職場の人間関係のストレスは、誰にでも多かれ少なかれあるはず。人と関わりながら仕事をしている限り、避けて通れない人間関係の悩みは、どうすれば軽減できるのでしょうか? 果たして、転職すれば解決するのでしょうか?
20代30代の若手社会人から多くの相談を受けるキャリアアドバイザーの星野玲子さんに、職場での人間関係の対処法について聞きました。
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人間関係に悩んでいる若手社会人は少なくない
これまで私が担当したケースの中でいうと、転職相談に訪れる若手社会人の約3割が人間関係の悩みを訴えます。中でも多いのが「社長」や「上司」についての悩みです。
例えば、ベンチャー企業に勤務している相談者。社長が常に現場にいて、方針がコロコロ変わったり、社長の気分次第で休日返上で働いたりと、「トップダウンの激しさについていけない」と悩んでいました。
上司についての悩みは、「上司の好き嫌いが、仕事の評価にも反映される」など、職場でのえこひいきに対する不満を多く耳にします。「事業部長ではなく、現場を仕切る直属のマネージャーの主観だけで評価が決まってしまう」「マネージャーなのに人を育てようとせず、スキルが足りないからと仕事の裁量を与えてくれない」「すぐに怒鳴ったり、口汚く罵ったりする」「無視する」など、上司の性格や相性に起因していると思われる悩みも少なくありません。
こうした人間関係のトラブルは、性格や相性、企業体質に原因がある場合もありますが、本人の捉え方によるところも否めません。あるいは、単に目指す方向性や価値観の違いということもあります。
例えば、自分は顧客に価値ある仕事をしたいのに、上司は利益至上主義という場合。どちらの考え方も正しいのですが、価値観が違うためにぶつかってしまい、関係がギクシャクしてしまうのではないでしょうか。
“悩みのレベル”を探り、転職の必要度を考える
人間関係に悩んで転職を考えている相談者のカウンセリングでは、まずその理由を深掘りして“悩みのレベル”を探っていきます。
「職場の人間関係が楽しくない」という場合は、「なぜそう思うのか」「どんなときなら楽しいのか」など、その理由を深掘りしていきます。
仕事なのだから、中には楽しくないこともあるのは当たり前ということを伝えつつ、人間関係を円滑にするために、「ランチに誘って、周囲を巻き込んでみたら?」「社内ではなく、社外に目を向けて楽しさを発見してみたら?」など、まずは今の環境の中で試行錯誤しながら改善してみるようアドバイスします。
転職を考えるのは、それからでも遅くないと思うからです。
理由を深掘りしていく中で、その原因が別のところにあると判明することもあります。
例えば、「職場がいつもピリピリしていて、上司や同僚に話しかけづらい」という悩み。
実は人間関係に原因があるのではなく、忙しすぎる労働環境が根っこの理由であると考えられます。その場合は、労働環境を条件に転職することが解決策となるのです。
転職は必ずしも解決策にならず。他責思考になっていませんか?
職場はいろいろなタイプの人たちの集合体です。誰かと合わないからと転職しても、次の会社にもきっと苦手な人はいるでしょう。それでは、転職を繰り返すことになってしまいます。
それを避けるために大切なのは、無用な苦手意識を持たないこと。なぜなら自分が苦手意識や反発心を抱くと、それが相手にも伝わって良好な人間関係が築きにくくなるからです。
また、こうした相談者に多く見られる傾向は、“他責思考”が強いこと。
「人間関係が悪いのは、相手のせいだ」と、自分ではなく相手に非があると考えがちです。ですが、そう断定する前に「この人はなぜこういう行動をするのか」と相手の立場になって考えてみましょう。そうすると、状況が違って見えることもあるのです。
以前、こういう相談がありました。上司の立場で考えてみたことで、悩みが解消された事例です。
「上司が何かと仕事を管理したがる。口うるさい上司とうまくやっていけない」という相談者の悩みを深掘りして聞いてみると、本人はマルチタスク管理が苦手だということがわかりました。つまり、上司はその人をスキルアップさせるために細かく管理していたわけです。
トラブルだと思い込んでいた状況が、実は自分を育てるためのマネジメントだったと理解できたのです。この気づきによって上司に対する見方が変わり、その相談者は現職で自分の課題を克服できるよう頑張ることにしました。
ほかにも、「上司は好き嫌いがあからさまに態度に出る。自分は嫌われているから、正当に評価されていない」と悩む相談者がいました。そこで、評価されている人がどんな成果を上げているのかを聞いてみると、実際にきちんと成果を上げているのです。つまり、その同僚はえこひいきされているわけではなく、実力を発揮しているから評価され、結果として好かれているのだろうと考えられます。
思い込みが確信になってしまったのでしょうが、きちんと冷静になって自分の考え方を疑ってみることも、ときには必要です。
私事ですが、私自身も、以前の職場で自慢話ばかりしている人のことを父に愚痴ったところ、「同じ境涯になるな」と諭されました。それからは、同じ土俵に乗らずに相手を「可哀そうだな」と割り切って考えられるようになりました。考え方を変えたことで自分の許容範囲が広がり、その後は人間関係で躓くことがほとんどなくなりました。
職場にはいろいろな人たちがいますから、「職場に人間関係のいざこざは付きものだ」と割り切って仕事をしていると、悩みはかなり軽減されると思います。
リモート環境下で人との接点が減っても人間関係には向き合う努力を
ここで、話題に上ることの多くなったリモートワークについて触れておきます。
近年はリモートワークによって働き方が変わり、職場での付き合い方にも変化が表れ始めています。
リモートワークで「人間関係が希薄になった」という意見がある一方で、人付き合いが得意ではない人にとっては、リモートワークの距離感が「対面で感じていた圧迫感を軽減してくれている」という声もあるようです。
とはいえ、人間関係の悩みから逃れる手段としてリモートワークに頼ろうとはするのは賢明とは思えません。企業に勤める以上、職場の人たちと接点を一切もたない仕事などないからです。
若手社会人の皆さんはこの先何十年も仕事を続けていくわけですから、リモートワークによって直接対面での接点は減るかもしれませんが、人間関係に向き合っていく努力は続けて欲しいと思います。
まとめ
職場の人間関係で悩んだら、まずはその理由を深掘りして悩みのレベルを探ること。まだそれほど深刻でないのなら、転職する前にいったん自分自身の考え方を変えてみましょう。
そのポイントは3つです。
【1】 相手の立場で考えてみること
【2】 冷静になって自分の考え方を疑ってみること
【3】 同じ土俵に乗らずに割り切って考えてみること
自分が変わることで、今抱える人間関係の悩みが解消される可能性がありますし、同じ悩みで転職を繰り返さないようにするのにも有効です。簡単にはいかないかもしれませんが、ひとつずつでも、トライしてみてください。
星野玲子さん
新卒で通信系企業の営業を1年半経験した後、NGO団体にて1年間カンボジアでの教育支援事業に携わる。その後3年間、業務改善ソフトの販売会社に勤務し、東北支店と名古屋支店を立ち上げる。2018年、株式会社リクルートキャリアに入社し、大手企業の採用リクルーターを1年経験した後、キャリアアドバイザーに転身。現在は、Web系クリエイティブやマーケティングなどインターネット領域を担当する。