なぜ、仕事が向いていないと悩むのか?─キャリアカウンセリングのプロに聞いた適職の見つけ方

仕事がうまくいかないとき、今の仕事は自分に向いていないかもしれないという悩みを抱えがちです。そんなお悩みに答えてくれるのは、『やりたいことはよくわかりませんが、私の適職教えてください!』(徳間書店)の共同著者である、キャリアチェンジサロン代表の田中勇一さんと、東京国税局職員から転身した、ブックライターの小林義崇さん。キャリアカウンセリング実績1万人以上のプロと、キャリアチェンジ経験者の視点から、悩める社会人が適職に巡り会うヒントを教えてもらいました。

仕事は自分に向いていないと悩むイメージ
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なぜ、「仕事が向いていない」と悩んでしまうのか?

「今の仕事は本当に向いていないのかな?」
「もっと自分に合った適職を探す方法はないだろうか?」
なぜ多くの人が「今の仕事は自分に向いていない」と悩んでいるのでしょうか?
私はこれまでに1万人を超えるキャリアカウンセリングを実施してきましたが、その理由には2つあると考えています。

理由の一つとしては、「本当にやりたいことが分からない」から。「今の仕事が向いていない」と悩む人の多くは、「どんな仕事をやりたいのか」というイメージが持てておらず、モヤモヤするだけで前に進めなくなっているのです。

自分がやりたい仕事がわからない限り、その悩みは解消できませんし、仮に転職したとしても、その状態のままではまた同じ問題を抱えることになります。そんな悩みを抱える人に共通するのは、次に紹介するキャリアにまつわる「5つの誤解」に縛られていること。この誤解から解放され、自分の気持ちに正直になることが、本当にやりたいことを見つけるための第一歩です。

やりたい仕事が見つけられない人に共通する「5つの誤解」

誤解1⇒「安定した仕事に就くのが一番」

安定を求めて大企業に入ったとしても、社員の立場は決して安定しているわけではありません。会社規模にこだわらず専門スキルを磨いている人の方が、いざという時の転職先に困らないことでしょう。

誤解2⇒「我慢していれば報われる」

高度成長期の日本は、上からの指示を守れば成果が出たため、ときに我慢は美徳とされていました。しかし低成長の今は、自分に正直にやりたいことに挑戦し、それをどんどん実現する人材が成果を出す時代。ただ会社に従うだけの人はキャリアアップが難しくなっています。

誤解3⇒「自分にはやりたいことなんてない」

やりたいことがない人はどこにもいません。自分の本当の気持ちに気づいていないだけです。そもそもやりたいことが何もなければ、「今の仕事が向いていない」と悩むこともないのです。まずは誰もが持っている小さな「わくわく」を掘り起こすことから始めましょう。

誤解4⇒「やりたいことを仕事にするにはお金や才能がいる」

それは全くの逆で、「やりたい気持ち」があるからこそ、能力が磨かれ、その結果お金もついてくるのです。誰もが「本当にやりたいこと」と「自分の強み」が重なるものを追求していけば、必ず稼げる仕事に繋げられるはずです。

誤解5⇒「失敗したら、二度と這い上がれない」

日本社会には失敗を極端に恐れる風潮がありますが、取り返しのつかない失敗はそうそうありません。逆に、仕事でトライ&エラーを多く重ねてきた人ほど、結果的に成功するケースは多いでしょう。まさに「失敗は成功の母」です。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

本当にやりたいこと、強みを見つけるにはどうしたらいい?

自分に向いている仕事を判断するには、上記で紹介した自分にある無意識の誤解を解いた上で「本当にやりたいこと」を見つけることが大切です。

加えて「自分に本来備わっている強み」を知ることも重要になります。なぜかというと、その2点が活かせる仕事こそ、本当に自分に向いている仕事だからです。ここでは、それらを見つけるためのヒントをご紹介しましょう。

「わくわくセンサー」を動かしてみよう

「わくわくセンサー」とは、要するに自分が日々わくわくする気持ちに敏感になることです。
簡単なのは、日々の「心が動いたできごと」をメモすること。仕事のことでもいいですし、「ランチで食べた○○が美味しかった」「本屋で○○という本が気になる」「テレビのニュースで目を引かれた」など、何でも構いません。あまり深く考えず、なるべくたくさん記録しましょう。

