「滑らかな」コミュニケ―ションが、“コミュニティ”には最も大事――仲山進也×佐渡島庸平対談 第2弾<前編>

2018年11月24日、「コルクラボ」主催のコルクラボ文化祭が開催された。コルクラボとはコルク代表の佐渡島庸平さんが主宰を務めるオンラインサロン。その中のイベントの1つとして、楽天大学学長で「自由すぎるサラリーマン」として知られる仲山進也さんとのトークショーが開催された。テーマは、現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ。佐渡島さんが2018年5月に上梓した、『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 』の副題である。前編では、そもそも佐渡島さんがこの本を書こうと思ったきっかけや、滑らかなコミュニケーションなどについて語り合った内容をお伝えする。

仲山進也×佐渡島庸平 第1弾対談記事はこちら

プロフィール

仲山進也(なかやま・しんや)<写真左>

仲山考材株式会社代表取締役、楽天株式会社楽天大学学長。1973年北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、シャープを経て、楽天へ。2000年に「楽天大学」を設立、学長に就任。2004年、Jリーグ「ヴィッセル神戸」の経営に参画。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業フリー・勤怠フリーの正社員)となり、2008年には仲山考材を設立。2016年から2017年までJリーグ「横浜F・マリノス」でプロ契約スタッフ。メディアでは「自由すぎるサラリーマン」と呼ばれ、「勤怠自由、仕事内容自由、副業・兼業自由、評価なしの正社員」というナゾのポジションを10年以上続けている規格外の人物。2018年6月、『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓。出版後即重版となる。

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)<写真右>

株式会社コルク代表取締役会長。1979年兵庫県生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)など数多くのヒット作を編集。インターネット時代に合わせた作家・作品・読者のカタチをつくるため、2012年に講談社を退社し、コルクを創業。従来のビジネスモデルが崩壊している中で、コミュニティに可能性を感じ、コルクラボというオンラインサロンを主宰。編集者という仕事をアップデートし続けている。2018年5月、『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』(幻冬舎)を上梓。

コミュニティ運営にも「落差」が大事

仲山進也さん(以下、仲山) そもそもなぜこの『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』を書こうと思ったのですか?

佐渡島庸平さん(以下、佐渡島) 最初のきっかけは僕が作家のコミュニティを作って運営したいと思ったことです。コミュニティ運営は対人関係なので、大人ならみんな普通にできるだろうと思って、コルクの社員に頼んだのですが、予想に反して全然うまくできないし、コミュニティの熱量も高まっていかなかったんです。だから僕が直感的にやっていることをしっかり言語化して伝えないとダメだなと。それでコルクラボの運営を1年と少しやって僕が学んだことを書こうと思ったのがそもそものきっかけです。

仲山 1年やって学んだことで、大きいのは何ですか?

佐渡島 僕がコルクラボの運営を通して得た最大の学びは、コミュニティ全体が熱狂することももちろん大事なのですが、その前にメンバー全員が安全と安心を感じている状態を作り出すことがより重要だということ。これは、今までコンテンツで熱狂を作り出そうとしていた時には、意識してなかったんですよ。でもこれってコンテンツ自体を作る時には当たり前のように理解していたことで、すごく感動するシーンの前にはちょっとした笑いのシーンがあるんですよ。

仲山 たしかに『宇宙兄弟』とか、そうですね。主人公ムッタの両親が出てきて、ひと笑い入ったりする。

佐渡島 一定の時間の流れがある物語の中で、一つのエピソードを超強力にするだけではなく、その直前のエピソードを反対に弱くする。例えば感情が落ち込むようなエピソードがあるならその直前を盛り上げておく、盛り上がるエピソードがあるならちょっと沈めておくということをすることによって落差は確実に激しくなり、読者や観客はより物語に引き込まれるんです。これはコミュニティ運営に関しても同じで、最初から熱狂を作り出そうとするのではなく、誰もが安全と安心を感じられる空間を作り出すことが大事だということをこの本で書いたわけです。

仲山 安全安心がないと熱狂が長続きしにくいというくだり、興味深かったです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

