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理系離れが伝えられる一方で、科学の面白さを伝える情報番組が大流行だという。わかりやすく楽しく、かつ正確に研究の内容を伝えることに、番組制作者は力を注ぐ。今回は「中川翔子のG(ギザ)サイエンス!」「サイエンスZERO」の白熱する制作現場を取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/関本陽介) 作成日:08.04.09
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最先端の科学や技術の研究テーマや研究成果を、一般の人にわかりやすく伝えることがいかに難しいか。それは番組制作者だけでなく、エンジニアも、日々感じている問題だ。そこで登場するのが、番組進行役の女性タレントの存在。彼女たちは一般視聴者の代表。まずは目の前の彼女たちに理解してもらい、かつ驚かせなければ、研究の意義を世間に広めることはできない。科学情報番組では、こうした視聴者の視点や理解度を重視する。 今回取材したニッポン放送「中川翔子のG(ギザ)サイエンス!」のしょこたんこと中川翔子さん、NHK教育テレビ「サイエンスZERO」の安めぐみさんも番組を通して次第に科学に明るくなっていったという。その成長の軌跡を共有することで、番組は多くのファンを獲得することにもなる。今回はエンジニアにも人気の二つの番組を紹介しよう。 |
中川翔子のG(ギザ)サイエンス!
歌手、漫画家、ブロガーでも知られるマルチタレント、「しょこたん」こと中川翔子がパーソナリティを務めるニッポン放送のラジオ番組。時は2058年。某研究所の研究員の一人であるしょこたんが、タイムマシンに乗って50年前の日本に戻り、当時の最先端研究に従事する若手研究者の話を聞くというのがストーリーだ。 http://www.1242.com/giza/
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有楽町のニッポン放送スタジオでは、4月4日放送分の収録の真っ最中だ。
「月って何からできているの?」 ブースの外には長谷部研究室の学友らが見守っていて、ギザ、ギガントなど「しょこたん語」連発の絶妙なツッコミに、爆笑の渦。それでも3人は、小さいときからの宇宙への夢や、開発過程の苦労を語り、将来は「月に人を送る計画に従事したい」とか「新技術開発でノーベル賞をめざします」とか言い切る。最後はお約束の質問。「みなさん、いま恋人いる?」には、3人のうち1人だけがイエスと答えた。最先端研究に従事する学生というより、ふつうの若者の表情に戻る一瞬だ。
07年秋の番組開始以来、登場したのは東大、東工大、早稲田、慶應、筑波など関東の大学の理系研究者の卵たち。研究テーマは「深海大循環」から「ヒューマノイドロボット」「グリーンケミストリー」「フォトニクスポリマー」まで幅広く、かつ最先端のものばかりだ。 |
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今回参加した学生たち
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京セラは番組当初からの単独スポンサー。日経サイエンス誌ともメディアミックスのタイアップを行っていて、同誌にも研究室の研究内容が紹介されている。 しょこたん効果もあり、深夜帯の科学系番組にしては大変注目を集めており、中高生からのメールの反響も高い。4月からは番組ネットを関西、九州にも拡大することになった。注目を集める最先端研究者が登場する番組はあるが、その下で実験に取り組む現役理系学生が自らの口で研究テーマを語るような番組は意外と少ない。中高生にも絶大な人気を誇るしょこたんの登用で、若者の科学への興味をかきたてる。 |
深夜に電話すると、研究室に誰かしら人が残っている。私自身、この番組を通して、理系研究者たちの情熱を感じることができたと思います。ラジオは情報量が限られるから、まずは聴取者がなんとなくイメージが湧く、ロケットやロボットなどを題材にしてきました。その後は宇宙物理学やナノテクなど、言葉ではなかなか伝えづらいものにも挑戦しています。今後は火山や動物行動学なども採り上げていく予定。ベースにあるのはサイエンスの未来像です。この技術が進むと世の中はどう変わるのか。それに興味を持つきっかけづくりになればいいですね。 |
「中川翔子のG(ギザ)サイエンス!」ディレクター
(株)サウンドマン 第一制作部・放送課 生江龍太郎氏 |
「中川翔子のG(ギザ)サイエンス!」 放送作家
正岡謙一郎氏 |
学生たちの優秀さは毎回痛感するところ。話が論理的だし、まとめ方もうまいし、わかりやすく伝えるツボも押さえている。一般的に理系離れといわれるが、いやいや日本の理系学生はたいしたもの。彼らの話を聞いている限り、日本の技術の将来は安心できると思っています。そして、しょこたんのファン層が聞いてくれることで、若い人たちの関心が高まればいいと思います。この番組は科学番組というより、理系の人が登場する理系番組。どんなすごい科学技術も人間がつくっている。その面白さを伝えていきたいですね。 |
今、理系学生がなかなか採用できない企業がある中で、京セラさんは理系人材の採用効果という観点からこの番組の趣旨に関心を持たれていました。研究に従事する人をクローズアップすることで、技術立国ニッポンをアピールしたい。人が面白ければ番組になる。金融バブルが一段落して、学生たちも次の就職トレンドを探そうとしているところです。次は意外と理系がトレンドになるかも。番組への反響を通してその手応えを感じています。 |
ニッポン放送編成局編成部
節丸雅矛副部長 |
サイエンスZERO
