3D画像解析ソフトのラトックシステムエンジニアリング


		工学部中退の宅配便ドライバーが挑むエンジニアへの転職 3D画像解析ソフトのラトックシステムエンジニアリングへラトックシステムエンジニアリングは3D画像処理と超LSI用CADアルゴリズムに特化するベンチャー企業。とりわけ3D画像解析ソフトには定評があり、骨の解析ではトップシェアを握る。そんな同社の人材採用は経験よりも興味と素養。入社後の成長力を複眼的にチェックする面接現場になっている。（取材・文／須田忠博　総研スタッフ／高橋マサシ）作成日：06.08.23

万代敬大さん
（当時25歳）

代表取締役社長
理学博士

南郷脩史氏

当時の職種

宅配便ドライバー

募集職種	3D画像解析ソフト開発エンジニア

業務内容	宅配便荷物の収受・配送。

仕事内容	3D画像解析・画像認識システムの設計・開発。

職務経歴	国立大学工学部電気電子工学科を中退後、宅配便ドライバーを2年半。

応募資格	大卒以上。経験不問。数学が好きなこと。論理的に物事を考えられること。

志望動機	興味ある3D画像の分野でエンジニアとして再出発したかったため。

募集背景	研究者のニーズに応えながら、長期的に事業を拡大させるため。

ほぼすべての応募者を通過させる。

筆記テスト（数学、作文）のあと、技術責任者が1対1で面接する。所要時間は1時間以内。

社長が面接する。所要時間は約1時間。

2次面接から2～3日以内に連絡する。まれに3次面接を行う場合もある。

【通過率：2～3割】

【通過率：約3割】

Part1

現在の仕事・大学時代の学習内容


	トラックドライバーの仕事から素養を見る

南郷：
　はじめまして。当社の代表をしている南郷です。ご足労いただき、ありがとうございます。

万代：
　こちらこそ、よろしくお願いします。

南郷：
　早速ですが、現職についてうかがいます。○○○（宅配便会社）では何をしているのですか？

万代：
　宅配便のドライバーです。荷物の収受と配達が7割、事務が3割という感じです。

南郷：
　【Point1】×××（競合する宅配便会社）のドライバーは荷物を台車に載せて走っていますね。それに対して○○○は、おっとり仕事をしているように見えます。何か理由があるんですか？

万代：
　×××は待遇がいい分、仕事が厳しいんです。短い年数でたくさん稼いで辞めていく人が多い。しかし、○○○のほうは力を抑えながら長く続ける人が多いんです。そういう違いによるものだと思います。

南郷：
　売上高の伸びはどうなんですか？

万代：
　○○○のほうが伸びています。

南郷：
　【Point2】荷物を運ぶときに注意するのは、どんな点ですか？

万代：
　いちばんに荷物を壊さないようにすること。冷蔵・冷凍物は温度管理に気をつけます。それと、時間指定配達では時間厳守を肝に銘じます。

南郷：
　営業活動もするのですか？

万代：
　新しい荷主さんの開拓を奨励されてはいますが、基本的に営業活動はしません。

南郷：
　万代さんの担当エリアは法人と個人のどちらが多いですか？

万代：
　産業地区なので会社が多いです。自動車メーカーなど大口顧客が何社もあります。

南郷：
　【Point3】固定の顧客会社には毎日夕方、決まった時間に荷受けに行くでしょ。それが6時とすると、まだできていない荷物があって「7時にもう一度来て」といわれたら、どう対応しますか？

万代：
　7時でも後処理に間に合うなら何とかしますが、どうしても無理な場合はそのことを説明します。そうしないと、ほかの荷主さんに迷惑がかかりますから。

	中学時代はBASICでゲームのプログラミング

南郷：
　【Point4】話が前後しますが、せっかく国立大学の工学部へ進んだのに中退していますね。なぜですか？

万代：
　内臓の病気で入退院を繰り返し、5年間在学したんですが、卒業はあきらめました。

南郷：
　病気はすっかり治ったんですか？

万代：
　はい。体力をつけようと思って宅配便のドライバーになりました。

南郷：
　大学の勉強では何にいちばん興味をもちましたか？

万代：
　【Point5】電子回路が好きで電気電子工学科に入ったんですが、コンピュータの授業のほうが面白かったです。

南郷：
　どんなことを勉強しましたか？

万代：
　【Point6】UNIXの使い方などです。FORTRANも習いました。

南郷：
　C言語は？

万代：
　さわりだけで、本格的にはやりませんでした。

南郷：
　プログラミングは大学に入ってから初めて覚えたんですか？

万代：
　いいえ。中学時代にBASICで組んでみたりしていました。雑誌に載っていたゲームのプログラムを写して、自分なりの改造をするような遊びです。

南郷：
　きちんと動きましたか？

万代：
　はい、動きました。

［面接官］この質問と次の質問は視野の広さを探ることが狙いです。仕事の内容を問わず、視野が狭い人は目の前の仕事しかわからないもの。そういう人では、当社のように次々と応用範囲を広げていく事業に適しません。

