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【本当の仕事とは?】ディズニーの“理念”と“最強マニュアル”で組織力を劇的に上げる!

 「今やっている仕事の目的と手段が逆転していませんか。あなたがやるべき本当の仕事は何ですか」

――これらの質問に、あなたはどれだけ自信をもって答えることができるだろうか。

 ディズニーを運営する株式会社オリエンタルランドで20年間人材育成に携わり、「東京ディズニーシー」「イクスピアリ」など、ビッグプロジェクトの立ち上げや運営、マネジメントに着手した大住力氏。退職後は「ディズニーの仕組みは、あらゆる企業や人に活用できる。けっして特別なものではない」という理念のもと、ハウステンポスの顧問として活躍してきた同氏による講演会が、東京・八重洲ブックセンターで開催された。新著『ディズニーの最強マニュアル』(かんき出版)にも触れられている、ディズニーの理念とそれを浸透させる仕組みについて語った。

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■手段の目的化は危険現象

 ディズニーといえば、圧倒的なホスピタリティを持つキャストの接客が印象的。新人からベテランまで、誰が実行しても同じ結果となるマニュアルがあるものの、そういったマニュアルに則るだけの「手段を目的化する行為」は危険だと大住氏はいう。

 難病と闘う子どもとその家族に無償でテーマパークへ招待する活動も行っている大住氏は、車いすに乗った子どもと、あるテーマパークへ入場した時の出来事を語った。期待満々だったその子は、ほとんどのアトラクションで断られ、スタッフからは「ごめんなさい。乗車はちょっと難しいです」というそっけない言葉だけが返ってきたという。

 「これはルールだから」「前例がない」――組織のルールさえ守っていればよいと思い込んでいると、誰もがこのような対応をしてしまいがちだ。しかし、それは「目的と手段が逆転してしまった危険な現象」と大住氏は指摘する。「最初はある目的のためにいろいろ手段を駆使していたはずなのに、いつのまにか手段自体が目的化してしまい、大切なものを忘れてしまっている」。自分がテーマパークのスタッフとして働いているのであれば、理念を意識しつつ、「自分がやるべき本当の仕事とは何か」を問い続ける必要がある。

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■理念を実践している仕事とは

 一方、ディズニーランドの理念はGIVE HAPPINESS(幸せを提供すること)だ。ディズニーはそこに正解とされる手法はなく、探求し続けていくことが仕事と捉えている。ディズニーランドで働くキャストたちは理念に関する共通認識があり、それより、どこへ向かって進んでいくべきなのか(目的)、何をすべきなのか(手段)が明確であるため、あらゆるシチュエーションにおいて、臨機応変に対応できるという。

 とはいえ、理念を実践するのは一筋縄ではいかない。時に本来の目的を見失ったり、“手段”に夢中になりすぎて、元来のやるべき仕事に支障が出る可能性がある。大住氏によると、下記5つの仕事の中で、ディズニーの理念を100%実践できている仕事は、1の“手を振る護衛キャスト”だそうだ。

  1. 100メートル先の京葉線の乗客に手を振る護衛キャスト
  2. 絵を描く清掃キャスト
  3. ローラースケートを履いた清掃キャスト
  4. キャストが上司からもらうファイブスターカード&同僚からもらうアワードピン
  5. 子どもが泣き止まない時にキャストが手渡す特別なシール

 ディズニーの清掃キャストは、お客さまの案内係という役割も担っている。よって、2の「絵を描く清掃キャスト」と3の「ローラースケートを履いた清掃キャスト」は、絵を描いたり、ローラースケートで滑ったりして観衆を楽しませるものの、そういったプラスアルファの行為は、本来の業務の支障ともなりうる。また、上司がすばらしいパフォーマンスを発揮したキャストに手渡す「スターカード」や、同僚から手渡される「アワードピン」も、キャストによっては、お客さまよりも上司や同僚を意識して仕事をするようになってしまうため、4も該当しない。身長が足りないなどの理由で条件に満たず、アトラクションに乗れないことで泣き出してしまう子どもたちを笑顔にするために配られるようになった5の特別シールも、ネットオークションで売られたり、キャストが作業として配るようになってしまい、本来の目的から現在ではズレてしまっている。

 それと比べて、1の「手を振るキャスト」は、「護衛=お客さまを見守る」という本筋の業務から外れることなく、相手の期待を大きく裏切るサプライズを提供できている。無論、護衛が100メートル先の京葉線に向かって手を振るなどという行為は、マニュアルには書いていなかった。たまたま、それを実行したキャストが「自分が手を振ったら、向こうも手を振ってくれた」という嬉しい感情を周囲とシェアしていたら、自然と広まり、いつのまにかスタンダードになっていったのだそう。