キーとなるのは“滑らかな”コミュニケーション

佐渡島 それと、もう1つ気になっていることがあって、インターネットが一般的になる前のコンテンツって、唐突感がありましたよね。例えばテレビを見てる時、いきなり知らない商品を、「これいい物だから買いなさい」と勧められるみたいな。でもインターネットへの常時接続が可能になったことによって、そのような不自由な社会に自分を合わせるのではなく、自分の欲望に社会を合わせられるという滑らかな社会になりました。この滑らかな社会の中でのコンテンツってどうあるべきかということを最近考えているんです。

仲山 サディ(佐渡島さんの愛称)の言ってること、すごくよくわかります。僕は1999年に楽天に入社したのですが、その頃はまだ「ネット=うさんくさい」というイメージがあって。楽天出店者さんがネットショップに商品を一生懸命登録しても1個も売れないんです。だからまずは、プレゼント企画をやって応募してくれた人に「店長の人となり」が伝わるお手紙のようなメールを出して、「このショップ、おもしろいな」「怪しくなさそうだな」と思ってもらえる関係性を作るようにしたんです。メールのほかにも当時は各店舗に掲示板があって、そこで店長さんがお客さんとコミュニケーションを取っていました。そのうちお客さん同士が会話する「コミュニティ」ができていくお店があったり。そうやってお客さんと関係性が作られていくプロセスのどこかのタイミングで「じゃあ、その商品買います」「はい、どうぞ」みたいな商品の売買が起こるという感じの成り立ちでしたね、初期の楽天は。

佐渡島 そういったやり方を現在の滑らかな社会の中でどう拡大していくのかに興味があるんです。滑らかなコミュニケーションという意味では、僕は社会人になってからこの20年間くらい、すべての人と会う時は、事前に下調べをして、会う前にある程度相手のことがわかっている状態でしか会ってないんです。例えば、僕の仕事は作家を口説く仕事だから、そのために事前に作品を読み込みます。そうすることで、作家の趣味嗜好や価値観が全部わかり、こちらの投げかけに対する相手の反応もかなり正確に予想できるので、当日対面して話をするとだいたい口説ける。だから僕はこのような完璧な“カンニング”をした後に作家と会うということを繰り返すわけです。

『ドラゴン桜』を担当してある程度成功した後は、逆に僕もメディアからインタビューされる機会が増えました。インタビュアーは通常、取材前に、取材対象者について可能な限り下調べをします。最近は僕もtwitterやブログでたくさん発言しているし、インタビューされた過去記事も検索すればたくさん出てくるので、インタビュアーが下調べを十二分にできている状態でインタビューが始まる、つまり常に滑らかな形で会話が始まる。そういう状態でしか最近は会話をしてないんですよ。

ところが先日、幼稚園のパパ友たちが我が家に遊びに来たんですが、とても困ってしまって。僕は幼稚園に全然関わっていないから、自分の息子と相手の息子が何組なのかもよくわからないんですよ。だから学校の授業参観に行く時も、全員の名簿を見て、ああ、このクラスにいるのかと初めてわかるくらい。だからパパ友が来た時、大人なのに会話の始め方がわからないということに気づいて愕然としたんですよ。

仲山 それでどうしたんですか?

佐渡島 寝ちゃったんですよ。それで俺って社会不適合者だと思ってちょっと落ち込みました(笑)。

仲山 すごくわかります(笑)。僕も初対面の人と喋るのはすごく苦手なので、名刺交換時の会話がイヤだったんですが、ある時、楽天出店者さん向けにメルマガを出し始めたんですね。そうしたらイベントなどで会った時に、僕は相手のことを知らないのですが、相手は「いつもメルマガ読んでますよ!」って僕のことを知ってくれているから、会話が弾むんです。さらに、本を出すとそれが一気に進むんですよね。1冊分理解してくれて話しかけてくれるようになるから。

