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俺が全部面倒見てやる、席は空けておくぞ、自信の柱をもて 転職を思いとどまらせた上司の“デカい”ひと言
上司との軋轢から転職を考える人も多いが、逆に上司のひと言で転職をやめた人もいる。転職の意思がわかれば、上司が引き留め工作に出るのは予想されること。にもかかわらず決意を翻させた上司の「デカいひと言」とは何か。アンケートの結果、約2200人中110人がこれで転職をやめている。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ イラスト/齋藤 央)作成日:06.03.15
内定獲得後 内定を辞退させた理由は「止めない」「部署変え」「感動させた」
 今回のアンケート調査はエンジニア約4200人に配布。転職活動経験のある約2200人のうち、110人が「上司の言葉や行動で転職をやめた」と答えている。これだけでも編集部の予想以上の数となったが、最も数が少ないと思われた「その結果内定を断った」エンジニアが31人と、転職活動の進行別でいちばん多かった。その決断をさせたひと言は、転職を止めない、部署を異動する、部下を感動させた、の主に3つだった。
1.無理に転職を止めず、部下の気持ちに任せてくれた
上司のひと言 2つ上の上司 部長から 転職を止めはしないが、お前は絶対に必要だ。ポジションは空けておくから、いつか戻ってきてくれ。
それまでの経緯
会社もそうだが業界全体の将来に不安があり、息長くできる仕事を探して転職活動をした。内定を得て退職意思を伝えたら、部長はかなり親身になってくれ、私への思いやりも感じさせてくれた。とてもうれしく、会社にとどまることを決意した。
オープン系SE(28歳)
上司のひと言
 直属の上司 課長から
この会社でまだまだやりたいことができる。そうお前が思うなら、転職はやめたほうがいい。
それまでの経緯
学生時代に慣れ親しんだ街で、自分の経験を十分に発揮できる求人が、日本を代表する大企業からあった。内定の話を聞いた上司は努めて冷静に話を聞いて、真摯に自分の考えを語ってくれた。私は、現在の会社にいる価値と住環境を変えて生活をやり直す価値とは次元が異なり、判断できないと思った。それならば会社にいようと決めた。
プロセス開発(31歳)
上司のひと言
 3つ上の上司 部長から
辞めることはいつでもできる。大事なのは、やり残したことがないかどうかだ。
それまでの経緯
現在の職場では先行きが全く見えず、不安感から転職を考えた。部長は直接的に「残ってほしい」というニュアンスでは話さず、今の職場で自分のしたいことがすべて終わったかどうかの確認をしてくれた。内定は断った。
運用・サポート(25歳)
上司のひと言
 2つ上の上司 部長から
今の職務でも知識を得られる立場にする。それから転職するのでも遅くないし、準備期間としてもちょうどいいだろう。
それまでの経緯
金融業界関連のエンジニアとしてテクニカルサポートをしてきたが、金融業務自体に興味をもった。部長は周りに悟られないように振る舞ってくれて、違う業界に転職しようとする自分に、十分に考える時間を与えようとしてくれた。転職はやめた。運用・サポート(32歳)
2.よほどの度量がないと断言できない「部署の異動」を約束してくれた
上司のひと言 3つ上の上司 経営層から 俺が全部の面倒を見てやる
それまでの経緯
直属の上司に嫌われて、実績とは関係なく人事評価を落とされ、後輩のほうが先に昇進する始末。仕事は気に入っているが職場の人間関係が退職理由だと伝えたら、同じ仕事ができるまったく別の環境を用意してくれた。この上司はもともと社内で唯一尊敬できる人であり、この人のためにやってやろうと思った。 社内SE(31歳)
上司のひと言
 直属の上司 課長から 
お前が思っている以上に俺はお前を買っている。ほかの部署でどうだ。
それまでの経緯
当時の業務で自分の可能性の限界を感じ、ほかの業務に適性があると感じていた。しかしこの言葉で、現状の業務に能力がないと思ったら、まずは社内での部署変えを希望すればよいと思った。内定は取りやめた。
ミドルウェア開発(32歳)
上司のひと言
 所属していた親会社の上司 部長から
開発がしたいならポストは準備する。戻ってこい。
それまでの経緯
指揮系統がはっきりせず現場任せの小会社で、何事も親会社の言いなり。期待して仕事を依頼してくる顧客に申し訳なくなり、嫌気が差して、ほかの会社で以前の開発をしたくなった。しかし、私の意思が伝わると元の上司は迅速に根回しをしてくれた。初めて、人間関係や恩という言葉を意識した。コンサルタント(39歳)
上司のひと言
 海外勤務時代の上司 課長から
