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ひと目で分かる。状況が伝わる。「ユニフォームの色分け」というシンプルな施策で看護師の時間外労働を大幅削減

国立大学法人 福井大学医学部附属病院
取り組みの概要
看護職員の働き方改革の一環として、従来の「白いユニフォームのみ」の体制から、日勤・夜勤で使い分ける「白色・紺色の2パターンのユニフォーム」へ変更。職員本人の定時終了の意識を高めるとともに、管理職や他職種からも「本来の勤務時間帯なのか、残業しているのか」がひと目で分かるようにし、内部コミュニケーションを変革した。残業時に周囲から不必要な声掛けをされることが減り、シフト交代時には前任勤務者から残務を引き継ごうとする意識が高まって、取り組み前後で年間900時間の残業時間削減につながっている。患者からも、2色のユニフォームによって「誰に声をかければいいのかが分かりやすくなった」という声が上がっている。
取り組みへの思い
医療現場には、育児休暇を終えたばかりの看護師も夜勤をせざるを得ない実態がある。一人ひとりがプロ意識と思いやりの心を持ち、何とか乗り越えてはいるものの、現場のスタッフに大きな負担がのしかかっている状況は長年変わっていない。看護師自身、自分たちを取り巻く状況についてなかなか表明してこられなかった。だからこそ、ユニフォームなどの身近な手段を通じて、状況を可視化することが大切なのだと思う。(副病院長・看護部長/大北 美恵子さん)
受賞のポイント
1.「日勤・夜勤でユニフォームを色分けする」というシンプルな方法で時間外労働を削減。
2.追加コストをかけず、スムーズに施策を実施。シフト制を敷く幅広い職場で汎用可能。
3.重い負担がのしかかっている看護職の働き方を大きく改善できるヒントがある。

「ユニフォームの色でシフトを見える化する」というシンプルな解決策の発見

新型コロナウイルスの感染拡大は、全国の医療機関に多大な負担をもたらすこととなった。命を守るという使命感で奔走する医療従事者に対して、改めて尊敬の念を抱いたという人も少なくないだろう。

医療現場の負荷軽減は新型コロナ以前からの長年の課題でもある。「日勤」「夜勤」のシフトを組んで24時間体制を取る病棟勤務の看護職においても、働き方改革の必要性が叫ばれ続けてきた。この根深い課題に対して、福井大学医学部附属病院は「ユニフォームを変える」という実にシンプルな方法でアプローチしている。

副病院長・看護部長/大北 美恵子さん

時間外労働の要因となっていた「夜勤」の課題

「ユニフォームを変更する前の5年間では、常勤看護職員約660人において、全体で年間約6万時間超の時間外労働が発生していました。どこの病院でも看護職の時間外労働は問題になっていますが、福井大学医学部附属病院でもそれは同様でした」

桒原(くわはら)勇治さん(副看護部長/企画・経営担当、集中ケア認定看護師)は、取り組み開始前の状況をそう振り返る。

特に深刻なのは夜勤スタッフの状況だった。大北 美恵子さん(副病院長/看護部長)は「“夜勤の大変さ”にフォーカスしていく必要があると思っていた」と話す。

「夜勤シフトの看護師は、起きているだけでも大変な時間帯に勤務します。しかし、夜勤の看護師が疲れ果てていても、医師など他職種のスタッフにはなかなか気づいてもらえません。また、日勤スタッフが出勤して交代できる時間になっても、医師から残務整理を頼まれたり、患者さんから対応を依頼されたりすれば、断るわけにもいきません」(大北さん)

患者が目覚めてからの朝の時間帯(8時前後)は、夜勤スタッフから見れば業務のラストスパートのタイミングだ。しかし医師や患者から見れば「朝のスタート」の時間帯。午前中から手術予定を抱える医師は朝のうちに用事を済ませたいと考え、目の前にいる看護師にいろいろと頼みごとをしてしまう。一方で看護師はそうした依頼を断りきれない。

「看護師の勤務時間はシフト制で明確に分かれているはずなのに大量の時間外労働が発生してしまう。その背景にあるのは、看護師自身の『奉仕の精神』だと思います。他のスタッフが忙しくしていたら、どうしても思いやりの心で接してしまう。そうした看護師の使命感を正面から否定するわけにはいきません」(大北さん)

この問題を解決するために、これまでにも看護部から医師へ個別に声がけするなどアプローチを続けていた。しかし現場の状況は日々変動する。患者の命を守るという大目的の前に、看護師の働き方は二の次になってしまう現状があった。

追加コストなしでユニフォームを変更し、スムーズに導入

転機となったのは、3年に一度訪れるユニフォーム更新のタイミングだった。

「看護部内の総務担当副部長がメディアでユニフォーム色分けのアイデアを知り、『日勤と夜勤で分けてみてはどうか』と提案してくれたのです」(桒原さん)

従来の福井大学医学部附属病院では、一般病棟の看護師のユニフォームは白一色だった。日勤と夜勤で着用するユニフォームの色を変えれば、看護部内ではもちろん、他職種のスタッフも明確に勤務シフトの区別がつくようになるのではないか――。