佐渡島 読み終えているという時点で、自分の考えていることを体系的に理解してくれているということですからね。

仲山 だから初対面の時にかかる無駄なコストが減って楽なんですよね。

佐渡島 そうなんですよね。ある人と知り合って5年くらい経ってから、「この人とかなり考え方一緒じゃん」っていうことがよく起きるんですが、アウトプットをしょっちゅうやっているとそういうことが減って、出会いの質がどんどんよくなってくるんですよね。

今、コルクラボですごく心がけているのが、とにかくアウトプットを頻繁に行うこと。みんなは「誰も自分の話なんか聞かないよ」と思っているんですが、それでもアウトプットをし続けていると、ある時それをきっかけに会話が始まることがある。「先日の書き込み読んだよ」とか、「ブログを読んだよ」という声掛けから会話が始まると滑らかなコミュニケーションになる。だからコミュニティって、何の会話をすればいいかが設計されているということが重要だと思っているんです。

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会話の入り口をどう設計するかが大事

仲山 「設計されている」とはどういうことですか?

佐渡島 例えばワイン好きというコミュニティなら、そこに集った人たちはワインの話さえすれば少なくとも時間がもつと思うじゃないですか。だからパッと出会った時、「最近いいワイン買いました?」とか「今年のボジョレーどうでした?」など、相手と出会ってすぐ質問が10個くらい簡単に浮かぶんですよ。これを前日に用意しなくても、会った瞬間アドリブでどんな人でもできるというのがすごく重要だなと思っていて。

仲山 それが居心地のよさに繋がると。

佐渡島 それもありますが、誰もがより早くコミュニティに馴染めるだろうなと。ただ一方で趣味がそこまで明確だと、それ以外の話に広がりにくいというか。

仲山 確かにワイン以外の話がしづらくなるというのはありますよね。

佐渡島 そう。本当はそこで知り合った人と仕事を一緒にやればいいのに、そのせいでせっかくいい感じになった人間関係が壊れちゃうんじゃないかなと思って二の足を踏んじゃう人が多いですよね。なので、その心配がいらない、絶妙なバランスの人間関係が築けるコミュニティができればいいなと。例えば、高校、大学の同級生というコミュニティは緩やかな繋がりだけをきっかけに人が会話をできるような設計になっているからいいと思うんですよね。まず何年卒という質問ができるし、同じ先生の話もできる。他にもいろんな会話がしやすいですよね。会話の入り口をどう設計するかが本当に大事。会話はみんなが毎日普通にやっていることなんだけど、本当に難しいことなんですよね。

仲山 確かに。関係性次第ですもんね。

トラブルは重要なアクティビティ?

佐渡島 ある小説の中で、倦怠期になった夫婦がもう一度、付き合い始めた頃のように会話が盛り上がるにはどうすればいいかと主人公が考えるシーンがあって。でもそれってかなり難しいことだと思うんですよ。子育て以外の会話ってどうやって探し出せばいいのかと。

仲山 トラブルが起こるとか。

佐渡島 確かにトラブルが起こると解決のために必然的に話し合ったり協力したりしなければならなくなる。だからトラブルは人間関係をよくする出来事とも言えますよね。

仲山 チャンスですよね。

佐渡島 だから人との濃い関係を求めると“トラブルラバー”になりますね。

仲山 そうですね。しかも些細なトラブルの解決を日常的にやっていると、致命的なトラブルは起こらなくなりますよね。チームビルディングという観点からも、トラブルは重要なアクティビティと言えます。

佐渡島 僕も会社で起きるトラブルは全部アクティビティだなって思うようにしているんですよ。

仲山 まさに。このコルクラボ文化祭も1つのお題、アクティビティだし、お客さんから来たクレームもアクティビティですよね。そういう感覚がコミュニティの文化として共有されていると、うまく長続きしやすいと思います。

後編では、上に立つ者の振る舞い方や仕事やビジネスを成功させるための秘訣や、個人がコミュニティに入ってからの行動の仕方などについてお伝えします。

後編記事:コミュニティでは、自分の得意なことより「できないこと」を発信することが大事――仲山進也×佐渡島庸平対談 第2弾<後編>はこちら

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取材・文・撮影:山下久猛 協力/コルクラボ
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