“大人”は断り文句を使わずに断れる! コラムニスト・石原壮一郎流「大人の言葉の選び方」とは

生活していく中で“言葉”は必要不可欠なツール。ビジネスシーンにおいても、言葉の選び方ひとつで良し悪しがわかれることは少なくありません。とくに「断る」「頼む」「謝る」など、相手に負の感情を抱かせやすいシチュエーションでは、言葉ひとつで自身の評価や今後の関係性にまで影響を及ぼすことも。しかしそこで適切な言葉を用いることができれば、「仕事のデキる大人」として信頼され、一目置かれる存在にもなり得ます。そのためには、場面ごとにふさわしいフレーズを選択するスキルが必要です。

そこで、コラムニストで『大人の言葉の選び方』の著者でもある石原壮一郎さんに、ビジネスパーソンが身につけておきたい“大人の言葉の選び方”についてお話を伺いました。

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コラムニスト。1963年三重県松阪市生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、大人のあり方や素晴らしさをさまざまな媒体で発信し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』『大人の女力検定』『日本人の人生相談』など、著書及び監修多数。最新刊は『大人の言葉の選び方』(日本文芸社)。また「伊勢うどん友の会」を立ち上げ、「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」としても活動している。

言葉の筋トレで身に着ける「大人の言葉」

――ビジネスパーソンに必要な言葉のスキルとはどのようなものでしょうか?

石原壮一郎さん(以下、石原):言葉というのは、選び方次第で互いを幸せにも不幸にもすることができます。普段は無意識のうちに言葉を選んで使っているでしょうけれど、なぜそのフレーズを使うのか、もっとふさわしい言い回しはないかなど、“言葉を大切に使う意識”を心がけることが、一皮むけるための大事なポイント。とくに日本語は「隠しコマンド」みたいなものがたくさんあるので、それらを覚えて表現力を広げていくことも重要です。

とはいえ、難しい言葉をたくさん覚えて、日常会話で「なかんずく」なんて言い出したら変な人だと思われてしまいますよね(笑)。「心を込めれば伝わる」と寡黙を貫くようでも困りますし、相手とほどよい距離感を保ちながらも意図をきちんと伝えられる言葉を選べるスキルが大切なんです。

――「そこまで言わなくても伝わるだろう」というのはついやってしまいがちですね。

石原:「あうんの呼吸」を信じて、言わずとも察してもらえる心地よい関係を求めてしまうことは誰しもあります。でも、正しく伝わらずに不満やもどかしさを募らせれば、気持ちのすれ違いを生んでしまう。言葉を出し惜しみしてもロクなことがないんですよ。

――意図を正しく伝えるにはどうすればいいですか?

石原:適切な言葉を使うためには、身体でいう「筋トレ」のように、言葉にもトレーニングが必要です。ただそれは、ひとりで壁に向かって練習して身につくものではありません。会話の内容に敏感になり、「なぜ自分は今の言葉にムッとしたんだろう」「この言葉で相手が機嫌よくなったのはなぜ」と考えるなど、丁寧に聞いたり話したりすることがいちばんの近道です。

それに、「知らない言葉が天から降って来る」なんてことはありません。言葉に触れる機会を増やして、表現や単語を少しずつ身につけていくことが大切です。会話に限らず、新聞や小説でもいいし、ネットの記事も参考になると思います。

あとは、ストックした「大人の言葉」を実際に使ってみることです。謝る言葉ひとつとってみても、今までは「すみませんでした」としか言えなかったのが「申し訳ありません」「忸怩たる思いです」なんて自然に使えるようになれば、相手の態度も変わってきますよ。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

“いい言葉”を使うことは“いい人生”を送るための第一歩

――「大人の言葉」とは、具体的にどんな言葉だと思いますか?

石原:「言いたいことが正確に伝わる」言葉です。けれども大人の会話って、端的に表すことがいいとは限りませんよね。例えば体調不良で予定をキャンセルしたいとき、「今日はちょっと行けない」の一言だけでは相手も傷つくし、「ひどいヤツだな」と思われて自分も傷つくことになってしまいます。そこで「ギリギリまで体調回復に努めたんだけど、やはりどうも体調が優れなくて……この埋め合わせは、いずれまた」などと表現を工夫することで真意が伝わります。誰も不幸にならないのが大人の言葉だと思います。

――ビジネスシーンでもメリットがたくさんありそうですね。

石原:そうですね。相手に信用され、一目置かれます。感情をきちんと伝えられる人は、相手に安心感を与えられるんです。ビジネスはロールプレイング的な要素がありますよね。各自が役割を果たして、協力して物事を進めるためには良好な関係や雰囲気を作らなきゃいけない。「仕事という面倒なことをやっていくため、気持ちよく、余計なストレスを生まないように協力する」という共通認識は、言葉を上手に使うことで作れます。仕事の9割は言葉の選び方で決まるといっても過言ではないと思います。

