電話&FAXの文化だった超アナログ企業が、デジタルツール導入で大変身! 組織を超えて結成する「タスクフォース」で経営課題に挑む
株式会社カクイチ
電話&FAXの文化だった超アナログ企業が、デジタルツール導入で大変身! 組織を超えて結成する「タスクフォース」で経営課題に挑む
株式会社カクイチ真剣な顔で「Amazonって、アマゾン川のこと?」と聞いてくる役員がいた――。
2017年に実際に起きたという「事件」だ。長野市の本社をはじめ国内に100を超える拠点を持ち、平均年齢46歳、創業135年を超える老舗企業カクイチ。ガレージや物置、ホースなどを製造し、農家を中心とした顧客層へ直接販売するビジネスモデルで歴史を重ねてきた。顧客との連絡手段といえば、ほんの数年前までは電話とFAXが中心だった。
そんな超アナログ企業のカクイチで、新卒メンバーを中心とした、デジタルツールであるSlackを導入するプロジェクトが立ち上がったのは2018年のこと。その取り組みはやがて、会社の風土を根本から変えていった。
「2018年10月にSlackを導入するまでは本当にアナログで、ITリテラシーが低い会社だったんです。最先端のツールを使うなんて夢物語でした」
鈴木 琢巳さん(執行役員 事業戦略部長)は、かつてのカクイチをそう表現する。顧客層の中心が農家だったこともあり、盛り上がりを見せるDX(デジタル・トランスフォーメーション)には大きく出遅れていた同社。パソコンを1台しか置いていない営業所も珍しくなく、営業担当者が社外とメールのやり取りをする際には、わざわざ営業所へ戻らなければならない体制だったという。
新卒1年目にしてSlack導入プロジェクトのリーダーを務めた柳瀬 楓さん(事業戦略部)は、「しょっちゅう社内電話が鳴り響き、社内でデータのやり取りをしようとしても『紙でください』と言われていた」と入社当時を振り返る。
そんな柳瀬さんのもとに、ある日ふらりと社長がやって来た。「スマホは使える?」と聞く社長に「人並みには使えます」と答えると、一言「じゃあ、Slackの導入は任せた」と言われた。当時から社長はデジタル化を進めようと模索していたという。
手探りの中、柳瀬さんはSlack導入プロジェクトを立ち上げる。理想は全拠点を回って使い方をレクチャーすることだが、北は仙台から、南は熊本まで広がる拠点を訪ね歩くのは無理がある。そこで、学校なので使われている電子黒板とZoomをインストールしたパソコン、さらにカメラ、マイクを各拠点に送り、オンライン会議で導入支援できる環境を作った。
「まずは、比較的ITリテラシーの高そうな人がいる5つの営業所に先行導入しました。とりあえずはSlackを使ってもらい、慣れていきながら、各拠点のキャリアの長い女性社員を味方にしていきました」(柳瀬さん)
上司である鈴木さんは、この味方を「ITアンバサダー」と名付けて会社の公式な役回りとし、柳瀬さんを援護射撃している。
その後は、イントラネットに上げていた通達などをSlackに移したり、社長からの発信もSlackで行うようにしたりと、徐々に業務の中心をSlackに移していった。
上司の陰のサポートがあるとはいえ、入社1年目の柳瀬さんがベテラン社員を巻き込んでいくのは簡単ではなかったはずだ。Slackが着実に広まっていった背景には、できる限り分かりやすく教えようとする工夫があった。
「ITに関する会話は、どうしてもカタカナ語の連発になってしまいがちです。それではうまく伝わらないと思ったので、『メンション』を『狙いうち』と表現するなど、カタカナ語をカクイチ的な日本語に変えていきました。会社ごとにそれぞれ文化があり、大事にしている言葉があるはず。新しい仕組みやツールを組織の言葉に置き換えていくことが、当事者意識を持って自分たちの道具に変えていくためには大切だと思っています」(柳瀬さん)
ベテラン社員も少しずつSlackを使いこなせるようになってきていたある日、Slack上で事件が起きた。ある営業所での若手社員が、「顧客先での基礎工事の手順を間違えてしまいました」と投稿したのだ。
その社員は図面とともに状況を伝え、「どうすればいいでしょうか?」と助けを求めていた。程なくして、さまざまな拠点から経験豊富なベテラン社員が次々とアドバイスを返信。全社の知恵が集まり、結果的に顧客への対応も丸く収まったという。実に約50人もの社員が、若手のミスをカバーするためにSlack上からフォローしていたのだった。それ以降は、まずい情報やトラブルも積極的に共有して、社内に知恵を求めようとする動きが広がっていった。
