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ほめる技術を本気で追求し、人の長所に目を向けられる職場へ変貌 「ほめちぎる教習所」の実現を支えた組織と従業員の変化

大東自動車株式会社 三重県南部自動車学校
取り組みの概要
少子化によって自動車学校のマーケットが縮小し、若者の価値観も変化している中で、ブランディング戦略の一環として「ほめちぎる教習」を実施。従業員全員が「ほめる技術」を学び、朝礼でのロープレ実践やノウハウ共有などを通じて、生徒の良いところを見つける教習を実践している。ほめ方を学ぶ一連の活動の中で従業員同士の相互理解が進み、無機質になりがちだった朝礼は笑顔があふれる場となった。かつては「先輩に叱られたくなから生徒を叱る」という悪循環に支配されていた職場が、従業員同士で長所を見つけ合い、「ほめる技術」を共有して高め合う職場へと変わっていった。
取り組みへの思い
「相手をほめる」ための練習を続けたことで従業員同士の対話が増え、若手もベテランも本音で話し合える職場となっていった。こうした変化の根本にあるのは、従業員それぞれが「職場の仲間に関心を持つ」ようになったこと。ほめちぎる教習を通じて、職場をさらに明るくしていきたい。(代表取締役/加藤 光一さん)
受賞のポイント
1.人をほめるための研修を継続的に実施し、ブランディングだけでなく組織風土にも寄与。
2.かつては「叱られてばかり」だった職場が、「人に関心を持って接する」職場に変化。
3.日々の教習を通じて「ほめる技術」を体系化し、進化を続けている。

「ほめる力」を身につけるには? 従業員全員を巻き込んだ研修の日々

自動車学校に通って運転免許を取得した経験がある人の中には、厳しく指導された日々を思い出す人も多いのではないだろうか。人の命に関わる運転操作を学ぶからこそ、自動車学校には「怖い指導員」がいる。そんなイメージが世の中に広がっているのでは。三重県南部自動車学校はそうした思い込みを覆す場所だ。生徒の良い部分にフォーカスして「ほめちぎる教習」を行い、少子化の中でも新規入校者数が増え続け、直近では過去最高を記録した。

指導員は完全担当制で、生徒の入校から卒業まで1人の担当者がきっちりと教える。「教習時の記憶が安全運転につながるように」との思いから、自動車学校では珍しい卒業式を実施し、半分以上の生徒が涙するのだという。ほめちぎる教習の導入前後では、卒業生の事故率は1.76%から0.43%へ大きく減少するという成果も出している。一連の取り組みはメディアに注目され、ノウハウは『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』(KADOKAWA)として書籍にもまとめられている。

今や日本一有名な自動車学校と言える同校。ユニークな指導方法を確立した背景には、従業員の大きな変化があった。

「ほめ上手」に驚かされたハワイでの体験

最近の若い人は、車に対する興味が薄れ「免許離れ」「車離れ」と言われている。就職のために仕方なく免許を取得するという人も多い。また、親を含め周囲の大人から叱られた経験の少ない人も多く、自動車学校でがつんと叱られると泣いてしまったり、教習に来なくなってしまったりする例もあった。

自動車学校業界は、少子化に伴うマーケット縮小の影響をダイレクトに受けている。価値観の変化によって若者の「車離れ」「免許離れ」も指摘される中、三重県南部自動車学校はブランディングの一貫として「ほめちぎる教習」を導入した。

「きっかけは今から約20年前、会社の40周年記念で実施したハワイへの社員旅行でした」

代表取締役の加藤 光一さんは振り返る。

「オプショナルツアーの水上スキーに参加したときのこと。担当してくれた現地インストラクターのほめ方が、信じられないくらい上手だったのです。私はなかなかコツをつかめずに転んでばかりでしたが、『そんな素晴らしい転び方は初めて見た!』『あなたのように運動神経がいい人は見たことがない!』など、とにかくほめ続けてくれる。私はとてもいい気分でその体験を終えました」(加藤さん)

ほめ方一つで相手のモチベーションは大きく高められる。その実感が、ほめちぎる教習の構想へとつながっていった。

とはいえ、「明日からほめよう」と言われて急に対応できるほど、自動車学校の教習は単純なものではない。まずは指導員に「ほめる技術」をインプットしなければ――。そこで加藤さんは、外部団体が実施する「ほめる達人検定」を従業員全員で受講することにした。1時間半の講義でほめ方を学び、1時間半の検定試験を受けるという流れで、ほめるエッセンスを学ぶ。指導員だけでなく、事務系職種のメンバーや送迎バスの運転手も含めて全従業員を対象とし、自動車学校を丸1日休みにして受講するという力の入れようだった。

