手書きの帳簿を作ったり、日本企業で初めて無担保ユーロ円建普通社債を出したり。おかげで今もBS/PLが作れます。ただ、子どものころの夢は科学者で、やっぱり科学者になりたくなって、フルブライト奨学生に申し込んだんです。それで試験を受けたら、トップで合格した。2位は東大のお医者さんでした。

 エール大学に行くことは決めていました。三菱地所に勤務時代、丸善で洋書を買うのが好きで、『コグニティブ・コンピュータ』という本と出合っていたから。著者が、人工知能の父と呼ばれるロジャー・シャンクでした。普通は2年かかる修士課程を1年で終えて、さあ博士を、と思ったらロジャーが翌年、1年間の休みに入りましてね。こりゃ困ったと、ネットのメーリングリストを使いまして。「ロジャーの弟子だが、誰か呼んでくれ」と。インターネットがごく一部の軍関係者と研究者だけが使っていて、アルパネットと呼ばれているころです。それで、カーネギーメロン大学から声がかかったんです。
世界初の音声通訳システムを作り、CNNにも出た。
 今もそこのホワイトボードに、超能力の数学的定義をまとめていますが、研究者や教授に会っても、こういうのをやるんですよ。議論をふっかけて、「お前には教えることはもうない。単位をやるから、もう来なくていい」なんてよく言わせていました。ロジャーは、コンピューテーショナル・リングイスティックスにおいて、世界で最も有名な先生でしたから、いろんなチャンスに出合えましたね。僕はCNNにも出てるんです。世界で最初の音声通訳システムを作ったから。日本が国で取り組んでいた基礎研究所にも研究員として滞在していた時期もある。何億円ものマシンを買ってもらったりして(笑)。

 カーネギーメロン大学に移ってから日本にも人工知能ブームがやってきて、僕の書いたソフトをたくさんの日本企業がお金を払って買ってくれました。国の研究所からも依頼が来たんだけど、国の機関は個人から買えないから、と最初に会社を作ったのがこのころ。マッキンゼーにもビジネスメソッドを売り込みに行ったことがある。逆にリクルートされて大変でしたが。

 また当時は、よく学会で発表していました。アメリカ人工知能学会では、いつも一番前で僕の話を聞いてくれている日本人の集団がいました。それが徳島大学の教授と、ジャストシステムの研究者たちでした。
 
ブログ
 国会議員に防衛委員会で講義することもあるという苫米地氏。ブログもなかなか刺激に満ちた話が満載だ。とりわけ最新のIT技術やモバイル製品に関する情報は必見。ちなみに「ことえり」の開発者としても知られる彼。自分で何でも作ってしまうが、それを売ろうとかそういう気持ちはあまりないらしい。最近では、ビデオ版スカイプを作ってしまったらしいが、世界中にタダでばらまくとのこと。「自分で分野を作っちゃえば、いつでも世界一なんですよ。そういうつもりで好きなことに取り組めれば楽しい」。
http://blog.livedoor.jp/tomabechi1/
 人間の言語内部表現の認知モデルと計算手法に関する研究成果として博士論文を提出。全米でこの分野の4人目の博士となった。それだけに、大学はもちろん、IBMワトソン研究所、AT&Tベル研究所など、そうそうたる機関からのオファーが相次いでいた。だが、苫米地氏は、「田舎の大学とかで、のんびり教えたくなっちゃって」帰国。学会で出会い、熱心にアプローチしてくれた徳島大学を選ぶ。当初は、2年ほど日本にいて、アメリカに戻るつもりだった。ところが、ジャストシステムが基礎研究所を立ち上げるので、所長になってほしいという。「雇われ研究員よりも所長のほうが楽しいに決まってます。それでもう少し日本にとどまることにしたんですよ」。そんなとき、彼を襲ったのが、オウム事件だった。
洗脳現象は、脳機能という要件の中で明らかに説明がつく。
 人工知能って、人間の頭の中をまねるコンピュータです。ならば、まねるものがわかっていないと、とロジャーに命令されて、僕は早くから脳機能の研究も進めていました。脳の研究は今やfMRIが重要なツールですが、当時はそんなものはない。それで、心から脳を知るしかないと退役軍人病院などで臨床心理をやっていたんです。これに僕はハマりまして、脳については相当知識をもっていました。

 ジャストシステムで所長をしていたころのある日、テレビでなつかしい顔を見かけることになりました。上祐史浩という人物です。僕は中学時代にアメリカでディベートを始めて、ディベート専攻で留学もしていました。それで大学時代、日本の大学のディベートリーグのすべての顧問をし、全大会の審判委員長をしていたんです。だから全員が、教え子みたいなもの。そんな上祐が深みにはまったのがオウムだった。僕は興味をもって、オウムの洗脳について個人的に調べていたんです。そんなとき、電話がかかってきたんですよ、公安から。信者の脱「洗脳」をやってくれないか、と。

 脳機能という要件の中では、洗脳現象というのは明らかに説明がつくんです。だから脱「洗脳」も説明がつく。次から次に、あてがわれた信者を脱「洗脳」していきました。ただ、僕が脱「洗脳」を手伝ったのは、公安が連れてきた人間だけであって、それはあくまで科学的な興味があったからです。純粋なボランティアで信者の洗脳をするにも限界があります。そしてあるとき、オウムの洗脳は完全に理解できた。そうこうしているうちに、日本を離れられなくなってしまったんです。
おそらく世界で唯一の脱「洗脳」のエキスパートになった。
 今も、人工知能に関するさまざまな研究や国の研究機関のお手伝いなどをしていますが、オウム事件によって、僕はおそらく世界で唯一の脱「洗脳」のエキスパートになっちゃったんです。実際、今もいくつかの政府の顧問をしています。対テロリスト対策です。テロリストのシンパを軍人や政府関係者に作らないようにする訓練プログラムを作っている。世界の誰よりも完璧に、洗脳を知っていますから。

