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化学、生物、食品からITまで救世主来たれ!10年後の人類を救うバイオ技術最新採用事情
医薬、医療、食品、化成品、農林水産、環境、ITなど、あらゆる分野に影響を与えるバイオテクノロジー。その潜在力は、産業構造を大きく変えるだけでなく、人々の生活や地球の未来をも握っている。そんなバイオテクノロジービジネスの採用事情を調べてみた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/関洋子) 作成日:04.10.20


■バイオテクノロジー業界の市場・採用動向
●2003年のバイオ産業は約1兆6600億円
「ほかの基幹産業に比べれば規模は小さいものの、バイオビジネス市場は着実に拡大しており、人材も活発に動き出している。バイオ産業が今後、飛躍的に伸びるためには、米国のように大学発のバイオベンチャーがもっと自由に活動することが必要だ」というのは、『日経バイオビジネス』の横山勇生編集長。

 日経BP社の『日経バイオ年鑑2004』によれば、2003年の日本のバイオ関連市場(製品と関連サービスを含む)は、前年比9.3%の増加で1兆6579億円にまで達したもようだ。その大半を占めているのが、遺伝子組み換え技術、細胞融合技術、細胞培養技術を用いたバイオ製品で、03年の売り上げは約1兆1918億円。なかでも市場拡大の原動力となっているのが、遺伝子組み換え農作物とバイオ医薬品だ。
●医療、化成品、食品の伸びも期待
 横山氏が今後ビジネスとして注目するのは、テーラーメイド医療、歯・骨・皮膚などの再生医療、クローン化技術などの医療分野だ。今は実験段階だが、数年先にはビジネス化が予測されている。技術者が人の命を救う支援ができる数少ない分野だ。さらに、環境を救う技術として、生分解性プラスチックなどの化成品の開発、脂肪のつきにくい食用油や健康食品素材など、人の健康を支援するバイオ食品の開発なども、これから伸びが期待される分野だ。適用用途は異なるが、今後、伸びが期待されるバイオテクノロジーは、「これからの人類を救う」ことを目的としているものが多い。技術で社会に貢献できる数少ない分野だといえるだろう。
日経BP社日経バイオビジネス編集長横山勇生氏
日経BP社
日経バイオビジネス
編集長
横山勇生氏

九州大学大学院理学研究科終了。1989年、日経BP社入社。日経メディカル編集部を経て日経バイオテク編集部に異動。98年、日経バイオテク編集長。2004年から現職。
●大手コンピュータメーカーが注力するバイオインフォマティクス
 それではバイオ関連で実際に即戦力の転職者を求める企業はどのぐらいあるだろうか。 例えば、ITを駆使してゲノムから重要な遺伝子を探索するバイオインフォマティクス(生命情報工学)。この分野は、サーバーなどのハードと、システムインテグレーションやパッケージソフトなどのソフトを含めて、現在年間350億円前後の市場だが、大手コンピュータメーカーが力を入れており、公募求人も少なくない。 「現在の中心は研究支援ツールの提供などだが、今後バイオインフォマティクスがさらに伸びるためには、ネットワーク、データベース、さらに患者情報の保護などセキュリティ技術を強化することが不可欠。バイオ研究のためのインフラとして成長余地はまだまだある」と横山氏。
●大手企業や大学から、続々ベンチャー化の動き
 またバイオ産業の底辺拡大のためには、バイオベンチャーの役割が欠かせない。バイオ系企業の設立は2000年前後に急激に増えており、人材の受け皿になっている(図)。最近は製薬、食品メーカーなどの基礎研究のアウトソーシング先としてその役割が重要になってきた。 「80年代のバイオブームのときに採用された大手製造業やリストラが行われている製薬会社、さらに大学のバイオ研究者が、バイオベンチャーを設立したり転職したりする人が出てきている。こうした動きは10年前には考えられなかったこと」と横山氏は指摘する。
図
クライス・アンド・カンパニー代表取締役社長丸山貴弘氏
クライス・アンド・
カンパニー
代表取締役社長
丸山貴宏氏