 このように、マニュアルに書いていないことこそ、ディズニーの“本当の仕事”であり、“最強”であると大住氏はいう。「ディズニーの最強マニュアルとは、ディズニーの理念“GIVE HAPPINESS”にもとづき、キャストがお客さまを喜ばせ、またお客さまから喜ばせてもらった幸せな体験が自然と広まり、いつのまにかスタンダードとなったこと」と定義づける。

マニュアルづくりに大事なのは常識あわせ

 このように、キャストのアイデアがそのままスタンダード化された事例は多々あり、そのひとつが、GREETING WITH CLAPPINGだ。ディズニーでは、パレード前にキャストがリードしつつ、観衆がクラップをしながら、キャラクターたちを待つ仕組みになっている。実はこのクラップは“手段”であり、“目的”は別のところにある。

 以前は興奮状態にある子どもたちがパレードが始まる前、飛び出し防止のために張られたロープで遊んでは、尻もちをつくなどしてケガが多発していた。また、それを防ぐためにキャストが注意すると、場の雰囲気が壊れてしまうことが悩みの種だったという。そこで「子どもたちの手が自由だから、ロープで遊んでしまうんだ。その手を奪う方法はないか」とアルバイトのキャストが問題の根本に気づき、クラップをするというアイデアにたどり着いた。もともと、このクラップはマニュアルに書いてなかったが、その後、アメリカ本部に伝えられ、正式にマニュアルに盛り込まれることとなったという。

「マニュアルは“こうすれ、ああすれ”という規則ではなく、それさえあれば現場が片付くという“みんなの常識”」と大住氏。「キャストそれぞれが口々に注意するより、リズムに乗ってクラップをするほうが、ケガも防げるし、そこにいる人全員が実行しやすい。こういった“みんなの常識”をつくることがマニュアルであり、マニュアルづくりに大事なのは、常識あわせだ」という。

~理念を実践するための仕組みとは何か~

■ディズニーの組織づくり

 組織は優秀な人が2割、普通の人が6割、パッとしない人が2割という構成になることはよく知られている。しかしながら、ディズニーの組織は、新人もベテランも、誰が実行しても同じ結果となるマニュアルを浸透させることで、下位の2割をつくらず、「スタンダード以上を10割とする」組織づくりが徹底している。ディズニーのマニュアルは「みんなの常識」として浸透するよう、料理のレシピ本のように「内容×順序」が細やかに記載されている。

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■ブラザーシステム

 ディズニーの数あるシステムの中でも、中間層(フォロワー)の中だるみを抑止する効果を発揮しているのが「ブラザーシステム」だ。一般企業でもOJT制度は広く導入されているが、ディズニーの「ブラザーシステム」が他社と違うところは、その関係性に期限がないこと。上司でもなく、親友でもない“ナナメの関係”の先輩と後輩がマンツーマンでコミュニケーションをとる関係性がずっと続くのである。大住氏自身、自分の新人時代をコーチングしてくれた“ブラザー”とは、今もプライベートの交流があるという。もともとディズニーのフィロソフィーでは、働く時間とオフの時間が分けられていない。ワーキングタイムのみならずプライベートでもブラザー同士は密な関係を構築するため、組織をダメにしがちな中間層は常に後輩からその背中を見られることとなり、結果的に優秀な人材として育つそうだ。

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 ディズニーの研修では、仕事やプライベートに当てはまるものはないかと、ディズニーフィロソフィーと自分事を行ったり来たりしながら検証し、「使える!」と思うことをどんどん取り込むように指導される。「どんな職場でもディズニーランドにできる」と大住氏はいう。目的と手段が逆転していないか。自分の本当の仕事は何か――まずはその見直しから始めてみてはいかがだろう。

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著者プロフィール: 大住力(おおすみ・りき)

1965年生まれ。「ソコリキ教育研究所」所長。公益社団法人「難病の子どもとその家族への夢を」代表。20年間ディズニーランドの最前線から中枢までさまざまな経験をし、現在では大手企業から中小企業、学校、病院など100社以上に、マネジメント、ホスピタリティ、コミュニケーション、組織活性、理念浸透などをテーマとした研修や講演を提供。富山大学、東京家政大学では非常勤講師を務めるなど幅広く活躍している。

取材・文・撮影:山葵夕子