「ユニフォームの色でシフトを見える化する」という、シンプルながらも職場の風景を大きく変えることができる案は、一気に導入へと進んでいった。折しも現場の看護師からは「白だけでなく紺色のユニフォームも着てみたい」という声が上がっていた。そこで、「日勤は白、夜勤は紺を着用」というルールを決め、新たなユニフォームを導入した。

「ユニフォームはリース契約で調達しており、更新のタイミングで契約内容を見直せばすぐに準備できる状況でした。従来も白一色とはいえ複数種類のユニフォームを調達していたので、追加コストも発生していません」(桒原さん)

総務担当副部長の尽力もあり、スムーズに実現したユニフォーム変更。その効果は、当事者が想定したよりもずっと早く現れることとなった。

「伝えづらいこともある」からこそ、身近な手段で状況を可視化するべき

ユニフォームの変更直後は、看護部内でしか共有していなかったというユニフォームの使い分け。しかし、想定したよりもずっと早く、他職種のスタッフにも認知されることとなる。導入から2カ月が経つころには、医師の間にも「夜勤の看護師は紺色」が広がっていたという。

看護部の内外でコミュニケーションが変化

現場の看護師も驚くほど、ユニフォームの変更は効果を発揮した。夜勤スタッフが、時間外に業務を頼まれることはほとんどなくなっていったのだ。「色を見れば勤務シフトを判別できる」という分かりやすさで、特に広報活動をすることもなく病院全体へと周知徹底された。

この状況は、看護師側の行動にも変化をもたらした。朝の時間に、医師がつい夜勤スタッフに何かを頼もうとしてしまったときには、現場リーダーや看護師長が「そのスタッフは夜勤です」と指摘するようになったのだ。北川 康代さん(呼吸器センター/看護師長)は「ユニフォームの色ではっきりと分かる状況だから、指摘する際にも抵抗を感じなくなった」と話す。

看護部内のコミュニケーションも変わった。交代の時間が近づくと、ナースステーション周辺には「白と紺」が混在するようになる。前の時間帯のスタッフが業務を抱えている状況がすぐに分かり、後の時間帯のスタッフが積極的に声をかけて、業務を引き取るようになっていった。

「病棟では、あまり話したことのない看護師同士でも『今日は夜勤なの?』『お疲れさま』といった形で声をかけ合う機会が増えました。私自身も他のスタッフへ積極的に声をかけるようにしています」(北川さん)

こうした変化がすぐに起きたのは、枚数の確保やクリーニングのスケジュールなど、ユニフォームに関する運用方法や管理手順が明確に決められていたことも大きいという。

「運用が曖昧だと、現場のスタッフは2種類のユニフォームを面倒に感じるようになっていたかもしれません。そうなると、他部署のスタッフから『あまり意味のない施策なんだね』と思われてしまう可能性があります。目に見える施策だからこそ、徹底が大事なのだと感じています」(北川さん)

副看護部長、企画・経営担当、集中ケア認定看護師/桒原勇治さん

できる限りの範囲で可視化し、相手に分かるようにする

ユニフォームの色分けによって勤務時間帯を明確に伝えるという施策は、病院だけでなく、シフト制を敷く幅広い業種で参考にできるのではないだろうか。

「もしコストなどの問題でユニフォームそのものを変えられないなら、何か一つ、特定のアイテムを変えるだけでもいいのでは」。大北さんはそうアドバイスする。

「例えば福井大学医学部附属病院では、看護師のリーダー職級は携帯電話のストラップを『黄色』にして、医師から見てもひと目で分かるようにしています。できる限りの範囲で可視化し、相手に分かるようにすることが大事なのです。そうした工夫が、現場でのコミュニケーションを楽にしてくれます」(大北さん)

福井大学医学部附属病院では時間外労働を大幅に削減することに成功したが、全国各地の医療現場では今なお、看護師が過酷な勤務状況に陥っている。日本の看護職の働き方を変えるためには、何が必要なのだろうか。

「新型コロナウイルス関連の報道を通して、『看護師は大変な仕事』と改めて認識されるようになってきたように思います。一方では『看護師は夜勤をするのが当然』と考えている人も多いかもしれません。

実際の現場には、育児休暇を終えたばかりの人も夜勤をせざるを得ない実態があります。一人ひとりがプロ意識と思いやりの心を持ち、何とか乗り越えてはいるものの、現場のスタッフに大きな負担がのしかかっている状況は長年変わっていません。

私自身は、『看護師はもっと主張していってもいいのではないか』とも考えています。看護師を取り巻く状況はまだまだ大変なのですが、私たちはそれをなかなか表明してこられなかったし、伝えづらいと感じていた部分もありました。だからこそ、ユニフォームなどの身近な手段を通じて、状況を可視化することが大切なのだと思います」(大北さん)

(WRITING:多田慎介)

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第7回(2020年度)の受賞取り組み