やりたいことをやればよいが、お前が絶対打ち込めるプロジェクトが近いうちに立ち上がる。ちょっと待ってみないか。
それまでの経緯
25歳から3年間海外勤務を経験し、海外畑でキャリアを積みたいという強い希望があった。ただ、希望はかなわず、公私共にお世話になっていた昔の上司に相談した。信頼している先輩であり、一緒に頑張ろうと言われて心が動いた。
汎用機系SE(39歳)
3.自分のことを考えてくれる人がいると教えてくれた
上司のひと言 直属の上司 係長から お前が内定をもらった会社をいろいろ調べたが、今よりいいところはひとつもないぞ。俺は絶対に見過ごせない。
それまでの経緯
当時の課長とウマが合わず、最低の査定をつけられたことを人づてに知って、転職活動を始めて内定を得た。上司に退職の意思を伝えると、このように熱心に語ってくれた。考えた末、この先輩にしばらくついていこうと思った。
半導体設計(37歳)
上司のひと言
 2つ上の上司 部長から
そんな寂しいことをいうな。上司ではなく、個人としてとどまってほしい。
それまでの経緯
営業部門へ異動になったが、業務内容が自分と合わなかった。過去にプロジェクトの上司だった部長に相談すると、二人だけの会議室でこう言われて、心がグラっときた。過去の仕事、打ち上げ、プライベートでの交流などを思い出し、1週間後に残ることを報告した。オープン系SE(38歳)
上司のひと言
 3つ上の上司 部長から
5年待て。君ならポジションも上がり、仕事も面白くなる。俺の言葉を信じろ。
それまでの経緯
年功序列の会社に嫌気を感じて転職を考えた。しかし、この上司の言葉を聞いて、信じる気になった。この5年間は精いっぱい働いてみようと思った。ネットワーク設計(30歳)
上司のひと言
 直属の上司 課長から
君は俺に似ているからわかる。自信をもてる柱をひとつ作って、それをベースにお客様と話せばいいんだ。
それまでの経緯
社内外の人間関係がうまくいかずに、出社拒否症になっていた。課長は気さくにコーヒーショップに誘ってくれて、二人で並んで話した。実は私もこのようにお客様に接したいと思っており、また、自分のことをここまで考えてくれている人がいたと知って、内定を断った。コンサルタント(36歳)
「上司の言葉」で転職活動をやめたエンジニアは5%
 今回アンケートをお願いしたエンジニア4202人中、「転職を考えたことがある」が3422人で、そのうち「転職活動をした」が2218人だった。この人たちに「転職をやめた理由」を最大3つまで答えてもらい、「上司の好意的な言葉や行動に気持ちを動かされた」人が110人という結果となった。
 最も多かったのは「魅力的な企業が見つからなかった」で、次が「応募条件が当てはまらなかった」。つまり、「できれば転職をしたかった」人がかなり多い。これは、「自社のよさを再認識」してやめた人の少なさからも裏付けられる。
 そんな状況の中で「上司の言葉」は異色だ。そんなこと(?)で転職をやめる、ましてや内定を辞退するなど、信じられないと思う人もいるだろう。実際にTech総研に寄せられる読者の声も、上司への不満を語ったものが数多い。しかし、5%のエンジニアが、これで転職活動を中止したのだ。やはり上司の存在は「デカい」。
転職活動を途中でやめた理由(最大3つまで)
転職活動中 中途で転職活動をやめさせたのは上司の本気モード
 ここでの「転職活動中」とは、封書やメールで履歴書・職務経歴書を企業に送った段階から、幾度かの面接を経て、内定を得る前の最終面接まで、そのいずれかに進んだエンジニアのこと。まさに活動の真っ最中なのだが、上司の言葉はそんな彼らを止めさせた。
上司のひと言 直属の上司 課長から 今日から俺が課長になった。今までの残業代は全部精算し、仕事はすべてリセットする。
それまでの経緯
残業が月に150〜200時間あったが、21:00以前の残業代は支払われず、遅刻は厳禁。身体の危険も感じて転職活動を始めたが、上司の言葉を信じて面接前に転職活動をやめた。その後、これまでの残業代はきちんと精算され、課の体制も変わり、残業時間も月50〜60時間になった。この人の印象は「切れる人だが穏やかで笑顔」だ。 FAE(26歳)
上司のひと言
 2つ上の上司 部長から
皆同じことを考えている。ただ、次のプロジェクトを最後までこなせば、相当のスキルがつく。
それまでの経緯
会社の業務方針について不安を覚えて転職活動を始め、最終面接までいっていた。部長に話すと、「少なからず皆が同じことを考えている」と言われ、その後でこう励まされた。実際に2、3年とどまっても、キャリアとして無駄にはならないと思った。オープン系SE(30歳)
上司のひと言
 2つ上の上司 課長から
転職もいいが時期は今じゃない。もう少しここでスキルをためてから考えたほうがよくないか?
