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派遣先半導体メーカーで獲得した技術を転職の武器に
世界レベルの微細加工技術に挑戦 凸版印刷・半導体技術者
ここ数年、トッパンのエレクトロニクス分野は伸長著しい。その主力商品のひとつが半導体関連製品。チップ製造に不可欠なフォトマスクの微細化技術は、世界トップクラスだ。今回は、マスクプロセス技術者の応募を取り上げる。
(取材・文/須田忠博 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:03.08.20
THANKS! 派遣・契約社員として働くエンジニアが増えてきました。しかし、派遣先・契約先企業で「技術力が高められない」「重要な仕事に携われない」などの悩みも耳にします。その分岐点に立ったエンジニアの、技術力と転職事情を紹介します。
TOPPANphoto
応募したエンジニア 企業の面接担当者
古溝さんphoto
古溝 透さん(当時26歳)
林さんphoto
エレクトロニクス事業本部 新商品開発本部
技術企画部 技術教育チーム
課長・チームリーダー
林 理氏
当時の職種 半導体マスクプロセスエンジニア
募集職種 フォトマスク関連技術者
業務の内容 本位相シフトマスク製造プロセスの開発(ドライエッチング条件の最適化、マスク解析など)
仕事内容 半導体用フォトマスクのプロセス技術開発・改良、評価
職務経歴 大学卒業後、技術者派遣会社に入社。半導体メーカーへ派遣され、マスク製造プロセス開発を3年経験
応募資格 半導体リソグラフィー、フォトマスクの開発、製造技術、材料に関する経験・知識など
志望動機 派遣先で蓄積した位相シフトマスクのプロセス開発技術を生かし、さらに伸ばしたい
募集背景 エレクトロニクス事業を強化するため、2000年から経験者採用をより一層増大させた
人事部が検討のうえ、希望職種の部署および関連部署へ書類を回す。選考は各事業部の技術開発本部長が行う。 エレクトロニクス事業本部 技術部門の部長クラス、課長クラス、人事担当者の計3人が面接。時間は1時間弱。
【通過率:約5割】
本社 人事部長、採用担当課長、技術本部の部長クラスの3〜4人が面接。平均40〜50分。別途、適性検査あり。
【通過率:約7割】
内々定後に処遇面などを確認し合い、正式の採用内定とする。
Part1 志望動機・転職理由

勤務先の事情から、今後は開発業務に携われない
林:
(多少の雑談のあと)それでは面接を始めさせていただきます。

 【Point1】まず、凸版印刷への志望動機。それに併せて、転職を望む理由。そのあたりを簡単に聞かせてください。
古溝:
 志望動機は2つあります。ひとつは経験です。私は派遣技術者として今の派遣先で丸3年働いていますが、この間に培ってきた仕事の経験は、そっくりそのまま御社で生かすことができます、と同時に今の職場で出来なかったことが出来ると思います。もうひとつは、今の職場で御社と技術交流があり、御社の技術力の高さに興味を感じてきたからです。

 一方、なぜ転職したいかと言いますと、在籍する派遣会社が大手派遣会社の傘下へ入ることになり、派遣のシステムが変わるからです。今後は、個人の技術レベルに合わせた職場への派遣ではなく、派遣元会社が技術レベル付けをされて、派遣先企業が決められます。
 残念ながら当社の社員は、開発部門へ派遣された場合も、主体的に動ける開発業務には就けないことになりました。これは私ひとりの力ではいかんともしがたく、転職を決心するに至りました。
林:
 当社のフォトマスク部門と技術交流があるということですが、技術的に当社のよいところはどこだと思いますか?
古溝:
 
技術報告などのときのデータ量が多いところと、隅から隅まで技術上の目配りをして、ポイントをしっかり押さえているところです。プレゼンを受ける際にも感じられますし、質問して返ってくる答えにもそれはうかがえます。
Point 1
[面接官] いつでも志望動機や転職理由から尋ねるわけではありません。自己紹介をお願いしたり、職務経歴の説明を求めたり、面接の出だしはさまざまです。ただし、志望動機と転職理由は面接のどこかで必ず質問します。志望動機では当社に対する思い入れ、転職理由では人物面でのマイナス要因に注目します。
[応募者] この第1次面接を受ける前に、半導体メーカーですが、他社の面接を一度受けていました。初体験のうえに緊張のしっぱなしで、答えはボロボロでした(笑)。ただ、結果的にそれが予行演習になったようです。凸版印刷の面接では、質問内容がある程度予期できましたし、答えの準備もできていました。
面接photo1
Part2 現在の仕事内容・得意な技術