［応募者］南郷さんの面接では、質問の仕方は普通一般とはかなり違うと感じました。生い立ちから現在の仕事へと順番にたどるのが自然だと思っていたのですが、いきなり現職の話に入り、しかもこの質問ですからね。正直、戸惑いました。

［面接官］担当業務について、どの程度の意識化がなされているかを知りたくて尋ねました。自分の仕事について考える姿勢ですね。現在の仕事内容が当社とまったく違っていても、そういう姿勢は相通じるものだと思っています。

［応募者］意外な質問というのは、質問の中身よりも、こちらの動揺を誘って「素」を出させることが狙いなのかなと思いました。そうではなかったんですね。

［面接官］対顧客の考え方を見定めたいのです。普通は大きく2通りに分かれます。自分の許容範囲の中で可能な限り顧客に役立とうとする人と、自分の都合や通例に顧客が合わせるべきだと固執する人です。万代さんは前者のようです。

［面接官］大学を中退している場合、その理由は一応尋ねます。しかし、どんな理由であっても選考に影響することはありません。また、当社の応募資格は大卒以上となっていますが、中退であっても構いません。欲しいのは大卒以上の基礎能力であって、学歴ではないからです。

［面接官］彼がコンピュータに興味をもつ人だとはわかりますが、この点を評価することはありませんでした。このあとで、中学時代にゲームの改造プログラミングに熱中したという話が出てくるのですが、むしろこちらに好感を抱きました。何かをつくったり、物事に熱中するタイプの人を私は評価します。

［面接官］当社の開発はUNIXで行いますから、この点は1ポイントプラスの評価です。ゼロから勉強するよりは楽ですからね。

Part2

転職先企業の事業への興味

	経験はないが、3D画像解析ソフトへの強い関心

南郷：
　○○○を辞めて当社へ転職したいと考えているのは、どうしてですか？

万代：
　2年半勤めて体力も完全に戻りましたから、エンジニアとして再出発したいと考えています。それで応募先を探していたところ、御社が目に留まりました。3D画像にはとても興味があり、エンジニアとして歩み始めるにはぴったりだと判断したのです。

南郷：
　仕事の実務でプログラミングをした経験はないんですよね？

万代：
　はい、ありません。

南郷：
　【Point7】コンピュータ技術者向けの専門雑誌は読みますか？

万代：
　ソフトウェア関連はあまりありませんが、ハードウェアの専門雑誌はよく買います。

南郷：
　○○○で頑張って、コンピュータソフトに触れるような仕事へ異動するという気持ちはないんですか？

万代：
　Excelでマクロを組んで事務に使うようなことはしていますが、プログラミングやシステムといった次元には程遠いレベルです。

南郷：
　当社のホームページを見て、3D画像解析のどんなところに興味をひかれましたか？

万代：
　骨や脳などの医療研究に生かされているところです。

南郷：
　医療に関心があるんですか？

万代：
　医療というよりも、バイオテクノロジーやナノテクノロジーの分野で3D画像解析ソフトを役立てていくことに関心があります。

南郷：
　つまり、3D画像解析という切り口で何でもやってみたいと？

万代：
　はい、そうです。

	エンタメ系ソフトとの決定的な差

南郷：
　アーケードゲームはやりますか？

万代：
　はい、格闘技ゲームなどです。

南郷：
　ああいうポリゴンゲームをつくってみたいとは思いますか？

万代：
　少しは興味があります。御社で採用していただけないようなら、そういう方向も正直考えています。

南郷：
　【Point8】同じ3D画像でも、エンタメ系のソフトウェアはそれらしく見せることが主眼ですが、当社のソフトは3次元で存在するものを3次元でとらえて評価することを目的にしています。まったく異なる分野です。
　それで、もし当社へ入ったとしたら、何をしたい、何ができるようになりたいですか？

万代：
　どの分野の研究に役立つものであれ、3D画像解析ソフトの設計・開発者を目指したいです。

南郷：
　少なくとも、こういう貢献はできそうだという事柄はありますか？

万代：
　3D画像のほうではないのですが、御社はLSI CADの事業も行っています。大学で学んだLSIの知識は生かせるだろうと思います。

［面接官］この質問の意図は、興味の深さを測るところにあります。別の業界、別の仕事をしていたとしても、本当に興味があれば専門雑誌くらいは読むものです。

［応募者］ソフト技術誌を愛読していると答えられたらよかったのですが、うそはいえません。正直に答えました。

［応募者］そのことはわかっていました。ゲーム会社へ行く気はあまりなかったのですが、3D画像へのこだわりを示すためにエンタメ系も考えていると答えてしまい、南郷さんに突っ込まれたわけです（笑）。実際の面接ではより詳しい説明を受けました。