それらを後から見返せば、「自分はこういうことに惹かれるのだな」という共通点が見つかるはずです。それが「本当にやりたいこと」のヒントになるでしょう。

「お金や時間が自由に使えたら、何がしたいか」を話そう

「お金や時間がいくらでもあったら何をしたいか」を、思いつくだけ書き出してみましょう。例えば「家を2軒持つ」「海外で絵を学ぶ」「温泉を掘る」など、何でもOK。お金や時間の制約は、やりたいことから目を背ける理由になりがちですが、条件を取り払ってみると、案外遠い夢物語ではないことも多いのです。

また、この話題で人と話すこともお勧めです。自分の考えを言語化し、フィードバックをもらえば、「自分はこんなこともやりたかったのか」という気づきに繋がるかもしれません。まずは同僚や、気の許せる仲間に話を振ってみましょう。思わぬところから会話が深まるかもしれません。

身近な人とは話しにくいという方は、同年代の社会人が集まるキャリア関連のセミナーやワークショップに参加してみるのも1つの方法です。

人との関わりの中で「本来備わっている強み」を探そう

スキルや経験には「積み上げ型の強み」と、「本来備わっている強み」の2つの強みがありますが、やりたいことを見つけるには、本来備わっている強みの方が重要です。例えば「魅力的な文章が書ける」「人前で物怖じしない」「人を笑わせるのが得意」といったことです。

ただ、本来備わっている強みは自分が自然にできることであるため、なかなか気づくことができません。他人との関わりの中で見つけていくことが必要になります。シンプルなのは「私の強みって何?」と親しい人に聞いてみること。また、一人でもできるのは、「よく振られる仕事」や「頼まれ事」から探る方法です。

人は頼み事をするとき、相手の強みに期待してアサインします。例えば資料作りをよく任されるなら、デザイン感覚やスピード、緻密さが強みかもしれません。行事の仕切りを頼まれる人は、周囲を巻き込む力が強みかもしれません。人から何かを頼まれたときに、面倒だと思わず一生懸命に取り組めば、自分の強みに気づく機会も増えるはずです。

【エピソード】アウトプットすることで気づいた自分のやりたいこと

共同著者である小林さんの場合、「国税局を辞めて何をする?」から、「文章を書く仕事がしたい」と思い至るまでに1~2年かかりました。その間は起業スクールにも通ったそうですが、実感したのは、やはり自分の考えをアウトプットすることの大切さだったそうです。

頭で考えているだけでは、どこか自分に嘘をついてしまいがちですが、対話を通じて深掘りしていくと、「これは少し違う」「他にはないかな」と考え続けることができます。隠れた思いや強みを掘り起こすには、考え続けることが重要なので、人と話したり、書いたりすることはお勧めです。

関連記事:東京国税局に13年間勤めた私が“フリーライター”になったワケ

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「やりたいこと」×「強み」が今の仕事にマッチしている?

自分の内面を掘り下げてみると、例えば「海に関わることがしたかった」「ひとりで没頭すると結果が出る方だ」「一度会った人の名前は忘れないな」など、様々なことが見えてきたと思います。こうして分かった「やりたいこと」と「本来備わっている強み」を掛け合わせたものが、すなわち「自分に向いている仕事」です。

1)「やりたいこと」×「本来備わっている強み」=自分に向いている仕事

さらに深掘りしていくと、次は「仕事をする意味」にも考えが及ぶと思います。すなわち、自分の強みを活かして「どんな人を助けたいのか」「どんなことで喜ばせたいのか」です。これも仕事へのモチベーションを大きく上げる要素です。

2)自分の強みで「こんな人を助けたい」「喜ばせたい」=自分に向いている仕事

ここで、今の自分の仕事を振り返ってみましょう。あなたの今の仕事は、上記を実現できるものでしょうか?あるいは何らかの接点や共通項を見いだすことができるでしょうか?

