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妊娠中、夫から突然の「起業したい」宣言。その時妻は…【挑戦者を支えた「家族」の葛藤】

近年、起業や転職に関するトピックでは「嫁ブロック」という言葉が聞かれるようになりました。「嫁ブロック」とは、妻による夫の起業や転職への反対や抵抗のこと。しかし妻の視点で考えると“ブロック”にもさまざまな理由があるのではないでしょうか。

この連載は、実際に起業・転職を果たしたビジネスパーソンと、それを支援したパートナーや家族の話をうかがい、起業までにどんな課題があり、どう克服したのかをお聞きします。

今回登場いただくのは、大手人材サービス会社で社員として働きながら「ハッカソン芸人」として活動を広げ、2016年4月に独立、株式会社オムスビを設立した羽渕彰博(ハブチン)さんと妻の綾佳さんです。

 

実は、お二人には2016年4月に生まれたお子さんがいます。ということは、夫の起業独立と出産が同時期……? ますます綾佳さんのお話を聞きたくなりました。

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(右)羽渕彰博(ハブチン)さん プロフィール:

1986年大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事しつつ、アイデアを短時間で具現化する「ハッカソン」のファシリテーターとしても活躍。2016年4月に独立し株式会社オムスビを設立、企業研修ファシリテーションや事業創出コンサルティングでも実績を伸ばしている。

(左)羽渕綾佳さん プロフィール:

1986年生まれ。ハブチンさんと同期入社で出会い2010年に結婚、2016年に一児の母となる。現在は育児休業中。夫の起業後、ともに移住した逗子で子育てをしながら、料理や整理整頓の知識を生かしたレシピ発案・記事執筆なども始めている。

妊娠6カ月、夫から突然の「辞めたい」宣言

―ハブチンさんは以前から「起業したい」という話はしていたんですか。

綾佳さん: あまり現実的な話はしていませんでした。私たちは同じ会社に就職して同期として出会い、2010年に25歳で結婚したのですが、そのときは「ゆくゆくは違う仕事をしたい」とは言っていたくらいです。本気ではなさそうだったので「ふうん、できたらいいね」と聞き流していました。でも昨年、待望の子どもを授かって私が仕事と生活のバランスを考えていたときに、いきなり「僕、会社辞めたいねん」って告げられたんです。

私の父はイラストレーターで収支の組み立てがしづらかったこともあり、毎月定額の給料が入ってくる会社員の生活には昔から憧れがありました。だから結婚したときは「会社員の妻」になってその願いが叶ったと思ったんですね。

妊娠6カ月になる2015年12月までは起業の気配はまったくなくて「ああ、ずっと会社員でやっていくのだな」と思っていました。でも妊娠して出産を控え、私も休むので経済的にどうしようか悩んでいたら、爆弾のように急に「辞めたいんだけど」と言われて「えー!」と驚いたのが正直なところです。

―ハブチンさんは起業話をそれまで温めていたんですか。

ハブチンさん: いえ、実は僕も辞めるつもりはなかったんですよ。会社では自分がやりたいことをやらせてもらっていて、忙しかったけれど不満はありませんでした。でもちょうどその頃、自分がやりたいことが目の前に現れたのに会社に止められてしまったんです。初めて「壁」を意識しました。奥にやりたいことが見えているのに遮られて進めない。やったら絶対大きなチャンスにつながるのにできない。

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そのとき「あれっ」と思ったんです。これから生まれる子どもが同じ状況に遭ったとき、今自分が我慢して戻ってしまったら顔向けができないなと。将来子どもが何かを「やりたい」と言ったとき堂々と「やれよ」と応援したいなら、自分がちゃんと壁を越える経験して、それを自分の言葉で語れるようにならないといけない。ただし、会社にいてはそれが難しいとわかった。だから「1回外に出たほうがいい」と思うようになったんです。

 

僕としては「父親としてしっかりするために起業を考えた」という感じでした。子どもがしなくていい失敗は僕が先にやっておく。失敗談も語れたほうがいいじゃないですか。子どもが生まれたら保守的になってしまうと思ったので、辞めるならこのタイミングしかないと考えました。

―夫として「嫁ブロック」は意識しましたか。

ハブチンさん: ええ、正直言って嫁にブロックされるのが一番怖かったですね。でも僕はブロックされなかったんちゃうかな。子どもの話をしたときに「それは間違ってないよ」と言ってくれたと思います。

もちろん収入のことは考えました。それまで生活費がいくらかかっているかよく知らなかったんですよ。だから電気代とか保険代がいくらで、どのくらい稼がなければいけないかは綾佳さんと一緒に洗い出しました。あとはどう稼ぐかなので、ハッカソンのファシリテーションの仕事でお世話になっていた会社とも相談して収入の算段をつけました。

