DeNA南場智子氏が語った「経営会議より、UI/UXが大事」なぜ今デザインなのか?

DeNAとGoodpatchが合同で運営する「UI Crunch」から、若手デザイナーのためのコミュニティの発展を目的として誕生した「UI Crunch Under25」。第一回のイベントが渋谷ヒカリエで開催された。その基調講演でDeNA会長・南場智子氏は、「これからのデザインとビジネスの関係」をテーマに講演。

何かの才能を持っている人や、ものをクリエイトできる人に対して、すごくコンプレックスを持っているという南場智子氏。なぜ今、デザインが大事なのか?その理由を、自らの失敗談とDeNAの事業戦略を交えながら語ってくれた。

株式会社ディー・エヌ・エー 取締役会長 南場 智子氏
1986年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得し、96年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。99年に同社を退社して株式会社ディー・エヌ・エーを設立、代表取締役社長に就任。2011年に代表取締役社長を退任。取締役を経て、2015年6月、取締役会長に就任(現任)。

DeNAが新規事業を「やる」と決める三つの質問

「私たちDeNAは、自分たちが挑戦する領域を限定しない。それを、すごく大事なこととしています。DeNAの事業領域はゲーム、エンタメ、自動車、ライフスタイル、ヘルスケア、コマースなど、インターネットから少しはみ出したりしつつあります」

DeNAの新規事業は以下の3つの質問にイエスだったらやろうと決めているので、結果として多様な領域になるという。

  • 成功したときに十分にでかい事業になるか
  • DeNAが、勝てるか
  • やりたくてたまらないと目が輝いているか

「一つ目の質問は『成功したときに十分にでかいか』。大成功して事業規模が8000万円とかだと、学生ベンチャーでも小さいかなと。うちの会社がやることじゃない。十分にでかい事業になるかってことですね。二つ目は『DeNAが、勝てるか』。三つ目が『もうやりたくてたまんないという、目が輝いているヤツがいるか』。この三つがイエスなら、大体やろうよっていうことで始まっています。その結果が今のDeNAの姿です」

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ゲーム、エンタメ、ヘルスケア、自動車etc.…多岐に渡る事業領域

領域を限定しないという言葉通り、DeNAの事業領域は現在多岐に渡っている。主立った事業領域だけでも、ゲーム、エンタメ、自動車、ライフスタイル、ヘルスケア、コマースなどが挙げられた。

その中でも、やはりDeNAの主力事業となっているのは、ソーシャルゲーム。そして注目されるのが、任天堂との資本提携だ。

「任天堂との資本提携は業務提携だけではなく、お互いに株を持ち合って親戚になろうよということなんです。我々のインターネットサービスを作るスキル、先方のパッケージゲームやゲームプラットフォーム、キャラクター(IP)、デバイスを作り込んで世に出すという強み。その二つの強みを持ち寄って、手に手を携えようということで決まったものなのです」

エンターテイメントの領域では、無料で人気漫画家の書き下ろしが読める「マンガボックス」、アイドルのライブを生配信する「SHOWROOM」、自動車領域ではカーシェアサービス「Anyca」、ロボットタクシーといった事業も動き出している。

「Anyca(エニカ)は絶対こんなの流行らないと思ったので、このアイデアを全力でつぶしにいったんですけど、玉砕しちゃって(笑)。しかもリリースしたら結構うまくいってるんです。自動車領域では、ZMPというロボットベンチャーと合弁会社を作って、ロボットタクシーを走らせようとしています。自動運転、すごくないですか。全くさわらないどころか、運転席にも人を座らせなくても走るんですね」

「あと私が肝いりで始めたのが『MYCODE』という、遺伝子検査サービスですね。遺伝的にかかりやすい病気がわかるサービスです。病気になる前にケアする。そういう時代を作りたくて、東京大学医科学研究所と組んで遺伝子を分析するラボも、DeNAが自ら作ってます

南場氏は、キュレーションプラットフォーム拡大構想「DeNAパレット」についてもこう言及している。

「iemo、MERY、Find Travelなどはれぞれのカテゴリーでナンバーワンだった会社が、買収というかたちで仲間になるケースもあるんです。独立した一国一城の主としてやるのもいいんだけど、我々ともっと大きなビジョンを描いてみないかと声をかけて、生活シーンのコンテンツキュレーションサービスのプラットフォームを作ったのが、『DeNAパレット』です」

