「異業種交流会に参加しても実際の仕事につながらない」、「取引先を開拓しても長く続かない」など、ビジネス上の出会いに悩んだ経験はありませんか?毎日多くのビジネスパーソンに会い名刺を交換するだけでは本当の関係構築につながらないことが多いようです。お互いの価値観やニーズが分からないままの出会いでは、その先の関係性構築や、取引につながるケースは一握り。ところが今、そんなビジネスパーソンの悩みにこたえる、新たな取り組みがあるそうです。
三井不動産株式会社が展開する法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」は、普通のシェアオフィスとは一線を画する取り組みを行っています。それは「ビジネススタイリスト」と呼ばれるスタッフの存在です。必要に応じて利用者をつなぎ、ビジネスマッチングを促進する画期的な取り組みはシェアオフィスを単なる「場所提供」から業界の垣根を超えた「人材交流」の場へと、新たな付加価値を生み出しています。では、いったいどのように利用者の悩みや課題を吸い上げ、人脈構築につなげているのでしょうか?
後編となる今回は、実際にビジネスマッチングを利用した富士通株式会社の加藤貴之さんと、三井不動産の「ワークスタイリング」でビジネススタイリストとして活躍する橋田知世さんに話を伺い、マッチングのプロセスと効果をお聞きました。会社から離れた場所で業務を行うリモートワークが浸透した今、ビジネスにおけるコミュニケーションの在り方は少しずつ変わり始めています。働き方の多様性と人脈構築を両立させた一挙両得の秘密に迫ります。
ワークスタイリングで「マッチングの種」が芽吹く瞬間とは?
――シェアオフィス「ワークスタイリング」は「仕事をするための静かな場所」というイメージがありますが、加藤さんは何をきっかけにビジネススタイリストと話すようになったんですか?
加藤:私は普段、法人営業の業務と平行して社内の働き方改革プロジェクトを進めているのですが、その一環でワークスタイリングを利用していました。拠点もいろいろ利用し、場所にとらわれずに働く方法を模索していたんです。
頻繁に訪れて「ワークスタイリング」の使い方を検証していたところ、別のビジネススタイリストさん経由の紹介で、橋田さんとも話すようになったんですよ。
橋田:仕事内容や、興味を持っている分野など、情報を共有しておいたほうがマッチングにつながりやすいので、ビジネススタイリスト同士でよく情報交換をしているんです。そこで加藤さんが話題にのぼったので覚えていて、ご挨拶させていただきました。
――そこから交流が生まれ、ビジネスマッチングにつながったんですね。
加藤:そうですね。先日はビジネススタイリストさん経由で総合素材メーカーのAGCの方を紹介していただきました。ちょうどその方も社内の働き方改革チームに所属していて、話があうのではないかということで。
最初は主に情報交換をしていたのですが、お互いの課題を共有するようになり、AGCさんの新商品が弊社の働き方改革にも役立つ可能性があることがわかりました。近日中にショールームを訪れ、商品を見せてもらう予定です。導入に至るかどうかはわかりませんが、参考になりそうな情報を得られるだけでも価値があります。
こちらが思ってもみない角度から近い興味を持った方とつながることも多いので、私自身も気付かされますし、改めてビジネススタイリストは斬新な取り組みだと感じます。
橋田:お互いのタイミングや条件もあるので、誰と誰をつなげばビジネスにつながるのか、それは私にもわかりません。でも、「この人とこの人は合いそう」という2人が同じ時間帯にワークスタイリングにいたら、積極的に声をかけるようにしています。そういうマッチングの種をたくさん蒔いていくのが、私たちの仕事なので。
出会いの多い「異業種交流会」との違いは?
――ビジネスパーソンの交流の場の一つに、「異業種交流会」もありますよね。ここでも頻繁にビジネスマッチングが行われている印象があります。
加藤:異業種交流会はさまざまな業界の人に出会えますが、自分が本当に会いたい人とは角度がズレていることも多いです。ランダムに名刺交換をしても、方向性が完全に一致する人に出会うのは難しい場合もあります。
でもワークスタイリングの場合は、私の業務内容や仕事にかける想いを知っているビジネススタイリストの方がピンポイントでつないでくれるんですよ。だから、次のステップに進む確率が高い。先ほどのAGCさんとの出会いのように、相手の向いている方向が最初からほぼ同じなんです。あ、もちろんそうでない人もいます(笑)
橋田:加藤さんの場合は割と早い段階でマッチングしましたが、仮にすぐビジネスにつながらなかったとしても、なにか壁にぶつかったとき「ワークスタイリングで会ったあの人に相談してみよう」って思い出してもらえますよね。異業種交流会で出会った人よりも、脳裏に浮かぶスピードが速いと思います。
加藤:それから、仕事だけではなく趣味でつないでもらえるのも嬉しいですね。平日は会社員として働き、土日は家族と過ごすというルーティーンで生活していると、仕事以外で知り合いや友人を作る機会がなかなかなくて……。
橋田:大人になると、何かきっかけがないと人の輪が広がらなくなりますもんね。だからこそ私は、人材データバンクのような存在でありたいと思っているんです。ユーザーさんの業務内容だけでなく、趣味や日頃考えていることを吸い上げて、同じ興味関心を持つ人とマッチングする。ときには、スポーツや登山、キャンプなどのライフスタイルを軸に気の合いそうな人をご紹介することもあります。
ワークスタイリングを利用して最も変わったのは自分自身
――ビジネスマッチングによって加藤さんの仕事の流れは変わりつつあるようですが、その他にシェアオフィスを利用して変わったと感じることはありますか?
加藤:効率的な働き方ができるようになりました。外部で打合せをしたあと近くのワークスタイリングで仕事を終わらせて直帰できるので、事務所に戻って帰宅が遅くなることがなくなったんです。逆に、朝から打合せ先近くのワークスタイリングに出社して資料を仕上げて打合せに向かうこともありますね。
それから、ワークスタイリングのイベントで発信力のある人に会って刺激を受けるようになりました。今は会社のことだけを考えていればいいという時代でもないですし、会社も社員が自由に生きられるような仕組みを作ろうと動き出している。会社員として働く一方で、個人として情報発信できるようになりたいと思うようになりました。
橋田:「○○会社の○○さん」である前に一人の人間ですもんね。私も、その人らしさを発揮して個人として生きる人生に魅力を感じます。だからこそ、ビジネススタイリストとしてシェアオフィスにいるときは、「富士通の加藤さん」ではなく一人の「加藤さん」と向き合って接しているんですよ。加藤さんとは、ご家族のことなどプライベートな話題もよくお聞きします。いろいろな会話のなかから予期せぬ“何か”が生まれる瞬間が好きなので。
加藤:毎日会社のオフィスで働いていると、どうしてもクローズドコミュニケーションになり、情報も会える人も限られてしまいますよね。でもシェアオフィスを利用すれば、ビジネススタイリストさんに会って新しい情報を得ることができる。
橋田さんをはじめとするビジネススタイリストの方、ビジネスマッチングを通して出会った方々に、今まで自分にはなかった視点から意見をもらうことも多々ありました。課題解決のためのビジネスマッチングもワークスタイリングの大きな利点だとは思いますが、ここで生まれた出会いや、知り合った人々がくれた気付きは、それ以上に価値のあるものだと感じています。
加藤さんが参画している富士通営業部門の働き方改革紹介ムービーはこちら
文:華井由利奈・丸山香奈枝
写真:刑部友康
編集:丸山香奈枝