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MBAスクールでは教えない実践ストラテジー 現代版 腹黒エンジニアの策謀術
応仁の乱より約100年の間、日本には、政府規制も業界既得権も高学歴も意味をなさない、乱世の時代が存在した。そこでは武勇とともに謀略や術策が重視され、武将たちは、優れたストラテジストであることを要求された。現代もまた「乱」の時代。彼らの腹黒さに、サバイバル術を学びたい。
(取材・文 総研スタッフ/高橋マサシ イラスト/関根庸子) 作成日:03.06.18

THANKS! 戦略スキルをみがくため、MBA取得を目指す人が増えていますが、転職市場での優位性を疑問視する声も聞かれます。特に上昇志向の強い人ほど、この解答に悩んでいるようです。今回は「腹黒さ=ストラテジー」と考え、この問題を検証します。
Part1 信長、秀吉、元就が用いた、知られざる策謀術



(長興寺所蔵)

1534〜1582年
鉄砲の本格的な戦術利用、兵農分離の徹底、地域ごとの専任師団長制など、従来の戦法を一変させた戦国大名。天下統一前に「本能寺の変」で死去。
織田信長
天才児が400年前に実践した「選択と集中」

 織田軍団は、実は弱兵の集まりだった。それを熟知していた信長は、積極的に「下手策」をとる。贈り物を続け、婚姻を持ちかけ、戦を避けて、相手が自軍より非力になるのをひたすら待ったのだ。そして、倒せると判断した途端に相手を襲う。この手法で武田信玄亡き後の武田勝頼軍を、長篠の戦いで壊滅させている。

 一方、安土城築城ではイメージ作戦を決行。巨大で豪華、奇抜な城を建築して、財力と権力を誇示し、諸大名に「織田には勝てない」と思わせる計略である。この手法は後に受け継がれ、秀吉は安土城より少し高い大阪城を、家康は大阪城より少し高い江戸城を建てた。戦いの城から「見せるための城」への転換期を作ったといえる。



(高台寺所蔵)

1537年〜1598年
一夜城と呼ばれる墨俣城建築、鳥取城における兵糧攻め、備中高松城での水責めなど、奇抜な戦術を駆使した戦国大名。織田信長亡き後に天下を統一した。
豊臣秀吉
情報を知りぬいた男のダイレクトメール作戦

 明智光秀と天下を争った山崎の戦い。戦の後で秀吉は『惟任退治記』という本を書かせて、諸大名や公家に配布する。主君信長の敵を討った功績を世間に知らせ、覇権争いを優位に進めるためである。翌年、柴田勝家との賤ヶ岳の戦いの後も同様で、『柴田退治記』を配り、自分が信長の後継者であるとアピールした。

 柴田勝家を破った後、秀吉は現在の状況を書状にして、面識のない地方の大名にまで送り付けている。そこには、「北は越後の上杉景勝から、東は関東の北条氏政までが、秀吉になびいている」と書かれていたが、ウソである。しかし、ほとんどの武将は「さもありなん」と信じてしまい、天下取りの地ならしとなった。



(毛利博物館所蔵)

1497年〜1571年
養子縁組による他家の乗っ取り、外交による懐柔策、諜報活動などから、梟雄(きょうゆう)とも呼ばれる戦国大名。小領主から一代で中国地方を統一した。
毛利元就
西国の策謀家が仕掛けた多層的ストーリー展開

「西の桶狭間」と呼ばれる厳島の戦い。元就の兵は4000、敵対する陶晴賢の兵は2万。5倍の兵力差があった。元就はまず立地条件に着目、大群が身動き取れない厳島を選んだ。そして陶をおびき寄せるため、厳島に宮尾城を築城し、寝返った陶の武将を城主とした。

 敵愾心に燃える陶に、情報操作を仕掛ける。元就は「今、厳島を攻められたら一巻の終わりだ」と、家臣にこぼしたという。その内容はすぐに伝わり、陶軍は厳島に上陸した。最後が奇襲である。元就はだれもが予想しない暴風雨の中に舟を出し、兵力を厳島に集中させた。その翌朝、気づかずに油断していた陶軍に奇襲をかけ、全軍を滅ぼしたのである。