「なぜ、自分たちだけで上場できた会社が、こうやって参加してくれるのかというと、一つはでかい夢を見たいというのもある。でももう一つは、面倒くさいことをやりたくないと。例えばバックオフィスや採用など、そういった業務はすべてDeNAで請け負い、自分たちはサービスに没入したい、ユーザーを喜ばせることに没入したいからということですね」

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ポジティブな驚き・喜びを感じてもらう「Delight」へのこだわり

新たな事業分野に参入を始めた同社だが、どうしても譲れないこと、固執していることがあるという。

「インターネットで培ってきたスキルを用いて、新しい産業にも入っていこうとしているわけですが、ただ一つだけ共通点があるんですね。そして、私たちがものすごく固執していることが。それが、『Delight(デライト)』です」

「どういう意味かというと、日本語の辞書では普通に『喜ばせる』って書いてありますけど、DeNAでは『ちょっと驚きを持った、ポジティブな驚きを持った喜びを感じてもらうようなこと』をDelightすると、言っています。

世界中の人を、我々のサービスでDelightしたいよね。その気持ちがいろんな事業に携わっている全員に共通して、一番強いものとなっています。これがない人は、我が社にいてはいけないというルールがあるぐらい、Delightにこだわっています

やり方は何でもいいよと。いろんな意味で、何となく驚きを持った喜びというのをポジティブに、うれしく驚かす、そういうことを目指している集団。これが、DeNAのアイデンティティなんです」

「Permissionless」許可は得るな。ユーザーに審判を仰げ

さて、ここから本題の「なぜデザインが重要なのか」という話に入っていく。「新しい事業やサービスの作り方が変わったと思う大きなトレンドが三つある」と語る南場氏。まず最初に挙げられたのは、サービスをリリースするまでの承認フローだ。DeNAでは、経営会議と承認を行うタイミングを大胆に改革したという。

「新しいサービスの作り方って、普通はまず企画を出して、その企画がよくできていたら、経営会議で吟味する。そこでは、いろんなことを議論するんです。『どれぐらいの事業規模になるの?』『大体、誰がやるの』『リソースあるの?』『競合のサービスと一緒じゃん』とか、いろんなダメ出しくらうわけですよ」

「経営会議でやろうとなったら、開発が始まる。それから、もう1回経営会議。そこでみんなの2倍もある年齢の私とかが、『うーん、これちょっと、わかりにくいよね』とか、『字がちょっと小さすぎない?』みたいなこと言ったりする。で、それを乗り越えて『これでいいんじゃない?』となったら、リリースされると。これが、今までの古いトラディッショナルなフローだったんです。

そこで私は、大失敗を何度もやらかしました。例えば、若手のチームが提案をしてきた新サービスについて、うちの既存のサービスを少し変えればできるじゃない?という話をして却下したことがあります。

それから、数カ月たったら、別の会社が始めた全く同じ概念のサービスを始めて、むちゃくちゃ伸び始めたということがありました。あの若手のメンバーには、私が見えていなかったものが見えていたんだということですね。50歳を過ぎた私が、ダメ出ししていたらこうなるんだなと。会社の将来を一つ狭めてしまったなと反省しました。

そこで、大胆に経営会議をやめることにしました。もう、考えながら勝手に作れということです。アプリなんかは、先にApp Storeに出してしまえと。ただわが社は上場企業ですから、違法なことや公序良俗に反することはできません。まあ、上場企業じゃなくてもできないですけど。違法じゃないか、公序良俗に反するものじゃないか、そういう簡単な法務のチェックだけして、リリースしてから経営会議に持ってきてよ、と」

「先にサービス持ってこなくていいけど、数字だけは持ってきてもらうことにしました。見たいのはリピート率。1回使った人が、どれだけ使い続けてくれているかです。いいサービスだったら、使い続けてくれる。友だち紹介機能でどれだけユーザーが新しく来てくれるか。新しく来たユーザーはどれぐらい定着するか。1回来たら、何分使ってくれるのか。そういう数字を見るんです。

それでよかったら、自動的にスケールする。どんなに私が『これだめじゃない?』と大騒ぎしても、数字がよければアクセルを踏む。この審判を経営会議がやるなと。本当に偉い人は経営会議ではなく、ユーザーです。ユーザーの審判を仰ごうじゃないか。それができる時代なんですよね。これを我々は『Permissionless』と呼んでます

許可なくやっちゃえと。そして審判は経営会議でも社長でもなく、ユーザーに審判を仰ぐ。このユーザーに審判を仰ぐやり方は、わが社の中でも増えてきていますね。もちろんすべてではありません。

