コンプライアンスのやりすぎが会社を滅ぼす!?──モチベーションを低下させない組織作りとは

近年重視されている「コンプライアンス」。ところが、コンプライアンスに厳しくなるあまり、ビジネスの柔軟性やスピードが失われ、不満を抱いているビジネスパーソンが少なくないようです。コンプライアンスを守りつつ、人が生き生きと働けるようにするためにはどうすればいいのか。業務プロセス改善士の沢渡あまねさんがアドバイスを送ります。

コンプライアンスのイメージ画像

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

沢渡あまねさん業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。株式会社なないろのはな 浜松ワークスタイルLab所長、株式会社NOKIOO顧問ほか。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり、#ダム際ワーキング()。著書『ここはウォーターフォール市、アジャイル町()』『職場の問題地図()』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」()』『はじめてのkintone~現場のための業務ハック入門()』など多数。

なぜ?過剰なまでにコンプライアンス体制が敷かれる背景

そもそも、なぜ近年企業の「コンプライアンス」が叫ばれるようになったのでしょうか。背景として、大きく3つが挙げられます。

まず1つ目は、「食品偽装」「品質検査結果改ざん」「不正取引」「粉飾決裁」などの不祥事によって、企業ブランドが失墜する事例が相次ぎました。

2つ目はグローバル化。世界から投資を集めたり、海外へ進出・上場したりするようになると、よりシビアな目を向けられるようになり、内部統制強化の必要に迫られます。しかし、法律さえ守っていれば問題ないかというと、そうではありません。

3つ目はインターネットやSNSの発展により、いわゆる「グレーゾーン」が公にさらされやすくなったことが挙げられます。労働基準法はギリギリのラインで守っていても、従業員を疲弊させる働き方の強要やハラスメントの横行といった実態が拡散されやすい。そこからブランド失墜につながる恐れがあるのです。

このようにマスメディアや株主から厳しく監視される中で、企業は「守り」の体制を過剰に敷くようになってきました。ビジネス経験に乏しい、管理部門のみで育った管理スペシャリストがトップに立つことにより、「管理一辺倒」「過剰チェック」が加速、従業員のエンゲージメントが大きく低下して離職が加速したり、「抜け道」が横行して却ってコンプライアンスが低下した企業もあります。

ビジネス感覚を持たない監査法人や監査部門の言いなりになってしまうケースもよく見られます(もちろん、ビジネス感覚に長けた素晴らしい監査法人、監査部門もあることは付け加えておきます)。

こうしてガチガチのマネジメント体制が出来上がり、コンプライアンスを言い訳に新たなチャレンジしにくくなっている企業も少なくないようです。

コンプライアンス の過剰が及ぼす悪影響

コンプライアンスが過剰になると、さまざまな弊害が生まれます。主なマイナス点を4つ挙げてみましょう。

スピーディーな対応ができず、ビジネスチャンスを逸失

社員同士や部署同士がつながる、あるいは外部の協力会社や顧客とつながることで価値を生み出していく必要がある今の時代。コンプライアンスのために事務手続きが煩雑になったり、ITツール・サービスを利用した連携が認められなかったりすると、スムーズなコラボレーションを阻害し、ビジネスチャンスを逸します。

スピード感をもって仕事をしたい企業は、過剰コンプライアンスの企業から遠ざかります。また、それらが重なれば働く人のモチベーションの低下につながり、企業の人材維持・獲得力も落ちていきます。ビジネスパーソン自身も成長機会を逃してしまいます。

集団思考停止となり、チャレンジ意欲がある人材が離脱

「前例がないからできない」「リスクがあるからやらない」「誰が責任をとるのか」──そのような発想でいては、新たなチャレンジへの一歩を踏み出せず、集団思考停止となります。思考停止を決め込むと、非常に楽です。従業員は指示に従ってさえいればいい、マネジメント側も統制型、監視型の管理さえしていればいいわけですから。

しかし、その間にもテクノロジーは進化し、競合他社もすごいスピードで成長していく。そうした環境下で思考を停止させるのは、大きなリスクとなります。当然、「チャレンジしたい人材」も離れていきます。

従業員のエンゲージメントが低下

近年、「エンゲージメント」が重視されるようになりました。エンゲージメントとは、一昔前で言うところの「愛社精神」。組織・仕事に対する誇りや愛着、帰属意識を指します。では、コンプライアンスでガチガチに管理されると、従業員はどうなるか。「組織から信頼されていない」と感じるようになります。

例えばテレワーク中、上司から頻繁にチェックを入れられると、監視されている窮屈さとともに、「サボると思われているのか。信頼されていないのか」と不快感を抱きますよね。人は自分を信頼してくれる人を信頼するもの。これでは信頼関係は築かれません。

また、ルールでがんじがらめにされると、「子ども扱い」されている気分になります。「プロとして見てくれていない」「人として見てくれていない」と、信頼感は低下。それどころか、反発心が生まれ、逆に背任行為を起こしやすくなる恐れもあります。

管理コストが増大。取引先等のエンゲージメントも低下

コンプライアンスを徹底するとなると、契約文書などのダブルチェック・トリプルチェックを行ったり、電子メールのやりとりで済むところを「紙の書類を郵送→押印→返送」の手続きを踏んだり。これらは、管理コストを増大させます。

これが自社だけならまだいいのですが、取引先や外部パートナーの管理コストも引き上げてしまいます。コスト増だけでなく、スピーディーな展開を妨げられた相手は、自社へのエンゲージメントが低下し、取引に影響がでることも考えられます。

つまり、自社の過剰なコンプライアンスによって、外部パートナーにも負担を強いる状況になった結果、いい協力者が離れていってしまう可能性もあるわけです。

コンプライアンス、ガバナンスはもちろん重要です。しかし、過剰な対応によって、従業員や外部パートナーの時間・ビジネスチャンス・成長機会を奪ってはいないか、しっかり見つめ直す必要があります。

そして、時代の流れに応じてやめてもいいものはやめる、テクノロジーを活用して代替する、新たな仕組みを作るなどの議論をしていただきたいと思います。それを怠っては、企業ブランドを守るためのコンプライアンスが、逆にブランド価値をおとしめる結果となってしまいます。

コンプライアンスを遵守しつつ、組織改革するには?