Part3

趣味・自己PR

	趣味はビリヤードとバイクのツーリング

南郷：
　【Point9】ところで、万代さんには何か趣味がありますか？

万代：
　趣味はビリヤードとバイクです。

南郷：
　ビリヤードには何種類かのゲームがあるんでしょ？

万代：
　ええ。私は9ボールです。

南郷：
　盤にボールを散らして2人で突き合うゲームね？　あれは何を競っているのですか？

万代：
　1番から順にボールを穴に落としていって、最後に9番ボールを落としたほうが勝ちというゲームです。

南郷：
　なるほど。頭を使うゲームですね。

万代：
　論理的に考えないと勝てません。もちろん練習の積み重ねも必要です。

南郷：
　何手先まで読むんですか？

万代：
　基本的には3手先まで読みます。3手先から逆に計算して突いていくんです。パズルみたいな感じですね。

南郷：
　そうですか。バイクのほうは、自分で改造なんかもするんですか？

万代：
　いえ、改造はしません。ノーマルで乗っています。

南郷：
　遠出のツーリングはどこまで行ったことがありますか？

万代：
　北は北海道、南は九州まで行きました。

南郷：
　バイクツーリングのどんなところが面白いですか？

万代：
　【Point10】旅先での出会いですね。地元の人と飲み屋で意気投合して話し込んだりします。

南郷：
　出掛ける日数は？

万代：
　今の職場ですと、最長5日です。それ以上連続して休みを取るのは難しいですから。

	アピールポイントは粘り強く続ける性格


南郷：　【Point11】最後にうかがいますが、自分について最も優れていると思う点は何ですか？

万代：　やると決めたら、着実にこつこつと継続していける点ですね。3D画像解析ソフトにしても、超LSIのCADソフトにしても、これをやれと命じられたら粘り強く能力をアップさせていける自信があります。よろしくお願いします。
南郷：　そんなふうにしてこつこつ続けて成果が出たものには、例えば何がありますか？

万代：　趣味でいえば、やはりビリヤードですね。プロ級のSの下にA、B、Cとあるんですが、ずっと練習してきて、今はAに手が届きそうなくらいまで上達しました。（このあと、南郷氏は希望待遇や入社可能時期などについて確認した）

［面接官］どの応募者にも趣味について尋ねます。どんな趣味をもち、どこが好きなのかを聞いていくと、人となりが現れるからです。仕事と技術の話だけでは人物像をつかみ切れません。

［面接官］自然体で人との関係を広げていけるところは、当社の業務でプラスに働きます。というのは、顧客である研究者たちとなじむことで、新たなニーズを拾う機会が生まれるからです。

［面接官］これは質問というより、自己PRをしてくださいという意味合いです。ほとんどの応募者が準備してきているようで、皆すらすらと話してくれます。

●興味をもって自社の仕事に取り組めそうか。
●何かに熱中したこと、頑張ったことがあるか。
●コミュニケーション能力があり、技術吸収の素養が十分にあるか。

　最も重視するのは、3D画像解析ソフトをつくることへの興味の深さだ。これまで経験したソフト技術との接点や、転職の動機なども併せてチェックする。次に、過去に熱中した経験を見る。勉強、仕事、趣味と、対象は何でも構わない。熱中して頑張れる人なら入社後に成長もできると判断する。能力面では、コミュニケーション力と技術吸収力を探る。前者は適切な受け答えから、後者は筆記試験の結果も加味しつつ、論理的な思考ができるかどうかを判定する。現時点での技術力は問わない。

「会った面接官は皆が誠実そうな印象で、社内はいいムード。
社員が社長を『南郷さん』と呼んでもいる。
また、3Dデモ画像を見せてもらい、技術力の高さも確認できました」

　私の場合、2回の面接で合計3人に会ったのです。どの人も、話していて誠実そうな印象を受けました。また、社員は社長を「南郷さん」と呼んでいるんですね。とても気持ちのいいムードに感じられました。また、2次面接のあとで、心臓の血管解析などの3Dデモ画像を見せてもらいましたが、すごい技術だと改めて感じました。未経験者をじっくり育てて、世界を相手にできるエンジニアに成長させるとも聞いていましたから、この会社こそ私の再出発にふさわしいと思いました。

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ

この連載ではエンジニアの転職シーンを紹介していますが、今回は「エンジニアへの転職」。しかも、業務としては全くの未経験で、業界すら随分と違います。しかし万代さんはチャンスをつかみ、現在では主力社員として活躍しています。現在エンジニアである人にも、多くの門戸が開かれていると考えてよいでしょう。可能性を問う前に、行動することが大切なのかもしれません。