代表取締役/加藤 光一さん

「ほめ合う研修」「ほめシャワー」で、人の長所に目を向ける

受講後も、ほめちぎる教習を実現するための努力が続いた。

特に注力したのは「ほめ合う研修」の実施だ。毎日の朝礼で、2人1組になって相手をほめちぎる練習をし、1人を全員でほめる「ほめシャワー」にも日々取り組んだ。

「研修を始めて2カ月も経つと、同じ相手とペアになることも増えてきます。1回目はほめる要素を簡単に見つけられても、何回もほめるのは大変。普段から同僚を観察していかなければ、良いところは見つけられません。そうするうちに、同僚の短所にばかり目が向きがちだった人も、意識的に長所に目を向けるようになっていきました」(加藤さん)

加藤さんは、従業員同士の日々の会話から職場の変化を感じるようになったと話す。「朝早く出てきて鍵を開けてくれてありがとう」といった、小さなことへの感謝の声が飛び交う職場になっていったのだという。

ほめちぎる教習が世の中に注目され始めると、同業の自動車学校はもちろん、異業種からも見学依頼が多数寄せられるようになった。

「自分たちの会社が注目されている状況を、従業員が誇りに思うようになっていきました。来客に対するあいさつや、笑顔のある対応を見ていてそれを感じます。『注目されているのでもっと頑張ろう』という気持ちが、職場をさらに明るくすることにつながっていきました」(加藤さん)

人に関心を持つようにならなければ、組織は変わらない

かつての三重県南部自動車学校は、どのような雰囲気の職場だったのだろうか。ベテラン従業員の話からは、今では信じられないような、「ほめる」とは真逆だったかつての姿も浮かび上がってきた。

叱られたくないから叱る「負の連鎖」

入社30年以上のベテラン指導員である明比(あけひ)佳香さんは、かつての三重県南部自動車学校を「いつも誰かが叱られている“怖い職場”だった」と回想する。

「教習中の指導内容はもちろん、教習車を停める位置などのこまかな部分まで、毎日のように先輩から叱られるんです。怒鳴られることもしばしばで、当時の私はビクビクしながら出社していました」(明比さん)

当時の明比さんは、教習中に生徒の悪いところばかりを見つけて指摘していたという。背景にあったのは「次の時間を担当する指導員から、指導力不足を指摘されたくない」という思いだった(当時は担当制を敷いておらず、指導員が毎回変わる仕組みだった)。叱られたくないから叱る。「負の連鎖だった」と明比さんは話す。

そんな状況を変えてくれたのが、ほめちぎる教習を導入するための研修だった。互いの良い部分に注目することが習慣になっていくにつれて、かつては「自分からは絶対に話しかけたくないと思う」ベテラン指導員との関係性が変わっていったのだという。

「いつも私に怒っていた先輩が、『よう、元気か?』『今日は暑いのう!』といった形で気さくに話しかけてくれるようになったんです。そのうちに私も打ち解けて『なんでいつもそんな怖い顔しとるん?』なんて、気楽にその人をいじるようになっていきました(笑)」(明比さん)

ほめられる側よりも「ほめる側」のほうが良い表情をしている

教習部の課長を務める八田 宣彦さんも、ほめちぎる教習を通じた自身の変化を実感している一人だ。

「以前の私は、他の人と比べてもひときわ厳しく生徒と接する指導員でした。厳しいことを言いすぎて、生徒さんからクレームが来ることもしばしば。そのたびに上司に呼び出され、自分でも何とかしなければいけないと思っていたんです」(八田さん)

自身が変わるためにも、積極的にほめちぎる教習へ取り組んでいったと話す八田さん。スタート時点ではマニュアルなど存在していなかったが、各指導員の独自の「ほめる技術」に注目してノウハウをまとめ、「三重県南部自動車学校の虎の巻」として社内限定で共有している。

ほめちぎる教習の実施は、従業員の表情も変えた。

「研修をしていて面白いと感じるのは、ほめられる側よりも『ほめる側』のほうが良い表情をしていること。日常の場面でも、誰かをほめるときには、人は笑顔になりますよね。以前の朝礼は無機質な連絡事項だけで終わっていましたが、取り組みを進める中で笑顔あふれる朝礼に変わっていきました。こうした変化が、職場風土を支えているのではないかと思います」(八田さん)

ほめちぎる教習の仕掛け人である代表取締役の加藤さんも、「明るい職場への変化」に手応えを感じているという。

「従業員同士の対話が増え、同時に本音で話し合う機会も増えたように感じています。若手とベテランの間でもコミュニケーションが増えました。こうした変化の根本にあるのは、『職場の仲間に関心を持つ』ことだと思います。相手をほめるという練習を続けることで、その心構えが自然と磨かれていきました」(加藤さん)

昨今では、「ほめる」「ありがとうのメッセージを伝える」といった行動を支援するサービスも増えている。しかし、職場風土を変えるのは簡単なことではない。三重県南部自動車学校は、自社のブランディングを入り口にして職場内の関係性を変え、人を大切にする風土へと大きく転換させた。「どんな仕組みを入れても、人に関心を持つようにならなければ組織は変わらないのではないか」。加藤さんはそう結んだ。

(WRITING:多田慎介)

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第7回(2020年度)の受賞取り組み