「エラいはダサい」だから社長は偉くない–“人が集まる場”作りを目指すWHITE社長 神谷憲司さん

「何かが足りない…。もっともっと頑張らないと」
「うまくいかないのは自分に欠点があるから?」
仕事をする上で、こうした息苦しさや辛さを感じたことは誰にでもあると思います。そんな時、どのように壁を乗り越えたらいいのでしょうか。この連載(→)では「自分の弱みは、誰かの強み」をテーマに、自分らしく自然体で働く人の働き方ストーリーをリレー形式でお届けします。

今回お話していただいたのは、株式会社WHITE 代表取締役の神谷憲司さん。これまで数々の広告賞受賞経験がある神谷さんが、周りの賞賛を得て気づいたことは「エラいはダサい」だったとか。それでも社長就任当初は偉そうにふるまっていた神谷さん。「エラい」を捨て、自然体で経営するようになった経緯をうかがいました。

神谷 憲司(かみや・けんじ)さん

WHITE Inc.代表取締役社長。クリエイティブディレクター兼クリエイティブテクノロジストとして活動しながら、テクノロジーを起点とした新しい広告体験や製品・サービス開発に携わる。国内外の広告賞受賞歴も多数。博報堂系のデジタル広告代理店のスパイスボックスから、2015年テクノロジーイノベーション事業会社、WHITE Inc.を立ち上げる。2016年SXSW Interactive Innovation Awards VR/AR部門にて日本企業として唯一となるファイナリスト受賞。ADFEST2017 、デザイン部門銀賞、インタラクティブ部門銅賞受賞。

WHITE Inc.

周りの賞賛を得て気づいた「エラいはダサい」

—これまで、国際広告祭銅賞など表彰され、社会的にインパクトのある仕事を担当されていますね。

広告の仕事をしていたころですね。 かつては受賞歴を自慢げに話していた時期もあったんですけど、今になってみるとそんな自分が恥ずかしいですね(笑)。

いま、「エラい(偉い)は、ダサい」とよくメンバーに話をしているんです。ある程度、外からの「エラい」という賞賛が集まると、どんどん偉そうな態度になっていったり、偉い人としてみられたがるようになったり。外側の賞賛に流されて、本質から離れていってしまうことに気づいたんです。 例えば、組織でプロジェクトを進めるとき、「この人は自分より上の役職だから、言うことを聞こうか」ではなくて、「この人は本質を語っているから、共感して一緒にやりたい」というような状態が理想だと思うんです。だから僕は今、社長ですけど「一番エラくない社長が理想です」と言っています。

—最初から「エラくない」社長だったのですか?

いいえ。実はWHITEを立ち上げたとき、偉そうにしていました(笑)。
でも、そうしているのは自分でもすごく気持ちが悪かったんです。僕、そもそも貫禄ないですし、大学を中退して引きこもったこともあるくらいコミュニケーションも苦手。数字も営業も苦手で…。「稼ぐって手段でしょ?目的じゃないでしょ?目的化してしまっていいの?」みたいなことを思っちゃうから、稼ぐことに無条件で前のめりになれないんです。それでも、自分の中でのロールモデルは、本で読んだどちらかというとトップダウン型の経営スタイルしかなかったので、いわゆる威厳のある経営者のふりをして、数字や営業に強いふりをしていました。

—「エラいはダサい」に行きついた経緯を教えてください。

偉そうにすることで居心地の悪さを感じるのはなぜだろうと考えていたんです。すると今は亡き父の姿が頭に浮かんできたんです。父は30人ぐらいの材木問屋のサラリーマン社長でした。僕が幼いころ、よく父と父の会社の社員と、木材市場の社員とが、ドラム缶のストーブを囲んで談笑していました。昔の製材所とか材木市場って、機械で製材するときに社員が指や手にけがをすることがすごく多かったので、僕が覚えている光景も負傷兵の集まりみたいな感じで。でも、障害を負った人もそうでない人も、若手社員も年配社員も社長も、みんな一緒になって笑いながら話をしている。

—フラットな関係、共同体ですね。

はい。しかもわが家に若手社員が住んでいたんです。高校を卒業したばかりの若者たち3~4人は住んでいましたね。あのドラム缶の雰囲気そのままに、いつも家の中に人の輪ができていて、毎晩、鍋だ、カラオケだってワイワイしていて。フラットなコミュニティが職場にも家にもあったんです。自分が社長になって初めて、父は社長として意図的にああいう場を作っていたんだってわかったんです。
その良い雰囲気を思い出して、「エラそうにするのは、なんかダサいな」と思い至りました。

自分のやり方はこれでいいのか?葛藤を乗り越えた瞬間

—自身の社長としてのあり方を見直すようになったんですね?

