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大借金エンジニアの転職踏み切りテクニック
「ローンや借金があるから」と転職をためらう人は多い。だが一方で、それでもあえて転職に踏み切ったエンジニアも存在する。彼らのお金、キャリア面での思惑や戦略とは? また経済的リスクを抑えて賢く転職するノウハウとは?
(取材・文/長谷川恵子 総研スタッフ/木下ミカエル) 作成日:03.08.27

THANKS! 「昨年、家を買ってしまいました。転職したいけど、ローンがあるとやっぱり無理かな……と踏み切れないでいます」(tomesanさん・33歳)といった声からこの企画は生まれました。
Part1 本邦初公開 エンジニア版「借金白書」
3人にひとりが「借金残高1000万円以上3000万円未満」
 そもそも、エンジニアの借金の実態やいかに!? Tech総研では、20代後半〜30代のエンジニア300人を対象に本邦初!?の緊急調査を実施した。

  まず、借金の有無については、約半数(47.3%)が「あり」と回答(Q1)。借金があると答えた人のうち、ほぼ3人にひとり(33.1%)がローン残高「1000万円以上3000万円未満」だった。調査対象が30代までということが関係したのか、最も多額の層で「3000万円以上5000万円未満」が10%弱(9.9%)(Q2)。彼らの世帯年収はまちまちで借金の残高との関連性は見られないようだ。やはりというか、借金があると答えた人のうち全員が住宅ローンを抱えていた。

 では、気になる借金の中身は。1位は「住宅」、2位は「自動車」、3位は「趣味のもの」(Q3)。変わったところでは「交際費、ギャンブル」(33歳・汎用機系システム開発・借金残高300万円未満)、「知人の借金の肩代わり(33歳・Web・オープン系システム開発・借金残高1000万円以上3000万円未満)という回答もあった。
「借金は転職を妨げる」と思っている人は半数以上
 次に「借金と転職」に対する意識だが、半数以上(55%)が「ローンや借金が転職を妨げる原因になっている」と感じている。これは借金のある人でもない人でも共通して、ほぼ同じ割合だった。

 その理由としては「転職後の収入に不安」(29歳・パッケージソフト開発・借金残高1000万円以上3000万円未満)「万が一今の収入より下がったら、または転職がうまくいかず仕事を失ったら、と思うと踏み切れない」(36歳・汎用機系システム開発・借金残高3000万円以上5000万円未満)という声が大多数を占めた。
 転職後も現在の収入を維持できるか、安定して働き続けられるかという不安が、借金を抱えての転職に二の足を踏ませるようだ。

 しかし一方で、それでも転職に踏み切ったエンジニアも数多くいる。Part2では、リスクを無視した「単なる勢い」での転職ではなく、キャリアや金銭的リスクを考えて転職を決断したエンジニアのケースをみてみよう。
Part2 転職に踏み切った「借金ありエンジニア」の思惑とは?
今はよくても、このままでは将来の給与は頭打ち?
 僕が転職を考えたのは、社内システムの開発という仕事に行き詰まりを感じたためでした。今のままでは社外でどの程度通用するのかがわからないし、将来の選択肢も広がらない。例えば3年先に転職を思い立っても、有利な条件でできないかもという不安がありました。

実際、30代後半でソフトハウスに転職した同じ部署の先輩は、給与の交渉をしても3%アップがやっとだったようです。一方、最近社内では成果主義が導入されたばかりで、ほとんどの人が給与減額になるという噂も広まっていました。年収減の可能性大、仕事内容にも不満足、将来性もないではなんだかなあという感じでした。
妻と話し合い「年収50万円アップなら転職OK」と決めた
 妻には、会社に成果主義が導入された話をしながら「今のうちにスキルが身につく環境に移っておかないと、給料が下がったまま身動きがとれなくなりそうだ」と転職の話を切り出しました。
 すると「転職するなら今より給与の高い会社にしてほしい。今年は下の子が幼稚園に入園するから、入園料と保育料だけでも年間10万円近くかかるし、それ以外の経費も考えると年間20万円ぐらいは支出が増える。小学3年生の上の子も塾に入れるかもしれないし」との答えが返ってきました。

