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スマートフォン革命をリードし、10億人ユーザー獲得へ邁進する
東京ゲームショウでグリー田中社長は何を語ったか?
9月に幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2011」は、ビジネスデイと一般公開日の4日間で過去最高となる22万人以上の来場者を記録。スマートフォン・ソーシャルゲームをリードするグリーの存在感が際立った。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.10.20
ユーザーの環境投資を低減することで、マーケットを広げてきたゲーム業界

 コンピューターゲームの祭典「東京ゲームショウ(TGS)2011」(9/15〜9/18@幕張メッセ)。ソニーの次世代携帯ゲーム機「PlayStation®Vita」と共に注目を集めたのは、TGS初出展となるグリーの登場だ。場内に最大規模のブースを展開すると共に、ビジネスデイにおける基調講演や各セッションでは、同社のグローバル戦略とそれを支える技術基盤が説明され、ゲーム業界の開発者やプロデューサーら聴衆の熱い注目を集めた。

 長い間、アーケードゲーム機や専用ゲーム機によって担われてきたコンピューターゲーム市場の一角に、携帯電話で遊べるモバイルゲームという新しいジャンルが登場したのは1999年のこと。当初、携帯ゲームはその表現力の浅さから、「もしもしゲー」「カジュアルゲーム」などと呼ばれ、従来のゲーム開発者やコアゲーマーにとっては、傍流のエンターテインメントでしかなかった。

 しかし、このカジュアルさこそは携帯ゲームの真骨頂。いつでもどこでもネットに接続でき、他のユーザーとつながれる、モビリティとソーシャル性こそが最大の魅力であることは、従来の業界関係者よりも、むしろユーザーの側が真っ先に認めたことだ。いわゆるソーシャルゲームは爆発的な人気を呼び、ユーザー規模は瞬く間に億を超す規模に膨れあがった。これは、専用ハードウェアに依存するコンソールゲームでは到底実現できなかったもの。次第に、コンソールゲーム業界もソーシャルゲームへの対応に迫られるようになった。

 昨年から続く、フィーチャーフォンからスマートフォンへのプラットフォームの移行は、この動きをさらに加速させている。ソーシャルグラフを活用したソーシャルゲームには、迫力ある表現力でユーザーの度肝を抜くコンソールゲームとはまた違った楽しみがある。同時に、多機能端末としてのスマートフォンの機能を活用することで、より表現力や創造性豊かなゲームも次々に生まれている。

 コンソールからスマートフォンへ──。こうしたゲーム・プラットフォームの流れは初日の基調講演でも明確に指摘された。登壇したゲーム業界の重鎮の話でも、2007年のiPhoneの登場によって、すべてのゲーム機がネットワーク対応を果たし、ネットワークそのものがプラットフォームになったことの意義が強調されていた。スマートフォンで手軽にゲームを楽しむカジュアルユーザーが大きなボリュームを形成するなど、これからのゲーム業界の客層の変化を指摘する意見もあった。こうした客層を取り込む上で欠かせないキーワードは、ソーシャル・コミュニケーションだ。

グローバル展開の先人たちからノウハウを学び、世界10億人ユーザーを目指す

 スマートフォンゲームやソーシャルゲームへの非可逆的なトレンド。その流れを最前線で牽引するのが、グリーの社長、田中良和氏だ。TGSでは初めて基調講演に登場し、いまグリーが思うことを率直に語った。

 田中氏が冒頭に示したのは、ソーシャルゲームが業界にもたらした3つの主要な変化だ。「通信環境」(3G回線による常時接続環境)、「流通手段」(いつでも好きなときに購入できる電子配信)、「販売手段」(少額課金システムが実現したアイテム課金販売)の3つの変化がゲーム業界の様相を一変させた。今後はさらに、スマートフォン向けOSやHTML5などの新しい標準を搭載した統合基盤が整っていくとみる。その統合環境では、これまで専用機固有の機能とみなされていたものが、クラウド上に仮想化されることで、よりゲーム環境は汎用的なものになる。

 コンピューターゲームのプラットフォームが、専用機から携帯・スマートフォンなどの“汎用プラットフォーム”へ拡大してきた点は、田中氏の認識だ。それについて田中氏は、従来の専用機によるゲームビジネスと、スマートフォンのような汎用機のゲームビジネスが、互いに伸ばし合っていく関係として、ゲーム業界全体がより一層拡大すると、今後の展望を語った。

 ソーシャル・ネットワーク業界で、SNS、ゲーム開発プラットフォーム、ゲームそのものの開発、さらにPCからフィーチャーフォン、スマートフォンまでの全領域を手がけるのは、世界でもグリーをはじめとしたわずかな企業しかない。このユニークな垂直統合モデルと、国内での豊富な経験を武器に、今後は世界中に開発・サービス拠点を展開しグローバル・オペレーション体制を構築する。

「現在、世界にグリーグループのサービスを利用するユーザーは1億4千万人おり、うち8割を日本以外のユーザーが占める。今後は10億人が利用するサービスを目指す」と改めて宣言した。「世界で成功する勝算はあるのか」と問われて、「日本のIT・インターネット業界において、世界で成功した企業はまだない。しかし、ゲーム業界には(ソニー、任天堂など)成功事例が数多い。それは私たちに勇気を与えてくれる。世界に出てみて改めて日本のゲーム業界はすごいと思った」と、先人のノウハウを十分に吸収していくことを語った。

