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厳選★転職の穴場業界 第28回 風力発電 風車が作りたいなら自分の得意分野で勝負する
地球温暖化防止に向けたCO2削減技術として、また脱石油のための有効手段のひとつとして注目を浴びる風力発電。しかし、性能、耐久性、価格などの面で多くの課題を抱えている。このような現状に対し、エンジニアはどのような活路が開けるのか。その一例を紹介しながら、風車開発の醍醐味と将来性を紹介する。
(取材・文/伊藤憲二 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:07.09.13
外周のダクトとカーボン製超薄型ブレードの美しい調和
水平軸風車「GHDWT」シリーズ
水平軸風車「GHDWT」シリーズ
水平軸風車「GHDWT」シリーズ
ダクトを装備してブレード端とのクリアランスを5mmまで詰めることにより、大型風車並みの高効率を実現した10kW級風車。ローター径4.7mは同クラス中世界最小。風車とタワーの合計で2tを切るフルカーボンコンポジット製軽量ボディーは設置の自由度が大きく、安定した性能は発電事業用途にも耐えうる。
 私たちが目指したのは世界最高の小型風車作り。ローターの周りにダクトを装着することでブレードへの風当たりが向上、効率を落とすブレード端の乱流が抑えられ、ダクトなしに比べて約3割もの性能アップを果たすことができました。しかし、実際に作るとなると一筋縄ではいきません。
 ブレード端とダクトのクリアランスは小さいほどいいのですが、軽量化と高効率を狙ったカーボンコンポジット製超薄型ブレードは、金属ブレードと違ってたわみが出るんです。厚さ1cmにも満たないブレードの形状変化を抑える構造を考案し、ダクトとのクリアランスをわずか5mmにまで詰めることに成功しました。風車のスペックはもちろん、美しい仕上がりをぜひご覧になってください。(木村 學)

ジーエイチクラフト:宇宙航空技術を投入した高性能小型風車を完成!
木村 學氏
株式会社ジーエイチクラフト
代表取締役社長

木村 學氏
大学在学中にヨット競技に目覚め、卒業後に競技用ヨット製作会社のジーエイチクラフトを設立。その後ヨットで経験した複合材技術を土台に、レーシングカー、航空機、宇宙往還機などの開発を手がける。2002年より風車開発に進出。
20年以上前から風車を作りたいと思っていた

 現在の風力発電は、ブレードの長さが何十mもあるような大型風車が主流。その理由は、小型で実用に耐える性能をもつ風車作り自体が、技術的に難しいからだ。実際、世界で発売されている小型風車を見ると、スペックは立派でも設置後の発電が不十分、すぐに故障するなどのトラブルに悩まされるケースも見られている。
 その小型風車に革命をもたらしたいと考えたのは、複合材加工技術の高さで知られるジーエイチクラフトの木村學社長だった。

「私が風車を作ってみたいと考えたのは、実は20年以上前のことでした。弊社はもともとヨット作りのために創業した会社。ヨットの開発は非常に面白く、競技において世界レベルで戦うことができたのも収穫でしたが、趣味のものばかりでなく世の中の役に立つ製品を作りたいと思うようになりました。その候補のひとつが風車だったのです」
キーデバイスであるダクトの装着で効率が3割向上

 小型風車「GHDWT」シリーズの開発に乗り出したのは2002年。当時、ジーエイチクラフトは自動車メーカーと共同でバスを電気自動車に改装するプロジェクトに参画していた。その際にインホイールモーターなどさまざまなモーター技術に触れ、「風車に応用しても素晴らしい回転体になる」ことを確信したのが、GOサインを出した理由のひとつだという。
 木村氏は最初から、普通の風車を作ろうなどとは考えなかった。写真を見てわかるように外観はかなり独特であり、最大の特徴はローター外周へのダクトの装着だろう。いかにも空力的なダクトとブレードの形状は、実験用風洞を思わせる。
「このダクトは、小型でありながら大型風車と同等の効率を実現するためのコアテクノロジーです。風車に当たる風というのは、実は想像するよりずっと脈動が激しいんですよ。ブレードに当たる風の速度は1秒間に秒速0mと10mの間で何度も変動することがあります。この風の変化にどう対処するかが、小型風車の開発では極めて重要なテーマとなるんです」
 小型風車は風を受ける面積が小さいため、風の変動の影響は大型風車より格段に大きい。ならばダクトを使って風を強制的に導いてやれというのが発想だった。このアイデアは大当たりで、ダクトなしに比べてトータルで約3割もの効率向上を果たすことができたという。