派遣先企業で行った正真正銘の開発業務
林:
 現在の職務は具体的にどういうものですか?
古溝:
 普通のマスクよりも超解像を得られる、位相シフトマスクの主担当として、プロセス開発に携わっています。特にドライエッチング条件の最適化を、直交配列(実験計画法)などを用いて行ったり、出来上がったマスクを解析したりしています。
林:
  【Point2】「主担当」という表現がありましたが、何人程度のグループで、どういう役割分担になっているのですか?
古溝:
 マスク開発グループは全部で10人程度です。その中で、レベンソンマスク製造プロセスの主担当になっているのは私ひとりです。
林:
  【Point3】派遣先の半導体メーカーの中では、どんな立場になっていますか?
古溝:
  【Point4】正社員技術者と分け隔てなく扱ってもらっています。例えば、他社との打ち合わせで、「うちの主担当です」と紹介されます。学会発表や特許出願にしても、私の名前で行える環境です。

レベンソン位相シフトマスク製造技術の技術レベル
林:
 古溝さんがセールスポイントになると考える技術スキル、またはアピールしたい仕事上の成果を挙げてください。
古溝:
 成果としては、ドライエッチング条件の最適化によって、現状プロセスにおける位相シフトマスクより、数段よいものに改善できたことです。その内容は学会で発表しました。これとその他の関連業務から、今までに計7件の特許を出しています。
林:
  【Point5】ドライエッチングの条件を設定するものとして、普段はどんなパラメータを操作していますか?
古溝:
 主に真空度、RFパワー、ガス種をインプットパラメータにし、直交配列(実験計画法)に基づいて実験を行っています。アウトプットパラメータには選択比、エッチングの面内均一性と側壁形状などを取ります。
 私の実験の結果、ガス種に関しては、○○ガスの添加により、アウトプットパラメータを向上させる効果があると確認できました。それを学会に発表し、特許出願したのです。
林:
 どんな装置で設定し、データを取っていますか?
古溝:
 エッチング部はSiO2用のRIEドライエッチャーで、ガスはフッ素系ガスを使っています。データは主に位相差測定装置と段差測定装置です。

半導体メーカーだからこそ経験できた比較検証
林:
 職務経歴書には、「外注した0.10μmレベンソン位相シフトマスクのSiO2欠陥解析を行い、シミュレーションの結果と比較検証を行った」という記載があります。これは、具体的にはどんな作業でしたか?
古溝:
プログラム的に欠陥を盛り込んだパターンでマスクを作成し、それをもとにしてどのような欠陥になって現れるかを、物理的な面と機能シミュレーションの面から比較検証しました。
 私は物理的な面の解析を担当し、SEMによる欠陥のサイズ配置測定、AFMによる欠陥の段差測定、さらにはウエハー転写シミュレーション装置を使って、どの高さの欠陥がウエハーに転写されてしまうかの解析を行いました。
 【Point6】この結果を、別の担当者が行った機能シミュレーション解析、つまり実際にウエハーへ焼き付けたものの解析結果と比較して、整合性を検証したのです。
Point 2
[面接官] この質問の意図は横との関係、下との関係を推測することにあります。現時点において、どのくらいの規模の組織でチームワークができ、何人程度のメンバーをコントロールできるのかを知りたいのです。
Point 2
[面接官] 派遣技術者の技術力判定は、慎重にならざるを得ません。開発業務に就いていたといっても、開発の補助的業務だったというケースが少なくないからです。例えば、データを取って分析するだけの業務などです。
[応募者]一般的に派遣技術者は、不利な評価をされるとは思っていました。ルーチンワークだけなら、技術レベルが低いのは当然。しかし、私の場合はそうではありませんでした。これまでの仕事内容を理解していただければ、派遣が理由で不利になるはずはないと考えていました。
Point 2
[面接官]この答えを聞くと、彼は完全に派遣先企業の一員になって開発をしていたと判断できます。彼の技術力が一定以上であることの証拠です。この会社は、派遣社員であっても能力と意欲があればどんどん仕事を任せて、個人の能力を伸ばさせ、その結果として組織全体のパワーアップを図っているようです。
 そもそも、派遣社員に業務で得た成果を学会で発表させたり、特許申請書を書かせたりする会社は、極めて珍しいのです。彼は恵まれた派遣先にいたといえます。
Point 2
[面接官]この質問の意図は、技術レベルを探るとともに、開発業務へのかかわり方を確かめるところにあります。彼の答えを聞くと、パラメータの選択と設定を自分なりに考えて実験し、成果を出している。入社後に仕事を任せられる技術レベルと働く姿勢を持ち、問題発生時の技術対応力も身についていると感じました。
面接photo2
Point 2
[面接官]この経験にはとても興味をひかれました。ウエハー転写シミュレーション装置で解析するまでなら、当社でも可能です。しかし、ウエハーへ焼き付けてテストすることはできません。これは、半導体メーカーの技術者ならではの経験なのです。
 どんな形状の位相シフトマスクが、実際にウエハーへ焼き付けられたときに欠陥を作るのか。そのあたりの勘所ができていると推察しました。
Part3 関連知識・サブスキル