こうした動きは同時に、組織の情報伝達系統が大きく変化したことを表している。従来のピラミッド型組織で情報伝達役を担っていた管理職の中には、変化に戸惑う人も少なくなかった。その矛先は、担当執行役員である鈴木さんに向けられるようになった。
「Slackで社長の意志が末端まで瞬時に伝わるようになると、管理職が若手から『それは社長の言っていることと違いますよ』と冷静に指摘されるような場面も見られるようになりました。そうして立場を失ってしまった管理職が、『誰がSlackの導入を決めたんだ!』と、私のところへ怒鳴りこんできたこともあります。膝を突き合わせて、とにかく丁寧に説明するしかありませんでした」(鈴木さん)
Slackの導入によって、カクイチでは部署や拠点の壁を越えたコミュニケーションが活発になっていった。この状態を生かし、さらに加速させていくために導入されたのが「タスクフォース」という制度だ。
さまざまな部署から集まった5人のメンバーでタスクフォースを結成し、経営会議で決定された会社の重要課題に3カ月挑んでいく。「フルタイムスタッフの働き方の提案」や「新商品開発」など、課題はさまざま。この仕組みが原動力となって、カクイチの組織風土は大変革を遂げることとなった。
「直近では31のタスクが動いています。1年目の社員が、直接社長にプレゼンすることも珍しくないんですよ」
この取り組みを推進する悠司さん(事業戦略部)はそう説明する。タスクフォースには正社員だけではなく、各拠点のパートスタッフも参加しているという。部署や拠点、雇用形態の垣根を超えたチームでも円滑にコミュニケーションが進むのは、Slackを導入した賜物だ。
「最も現場を知っているのがパートさんであり、カクイチの中で最もクリティカルな意見を出してくれるのもパートさんです。タスクフォースには欠かせない存在です」(服部さん)
重要なテーマを考えるタスクフォースとはいえ、参加者にとっては本業務以外のミッションであるはず。それでも、選ばれたメンバーは高いモチベーションを発揮する。「経営トップからタスクフォースに選ばれるのはすごいこと」だという共通認識が作られているからだ。さらに、タスクフォースに選ばれたメンバーは独自の人事評価軸の対象となり、賞与も支給される。
「合言葉は『楽しくやろう』です。もちろん仕事なので、会社としてはきちんと労務管理をしています。『打ち合わせを開くのは5回まで』などのルールも明確にして、タスクフォースの活動が過剰な業務負荷にならないようにしました」(服部さん)
タスクフォースの意義は、部署や拠点の壁を壊すことだけではない。現場での本業務とはかけ離れたテーマについて考えることで、参加メンバーは経験したことのない領域について学ぶことにもなるのだ。
一人ひとりが自ら考え、意思決定できる組織を作りたい――。
一連のプロジェクトに先立ち、執行役員の鈴木さんは社長のそんな思いを聞いていた。
実は鈴木さん自身にも、大改革に向けての秘めた想いがあったのだという。20代のころには情報システム部門に対して、現在でいうところのDX推進を訴えた経験がある。しかしそのときは「若いやつが何を言っているんだ」と一笑に付されてしまった。
「執行役員に就任してからも、ややもすれば年功序列的な考え方や権威主義に支配されてしまうカクイチの風土を変えたいと考え続けていました。そんな想いもあって、若い人たちが会社を変えようとする動きを全力で応援してきたんです」(鈴木さん)
Slack導入を進めた柳瀬さん、タスクフォースを推進する服部さん。それぞれのメンバーに特別な視線を投げかけながら、事業戦略部としても新たな挑戦を次々と打ち出す。
「直近では、長野県内で無料EVバスの運行実験を行っています。高齢化がますます進む社会でお年寄りが元気に暮らせるよう、地域の新たな交通インフラを誕生させたいと考えているんです。社内変革がうまくいったので、これからは社会へ向けて貢献することに軸足を置いていきたいと考えています」(鈴木さん)
時代を先取りする新規事業にも挑み始めているカクイチ。お題目としてだけではなく、真の意味でDXの意義を体現している企業だといえるだろう。
(WRITING:多田慎介)
※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。
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