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4カ月休日ナシ+月間残業300時間からの脱出

苛酷な労働から、転職で普通の生活を取り戻したI・Aさん(28歳)

新卒入社した会社で待っていたのはエンジニアの仕事というよりも、体力と気力の限界に挑戦する修業のようなものだった……。そこでIさんはエンジニアらしく、自分の技術が生かせる道を確実に選んで転職を模索した。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田せいめい)作成日:04.09.22

キッカケ編
あまりに苛酷な労働環境に絶句。現状打破のため、模索しながら見えてきたものは

このままでは過労死? 1日20時間勤務の連続

 直属の上司が出社拒否をはじめて、もう何カ月になるだろう。そのせいでどれだけ迷惑したことだろう。でも、彼の気持ちは痛いほどわかる。むしろ常識的な人間なら出社拒否症になって当然だと思う。自分もいつキレてしまうかわからない。明日か、明後日か……。

 地元の大学を卒業して入社したのは、メーカーA社。長引く平成不況の折、国立大といえども、就職難には変わりなかった。そこで得た有名企業への内定、しかも希望のソフトウェア開発職だけに当時は心が躍るようだった。特に両親に喜んでもらえたのがうれしかった。

 ところが、実際に配属された東京近郊の開発拠点での勤務は、夢や希望を打ち砕く環境だった。まず第一に、一人にゆだねられる開発量がとてつもなく多い。そして、だれもそのことに異議を申し立てず、ズルズルと深夜までかかってやり遂げる。裁量勤務制度が悪循環に陥った典型だ。どれだけ残業しても建前では本人の意思によるものだから、管理職も改善しようとは思わない。

 もっと悪いことは、効率のよい開発環境を整えて、メンバーを早く帰宅させようという意識が上司連中にまったくないことだ。不採算部門であり、本社に頑張っていることを勤務時間の長さでしかアピールできないため、苛酷な勤務を何とかしなければという意識は、意図的に放置されたのだった。会社の隣にある寮への帰宅は深夜どころか、早朝4時というとんでもない時間が当たり前になっていた。残業時間をカウントしたとすれば、月の平均は軽く300時間を超えるだろう。さらに休日も1年間に10日さえなかったのではないだろうか。(編集部注:I・Aさんの話はほぼ事実だが、I・Aさんが配属されていた部門の労働環境は、A社全体の中では極めて異端なものだったようである)
PROFILE
大手電機メーカー
ソフトウェアエンジニア
I・Aさん(28歳)

1997年に地元の国立大学工学部を卒業。専攻は電子工学。
I・Aさんの転職活動DATA
前勤務先 大手メーカーA社
ソフト開発エンジニア
転職した時期 2001年 10月
活動期間
(決意〜内定)
約1年6カ月
転職理由 苛酷な労働環境から抜け出したい
会社選びで優先したこと 勤務時間、仕事内容
実際に応募した社数 5社
内定社数 2社
落ちた社数 3社
辞退した社数 1社

応募からの日数
 B社:外資系コンピュータメーカー
 C社:外資系コンピュータメーカー
 D社:大手電機メーカー
 
B社
C社
D社
1次
面接
7日
7日
10日
内定
不合格
14日
(内定辞退)
内定

転職という選択肢に気づく

 もう半年近くも休んでいないと気がついたある日、ふと「転職」という言葉が浮かび上がった。なぜもっと早く転職活動に着手しなかったのだろうと思われるかもしれないが、当時は転職することが現実逃避ではないかという罪悪感があった。

 両親も入社を喜んだ、世界的企業を辞めるという背徳感。共に苦しんでいる同僚を見捨てるような気持ち。上司が退職を認めてくれるはずがないという不安……。それらが混ぜ合わさって、転職という選択にフタをしていたのだ。でもいったんそのフタを取り去ったら、転職への強い意志がわき起こった。
転職準備編
超多忙な状況の中で、ネットをフル活用

勤務中に抜け出せないので、ネットで活動開始

 “さあ転職だ。”そう思ったのはいいが、電話で問い合わせたり外に出て動き回る時間はない。ほかの転職活動者と違って、休日も動けないのだ。それだけに、インターネットがあってつくづくよかったと思う。24時間、いつでも情報収集ができるのは便利だ。
 限られた自由時間で効率的に転職活動をしたい、と考えながらネットにアクセスしていたあるとき、転職の仲介業者にたどり着いた。「本音で何でも書いてください」 というコピーに甘え、5〜6社の応募フォームにあれこれ書いて登録した。