過剰になっているコンプライアンスを適正化し、スピーディーにコラボレーションできる組織にするためにはどうすればいいのか。業務プロセス改善に向けて、 一従業員の立場でできることをお伝えしましょう。

管理部門として取り組みたいこと

まず、「これまでのルールを疑う」ところから始めてみてください。そのルールは形骸化していないでしょうか?本当に目的に即しているでしょうか?

1.既存のルールが与える影響と効率を考える

そのルールや業務が「誰に」「どんな影響を」与えているか、仕事地図を描いてみましょう。先ほども触れたとおり、誰かの時間や成長機会を奪い、仕事のスピードや能率を落としていないかを常に振り返るのです。「誰か」とは、自社従業員はもちろん、すべての取引先、顧客を含みます。

2.電子化・自動化を検討する

それらについて議論した上で、なくせる作業はなくし、残す作業も電子化・自動化を図ります。その手法については、他社・同職種のやり方を調べて参考にしてください。インターネットや書籍で情報収集できますし、他社の知人に尋ねたりセミナーに参加したりする手もあります。

最近では「戦略総務」「攻めの経理」といったタイトルのセミナーがオンラインでも多数開催されています。自社に合う手法やツールを探して、積極的に取り入れていただきたいと思います。

なお、電子化・自動化のメリットは、効率化やスピードアップだけではありません。電子化・自動化すれば、人が介在して判断する余地が少なくなるため、業務改善もしつつコンプライアンスの成果としては機密の強化にもつながります。物理的にも、心理的にもです。

リスク管理はもちろん、 後でトラブルが起きた際などに履歴を照会し、経緯を明らかにすることも可能です。例えば、ファイル共有のクラウドサービスでは、閲覧した人・ダウンロードした人のログが残ります。

何か起きたときにも、影響範囲を論理的に示し、証跡を確認しやすいのは大きなメリットと言えます。

一従業員の立場でできること

一従業員の立場であっても、「管理部門が決めたルールだから従うしかない」とあきらめないでください。「窮屈だ」「不便だ」と、声を上げることで変わる可能性は十分にあります。ただし、声の上げ方を工夫する必要があります。次のポイントを意識してみましょう。

1.「不平不満」ではなく「改善提案」として伝える

「自分が面倒くさいから嫌だ」──これでは単なる「愚痴」「不平不満」と受け取られてしまいます。ベースとするのは、健全な問題意識であり、成長への意欲。「お客様・取引先に迷惑をかけている」「ビジネスをスピーディーに進められない」などの弊害例を具体的に挙げた上で、「改善」を提案するスタンスで伝えてください。

外部のセミナーや勉強会に参加し、どんな方法があるかを学んだ上で提言すれば説得力が増します。ただし、自分一人で社外のセミナーに参加しても、そこで高まった熱量を社内に波及させるのは難しいもの。そこで上司や同僚などと一緒に参加し、学んだことをそのまま持ち帰って議論しましょう。

2.会社が掲げるテーマと紐づけて、矛盾点を指摘する

会社、あるいは所属部署には、課題や戦略のキーワードがあると思います。例えば、「働き方改革」「生産性アップ」「エンゲージメント強化」「イノベーション促進」「女性活躍」「採用・定着」「コスト削減」など。

これらのキーワードと紐づけて、コンプライアンス施策の課題を指摘しましょう。「コスト削減を目指しているはずなのに、この事務手続きは余計なコストを生んでいる」「こんな煩雑なプロセスを踏んでいては、生産性は上がらない」「オンラインで手続きを完了できれば、在宅勤務がしやすく育児と両立できる」といったように。

会社が掲げる目標を、コンプライアンス施策が阻害している矛盾、理不尽さを訴えてみてはいかがでしょうか。

3.賛同者を集め、社内世論を形成する

積極的に声を上げていくと、賛同者が見つかるものです。他部署の人などが「自分もそれを課題と思っていた」と。こうした仲間を集めて上層部や管理部門に掛け合っていけば、突破口が開けるかもしれません。

さまざまな人に届くように声を上げ、社内世論の形成を図ってみましょう。まずは、「エンゲージメント」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といったテーマで勉強会を企画し、興味がある人が集まった中で意見を発信する手もあります。

4.外部の人を味方につける

管理部門と議論するにあたっては、外部の人を味方につけるのも有効です。「この手続きに関して、お客様が困っています」「大切な取引先が、このツールの利用許可を求めています」など。自社内にしか目が届いていない管理部門スタッフには、外部へと目を向けさせ、気付きを提供してください。

より人間らしい働き方ができる組織をアップデートする

今回お伝えした過剰コンプライアンスの適正化、あるいは働き方改革やDXも、取り組む目的は同じ。「より人間らしい働き方を実現する」ことです。

チェック業務でがんじがらめとなり、本来の業務に集中できない、プロとしてのパフォーマンスを発揮して成長できないようでは、人間らしさを奪ってしまいます。

守るべきところは守りつつ、簡素化・IT化を進める。人が生き生きと仕事をできる環境をつくるために、組織全体でアップデートしていく必要があります。

それによって、エンゲージメントが高まれば、不正しようとも考えなくなる。好循環となり、人と組織がよりよい関係を築けると思います。

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WRITING:青木典子 EDIT:馬場美由紀

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