父の経営スタイルを思い出してからは、「本質的に社長がやるべきことは何だろう」と考えるようになりました。社長によってその優先順位付けはさまざまなはずなのに、顧客獲得や売り上げへのコミットメントが中心になることが多い。もちろん、実際に社長になる人はそこが得意な人が多いし、そのほうが成功する確率が高いのかもしれない。でも僕はそこが苦手。僕にとっては、フラットな場づくりを大事にしていた父の経営スタイルのほうがしっくりくる。そう自覚した時に、弱みを手放そうと思いました。幸い、営業や数字の分析が得意な社員がいてくれたので、自分が苦手で相手が得意なことは任せて、自分はフラットなコミュニティの場を作ることを経営の中心に置くことにしました。それでも最初は「社長なのに、自分が営業の陣頭指揮をとらなくていいのかな」という葛藤は多少ありました。

完全に弱みを手放せたのは、2018年に入って出会った「株式会社オムスビ」の羽渕彰博(ハブチン)さんから、「弱さを出してしまっていいんじゃないですか。悩んでいるぐらいなら、苦手なことはやらなくていいですよ」って言ってもらってから。そんな後押しがあって、迷いが消えました。こうした人の力も大事ですね。今は苦手な仕事のほとんどを迷いなく手放しています。

―「場づくり」にフォーカスした社長。それはご自身がやりたいことですか?

もちろんです。やっていて気持ちがいいんです。会社の事業と、それを生み出す場所・組織は、セットで考えないといけないと思っています。事業に偏ると、組織がボロボロになって、結局人もいなくなるということがよくあります。会社を、人が集まる場所にしていけば、中長期的に事業が拡大するはずです。

新規事業が次々に生まれる場づくりを目指して

―人が集まる場とは、どんな場づくりですか?

新規事業が次々と起こるような組織づくりを目指しています。なぜ、新規事業が生まれないかというと、新しいことを挑戦しようとした人が「孤独」に耐えきれず、辞めていくからだと思っています。孤独に追いやられると、みんなに認められようとして、自由な表現も創作も型にはまったものになってしまう。外の価値基準に合わせて、安全に「置き」に行ってしまう…って感じですね。
だから、そうならないために、社員の孤独をなくし、新しいチャレンジが容易にできる組織にしてイノベーションを促す。WHITEをそういう場所にしていけば、社員から新しい創造が生まれ、事業が生まれ、そこに顧客も仲間も集まってくるようになるんです。

―具体的には社内でどんなことを行っているんですか?

全社員と「1on1(ワン・オン・ワン)」をやって、これから新しくやりたいと思っていることの「なぜ?」を、社員一人ひとりと一緒に見つけながら、組織を作っています。この1on1、正直言って、僕自身がすっごく面白いと思ってやっているんです。社員それぞれの価値観を知り、「こんなにも違う人がいる。こんなにも面白い人がいる」というワクワクと気づきを得ています。

会社組織は、社員をある一定の評価軸に当てはめて見るのではなく、潜在的な可能性から見る。多様性の価値を知る。そうでなければ均質的な組織で終わり、イノベーションも生まれません。

―多様性のある組織から、イノベーションが生まれるんですね。

イノベーションって、やっぱり、圧倒的な差別化、多様性がないと生まれにくいと言えると思います。「多様性のある組織とは何か」という議論で、よく女性の比率アップとか、外国人の比率アップとかが言われますが、それは本質的じゃないと思います。今いるメンバーがすでに持っている多様な価値観や個性、その人しかない価値(バリュー)に気付いて言語化できて、会社や組織全体で共有する。それだけですごく多様性があふれる組織になるはずなんですよ。それこそが組織の本質だと思うんです。その多様性の中から、「自分の軸で判断することが気持ちいい。居心地が良い」という状態を組織の中に作ろうとしているわけです。

チャレンジの総量を増やし、リーダーも熱量をかけ、新しいことを始める人を支援し、「新しい」を価値にしていく。そうしたミッションへのチャレンジを通じて、世界をヘルシーに変えるという会社のビジョンを実現していく。今、確実に、そこに向かう1歩目を踏み出していると思うんですよね。

 

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インタビュー・文:野原 晄 撮影:平山 諭  協力:ハブチン

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