それまでの経緯
転職と同時に進めていたスキルアップのためのスクール通いについて真剣に聞き入れてくれ、時間配分を上手にすれば通ってもよいと了承してくれた。また、ほかの企業の面接を受けて、確かにスキルが足りないと気づかされていた。2次面接に行くのが不安にもなり、上司の言葉を重く受け止めた。社内SE(37歳)
上司の上司、その上の人たちも自分を見ていた
 アンケートでは「自分から見た上司の地位」と「役職」を尋ねている。フレーズの上に「2つ上の上司 課長」などとあるのがそうで、これは、声を掛けた人が直属の上司に限らないという前提による。
 ただ、それでも「直属の上司」が圧倒的に多いと編集部では考えていた。なぜなら、本人の性格や業務内容を最もよく知る人物であり、内定者が退職の意思を伝えるのもこの人だからだ。それが回答数は半分にも満たなかった。先に情報が耳に入ったのが上の上司だったのか、「この問題は係長には任せられない」などとして乗り出してきたのか。
 いずれにせよ、普段はさほど接する機会のない上の上司が、思った以上に自分のことを見て、考えていてくれた。そんな事実と彼らのひと言が、転職を思いとどまらせる大きな要因になっているようだ。
自分から見たその上司の地位
転職準備段階 実際の転職活動を始める前だが、気持ちは上司に届いていた
 ここでの「転職準備段階」とは、単に転職を考えただけでなく、転職サイトや転職情報誌、企業のホームページなどで転職情報を調べたり、転職サイトや人材紹介会社に登録した人のこと。いわば転職活動の初期段階だが、コメントからは回答者の意志の固さが目立った。
上司のひと言 直属の上司 チームリーダーから それでもいいから試験は受けろよ。転職するにしてもこの資格があるほうが得だ。
それまでの経緯
開発業務で大きな成果を挙げて、期待されていると思っていたら、単純なデータ取得作業の業務に就かされた。ややうつ状態になって転職を考えている最中に、会社の補助で受ける資格試験の話があり、押し問答の末に「辞めるので必要ないです」と言ってしまった。自分の負担が増えることが明らかなのに、上司は試験を勧めてくれた。この人を支えてあげたいと思った。 プロセス開発(30歳)
上司のひと言
 4つ上の上司 社長から
お前に辞められたら困る。今の不満や不安は絶対改善するから、一緒に頑張ろう。
それまでの経緯
休日がほとんどなく、仕事ばかりの生活。唯一信頼できる同僚もうつ病になり、限界を感じて、辞める意思を上司にメールで伝えた。有給で休んでいたら、社長から携帯電話に「今すぐどこかの喫茶店で会おう」と連絡が入った。わざわざ出張を早めに切り上げてまで引き留めようとする行動に、もう少し頑張ってみようという気持ちになった。
オープン系SE(35歳)
上司のひと言
 3つ上の上司 経営層から
勉強させるための異動だったんだぞ。お前に期待しているんだ。
それまでの経緯
設計部門から営業部門に配属された。栄転のはずだったが実績がないため、同期の営業職より給料や役職を上げてもらえず、実質的な減給・降格となった。納得できずに好きだった設計の仕事に転職しようとしたら、今後のポジションを説明してくれて、自分が会社に必要だと感じることができた。機械・機構設計(30歳)
どうやって上司は、部下の転職意向を知ったのか?
 その上司は、なぜ部下の転職したい気持ちがわかったのか? 普通なら転職の意思を伝えるのは上司がいちばん後で、まずは家族や友人に相談する……と考えがちだが、現実は逆だった。「自分から進んで伝えた、相談した」が6割とダントツなのだ。
 例えば上の「転職準備段階」なら、本格的な転職活動はしていないわけだから、友人や同僚に伝えるには早すぎる段階だろう。そのためか、転職準備段階の回答者全員が、自分から上司に転職の気持ちを伝えていた。
 内定後なら「報告」するのが当然だが、内定前に「相談」する相手として上司は適切なのか? エンジニアは本当に、上司にそれだけの信頼を置いているのか? その辺の関係については、また別の機会に調べたい。
上司が転職意向を知った経路
エンジニアにとっての上司。その存在はやっぱりデカい
 今回のアンケートから見えてきたもの。それは、組織の構成員としてではなく、ひとりの生身の人間としての上司に触れて、転職を思いとどまったエンジニアの多さだ。転職動機である待遇・処遇の改善が理由となったケースもあるが、その決断には大きな責任が伴うはず。人間的な器の大きさがないと、すなわち組織の構成員レベルの考え方では、約束できないものだろう。できれば私もそんな方々にお会いして、じっくりと技術の話でも聞いてみたい。
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転職経験のある友人のエンジニアに、「上司のひと言」を聞いてみました。彼が退職の意思を伝えると、その決心が固いと見た上司は「エンジニアひとり採用するのにいくらかかると思ってるんだ!」と怒鳴ったそうです。う〜ん、わかるような、わからないような……。もしあなたが「上司のひと言で転職をやめたエンジニア」なら、その言葉を下のフォームから送っていただけませんか? 記事の感想もご一緒にお願いします。
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