 人間のもっているリアリティーというのは、もろいんですよ。それをほんのちょっと狂わされると、ヤバイことになってしまう。それをどう守り、防ぐか。心のファイアーウォールを脳に作ることが大切になる。そもそも洗脳というのは、第三者の利益のために行われている行為なんですね。一方で、自分のために行われている行為は、教育と呼ばれている。実はやっていることは同じなんです。

 では、教育は正しいのか。実際、人間の自我は親による洗脳と、小学校の先生による洗脳が大きな影響を及ぼしている。実はとんでもない洗脳を受けている場合もあるわけです。これをはがして、自分で判断できるようにしていくことも重要になる。実際、こういう刺激をすればこうなる、という理論ができていますからね。

 著書の『大好き!今日からのわたし。』や『奇跡の着うた』で、モテるようになる、胸が大きくなる、と言っているのも、私としてはちゃんとした理論があり、スーパーコンピュータをぶん回して作った音源があるわけです。最近では、イタリアとかからもメールが来るんですよ。苫米地さんのサイトで、本当に胸が大きくなったって。でも僕、イタリアでライセンスしてないんだけど(笑)。今後は、世の中から「戦争」や「差別」の概念を消したい。消さないと、なくならないから。
奇跡の着うたって?
 
 脳機能音源によって「彼女ができるようになる」「胸が大きくなる」といった効果をもたらす理論を彼は「発明」したという。人間の認知の深いところ、前頭葉の一部分、前頭前野の一番芯のところに直接、刺激を与える。そうすれば、脳を活性化させていくことができるらしい。わかりやすくいえば、「自分のための洗脳」である。
本
 
 オウム信者の脱「洗脳」の経験などから『洗脳原論』『洗脳護身術』などの著書を持つ苫米地氏だが、近著は監修した『大好き!今日からのわたし。』。着うたが、脳への刺激なのに対し、こちらは、すり込まれた思い込みを脱「洗脳」するものだという。思い込みをはがすことによって、もともと持っていた可能性を解き放つのだ。
今、面白いことやってるのは、アメリカ人だけ。情報的植民地から独立しないと。

 新しいものを生み出していない、つまり誰かが生み出したものをエンコーディングする人は、僕はエンジニアとは呼ばない。やりたいことがあるのにやっていないなら、コンビニでアルバイトしたほうがマシです。そのうえで好きなことをやる。そういう人が増えないと、日本の産業界は暗いと僕は思う。「オレは何かを生み出している、研究所にいる」という人も、入社から3年たったらタダの人になっていると思ったほうがいい。生み出している気になって、何も生み出してないから。僕が国の基礎研究機関で言われたのは「特許を取ってください」だった。バカ言ってんじゃない。特許が切れる15年以内に実用化させられるものを基礎研究とは呼ばないんです。そんなの、ただの応用研究です。

 会社の役に立つとか、世の中の役に立つとか、そんなことを考えたらダメなんです。面白いからやる、じゃないと。面白いことだけをやってる人が未来を作るんです。あとはついていくだけです。そう考えると、今は悲劇的状況にある。先端のコンピューティングもモバイルも、アメリカが独走している。しかも、機器は中国製や日本製だったりする。要するにアメリカ人は考えるだけ。この情報的植民地状態から早く独立しないと。そのためには、利益がどうとか、特許がどうとか、ほざいてる場合じゃない。とにかくエンジニアが面白いことをやらないと。面白いと思っているパワーには、絶対にかなわないんだから。好きなことをやれば、すごいことができるんだから。それを絶対に忘れちゃいけないんです。エンジニアは。
ギター
 
取材をさせていただいた苫米地氏の部屋には、ギターなど音楽機材がずらり。自ら作った曲に、スーパーコンピュータを使って構築した脳を刺激する音源を挿入し、ライブを行うこともあるとか。現在制作が進んでいるある映画でも、脳機能音源を効果として入れることを考えているという。
苫米地英人氏 profile
苫米地英人(とまべち・ひでと)
脳機能学者
1959年、東京都生まれ。マサチューセッツ大学コミュニケーション学科ディベート専攻を経て、上智大学外国語学部英語学科(言語学専攻)を卒業。三菱地所に2年間勤務し休職。エール大学大学院計算機科学科・人工知能研究所と認知科学研究所で助手を務める。87年にカーネギーメロン大学に移籍(専攻は計算言語学)。同大学機械翻訳センター研究員、ATR自動翻訳電話研究所滞在研究員。その後、博士論文(哲学)提出。93年、徳島大学知能情報工学科助教授。95年、ジャストシステム基礎研究所所長。98年に退社。現在、コグニティブリサーチ・ラボ基礎研究所所長。
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 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
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何年前になるのでしょうか。苫米地さんのあるイベントでの講演を聞き、もう一度お話を伺ってみたいと思っていたのが、この企画で実現しました。取材時間はゆうに4時間! でも実は、苫米地さんのエンジニア人生はすべて聞けていない気がします。なんとかもう一度取材したい。そう密かに企んでます。
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