低コストで高パフォーマンスを生み出す兵法

 戦国史の研究で日本を代表する小和田哲男氏。氏は戦国武将たちが望んだ兵法を、「戦わずして勝つ」だと語る。
 「例えば贈り物。信長の軍は兵農分離のために機動力はあったが、決して強くはなかった。一方で甲斐の武田は戦国一の精強軍隊。だから信長は真っ向から戦わず、卑屈なまでに下手に出ます。勝てないのは仕方がないと割り切ったのです。しかし、自分が相手の水準を超えたと判断すると、一気に攻め滅ぼします。人、モノ、金が最も効率的に働く方法を考えていたのでしょう」
 戦国武将たちは、中国の兵法書を熟読し、そこから戦略を学んでいた。彼らは、まれに見る「勉強家」であったと小和田氏は語る。


社名変更で企業イメージをアップさせる手法

 戦国武将たちは、使えるものは何でも使った。北条家の二代当主、北条氏綱は名前を利用した。
 「北条家は初代の早雲が興しましたが、彼は伊勢新九郎といいました。北条に名前を変えたのは氏綱なのです。領土を拡大したい氏綱は、武蔵(現在の埼玉県)を狙いましたが、関東では『伊勢』など知らない。そこで、鎌倉以来の名族『北条』に変えた。すると武蔵の武士たちは、あの北条家かと好意的になり、従うようになったのです。もちろん、執権政治の北条家とは何のつながりもありません」
 小和田氏はほかの策謀家として豊臣秀吉、毛利元就、黒田官兵衛などを挙げる。秀吉の軍師を務めた黒田官兵衛は、「秀吉が恐れた男」として有名だ。
 「秀吉は官兵衛に18万石を与えますが、九州を平定した功績からすれば、50万石でも少ないくらい。策謀家の官兵衛に禄を与えなかった秀吉も、また策謀家なのです」


戦国史研究の第一人者
小和田哲男氏


1944年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。静岡大学教育学部教授。文学博士。「その時歴史が動いた」(NHK)などの歴史コメンテーターとしても活躍。著書は約150冊に上る。近著に『「信長」徹底分析十七章』(中央出版)がある。
Part2 現代版「腹黒エンジニア」が語る策謀術

それでは、現世のエンジニアたちは、その「戦場」でいかなる知略を駆使しているのか。数々の戦功を挙げた、2人の「知将」に取材した。余人にはわからぬ、面妖な話であろう。

策謀渦巻くコンサルタント業界を駆け抜ける知恵者

リスクコンサルタント:
佐藤道三(仮名:38歳)

某私立大学を卒業後、米国の大学に留学。帰国後、大手電機メーカーに入社。その後、大手コンサルティングファームに転職し、現在は大手SIerに勤務。省庁関係や大手企業のセキュリティ診断、組織改革などのコンサルティングを行う。年収:1200万円台。
■これが腹黒エンジニアの心得だ!



企業の名医(=よいコンサルタント)となる術

 以前は確かに、いい加減なコンサルタントは多かったです。会社のあらを探して、治療をして、お金をもらう。でも、「効果が出るか出ないかは御社次第」でした。しかし今は成果主義が一般的ですから、悪徳医者は減りましたよ。
 信頼できるのは、成果を数値で約束するコンサル。業績を自慢する人もいますが、それは過去のこと。私は、質や量などで数値目標を立てて、顧客に結果を見せるようにしています。ヤバいのは最初から逃げ口上の人。こんなコンサルは、トラブルになったら絶対に逃げます。信用できませんよ。


顧客のクレームを満足感に変える術

 例えば、システムの追加構築で、稼働させると不定期にエラーが出るケース。業務にさほど支障はなく、機能面では充実させたが、何かと不便。顧客は「直せ」といいます。しかし、「どうしても直らない」場合。
 手順と誠意を懇々と説くんです。「調査の結果、原因はこの2つと思われます。修復のための方法は3つあり、1と2は不可能ですが、3ならかなりの費用は掛かるが直るかもしれません。私たちは無料で一生懸命やります」と、持っていく。努力を可視化させて顧客と共有することで、手段(修正)が目的に変わるのです。
 すると、「これだけ頑張って無理ならいいよ。仕事ができないことないし」と評価される。状態は全く変わっていないのに、顧客の満足度はアップしている。えっ、「それならタダでやれ」とはいわれませんよ。だって、個人の判断で膨大な費用は押し付けられないですよ。まあ、悪くいえば問題のすり替えですけどね。


イシアタマな顧客の頭を柔らかくする術

 我を曲げない顧客は楽です。自分のルールが正しいと思い込んでいるだけですから。ルールのゴールは否定すると意地になるから、プロセスを否定するんです。最終目標は一緒だと認識し合い、方法論をいくつか共有していく。すると、「俺の方法もよいが、あなたのも一理ある」と、固持した手法が「one」から、「one of them」になっていく。
 これらは各企業のマニュアルにもありますが、結局は実戦で学ぶことです。コンサルタントは、会社員であっても個人商店。特に大手企業からはほとんど個人で指名されます。大切なのは「自分の信念」。そのためには何でもしますよ。