田中 良和氏
グリー株式会社 代表取締役社長
田中 良和氏

経験や知識よりは変化対応力が重要。激化するグローバルな人材競争

 従来型のゲームと違って、ソーシャルゲームは、リリースしてからユーザーの反応やデータを見ながらコンセプトが変わっていくこともある。田中氏はApp Storeのセールスランキングで1位を獲得した「探検ドリランド」を例にこう語る。
「最初はアクションゲームだったのが、今はカードバトルゲームのようになっている。ユーザーの志向をいちはやくキャッチし、明日までに作り変えるという迅速な対応が必要だ。一方で、あるゲームが流行っているときは、そのコアデザインをなるべく変えないことも大切。ユーザーは必ずしも新しいものだけを求めているわけではない。こちらの勝手な思い込みで、早く変化しすぎないことも必要」と、ヒットを生み出す要因について触れた。

 話は今後の人材採用についても及んだ。
「これからソーシャルゲーム業界は、日本だけでなく世界でも人材の争奪戦がますます厳しくなる。しかしソーシャルゲームの経験や知識は必ずしも必須ではない。僕ら自身が3年前まで全くソーシャルゲームを作ったことがなかった。新卒2年目のエンジニアを中心に3〜4人で作ったゲームがヒットした例もある。24時間365日にわたってサービスを提供し続けるのは容易なことではないが、この業界に変化の渦を巻き起こそうと思う人は大歓迎だ」と述べた。

 今回のTGSに参加して「個人的には改めて、コンソールゲームは面白いと思った」とゲーマーとしての“本音”を覗かせる一幕も。
「コンピューターゲームに触れたことがない人がたくさんいる南米やアフリカでゲームビジネスをやりたい。スマートフォンが全員に行き渡って、そうした人たちもコンピューターゲームを楽しむ時代が来る。それが本当のイノベーション。これからもゲーム業界の仲間の一員として、社会のイノベーションを実現したい」と、語るグリー田中氏。いつまでもゲーム少年の面持ちを残しながらも、その心にはいまビジネス・ベンチャーとしての熱い魂が宿る。

世界で闘うことの大変さ。その覚悟はできている

 田中社長の熱い思いは、グリーのブース内で引き続き行われたパネルディスカッション「経営から見るソーシャルゲームのインパクト」でも衰えることを知らなかった。業界では、2011年第1四半期のコナミの決算で、ソーシャルゲームの売り上げがコンシューマゲームのそれを上回ったというニュースの余韻がいまだ冷めやらない。このことが意味するものを、あらためて考えるディスカッションでもあった。

 例えば、セッションで挙げられた「ソーシャルゲームはユーザーが好きな時に遊ぶことができるし、流通面でも店舗に商品を並べるためのスペースを確保しなくていい」という特徴は先の田中氏の認識──“通信の革新”“流通の革新”“課金の革命”という3つの大きな変化──と全く同じものと言える。

 こうしたグローバルに起きているメガトレンドに対して、国内ゲーム会社はどのように対応するのか。ここでもFacebook向けゲームでグローバル対応を先駆けたグロウエン氏のアドバイスが光る。氏は「本格的なグローバル展開にあたっては、世界各地に拠点を置き、それぞれがつながりながら事業を進めていく」必要性を強調する。これを受けてグリー田中氏は、「世界で闘うということは、その国の政府に許可を取ったりキャリアと契約したりと国ごとにやらなければならないことがたくさんある。非常に大変なことだが、世界を相手にしたプラットフォームになるためには絶対に必要なこと」と、グローバル企業としての覚悟の一端を語った。

スマートフォン革命をソーシャルゲームの地位向上につなげる
吉田 大成氏
グリー株式会社 メディア事業本部長
兼 開発本部副本部長

吉田 大成氏

 グリーのブースでは、世界的大ヒットを生み出してきた大手ゲームメーカーのプロデューサーが一堂に会して、「ゲームユーザーはどこに向かうのか?」をテーマにしたセッションも行われた。

 基調講演の中でグリーの田中氏は、「探検ドリランド」を例に、リリース当初からコンセプトが変わるソーシャルゲームの例を挙げていた。このセッションの冒頭でも、他社のパネリストが「コンセプトがリリース後に変わるなんて、コンソールゲームではあり得ないこと」とこの話題に触れた。それに対してグリーの吉田大成氏(メディア事業本部長兼開発本部副本部長)は「始めてみたら他のタイトルと比べて仲間との繋がりが強いことがわかった。スピンオフ的なイベントとして開催したカードバトルが盛り上がったので、いっそのことこれを本編にしたら面白いだろうと思った」と、ソーシャルゲームの強みである変化追従性について語った。

 パネルに参加した企業は、グリーよりも前にグローバル市場でゲーム供給を行っており、世界規模での展開ではむしろ先輩企業。「中国ではコミュニケーションよりもバトル系への欲求が強い」「日本ではゲームでも仲間づくりが重要だが、欧米では必ずしもそうではない。ソーシャルゲームも、最初は友達とは関係ないところから始まる」など、地域によるユーザー特性の違いを指摘する声が多かった。これに対して、吉田氏は「日本でも手紙、電話、携帯電話とコミュニケーション方法が時代と共に変わってきた。その変化は日本以外の地域でも起こるはず。グリーはそこから変えていきたい」と抱負を語った。

 スマートフォン革命をソーシャルゲームの地位向上につなげる。そうした気運はゲーム業界全体に高まっている。グリーはその流れをリードしていける企業の一つとして、TGSでその存在感を確実に示したのである。

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