科学番組づくりで実績があるのは、なんといってもNHK。「ためしてガッテン」などの生活科学、「ダーウィンが来た!」などの自然科学系番組のほかに「NHKスペシャル」の科学ドキュメンタリーも定評がある。「サイエンスZERO」は、前身の「サイエンスアイ」を引き継ぎ、NHK教育で2003年春から放送されている科学番組。
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渋谷のNHK放送センター415スタジオは、ブルーバックで人物の動きを撮影し、コンピュータ上で制作されたCGとリアルタイムで合成を行うことができるハイビジョンバーチャルスタジオだ。肉眼で見えるのは、全面ブルーの壁の前で話す出演者たち。ところが上階の副調整室のモニターにはしっかりCG合成の背景セットが組み込まれ、あたかも人物がリアルなセットのなかで動いているように映し出される。さまざまな映像が、タイミングよくその画面上にインポーズされる。 4月12日(土)24時放送予定の「病気を見逃すな 画像診断技術」の本番収録。ハイビジョンで撮影可能な内視鏡や臓器をまるごとリアルタイムに撮影できるようになったCTなど画像診断技術の進歩が病気の診断にどのように役立っているのかを探るのがテーマだ。
スタジオと副調整室の間でインカムを通して盛んにやりとりがされている。番組キャスターの安めぐみさんが、飲み込むだけで小腸の様子を撮影できるカプセル型内視鏡の話題に触れる。「日本では治療に使うための認可待ち」と台本通りに話すと、副調整室にいる制作統括の落合淳プロデューサーからさっそくチェックが入った。 |
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この日の専門家ゲストは、藤田保健衛生大学の片田和広教授。放射線医学が専門。医療機器メーカーと共同で、1回転で心臓や脳など臓器全体を撮影できる新型CT装置を開発した。 この日のスタジオ収録分に加え、内視鏡メーカーなどでの取材シーンが加わって番組は完成する。取材でも大活躍なのが安めぐみさん。「海の不思議を解きあかせ」というテーマで潜水調査船「しんかい6500」を取材したときは、報道関係者でもなかなか入れないコックピットに潜り込み、マニピュレーターの操作も体験して、番組スタッフをうらやましがらせた。
「そうなんです。けっこう私、カラダ張っているんです(笑)。難しい研究に取り組む先生たちに話を聞くというので、最初は私もかまえちゃってました。みなさん、カメラが回り出すとカチカチなんですが、カメラが止まると実はお喋り好き。研究者ってこんなに面白い人ばかりなんだというのが実感。この番組をやるようになって、ニュースの中のサイエンスの話題にも敏感になりました」と語る安さん。 |
視聴者層は30〜40代が中心で、どちらかといえば技術者系の方が多い。金曜19時からの再放送は10代もよく見ているようです。宇宙や深海探査のような人気ネタだけではなく、RNA(リボ核酸)や糖鎖といった、よく知られていないが重要な意味のあるテーマも積極的に採り上げるようにしています。この番組でしかできないもの、というのがテーマ選択にあたっての外せない視点なんです。 毎回、日本や世界を代表する最前線の研究者に出演いただけているのが自慢。テレビでは世界初公開の映像もあるし、これまで誰も見たことのないようなCG映像づくりにも力を入れています。ただ、番組を一般視聴者にとって敷居の高いものにはしたくない。その点、安めぐみさんの役割は重要。安さんの前では、専門家のみなさんも、かみくだいてお話いただける。台本も、安さんに理解してもらえるかな、といつも考えながら書いていますね」 |
NHK制作局
科学・環境番組部 チーフ・プロデューサー 落合淳氏 |
NHK放送総局 アナウンス室 アナウンサー
山田賢治氏 |
今年4月からこの番組のキャスターを担当することになりました。私自身、大学院ではNOx触媒の研究をしていた理系で、アナウンサーとしては変わりダネ。就職の時、研究室の教授はやや渋り顔でした。とはいえ、アナウンサーになっても科学への関心は絶やさず、地方局勤務 時代にも科学、医療、環境問題の番組づくりにかかわっていました。 |
「サイエンスZERO」2008年4〜5月の放送予定 | ||||||||||||||
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科学・技術の振興にあたって、テレビ、ラジオ、新聞、映画などのメディアが果たしてきた役割は大きい。メディアにおける科学番組や報道の量は、その国の科学水準を測るバロメーターともいわれる。だが、科学技術が巨大化・専門化・高度化するにつれて、その内容を一般の人々にわかりやすく説明する苦労も増している。専門家でも分野が異なると、言葉が通じなくなるというのに、毎回さまざまな異なるテーマを採り上げて、それをわかりやすく伝えようとする番組制作者の努力は並大抵のものではない。そのことが今回の取材でよくわかった。 逆に言えるのは、今どきの科学番組の演出スタイルは、エンジニアにとって、自分の研究内容や開発テーマを他人にプレゼンテーションする際の格好の見本になるかもしれないということ。しょこたんや安めぐみが、科学の詳しい知識がなくても理解してもらえるよう、説明の順序を吟味し、映像や図版を活用し、ときには、軽いジョークも混ぜてみる。受け狙いでデータを捏造するのは御法度だが、言葉の言い換え一つで、物事がとたんにわかりやすくなるということはあるのだ。「その技術が私の夢とどう関係がするの?」という素人の疑問をつねに意識することが大切だ。この春からは、そんな視点で科学番組を楽しんでみるのも悪くない。 |
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