 そこで現状の年収維持+子どもの教育費分は確保するという形で話をつけたんです。年収の最低ラインは650万円とおき、これを踏まえて活動しました。

 周囲には「ローンがあって子どももいるのに勇気があるな」と言われました。でも僕は、先のことを考えると、もっとクライアントとの交渉やコンサルティングなども含めた幅広い経験を積み、35歳までに金融系SEとしてのノウハウを蓄積することが、ローンを返済できる年収を確保する上でも必要だと思ったんです。
● M・Hさんが考えた、今後3年間のローン返済+キャリアシミュレーション
転職しなかったら? 転職したら?
現在の残高
と返済額(年)
3000万円(年130万円) 3000万円(年130万円)
3年後の残高
と返済額
良くて2610万円
(年130万円維持できないかも)
2600万円以下?
(年140万円に繰り上げる?)
3年後の年収
見積もり
良くて570万円
モチベーションDOWN、スキルアップできない状態を放置するため3%以上は下がりそう
650万円(良ければ670万円)
「670万円」は、モチベーションUP、スキルアップによる3%昇給分を転職の際の希望年収(650万円)にプラス
3年後の
キャリア
社内では頼りにされ続けるかもしれないが、金融系SEとしてプロになりきれないまま 顧客との折衝から金融系SEとしてのノウハウ(コンサルティング能力など)を身に着けているはず
転職先は仕事内容もいいが、年収が100万円ダウン
 転職前は、多忙を極めていました。いくつものERP導入プロジェクトを抱えて、残業時間は毎月160時間以上。子どもが生まれてからも家族と過ごす時間はほとんどなく、このままではすり減ってパフォーマンスも下がり、年棒減になると感じるようになりました。

 ちょうどその2,3カ月前から、大手だけではなく、中小企業を対象にしたERP導入経験も積みたいと感じ始めていたところだったので、生活スタイルとエンジニアとしての立ち位置を見直すいい機会になると考えるようになりました。
 転職活動を始めて「ここなら」と思えたのが今の会社です。主要顧客も大手1、中小2の割合で、残業時間も減る。しかし、前の会社より10%以上給与水準が低く、自分の年齢で中途採用1年目では800万円が限度とのこと。
収入が減るなら、支出も減らせばいいのでは?
 残業が減ると聞いて喜んでいた妻も、年収が100万円ダウンしそうだと言うと、「とんでもない」という感じでした。「それでは今の生活レベルを維持できない」と言うんです。

 でも今の状態が続くと、自分も、家庭もかなり危機的な状況に陥る確立が高い。しかも、前の会社はいらない社員は「即、退社」ですから、自分自身が消耗しきって業績が落ちれば、年収100万円減どころか失職する可能性もある。だから転職という形で手を打っておくべきだと考えていると伝えました。