大手就職情報会社の採用担当を約7年経験後、上記会社を設立。前職からの候補者面談者数は1万人を超える。主な著書は「キャリア・コンサルティング」
(翔泳社)。
 ヘッドハンティングのクライス&カンパニーにも、ゲノム解析や細胞工学のベンチャー企業から求人がきている。その一つが、東証マザーズ上場の細胞医療支援事業会社。東大の免疫治療学者の研究を事業化したもので、提携クリニックと連動して、末期がん患者などへの免疫細胞療法支援サービスを行う。

「この会社の場合、研究者そのものは東大の先生のネットワークで集められる。むしろIPO前後の経営体制強化のための管理職系の人材や、全国に提携クリニックを増やすための営業系人材を求めている。今後事業が拡大期に入れば、細胞培養技術者などにも求人が及ぶはず」と丸山貴宏社長。ベンチャー企業の場合は、このように企業の成長段階に応じて求人職種が変わっていくため、応募する側も注意が必要になる。
図
■ 採用実例:こんな人材が求められている
 それでは、実際にどんな企業がどんな人材を求めているのか、2つのケースを見ていこう。
Case1:バイオインフォマティクス
●3つのソリューション(研究支援、創薬支援、診断支援)を軸に研究
 茨城県つくば市にあるNECの基礎・環境研究所バイオ情報テクノロジーグループでは、研究支援、創薬支援、診断支援の3つのソリューションを軸にバイオインフォマティクスの研究開発を進めている。同社のバイオ事業が本格的に立ち上がったのは2000年からだが、ゲノム研究自体は1980年代から行われていた。現在もドライ系(情報)だけでなく、プロテオミクス(タンパク質解析)などウエット系(生物実験)の研究も行われており、ドライ系にとってはウエット系のニーズがその場ですぐに把握できるところが強みだ。

 3つのソリューションのうち、遺伝子発現データなどの収集、マイニング、統計処理などを通して、大学・企業等の研究支援を行う分野はすでに事業化フェーズに入っている。製薬メーカーなどに提供する創薬支援ソリューションは、新薬のための化合物候補をコンピュータ上でスクリーニングし、候補を絞り込むことができるもの。ガンに特化して病理画像の解析などを行う診断支援ソリューションとともに、これからが本格的な事業化フェーズだ。

「当社のバイオインフォマティクスは、ウエットの研究のための支援ツールや新しい知識発見を行うアルゴリズムを開発するのが目標。統計学、数学などのバックグラウンドは必須で、さらにバイオの知識があればなお可というスタンスで研究者の採用を行っている」
 と語るのは、同グループの上條憲一研究部長だ。人材の具体的なターゲットは、バイオ系研究機関や製薬会社でインフォマティクスを担当していたり、逆にIT企業でバイオ関連事業を担当していたりしていた人ということになる。
基礎・環境研究所バイオ情報テクノロジーグループ研究部長上條憲一氏
基礎・環境研究所
バイオ情報テクノロジー
グループ
研究部長
上條憲一氏
●インフォマティクスの本流で仕事ができる
「製薬会社だとインフォマティクス研究者は、本業に対する直接的な貢献とはなりにくいかもしれない。その点、当社なら本流的な位置で仕事ができるし、プロテオミクスのウエット系研究者とコラボレーションしながら、研究開発を進められる環境もある」と、仕事の魅力を訴える。

 入社後は基礎研究のグループリーダーとして力を発揮してもらい、場合によっては事業立ち上げにも参画してもらうため、「単に言われるままに仕事をこなしていた人ではなく、自分なりのアイデアで主体的に研究を進めていたか、進めようと努力していた人」というのが、欲しい人材像だ。現在の採用枠は若干名(詳細の情報についてはNECのホームページを参照)。

「バイオインフォマティクスによる研究開発は、技術・産業的にもまだ黎明期。だからこそ今チャレンジしがいのある分野だ」と、上條氏は強調する。
NECが手がける3つのソリューション事業

Case2:再生医療
●細胞シート工学を応用し、再生医療製品を提供
 生体のもつ再生能力を積極的に利用し、障害や欠損をもった人体組織や臓器の再生をはかるのが再生医療。その基本となる技術革新が大学・研究機関で急速に進んでいる。それらを一日も早く実用化して、患者に提供するという理念のもと設立されたバイオベンチャーが、セルシードだ。東京女子医大・先端生命医科学研究所の岡野光夫所長が世界に先駆けた「細胞シート工学」の研究成果を応用し、再生医療製品などを提供するのが事業目的。