大きい資本が最初から絡む事業、例えばヘルスケアの遺伝子検査サービスは、ラボを作らないと検査もできません。ラボを作るのにも既に何億円もかかりますので、こういった『Permissionless』型はそぐわないのですが、アプリや多くのサービスにおいては、この方針を唱えています」

「UI/UX driven」ユーザー体験をもとに、戦略を考える

次に挙げられたのは、サービスの作り方がユーザー体験をもとに事業戦略を考えるやり方に変わってきてるということ。

「今までは、サービスをPermissionless型であろうがPermission型であろうが、サービスを作るプロセスにおいては、戦略や企画、調査が大事だった

例えば、若者向けにヒットするアプリを作りたい。そうしたらもっとターゲットセグメントをはっきりさせようよ。そのために、市場調査やろう、競合調査やろう、ニーズの調査をやろう、差別化ポイント何だっけ、ペルソナ設定しよう、コンセプトを設計しようということが始まります。

これはよくマトリクスを作り、他社のヒットサービスを分類してみて、どこが空いてるみたいな分析をよくやりますよね。で、ここに向かってオープンなコミュニケーションアプリや動画系サービス、画像配信などを投入しようという話をする。

そして、収益モデルを考えます。キャッシュポイントはどこか、どういう事業計画になるのか、KPIをどこに置くか。どのくらいのユーザーが使ってくれるか、その何%がはまって、さらにお金を払ってくれるのか。

それから設計ですね。要件定義して、ワイヤーフレームやプロトタイピングをして、でき上ったらリリースというのが、今までのフローだったと思います。これが今までのオーソドックスだっんだけど、ちょっと考えてみましょうと。

ビジネスとしての成功って、どこに依存するんだろうということですね。誰にターゲティングするか、これは間違うと大変なことになります。例えば、IQ200以上の人を対象としたサービスを作ってもターゲットがほとんどいないぞ、みたいな世界です。

だから本当に間違うとだめなんですけど、10%ぐらいの成功に対する貢献度じゃないかなと思います。ビジネスの成功としての、サービスの成功としての9割は、ユーザーが使ったときのユーザーエクスペリエンスです。これが素晴らしければ、9割は成功が保証されています。

私たちが一番大事にしている『Delight』はどこかというと、前半は0%です。ポイントはユーザーエクスペリエンスなんですが、これまでのフローではほとんど関係なかった。

というのは、株主が期待してくれているビジネスの成功や「Delight」にあまり関係のないコンセプト作りや市場調査、競合調査、ビジネスモデルなど、あまり関係のないことに時間とリソースを使いすぎていたんです。これでは成功の確率は低くなります。

どう考え直すかというと、ユーザーエクスペリエンス、ユーザーへの感動から定義する。どのようにユーザーに何を届けるのか、驚き、喜びをまず定義しようよということになりました」

DeNAがこうした決断をするに至った例として、スマホ体験を生配信するコミュニケーションアプリ「Mirrativ(ミラティブ)」をリリースした赤川隼一氏の例が挙げられた。

「赤川は、新卒から最速で執行役員になったのに、現場に戻ってサービスを作りたいものがあると言ってきたんです。それが、自分のやっているゲームやアプリを、リアルタイムにワンタップで友だちに共有できるサービス「Mirrativ」。今、20カ国語ぐらいに翻訳されていて、1週間で1億インプレッションたたき出しているという、なかなかなユニークで、世の中にない驚きを与えてくれました。

Mirrativの開発プロセスが一般的な開発プロセスと違ったところ。まずこれをやりたいと、ユーザーエクスペリエンスを定義したんです。それをプロトタイピングしてから、これは誰がどう使う?と考えた。UXが納得のいくものを作ってから、ターゲティングとか分析、マーケティングの準備をしていったんです

これまではまず最初に戦略を考え、次にUXをやっていたけど、そうじゃない。まず、UXを考えて、それを活かす戦略考えていく。別の言い方をすると、strategy leads UI/UXではなくて、UI/UX leads strategyなんです。

このUI/UX、このサービスだったらこういうターゲットに売ろう、こうやって収益も上げていこうよと、リードしていく。これが二つ目のポイント。UI/UX leadsということですね」

セグメント最適化から個別最適化へ

3つ目に南場氏が挙げたのは、マーケティングに関する変化の話。セグメント最適化から個別最適化に変えることで、その効果は数倍にも上ったという。

「最後にもう一つ、私の仮説を聞いてもらおうと思います。『関心を持ってもらう』『利用を始めてもらう』『楽しみ続けてもらう』この三つをしっかりやっていくというのが、マーケティングなんですね。関心を持ってもらうために広告を打ったり、利用を始めてもらうために初回無料キャンペーンをやってみたり、楽しみ続けてもらうためにやること。