大人の言葉選びは、誤解されたり言葉足らずで怒らせたりすることを未然に防ぐ手立てにもなりますし、「言外に伝える」「反対のニュアンスをにおわす」など、一歩踏み込んだ表現もできます。「言葉は人の為ならず」とでも言いましょうか。いい言葉を使うことは自分のためになるんですよ。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

今すぐ使える「大人の言葉」5フレーズ

「大人の言葉」を身に着け、状況に合わせた正しい「選び方」ができるようになることは、さまざまなビジネスシーンでメリットを生むという石原さん。そこで、ビジネスパーソンが直面する状況で実際に使える「大人の言葉」を選んでもらいました。

断る:「どうかお汲み取りください」

シチュエーション:取引先へ断りを入れる時

石原:どうしても断らざるを得ない状況で「無理です」などと突き放すような言い方をすると、相手も気分を害しますし、後にも響いてしまう。この表現なら「精いっぱい期待に応えようとしたけれど、できなかった」「本当は断りたくなかった」というつらい心情を“汲み取って”と相手にゆだねる形になり、Yes・Noをはっきり口にすることなく「No」と悟らせることができるんです。相手にゆだねることで、あきらめをつけさせる効果もあります。ただ、上司からの頼まれごとやデートの返事には使わないほうがいいですね(笑)。

断らずに断る:「時間ができたらこちらからご連絡します」

シチュエーション:イベントへ熱心に誘われた時

石原:「曖昧な仮定」を前提にしながら、後半では積極的な姿勢を見せることで、相手を傷つけずに断ることができます。ただ、相手に期待させるようなフレーズと合わせて使ってしまうと、「本当に連絡する」と受け取られて、思わせぶりな人になってしまいます(笑)。自身の信頼にも響いてくるので、余計な言葉はつけ足さないほうがいいでしょう。

頼む:「厚かましいのは重々承知の上なのですが」

シチュエーション:上司や先輩に何かを頼む時

石原:「厚かましい」と自覚していることを先に開示することで責めさせない。ちょっとズルい大人の言い回しですね。「情に訴えて頼む」というのも大人として身に着けておきたいテクニックのひとつです。

頻繁に使うと頼んでばかりの印象を与えてしまうので、「ご面倒をおかけしますが」「お忙しいところ恐縮ですが」など代替フレーズをいくつか用意して、ローテーションで使うといいかもしれません。

謝る:「謝って済む問題ではないことは重々承知しておりますが」

シチュエーション:取引先を怒らせてしまった時

石原:謝罪は「すでに起きてしまったこと」に対する言葉。謝ったところで状況は元には戻りません。ですから、こちらの反省をみせることで、相手の怒りを鎮め、気持ちをラクにさせる役割が大きいです。このフレーズを使うとあとに続く謝罪の言葉が増幅されるので、「謝るしか道はない」という精いっぱいさが伝わります。解決はしなくても、とりあえずその場を収めることはできるでしょう。まぁでも、仕事上で起きるたいていの問題は謝れば済むんですよ(笑)。

メールで謝る:「キーボードに額をこすりつけています」

シチュエーション:親しい取引先からの誘いを断る時

石原:本当に額をこすりつけている画像は添付しなくていいですよ(笑)。相手が目の前にいないことを活かして、感情の大きさをビジュアル的な表現で伝える手法ですね。誘いや約束を断るときのほか、同僚に軽い頼み事をするときにも使えると思います。ただ、大真面目な謝罪で使うと逆効果ですのでくれぐれもご注意を。

ビジネスメールの場合は絵文字が使えませんし、つい簡潔に書いてしまいがち。ユーモアを交えることで、感情をわかりやすく表現し、ニュアンスを補足できます。SNSのスタンプのようなものですね。

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大人の言葉が使えれば、毎日はもっと楽しくなる

――最後に、これから「大人の言葉」を身につけたい方へアドバイスをお願いします。

石原:大人の言葉は非常にありがたくて効率のいい道具です。はじめは上手く使えなくても、あとから「あのとき相手を怒らせない言い方があったはず」などと考えることで、ステップアップしていけるし、自分の何がよくなかったのかを省みることもできます。それを繰り返しながら「大人の言葉」を使いこなせるようになっていけば、毎日がちょっとずつ楽しくなると思いますよ。

WRITING:千葉こころ+プレスラボ PHOTO:安井信介

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