顧客もスキルも知り尽くした笑顔の「人たらし」

システムエンジニア:
松原久秀(仮名:39歳)

某国立大学を卒業後、外資系大手ソフト・ハードベンダーに入社。転職経験なし。SEとして開発を行う一方、顧客にサービスやビジネスの提案も行う。PC系、オープン系などあらゆる企業インフラの構築を担当。年収:900万円台。
■これが腹黒エンジニアの心得だ!



オイシイ仕事を選び、嫌な仕事から逃れる術

 やりたい仕事を顧客に提案して、売り込んで、自分で設計できる今の仕事は気に入っています。マネジャーから下りてくる仕事は、おいしくないですから(笑)。ただ、だれもやりたがらない仕事には必ず手を挙げますね。それは、本当によい仕事か腐った仕事だから。前者なら、クリアすれば新しい開拓ができるでしょ。
 しかし、「ババを引いた」とわかったら逃げますよ。わざとトラブルを起こして、「今はダメなんですよ」とかね。やりたくない仕事は絶対にしません。


口先ひとつで顧客の評価を上げる術

 実力以上にレベルを高く見せる方法はあります。例えば実績で、3つのプロジェクトの1つが担当なのに、「私が全部やりました」とウソを言うんです。顧客の評価は確実に上がります。顧客って、現実に3つを担当する人ではなく、それができるという事実で安心するのです。もちろん、スキルが追いつかないと後で切られますよ。
 また、「システムが動かないかもしれない」を、事前に納得させるのも大切です。どうせトラブルは起こるもの。言った内容と結果の同一性で信頼しますから、預言者になるわけです。
 逆に動いてしまうと、マシンへの信頼は上がっても、人への信頼感は下がる。だから、動いてもそれを見せず、翌日に解決したと報告する人もいますよ。最初から動くんだから当たり前だって(笑)。


時間を作ってスキルを上げる術

 私の強みはオールラウンド。SEはいつの間にか、WindowsやUNIX、CobolやJavaと、自分の得意分野に集中するようになった。でも、コンピュータはノイマン型しかないでしょ。知らないことは勉強すればいい。私はそうしてきたし、資格もNotes、Linux、Ciscoなどいくつも取得してきました。
 100%の仕事をすれば、技術を高める時間が持てる。自分を安く売ったり、無理に150%の仕事をすると、技術の時間がなくなり仕事もダメになる。私は、スキルはいつでも身につけられると思っているし、それができない人はエンジニアをやめたほうがよい。だって、この世の中で一番頭が悪いのはコンピュータ。それ以下の脳みそってことですからね。

Part3 ストラジストたるべき極意を身につけよ!

MBA取得は武器だが、使う体力はあるか

 米国MBA取得費用の試算がある。海外に2年間自費留学するとして、学費や生活費のために約1000万円が必要だというのだ。金額的にも大きな負担だが、期間も重視したい。仮に30歳のエンジニアなら、30歳から32歳の実務経験の空白と、MBA取得効果との、バランスシートの問題である。
 MBAで学ぶ戦略理論や分析手法は、その人のスキルを向上させる。特にエンジニアにおいては、より重要視されつつあるビジネス志向が身につき、強力な武器となる。それは、戦国の武将たちが、孫氏など中国の兵法書を熟読していたのと同じことかもしれない。
 しかし、彼らとの大きな違いがある。それは、文字通りの実戦である。ある外資系の人事は、「ハイレベルの資格を持つ若いエンジニアは採用しない」と語る。資格取得に熱中するあまり、実務スキルが伴わないケースが多いからだという。

 MBA取得は確かにスキルとなるが、市場が評価するのはあくまで「使えるエンジニア」。テキストでストラテジーは学べても、使える「腹黒さ」は実践なしには学べない。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
 私は戦国の武将や大名たちにとても興味があります。一般的に知名度の低い武将であっても、非常に個性が際立っているからです。動乱の時代には傑物が出るといいますが、それだけでしょうか。もしそうなら、この現代に信長や秀吉がいてもよいはずです。
 私は、見えない将来を見ようと、必死で努力した人が多かったためだと考えます。だから彼らに憧れ、より知りたいと思うのです。皆さんはこんな意見、どう思いますか?

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