 細胞シート工学では、独自のシャーレを使うことで、温度変化のみで培養細胞を剥離・回収することができる。従来のように酵素を用いる必要がないため、細胞を破壊せず、「糊」にあたる接着因子や細胞間の結合因子を保持したまま、あたかもセロハンテープのような状態で1枚の細胞シートを得ることができる。

 例えば角膜上皮細胞から培養される細胞シートは、「糊」付きの状態のため移植時に縫合の必要がなく、5分程度で生着する。この方法による角膜再生治療は既に臨床試験もスタートしており、従来の角膜移植を大きく変えるものとして期待されている。さらに、細胞シートを積層することで、より高度な機能をもつ生物組織の三次元構造をつくることができる。積層した心筋細胞シートは、培養皿の中で全体が同期して脈を打つことが肉眼でも観察でき、心筋梗塞をおこした部位に移植されると、心機能を回復することが動物実験で確認されている。
再生角膜事業部部長増田 彰氏
再生角膜事業部
部長
増田 彰氏
細胞培養の製造管理から薬事申請、品質管理まで
「細胞シート工学を応用し、再生角膜や、心臓疾患の損傷部位に張り付けて心機能を改善する再生心筋パッチなどの再生医療製品を開発するのが私たちの当面の目標。さらに、細胞シート工学のベースにあるナノバイオインターフェイス技術を生かして、培養器材やクローニング用器材を開発し、再生医療研究者などを支援するのがもう一つのフィールド」というのは、同社再生角膜事業部の増田彰部長だ。

 当面は、角膜上皮細胞シートの認可を急ぐが、2〜3年先のビジネス展開を視野に入れて、細胞培養の製造管理から薬事申請業務、さらにはGMP(医薬品の製造管理・品質管理規則)対応の品質管理システムの開発を担う人材を求めている。

「細胞培養・細胞工学の研究、生物製剤・バイオ医薬品の製造などを3年以上経験した人というのが要件。生物、化学、薬事いずれかの知識は必須だが、それ以上に再生医療、オーダーメイド医療という新しい分野に挑戦する体力と精神力が求められます。お金よりやりがい。社会に貢献できるのがこの仕事の真の醍醐味なんです」と増田氏は語る。
図

■ バイオが転職の新フィールドになる!?
 バイオビジネスの広がりにつれて、医療、医薬品、バイオインフォマティクス以外にも、精密機器、化学・素材、食品、環境・エネルギー企業からも研究職を募集する動きがある。各社とも事業のニーズに対応するためには、これまでのような新卒採用・育成だけでは間に合わなくなっている。したがって、特化した技術を売りものにして、バイオ関連業界間を転職する研究者・技術者がこれから増えることは間違いない。一方で、遺伝子工学や細胞培養などの検査・分析・実験系は依然として労働集約型の要素が強いので、この分野に特化した人材派遣会社の動きも活発だ。これもまた異業種からの転職の窓口にはなる。

 バイオ産業といえども、すべてが先端研究とは限らない。事業化のフェーズによっては、管理系、営業系の人材も必要になる。製薬会社のMRの経験を生かして、新しい医療ニーズを開拓したり、バイオ製品の販路を拡大したりという例も多い。意外なところでは、DNAチップやタンパク質解析ツールなど精密加工技術を必要とする分野では、既存の金型メーカーの匠の技が生かされているという。今後、バイオ産業が成長すればするほど、異業種のスキルが必要になってくるのは間違いない。

 国や自治体が積極的に産業育成に取り組んでいるバイオ産業。ビジネスのすそ野もますます広がっていくだろう。現在はまだ、採用規模は限られているが、今後、新しい転職フィールドとして注目されるのは間違いない。だからこそ、この分野に飛び込むのなら、黎明期の今が、面白いのではないだろうか。
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
バイオ技術で自分の皮膚や骨、歯などを再生できるってすごいですよね〜。化粧品業界でも「アンチエイジング」をはじめ、機能性化粧品の研究も盛んに行われているようです。やっぱり人間は「不老不死」を求める生き物なのでしょうか? 私自身、「いつまでも若い肌を維持できる」化粧品、欲しいです。でも怖いですよね。顔だけは若いけど、体は年寄りっていうのも……。みなさん、どう思います?

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