全てのユーザーに同じ刺激を与え、同じ言葉を伝え、同じコミュニケーションをすることに比べると、年代・性別による最適化、すなわちセグメントしてアプローチしたほうが全然効果があります。

でも、これ20年前の常識なんです。この常識は急速に古くなっていて、個々人に最適化するほうが、当然だけど全然効果があるし、できる時代になってきた。特にネットのサービスにおいては顕著です。

わが社では、2014年に半年かけて実験をしてみました。ゲームコミュニティの中で誰に影響を受けているのか、誰とつながっているのか、その人にとって難しすぎないか、その人は一般に何に興味があるのか、何にインセンティブを感じるのかということを個別に最適化したんです。

そしてその人が反応したかどうかというのをリアルタイムでその反応の具合を見て、これ見せたけど遊ばなかったな、じゃあ、別のものという感じで、ダイナミックにほぼリアルタイムで変えていく、これを個別最適化と言います。

その結果はどうだったかと言うと、セグメントによる最適化と比べて利用を始めてもらう力は3.8倍、利用を続けてもらう力は実に、9.7倍。 昨年の半年間でわが社のゲームで実験を繰り返して、導き出した数字なんですが、セグメントによる最適化と、個別最適化では、これほどまでに力の差があるということがわかってきました。これが、いわゆるセグメント最適化から、個別最適化へと、いうことなんです。

これをクリエイティブに応用できないだろうかと。世の中で、誰も、デザインとか、クリエイティブにこれを取り入れようとしているところは、まだないんです。同じニュースでも同じゲームでも、トーンやUI/UXを個別にカスタマイズする、5000万人に向けて、5000万とおりの絵は用意できないけど、ある程度その人がよく反応する無数の組み合わせから、いくつかのパターンをその人にベストなものをカスタマイズすることはできる。

そういうことをやらないと生き残れない時代になるかもしれないなと考えています。もうあと10年ぐらいで、そういう時代が来るんじゃないかというのが、その仮説なんですね。それをどうやってやるのかというところが、まだまだ、解は導き出されていませんが、どうもこの辺にフロンティアがありそうだぞというのが、私の今の仮説であります。これはちょっとチャレンジしたいと思っています。

UI/UXデザインがサービス開発の中心となる

「Permission型からPermissionless型へ」、「Strategy drivenからUI/UX drivenへ」、そして「セグメント最適化から個別最適化へ」。この三つというのが今、私が大きいうねりとして感じている、三つのメガトレンドであります。完全なフロンティアだというふうに感じています。

その中でもクリエイティブ、そしてデザイン、というのが、わが社のサービス開発に、中心になってくるというのは、ここからで出るんです。この三つの大きなトレンドを遅れずに、世界の最先端を切って極めていきたいと。それができないとむしろDeNAという会社に将来はないというところから、経営会議じゃない、役員じゃない、ものを作る人たちが一番重要だと。

Delightしてもらった瞬間が一番、Delightできる

「いろいろ理屈っぽい話をしたんですけど、私個人としてはやっぱりユーザーにどれほど喜んでもらえるのか、そして、喜んでもらった瞬間が一番うれしいんです。だから、Delightしてもらった瞬間が一番、Delightできる。そのように感じています。

それを言語化するのはなかなか難しいんだけれども、うまく表している1枚の写真があります。この写真は何万枚とDeNAの社員の写真を撮ってきた中でも、最も好きな写真です。本当に、多くのことを私に教えてくれたものなんです。

これはDeNAが会社を作って、一番最初のサービス、ビッダーズというサービスが世の中に出た瞬間の写真。公開された、その瞬間にインターネットから自分たちのサービスを覗いてみた。そうしたら、既に入札が1個入ってた、そういう瞬間の写真です。

それぞれのモチベーションの源泉は異なるけど、Delightがチームをまとめる大きな力になる。だから、Delightが大事だし、自分たちのDelightにとっても大事。

そのDelightを届けるためにいかに、これまでのような頭でっかちではなくて、UI/UXデザインが、中心的になってきたのかと向き合っている。だから、DeNAも、この笑顔を維持するために変わらなきゃいけない。そんな挑戦をしているところです」

EDIT&WRITING&Photo:馬場美由紀 Photo:平山諭

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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