 すると、翌日に、登録した仲介会社の1社からメールが届いた。そこには「もっと人生を楽しく生きてもよいのではないでしょうか。愚痴でもいいからお話をお聞かせください」と書いてある。自分を応援してくれる人がいると思い、うれしくなった。
 そのころ、少し前に転職を成功させた先輩と会う機会があった。驚いたのは会社にいたころと雰囲気がまったく違っていたことだった。目の下にクマがない!
活動編
「お金・人間関係・仕事の面白さ」、人生を楽しむための転職を求めて奔走

ヘッドハンターG氏との出会い

 その後、仲介会社のG氏とメールを重ねていった。近くまで足を運んでもらい、会ってみると誠実そうな人だった。この人にすべてを任せようと思った。その彼のアドバイスは、お金・人間関係・仕事の面白さの3つのうち、最低2つは改善できないと転職すべきではないというもの。そして「人生は楽しまなくちゃ」という言葉に勇気づけられた。
まずは1勝3敗

 G氏は、どういう会社、どんな仕事に興味があるのか聞いてきた。そこで組み込みソフトの開発に自信があることと、外資系に入りたいと返答した。G氏は外資系は合いそうにないのでお勧めしませんが……と言いつつ、紹介書類を出してみましょうと言ってくれた。確かに外資系を希望したことに、さして深い意味はなかった。そのあたりを見透かされていたのかもしれない。

 そこから1カ月の間、G氏は奮闘してくれた。世界的なメーカーばかり外資系4社に紹介書類を提出してもらい、2社が書類選考で通った。そのうちB社は1次面接で不合格。C社は、なんと内定をもらった。もう、すぐにでも転職したい気分だ。ところがG氏が言うには、例のアドバイスに照らし合わせると決して良い転職ではないらしい。「待遇と人間関係が改善されそうにもないから、決してよい転職にはならないかもしれない」とのこと。ひとまず彼の意見に従って、辞退することにした。
冷静になって志望企業を選択

 G氏に、もう少し客観的に自分の希望を整理してみたらどうかと言われ、冷静になって考えを重ねた。そこで明確になってきたのが、コンシューマ製品に携わりたいということと、デジタルビデオやDVDレコーダーなど映像系の製品の開発をやってみたいということだった。自分が開発にかかわった製品を、店頭で見てみたいという思いがわき起こったのである。

 そのことをG氏に伝えると、さっそく動いてくれた。半月後に紹介されたのは、世界的な画像・映像機器メーカーD社だった。それを聞いたときに、かなりの強い気持ちで、行きたいと思った。D社は技術力に定評がある。何より特許の申請件数や取得件数では世界有数の企業なのだ。実はA社で特許の回避にえらく苦労したので、特許に強い企業というだけで意欲は倍増した。

 親戚が重病とウソをついて会社を抜け出しD社を訪問すると、いきなり役員面接だった。今の仕事内容、D社への志望動機など、ごく普通の質問に答えただけだった。感触はよくなかった。
 ところが10日後にG氏から「内定取れました!」との電話。半信半疑だったのだが、その晩(朝?)寮に帰ると内定通知の封書が郵送されていた。後日、G氏に聞いたところ、自分の市場価値は案外高いものらしい。
辞めるのに一苦労

 これでメデタシ、メデタシではなかった。A社が辞めさせてくれないのだ。辞表を提出しようにも、部長は取り合ってくれない。それから部長や課長に無視される日々が続いた。そこで労働組合にかけ込んで仲裁を頼んだ。ようやく退社の了解をもらえたのは、D社の内定から3カ月後のことだった。

転職活動考察

 現在、D社でようやく人間的なエンジニアライフを送っている。何より生活が変わった。残業は5分の1になった。土日は完全に休み。休日出勤は年に数回もない。仕事面でも大満足だ。希望だった映像系製品の開発に従事し、かかわった製品を街中で見て開発担当者ならではの充実感を味わえた。予想したとおり特許の回避で苦しむことも少ない。

 それでも、日々の業務の中に多少の不満は芽生える。それは開発の方針の相違だったり、特許申請に時間を取られることだったり。そんなときは、A社を首尾よく辞められた元同僚たちと飲むに限る。昔の苦労話を語り合ううちに、現状の不満がなんと些細なものであるか思い知らされるのである。

 G氏の「お金・人間関係・仕事の面白さ」という3つの切り口で転職先を選択するというアドバイスは、転職活動時の私には当てはまらなかった。どこに行っても納得できたはずだからだ。まっとうな会社に所属する今だからこそ、的を射ている判断基準だと実感している。
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