 問題は、100万円減る分をどう乗り切るかということです。まず私自身、これまでにストレス解消のための飲み代も含めて小遣いと別に月10万円も飲食費を使っていたのを見直すことにしました。住宅ローンの軽減はできないものの、「車を国産車に買い換える」「数種類入っている保険を整理する」「レジャー費を見直す」などの方法で試算してみると、生活費も年間80万円は支出を減らせるとわかり、最終的には妻にも納得してもらいました。
● T・Dさんが考えた、今後3年間のローン返済+キャリアシミュレーション
転職しなかったら? 転職したら?
現在の残高
と返済額(年)
3200万円(年180万円) 3200万円(年180万円)
3年後の残高
と返済額
2???万円〜3???万円(年???万円) 2600万円以下(年180万円)
3年後の年収
見積もり
良くて800万円or 0円?
消耗しきって業績出せず、100万円減で済まない(リストラ?)かも。
800万円
心身ともに健康になり、うまくいけば昇給もアリか?
3年後の
キャリア
憔悴しきってパフォーマンス出せず。今後のERPコンサルとしてのキャリアどころではない。 大企業だけでなく、今後注目される中小企業への導入経験も積み、ERPコンサルとして成長できるはず
Part3 「借金エンジニア」の転職踏み切りテクニックはコレだ!
 借金やローンを抱えながら転職に踏み切る際の戦略とは何か。「お金」についてはファイナンシャル・プランナーの伊藤宏一氏に、「キャリア」については人材コンサルタントの清野義則氏にポイントを伺い、まとめてみた。
1. 安定企業 = 安心は幻想。今の会社にいるリスクを換金化しておく
 「ローンを抱えて転職するのが不安という人には、何よりも生活基盤の安定が失われることへの恐怖感があるんだと思います」と人材コンサルタントの清野氏は分析する。
 「しかし、混同されがちですが、今勤務している会社が安定しているからといって、自分のポジションも常に安定しているとは限りません。同じ優良企業で机を並べて働いているAさんとBさんに同じ市場価値があるわけではないんですから。社内での価値を考えてみてもそうでしょう」
絶対的な安定が見込めないとすると、今の会社に居続けることでのリスクは、いくらなのか。1年後、2年後を試算してみよう。
2. 1年後の運用を目標に、みずからの「無形資産」を増やす
 ファイナンシャル・プランナーの伊藤氏は、「アメリカでは、1978年時点では企業の有形資産が83%だったのに対し、98年になると31%と激減しました」と指摘する。「残りは、知的所有権やソフトウェア、ブランドなどの無形資産です。つまり、これからは個人のスキルや能力が資産になる時代なんですよ」
 まずは1年後を目標に、でもいい。自分自身の無形資産を増やし、いざというときに運用できる状態にすることが、金銭的なリスクに対する大きな備えになりそうだ。

3. 面接時の給与交渉は「必要年収」で臨む
 面接で希望年収を伝える際「なんとなくこれぐらいで…」と曖昧な態度で臨むと、先方の言いなりになってしまい、結局ローンが返せないということにもなりかねない。
 そこで、改めて本当に必要な年収を考えてみよう。ファイナンシャル・プランナーの伊藤氏によると、ほとんどの人の家計費にはムダがあるそうだ。
 「例えば生命保険などの保険料は年収の10%以下が妥当で、10%を超えていたら見直しが必要。ローンも、借り換えや、場合によっては返済期間の延長(ただし適用基準があるので注意)で調節することが可能です」
 必要年収を把握しておけば、給与の交渉にもはっきりした態度で臨めそうだ。
 
     
 
【番外編】これから家を買う人は必見!
ファイナンシャル・プランナー直伝「住宅ローンのツボ」
   
   
伊藤宏一氏
○プロフィール
1953年、東京都生まれ。株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役、ライフプラン倶楽部代表・税理士・法政大学講師、CFP。日本FP協会理事・教育委員長。テレビ出演、雑誌連載、著書も多数。
資産運用のプロ、ファイナンシャル・プランナーの伊藤宏一氏に、ローンを組む上での法則を教えてもらった。もうローンを抱えている皆さんには周知の事実だろうが、これから…という方にはご参考までに。

■額面85%の法則
 まず、自分たちがどれくらいの生活費を使っているかを出しておくこと。そのときの基準になるのは手取り年収(可処分所得)だ。手取り年収は年間収入(額面)から社会保険料と税金を差し引いた金額だが、目安としては、額面の85%が可処分所得(=手取り年収)と考えてよい。例えば年収800万円なら、800万×0.85=680万円前後が手取り。ここから年間の貯蓄額を差し引いた金額が、年間の生活費ということになる。

■年収の20%以下の法則
 手取り年収に占めるローンの割合も重要。これは20%以下に抑えるのが常識で、上限でも25%。30%以上だと家計を圧迫し、40%を超えるとほぼ破綻するといわれている。年収800万円、手取り年収680万円の場合、ローンの年間返済額が680万×0.2=136万円程度におさまっていれば安心だ。転職する場合、ボーナスを当てにするのは危険なので、毎月均等に返済するつもりで見積もっておくこと。
 
     
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木下ミカエル(総研スタッフ)からのメッセージ
木下ミカエルイメージイラスト  今回は、「キャリアプラン」×「マネープラン」というテーマを取り上げました。ご登場いただいたエンジニアの方たちは、今の会社にとどまった際のリスクを換金化していたのが印象的でした。あなたの場合はどうですか?

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