装置や材料の選定評価など関連知識の深さ
林:
 古溝さんは段差測定装置の選定から導入、装置管理まで担当しているんですか?
古溝:
 はい。選定の途中で先任者から引き継ぎ、そのあとはすべて私が行いました。導入・検収のフォロー、精度管理、各オペレータへの操作トレーニングをし、部署内ネットワークに使用履歴表を設けたのも私です。
林:
 装置の選定は面白いですか?
古溝:
 私が選定を担当したのは段差測定装置だけですが、ほかの装置にも興味があります。
林:
 マスク製造にはたくさんの装置が必要。従って、新たな装置の選定と導入が付きものです。そういう作業もしてみるつもりはありますか?
古溝:
 はい、もちろん喜んで。
林:
 職務経歴書によると、レジストの選定もしたことがあるのですね?
古溝:
 次期の化学増幅型ポジ型レジストの選定に当たって、評価を担当したことがあります。評価項目は塗布条件や感度特性、エッチング選択比などです。
林:
 【Point7】評価した結果、どんな問題点が出ましたか?
古溝:
 再現性が低かったです。同じ条件で処理しても異なる結果が出てしまうため、最終的には選定に至りませんでした。

プログラミングスキルとプレゼン能力
林:
 職務経歴書の「スキル要約」の欄に「C言語による評価用パターン作成スキル」とありますが、【Point8】実際にプログラミングまでできるということですか?
古溝:
 プログラミングと呼べるほど高度ではありませんが、UNIX上でC言語を使ったコマンドを多少動かせます。今の職場にもともとあった既存のコマンドプログラムを利用して、テスト評価用パターンや、位相差モニタパターンを作成しています。
林:
 資料作成を含めたプレゼン技術もあると書かれていますが、これはどんなことを指していますか?
古溝:
 いろいろです。開発の経過報告を課内の毎回のミーティングで発表することから始まって、他社との技術交流会、最終的には学会発表という形です。商談の際のプレゼンもしています。

(このあと林氏は、人物素養を探る質問に移った。高校時代に好きだった学科、素材開発化学科へ進学した目的、長所と短所、英会話力の有無、入社可能時期、現在の年収額などを尋ねた)
面接photo3
面接photo4
Point 3
[面接官] この質問は、彼が単なるデータ取りの立場でなかったことの再確認です。このように突っ込んで尋ねると、担当業務の深さが見えてきます。もちろん、レジスト、つまりフォトマスク製造のための、感光性材料の知識があるという点も評価できます。
[応募者]こういう質問は答えやすいと感じました。限定された事柄に関して事実を話せばよいのですから。
Point 2
[面接官]マスクプロセス開発で、高度なプログラミング力が求められることはありません。また、彼が高いプログラミングスキルを持っているとも思いませんでした。では、なぜ尋ねたのか。
 実は、使うケースが多いわけではありませんが、プロセス開発の中で役に立つサブスキルのひとつなのです。また、モノを順序立てて考えられるかどうかの、チェックにもなります。
[応募者]職務経歴書の「スキル要約」の中に「C言語による評価用パターン作成スキル」を入れたのは、マスクプロセス技術を中心にして、浅いレベルではあっても幅広い経験があることをアピールするためでした。そこにプレゼン技術を含めたのも同じ狙いからです。
面接官はここを見た!
●フォトマスクプロセスの技術内容と深さ
●専門分野を深掘りしながら全体最適を図れる能力
●人間関係を形成できるコミュニケーション力
まず、フォトマスクプロセス技術のうちで何に秀で、どの程度の経験があるのかを審査する。コート、薄膜成膜、露光、現像、洗浄など、どれかひとつの技術について一定以上の経験がなければ採用は難しい。同時に、関連技術を広く理解し得る素地を問う。意識面では、守備範囲を深掘りしつつ全体最適を図ろうとする、バランス感覚を探る。コミュニケーションスキルと協調性を中心とした、人間関係形成力も重要なチェックポイント。
古溝さんはこの言葉に燃えた!
「マスク製造にはたくさんの装置が必要。
従って、新たな装置の選定と導入が付きものです。
そういう作業もしてみるつもりはありますか?」
前職では、割と単純な段差測定装置の選定や立ち上げにしか、かかわれませんでした。ほかの難しい装置を周囲の人たちが選定しているのを見て、実はうらやましかったのです。私の本職は位相シフトマスクのドライエッチング技術ですが、マスクプロセスに関して技術を広めていくのには、装置を熟知するのが近道です。上の言葉は、「凸版印刷に入れば、本職にじっくり取り組めるだけでなく、最新の装置を知ることができる」との約束だと思いました。この言葉を聞いた瞬間、胸が躍りました。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
スタッフイラスト  今回の取材は楽しかった!なぜなら、応募者の古溝さんも、面接した林さんも、根っからの「技術屋」だったからです。話が専門的になるのは、当然技術スキルを確認する目的があるからでしょう。しかしそれ以上に、技術ネタでのキャッチボールを楽しんでいる雰囲気があったのです。
 最後にマスクを見せてもらいました。初体験でしたが、あんなにきれいなものとは思いませんでした。エンジニアって、やはりうらやましい職業です。

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