例えば、ある営業担当者に「セールストークが一流」という強み=適性があり、傍からは天職に見えたとしても、その人が本当にやりたいことや、喜ばせたい相手と合っていなければ、今の仕事は向いていないことになります。

仕事が向いている・向いていないは、周囲の人が決めることではありません。あなた自身の「やりたいこと」「強み」「喜ばせたい人」を軸にして考えてみましょう。

自分に向いている適職を見つける方法は?

自分のやりたいことと強みを明らかにした上で、「今の仕事が自分に向いていない」と判断したら、どうやって自分に向いている仕事を探せばいいのでしょうか。転職したり、副業を始めてみたり、もしかしたら起業がふさわしい場合もあるかもしれません。

ただ、どんなキャリアチェンジをするにしても、すぐに「やりたい仕事を決める」のは急ぎすぎです。まずはだいたいの方向性を定めて、小さな行動から始めてみましょう。例えば、仕事上で惹かれる業界があるのなら、積極的に情報収集をして接点を持ってみる。社内で挑戦したい仕事があれば手を挙げるなど、まずは今の会社でできることを探しましょう。

全く違う業界を希望するのなら、副業でできないかどうか検討してみましょう。転職や起業は引き返すことが難しいですが、副業なら続けるのも辞めるのも自由です。とにかく興味のあることや、やりたいことに近い分野で、できるだけ自分の強みが活かせるものを試してみる。その際は収入を気にするより、得られる経験に着目することが大切です。

何事も一足飛びに決めてしまうより、「失敗も込みで試せばいい」という感覚で動く方が、良い着地点が見つかるものです。そして自分に自信が持てたら、本格的に軸足を移せばOK。このスタイルなら、誰でも無理なく「自分に向いている仕事」を実現できることでしょう。

地球上に80億人の人がいれば、80億の個性があります。つまりあなたの存在自体が、まさに特別であると考えてほしいのです。たくさんの情報が氾濫する現代に生きる私たちには、キャリアに関する悩みや不安は尽きません。

でも、心の中にある「やりたい!」という思いと、あなただけの『強み』を引き出すことができれば、必ず理想の仕事に巡り会えます。「自分はできる!」と信じて進んでください。

【体験談】国税官からブックライターへ。すべてを仮決めで行動してみた

ちなみに、小林さんの転機となったのは、退職の1年ほど前に、書いた原稿をプロの編集者の方に見てもらえる機会を偶然得たときでした。ボランティアの形でしたが、「ライターを本当にやり続けられるのか」を試すことができたのは、小林さんにとって貴重な体験でした。次第に「独立したらギャラをお支払いします」というお話もいただけるようになり、それが大きな自信になって一気に独立へと進んでいきました。

「やりたいこと」をちょっとだけやってみるのは楽しいですが、それを「仕事として本当にやり続けられるか」となるとハードルが高いもの。小林さんは公務員を一生続けることに疑問を抱いてからは、試行錯誤しながら、すべてを仮決めして行動してきました。その結果、今はライターをしていますが、「これが一生の仕事」「最後の決断」と決めた訳ではありません。おそらく、そう考えていたら決断できなかったでしょう。

今の時代は自分の直感を信じ、心が動いたところに従って行動してもいいのではないでしょうか。そうすればきっと、自分に向いている仕事が見つかると思います。

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プロフィール

キャリアチェンジサロン代表 田中 勇一(たなか ゆういち)さん

田中勇一さん京都大学理学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入社。米国カーネギーメロン大学にてMBA取得。ビジネススクール運営会社、起業支援会社を経て、新銀行東京設立プロジェクトに草創期より参画し、人事部門の責任者として銀行立ち上げに大きく貢献する。現在は、リソウル株式会社を設立。人事コンサルティング、起業支援、個人向けの転職支援等に取り組む。2010年4月には「社会起業大学」を設立し、グローバルに活躍できる社会起業家育成にも従事。
2020年12月にキャリアチェンジサロン()を設立、1万人を超えるキャリアカウンセリングを実施してきた。2021年5月に、小林義崇さんと共著で『やりたいことはよくわかりませんが、私の適職教えてください!()』(徳間書店)を上梓

元国税専門官のブックライター 小林 義崇(こばやし よしたか)さん

小林義崇さん1981年、福岡県生まれ。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、Webメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。

WRITING:鈴木恵美子 EDIT:馬場美由紀
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