夢は「自動車1台、家1軒につき、風力発電1基」

 ジーエイチクラフトの風車は、最先端の宇宙航空向け材料でもあるフルカーボンコンポジット製。ブレードを軽量化し、微風から発電のためのトルクを得られるようにするためだ。ちなみに宇宙航空技術は複合材だけでなく、空力特性、機械設計、発電のための制御技術など、さまざまな部分に応用されている。
 こうした作り込みにより、直径わずか5.6mというコンパクトなサイズながら、定格出力が10kwという性能の小型風車を実現した。現在、中部国際空港や横浜・みなとみらいのMM33プロジェクトビルなどで既に稼働中だが、小型であるにもかかわらず、事業用発電機としての能力をも有していることが、発電計測データによって実証されつつある。
 将来の目標は「自動車1台に1基、家1軒に1基、小型風力発電機が装備されるような時代を到来させること」だという。そのため今後は、「総費用約1500万円という今の価格を半分にすることに取り組んでいきたい」。
 同社は現在、風車に続いて航空機事業への本格参入を計画している。完全無人垂直離着陸機を開発しているが、その3号機のプロペラには風力発電機と同様のダクトが装備されている。そのほうが高い性能が出るからなのだという。複合材と流体力学について高い技術力をもつジーエイチクラフトの夢は、地上へ、空へ広がるばかりだ。
新工場
7月に竣工したばかりの新工場。社屋の上には3台の風車が回る。
QTW-UAW FS1
QTW-UAW FS1
開発を進めている完全無人垂直離着陸機の1号機。翼を上にティルトさせることで浮上し、上空では翼を元に戻して飛行する。
QTW-UAW FS3
QTW-UAW FS3
無人垂直離着陸機の3世代目モデル。プロペラの周囲に風車と同様のダクトを付けるなど、斬新なアイデアが盛り込まれている。300q/hで1000q連続飛行が可能。
風車開発への道:要素技術と自分の専門性の重なりを探せ
 人類の夢、再生可能エネルギーの利用手段である風車開発の仕事に、チャンスがあるなら就いてみたい!――そんな思いを抱くエンジニアもいるだろうが、未経験から風車の開発職に転じることは可能なのか? 答えは「エンジニアのスキルとやる気次第でYES」である。
 風車は製品トータルでは極めて特殊性が高い技術だが、要素技術を見ると、そのほとんどはほかの業界でも使われているものばかり。
 風を効率よく運動エネルギーに変えるための流体力学、軽量化と高強度を両立させるための構造設計や材料工学、風車のブレードの可変ピッチや首など可動部分の機械設計およびメカトロニクス、発電した電気を安定したエネルギーに変換するパワーエレクトロニクス、蓄電システム等々。どこかに重なる技術分野があるはずだ。

 問題は転職先の企業探し。リクナビNEXTでは「風車」「風力発電」などのキーワードで求人情報を得られるが、風車自体がまだ大きな市場を形成しているわけではないため、求人があったら応募するというスタンスだけでは苦しい。
 風力発電を手がけているのは重工メーカー、自動車メーカーなどの大企業がメインだが、発電機メーカーや電力会社が自前で開発を行ったり、ジーエイチクラフトのようにスタンドアロンで開発に乗り出すケースも多々見られる。また、技術的には未成熟な場合も少なくないが、ベンチャー企業勢も徐々に力を蓄えてきている。それらの企業に自分からアタックする気構えが重要だ。
 風車開発に携わっているエンジニアは、中途採用についてこう口をそろえる。
「やりたいなら若いうちに積極的に門をたたくこと。未経験でも情熱次第でできることはあるし、他分野の技術が風車を大きくレベルアップさせることもある。とても面白いし、やりがいもあるので、ぜひチャレンジしてほしい」
風力発電業界のエンジニアニーズ
・  モノづくり系エンジニア全般に何らかのチャンスあり
・  機械設計、流体力学、構造設計、材料工学はコアスキル
・  高性能な蓄電装置など将来技術の開発ニーズも
・  既存メーカーだけでなくベンチャー系でも人材ニーズあり
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
ジーエイチクラフトは新工場が7月末に完成したばかり。社員は「鳥人間コンテスト」などで活躍した理系大学生が多いとか。会社を挙げての将来の夢は、「自社で航空機を開発する」こと。ちょっとうらやましくなってきませんか? 今後もこうしたイキのいいエンジニアのいる業界や企業を紹介していきます。

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