思わず「お金のことはどうするの?」と問う妻に、夫は……

―「嫁ブロック」がなかったとのことですが、綾佳さんはどんな思いでしたか。

綾佳さん: えっ、最初はさすがに反対しましたよ! 聞いた瞬間に「えっ」と思って「いや来年4月に子どもが生まれるのは知ってますよね」と。「知っています」というので「それで辞めるというのは、お金についてはどうお考えなんですかね」と聞いたら「いやあ、何とかなるやろ」みたいな感じで言われて。

 

ハブチンさん: あれっ、おかしいな(笑)

 

綾佳さん: ホルモンバランスも崩れていた時期だったんで「この人は一体何なんだろう」と思って。お金が一番心配でした。私が働けたらいいんですけど、私が産休に入ってそれで頭がいっぱいだったのに、稼ぎ頭が辞めると言い出すので軽くパニックになりました。

「辞めるとしても今すぐじゃないよね」と確かめたら「いや、今すぐ辞める、来年生まれるまでにはとりあえず辞める」と。だからといってすぐに「ああ、そうなのか」とは言えないので「じゃあ私が納得できるようにプレゼンしてください」とお願いしました。辞めてから何をしようと思っているのか、どういう方法でお金を稼ごうとするのか、最低でも教えていただかないと辞めていただくのは難しいですと伝えました。

―ハブチンさんのお話からはすっぽり抜けていましたね……。

ハブチンさん: そんなことあったかなー(笑)

綾佳さん: 都合の悪いことはどんどん忘れるタイプなんですよ。大人2人だったらお金が底をついても何とかなります。でも子どもには申し訳ないじゃないですか。だから収入についてはちゃんとしてほしいと言いました。1週間後にプレゼン資料ができたので確認しました。

―その1週間に、先ほどおっしゃっていた2人で収支を確かめる作業があったんですね。

ハブチンさん: そうそう、そうです。思い出しました。

 

綾佳さん: でも私が全部リストアップして「これがこうなったらこの支出が増える」という説明も私からですよ。年金や保険料の会社負担分の話をしても「へえ、そうなん、ふうん」みたいな反応で「社会人8年目で初めて知った」ということが多くてびっくりしました。

区役所にも行って、もし辞めたら国民年金に切り替わるんですけどいくらになります、という話も2人で聞きました。だから最低いくら稼いでもらわないと困ると話したら「それはできる」というので信頼して。ただ「1年後に実現できていなかったら再就職してください」という約束はしました。1年間のリミットでOKした感じです。

 

ハブチンさん: それはそうですね、たしかにそれは言われていた(笑) 子どもが生活できないのは本末転倒やと思うんですよ。僕もそのつもりでした、そういえば。

―綾佳さんは、この話を他の誰かに相談しましたか。

綾佳さん: はい、しました。自分の母やお姑さんにはすぐ伝えました。父はもう亡くなっているんですけど、うちは会社員の家じゃないので「まあいいんじゃない」という感じでした。お金の心配を話しても、母は「彰博さんはお父さんと違って真面目に働くし、仕事がなくなっても家でダラダラして家族を路頭に迷わせる人じゃないから大丈夫」というんです。だから「そうかな」という気持ちにもなって。

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お姑さんとはとても仲がいいので話を聞いてすぐ「子どもが生まれるのに辞めるっていうんですけど、どう思います?」とLINEで知らせました。「それはちょっと話を聞かなきゃ」とあちらの家族での対応を考えてくれたみたいです。

 

ハブチンさん: 僕の母から「お父さんが許してくれるならいい」と聞いて、銀座の串揚げの店に父を呼んで一対一で話をしました。僕の父はサラリーマン社長で、コツコツと仕事を積み上げて今の地位に上り詰めた人なんです。だからこんなドロップアウトは反対されると思っていました。

でも「辞めようと思う」と話したら「人間最後まで何が起きるかわからない。死ぬ直前まで良いか悪いかなんてわからないから、まあいいんじゃないか」と言ってくれたんです。僕とは全然違う道を行く真面目な父からそんな言葉を聞いて、ちょっと泣きました。未だに「食えてるのか」と心配はめちゃくちゃされるんですけど、ええこと言ってくれたという感じでしたね。

 

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妊娠中、それも育児休暇で家計の心配を始めた矢先に突然の起業宣言。そのとき妻が何を考え、夫婦でどう行動したかをお話しいただきました。後編では、夫の起業が実現するまでの過程をお聞きします。妻はなぜ、夫の起業について納得できたのでしょうか。

 <後編はこちら>

「夫の起業」に納得できたのは『子ども』の存在があったから―【挑戦者を支えた「家族」の葛藤】

インタビュー・文:丘村 奈央子